着々と社会実装に向けた取り組みが世界各地で進められている自動運転業界。2022年は、米国や中国では自動運転タクシーのサービス提供エリアが拡大するなど、着実な成果を上げた印象だ。
その一方、新興企業のIPO(新規株式公開)は消極的に終わった。業界における目玉は、ADAS(先進運転支援システム)などで高い実績を誇り、かつ再上場となったMobileye(モービルアイ)くらいだ。
さまざまな要因を背景に株式市場は世界的に低調に推移したが、その巻き返しが2023年に起こるのか。近年のIPOの動向などを参照しつつ、2023年の市場の動向に迫ってみる。
記事の目次
■近年のIPO動向
2022年のIPOは前年比45%減
会計・コンサルティングを手掛けるEYによると、世界におけるIPO件数は、過去最高水準を記録した2021年の2,436件から、2022年は45%減となる1,333件に大きく数を落とした。調達額も2021年の4,599億ドルから同61%減の1,795億ドルという。
ただ、コロナ禍前の2019年はIPO件数1,115件で調達額1,980億ドル、2020年はIPO件数1,363件で調達額2,680億ドルだったことを踏まえると、2021年が突出して多く、2022年は以前の水準に戻ったとも言える。
コロナ禍に突入した2020年は世界的に経済が停滞したが、低金利と量的緩和政策などが株式市場に味方し、合わせてSPAC(特別買収目的会社)上場ブームが到来したことでIPO件数・調達額は前年を上回ったものと思われる。
先行き不透明だった2021年も、ふたを開けてみれば経済回復に向けた各国政府の景気刺激策が市場に高い流動性をもたらし、IPO市場は活況となった。
しかし、2022年は市場のボラティリティの上昇やその他市場の悪材料が影響し、さらには2021年以降にIPOを行った企業の株価低迷のあおりを受けた。EYによると、インフレの高まりや金利上昇に特徴づけられる市場環境において投資家は新規上場企業に背を向け、リスクの低いアセットクラスへ流れたという。
PE(プライベートエクイティ)ファンドやベンチャーキャピタルがスポンサーとなっているIPO活動は、件数で77%、調達額で93%の激しい落ち込みを示したとしている。
米中間の摩擦も要因に?
このほか、紛争や米中間の摩擦などの影響も否定できない。特に米中間の経済摩擦は深刻で、2021年6月にニューヨーク証券取引所に上場した配車サービス大手のDidi Chuxing(滴滴出行)は、上場から間を置かず中国当局からセキュリティ法に基づく審査が入り、アプリの新規ユーザー登録の停止を余儀なくされた上、上場廃止を求められたという。
結果としてDiDiはこれに従う形でニューヨーク証券取引所から2022年6月に撤退している。こうした政府の動きは、米市場への上場を検討していた中国スタートアップの大きな足かせとなり、Pony.aiなどのように上場計画を凍結した例なども報じられた。
【参考】Pony.aiの動向については「自動運転開発の中国Pony.ai、米国市場での上場計画を凍結か」も参照。
なお、その後中国政府は金融関連の規制を緩和していく方針に転換したことなども報じられており、状況は二転三転する可能性がある。米国に負けじとスタートアップが次々と台頭する中国だが、グローバルな活躍にはまだ懸念が残る状況だ。
【参考】中国政府の動向については「中国政府が「国外上場」支持、自動運転業界でIPOラッシュか」も参照。
■自動運転(CASE)分野における近年のIPO事例
CASE関連は、2021年13件に対し2022年は3件に
近年IPOを行ったCASE関連企業をざっと並べてみた。
関連業界においてこれが全てではないが、2019年は2件、2020年6件、2021年13件、2022年3件となっている。2021年まで増加傾向にあったものの、2022年には明らかに減少に転じているのが分かる。
■2023年後半、第二次上場ブーム到来なるか
EYによると、2023年は少なくとも第1四半期の終わりまで停滞し続けるかもしれないが、後半には、景況感の改善や株式市場のパフォーマンス向上、インフレ緩和、金利上昇の終了といった条件が整い、世界のIPO活動がこれまで以上の勢いを取り戻す見込みという。
IPOを検討している企業の多くはこの1年、様子見を決め込み、好条件が整うのを待っていた節が強い。事実、モービルアイは2022年夏ごろの予定を秋までずらし、ソフトバンクグループの英Armは上場計画を延期したままだ。
各国の金利政策などの明確な転換がどの段階で行われ、株式市場においての好材料となるかは分からないが、2023年中と見通すアナリストも少なくない。
低金利やSPACブームに支えられた2021年までを「第一次上場ブーム」と形容するなら、2022年の待機組が動き出す2023年以降は「第二次上場ブーム」となるかもしれない。
■2023年中の上場が記載される新興企業
HesaiやVinFastなどが米市場上場へ
LiDAR開発を手掛ける中国のHesai Technologyは2023年1月、米国でのIPOに向け申請手続きに入ったようだ。同社は2021年に上海市場での上場に向け申請を行ったものの取り下げた経緯がある。
中国から米国へ狙いを変えた理由などは不明だが、同社はLi Autoや百度(バイドゥ)子会社のJidu、HiPhi、Lotus、Changan(長安汽車)、自動配送ロボットの開発を進めるWhite Rhinoなど着実に顧客を増やしている。グローバルなマーケット獲得に向け、本腰を入れていくのかもしれない。
EV関連では、仏ルノーが分社化するEV部門を2023年下半期にユーロネクスト・パリに上場する計画を発表している。新興勢では、ベトナムのVinFastが2022年12月までに米証券取引委員会(SEC)に申請書を提出したようだ。
有力企業が目白押し、そろそろ上場も……?
このほか、自動運転トラック開発のPlusや自動運転開発のWeRide、AIチップ開発のHorizon Roboticsなど、関係者筋の話としてIPO計画が取りざたされるスタートアップも少なくない。
また、グーグル系WaymoやGM系Cruiseに代表されるように、サービス化を果たす企業も出揃い始めた。各国の法整備も順調に進められており、社会実装に向けた土台は着実に積み上げられている。
早期上場を果たしたAurora Innovationは資金調達面で苦戦し、フォード、フォルクスワーゲンという二大スポンサーに支えられていたArgo AIが事業停止に陥るなど2022年は厳しい年となったが、市場を取り巻く情勢と自動運転技術を取り巻く情勢がともに上向きそうな2023年は、業界にとって明るい年となることを願いたい。
■【まとめ】そろそろビッグネームにも動きが……?
ビッグネームの上場に関する具体的な情報はまだ入ってこないが、そろそろ数社が動き出してもおかしくはない。WaymoやCruise、Nuro、WeRide、AutoX、Pony.ai、Momenta、Motional、May Mobility……などサービス実証で多くの実績を積み重ねている企業のうち、1社が動き出せば他社も触発され……といったことも考えられる。
国内企業を含め、各社の2023年の動向に引き続き注目したい。
【参考】関連記事としては「自動運転業界のスタートアップ一覧(2023年最新版)」も参照。
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)