J-Startup 2023における最重要「モビリティ系企業」一覧

自動運転EV開発企業やアバター活用した企業も



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経済産業省が推進するスタートアップ育成支援プログラム「J-Startup」に、新たに50社が選定された。将来、革新的な技術やサービスで社会にイノベーションをもたらすことに期待が寄せられるえりすぐりのスタートアップだ。

選定された50社には、モビリティ領域に新風を吹き込むような事業展開を目指す企業ももちろん含まれている。どのような企業が選ばれたのか、注目のスタートアップを紹介していこう。


▼官民によるスタートアップ支援プログラム「J-Startup」新たな選定企業を発表|経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2023/04/20230406003/20230406003.html
▼選定企業一覧
https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/j-startup2023.pdf

■SORA Technology
医薬品のドローン配送などで途上国を中心に支援
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エアモビリティによる社会課題の解決をビジョンに掲げる、2020年設立のスタートアップ。ドローンやAI(人工知能)技術を活用したマラリア対策や医薬品配送事業などを手掛けている。

マラリア対策では、自社開発した固定翼ドローンによる空撮データとAI技術を組み合わせ、マラリア媒介蚊のボウフラが繁殖するリスクの高い水たまりを効率的に発見・管理することができるという。

医薬品配送事業では、ドローンエアモビリティを活用した多拠点間の安全・確実・オンデマンドな物資輸送を可能にし、医薬品やワクチン、検体といった緊急度が高く適切な管理が必要な医薬品の緊急小ロット配送に取り組むとしている。


このほか、日本のドローン運行管理システム(UTM)を途上国に導入し、「世界の宙(SORA)の安全な管理・統合」を目指すUTM導入事業や、センシング技術などを含めた空撮データにより、途上国の建設現場におけるデジタル・レイアウト・マップの構築などを進めるデータアナリティクス事業、ドローンパイロット養成スクールを運営し途上国におけるドローンの導入を支援する制度設計・ライセンス事業なども視野に入れているようだ。

今後、大型ドローンによる配送事業も視野に入れ、世界中の誰もが必要な場所・モノにアクセスできる「エアモビリティ社会」の創造を進めていく構えだ。

■Turing
完全自動運転EVの開発・量産へ
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2021年設立のスタートアップ。「テスラ越え」をミッションに掲げ、完全自動運転EV(電気自動車)の量産メーカーを目指している。

創業者は、CEO(最高経営責任者)を務める山本一成氏とCTO(最高技術責任者)を務める青木俊介氏。山本氏は将棋名人を倒したプログラムの開発者と知られるエンジニアで、青木氏はカーネギーメロン大学などで自動運転やロボティクスなどの研究を重ねてきたエンジニアだ。


同社はLiDARに頼らずカメラに依存した自動運転システムの開発に注力している。人間の運転学習と同様のアプローチでAI開発を進めることで、自動運転レベル5の完全自動運転を実現できると考え、大規模なディープラーニングモデルの開発を進めている。

開発中の自動運転システムを使用して北海道を1周するなど走行データの取得を進めており、2023年中に1万時間の走行データ取得を目指す。レベル5システムについては「AIの能力は指数的に向上し続けており、悲観的に見積もっても2030年には十分に実現可能」と考えている。

EV開発面では、レクサスをベースにオリジナルエンブレムやAI自動運転システム(ADAS) を搭載した最初の1台「THE FIRST TURING CAR」の納車を2023年3月までに済ませており、2023年中に100台規模の小規模生産工場を完成させる。

2025年に100台程度のパイロット生産を開始予定で、2027年に1万台規模のライン工場の制作に着手する。2030年には、1万台の完全自動運転EVの生産を達成し、上場を目指す計画だ。

J-Startupの推薦理由として、「初の資金調達から1年も経たずに、1台目の販売も完了。次の10年・50年を代表する日本発のスタートアップに成長すべく、好発進を切っている」などのコメントが寄せられている。

