韓国、自動運転レベルを独自設定 改めて基準を明確化か

SAEの基準は今後も継続使用される?



韓国の産業通商資源部国家技術標準院が、独自の自動運転レベルの分類基準を制定すると発表した。これまではSAE(米自動車技術者協会)の基準に従っていたが、国家標準の制定によって改めて基準を明確に示す狙いがあるようだ。


韓国はどのような形で国内標準を設定したのか。概要とともにその思惑に迫る。

【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?(2023年最新版)」も参照。

■韓国の動向
ISOに準拠した国内基準を制定

韓国ではこれまで、SAEが2016年に発表した基準「SAE J3016」を主に使用してきた。日本でもおなじみの自動運転レベル0~5に区分された基準だ。

この基準そのものに欠点は指摘されていないが、国内基準を設け、あわせて自動運転に関連する用語の定義を明確にすることで、産業界における基準を統一し、自動運転システムに対する誤認や混同といった問題の解消を図っていく構えのようだ。


国家技術標準院は国内標準策定に向け、2021年2月から作業を進めていた。国内標準は、国際標準(ISO)に基づきドライバーとシステムの役割に応じて自動運転レベルを0から5までの6段階に分類している。

レベル0は自動化なし、レベル1はドライバー補助、レベル2は部分運転自動化、レベル3は条件付き運転自動化、レベル4は高度運転自動化、レベル5は完全運転自動化となっている。

各レベルの詳細規定は不明だが、例えば車線変更時のレベル2では、手足を離すことができるが目は運転環境を見守らなければならないとしている。おそらくハンズオフ運転を指しているものと見られ、システム作動時はハンドルやアクセルから手や足を離せるが、周囲の環境監視を怠ってはならないとする内容だ。

一方、レベル3は目を離すことができるが、システムが介入を要請した際、ドライバーは運転行動に復帰しなければならないとしている。レベル4は、緊急時対処などをドライバーの介入なしでシステム自ら解決することができ、レベル5は全ての道路条件と環境でシステムが常に走行を担当するとしている。


用語関連では、運転自動化、運転者補助、運転切替要求などの主要用語を定義し、誤解を招く可能性がある「オートノマス(Autonomous)」や「無人(Unmanned)」などの用語は使用しないよう勧告している。

オートノマスや無人がどのようなケースで使用を控えるべきなのか、あるいは全般として使用を控えるよう指示を出しているかは不明だが、混同を最小限に抑え、かつ後方産業を拡大する基準としても活用されることに期待しているという。

実質的にはSAEに準拠したまま

新たに制定される韓国の国内基準は、一見するとSAE基準と相違ないように思える。国内基準が準拠した国際標準(ISO/SAE PAS 22736:2021)は、そもそもSAEに準拠しているため、実質的にSAEに準拠する形になっているのだ。

▼ISO/SAE PAS 22736:2021(Taxonomy and definitions for terms related to driving automation systems for on-road motor vehicles)
https://www.iso.org/standard/73766.html

では、なぜこのような措置をわざわざ講じたのか。おそらく、国際的に広く用いられている基準を踏襲しつつ、国内における開発や製造各サイドの関係者間で齟齬が発生しないよう、かつ消費者の誤認を招かないよう配慮した――という点が一番の理由ではないだろうか。

世界で最も浸透しているSAE基準だが、母国語に翻訳する過程で微妙にニュアンスや解釈が変わってしまうことは珍しくない。こうした作業を各開発者やサービス事業者に委ねていると、至るところで食い違いが発生し、トラブルを招きかねない。

そのため、国や関係機関が正式な形として翻訳したり、本旨に反しない範囲で独自表現に補正したりするなどし、国際基準に準拠しつつも国内事業者などに分かりやすく統一した表現を提供することが重要となる。

今回の韓国の取り組みの背景には、こうした理由があるものと思われる。国家技術標準院は今後、自動運転のデータ標準やカメラ、LiDARなどの核心的な部品に対する標準化作業も進めていく予定としている。

日本でもSAE基準を業界団体が翻訳

日本では、自動運転に関する研究開発を進める国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」において、自動運転の定義をめぐる国際動向を鑑み、定義の違いによる混乱を回避して国際的な整合性を図るため、SAEの定義を採用することを表明している。

これを受け、自動車技術会が2018年、「SAE J3016」を訳したテクニカルペーパー「自動車用運転自動化システムのレベル分類及び定義」を発行・公開している。

定義の明確化と利用ルールが必須に

このように国際標準に準拠した基準を分かりやすく設定し、関連業界がこれに準じた表現を用いることは大変重要だ。今後、自動運転サービスの実装などが本格化すると、業界外からも続々と新規参入を果たす事業者が出てくるが、従うべき明確な基準が存在しなければ齟齬や誤認が大幅に増加し、自動運転による道路交通の安全を損ないかねない。

自動運転レベルをはじめ、関連する言葉の定義を明確にし、その上でルールに沿った正しい言葉の使用を積極的に推進していかなければならないのだ。

【参考】言葉の定義については「どこまでが「自動運転」?再定義の必要性も」も参照。

■【まとめ】言葉の定義や利用ルールはまだ改善の余地あり?

今後、自家用車への自動運転技術導入が進めば、一般事業者や一般消費者による一定の理解も必要不可欠となる。テスラADAS(先進運転支援システム)「Auto Pilot」や「FSD(Full Self-Driving)」のように、消費者の誤認を招きかねない名称の利用などもより厳しく制限されていく可能性がある。まだまだ改善の余地がありそうだ。

国際標準を含め、言葉の定義や利用ルールが今後どのように洗練されていくのか、要注目だ。

【参考】テスラのADAS名称問題については「テスラの有料ソフト「完全自動運転(FSD)」、名称禁止に?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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