【参考】TURINGについては「国産初の「完全自動運転EV」、その姿は!?Turingが公開」も参照。

■avatarin
遠隔操作ロボット×アバターで新たな移動体験
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2020年設立のスタートアップで、体を移動させずに人の意識と存在感のみを伝送し、リアル空間を検索して瞬間移動することができるプラットフォーム「avatarin(アバターイン )」や、遠隔操作可能なロボット「newme(ニューミー)」の開発を手掛けている。

avatarinプラットフォームを介して移動したい場所にあるnewmeを探し、newmeを操ることで見たり話したり、歩きまわったりすることができる。

遠隔学習などをはじめ、移動を伴う観光やショッピングなどさまざまな場面で新たな体験を創出できそうだ。

すでに遠隔ショッピングのビジネスモデル検討に向けた実証やアバターフィールドワーク授業など、さまざまな場面でアバターを体験する取り組みを行っている。

J-Startupの推薦理由には「アバターのインフラを構築することにより、既存移動手段の課題を解決する。いわば、未来の移動サービス」といったコメントが寄せられている。

人の移動を担うモビリティではないが、ロボットを移動させることでさまざまな体験を提供する新たなサービスとして、今後の展開に注目したいところだ。

■Ashirase
ホンダ「IGNITION」からカーブアウト 視覚障がい者の移動を支援
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自動車メーカーホンダの新事業創出プログラム「IGNITION」を経て2021年に独立したスタートアップ。靴に差し込むウェアラブル型振動インターフェースで視覚障がい者の移動をアシストする「あしらせ」を開発している。

あしらせは、スマートフォンアプリによる音声入力や案内、靴に装着する小型の振動インターフェースで構成される視覚障がい者向け歩行ナビゲーションシステムだ。

声の誘導に頼らず、足の振動にナビゲーションを任せることで、聴覚を邪魔せず、周囲の安全確認に集中することをサポートする。

2022年度グッドデザイン賞で金賞を受賞したほか、先行販売モデルを取り扱うクラウドファンディングでは目標金額の7倍超が集まるなど、社会的ニーズも高いようだ。

■パワースピン
CMOS・スピントロニクス技術に注目
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モビリティ系スタートアップではないが、スピントロニクス・パワーデバイス半導体技術の開発を進めるパワースピンにも注目したい。

同社は2018年設立の東北大学発スタートアップで、スピントロニクス技術を用いた集積エレクトロニクス事業とパワーエレクトロニクス事業を展開している。既存のエレクトロニクスに革新をもたらす技術として注目だ。

CMOS・スピントロニクス融合技術を用いたコンピューティング技術は、高効率・高速処理を可能とするAIチップ・次世代コンピューティング技術としてNEDOの先導調査研究に採択されている。

将来、スマートフォンなどのデバイスをはじめ、低電力で高速処理が求められる自動運転車などにも同技術が活用されるかもしれない。今後の開発動向に注目したい。

■J-Startupとは?
有力スタートアップを官民がバックアップ

革新的な技術やビジネスモデルで世界に新しい価値を提供するスタートアップ創出に向けた育成支援プログラムで、2018年にスタートした。

トップベンチャーキャピタリストやアクセラレーターらが日本のスタートアップ企業約1万社の中から一押し企業を推薦し、外部審査委員会が推薦内容を尊重しながら各企業を審査して選定する。

過去にはZMPやティアフォーなども選出

今回の選定は第4次で、2018年以来238社が選定されている。モビリティ関連では、これまでにZMPやティアフォー、WHILL、ココアモーターズ、SkyDrive、Terra Motors、Luup、オプティマインド、akippaなどが選ばれている。

AI関連では、アラヤやエイシング、PKSHA Technology、Preferred Networksなども名を連ねている。

また、北海道、東北、愛知県内・浜松地域、関西、新潟、九州においても経産省の地方局などがローカル版J-Startupをそれぞれ選定しており、例えば北海道では宇宙事業を手掛けるインターステラテクノロジズ、愛知県内・浜松地域ではAZAPAやプロドローンなどが選定されているようだ。

民間支援機関や国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、経産省による事務局が中心となり、J-Startup企業とサポーター、政府機関を結びつけ、国内外の大規模イベントへの出展支援や海外展開の支援、ビジネスマッチングなど、スピーディな支援を実現するという。

【参考】過去のJ-Startupについては「J-Startup選定、新たに自動運転開発のティアフォーやオプティマインド」も参照。

■【まとめ】グローバルな活躍に期待

このほかにも、ロボティクスやIoT、AI、エネルギーなどさまざまな領域のスタートアップが選定されており、今後の活躍に大きな注目が集まるところだ。

国内はもちろん、グローバルな市場で海外有力企業と肩を並べ勝負できる企業の登場に期待したい。

【参考】関連記事としては「日本の自動運転と経済産業省」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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