スマートモビリティ、ズバリ「成功のコツ」は?知見集を深読み

施策立案・実証実験・社会実装のポイントは?



自動運転技術やMaaS(Mobility as a Service)が浸透するこれからの時代に向け、「移動」に対する概念・考え方が徐々に変化し始めている。従来の移動サービスを見直し、無駄を省いて高効率化を図ったり、異業種連携などで付加価値を高めたりする取り組みが各地で進められている。


こうした事例の集合体がスマートモビリティチャレンジだ。国土交通省と経済産業省が2019年度に開始したプロジェクトで、自治体や企業などが一体となった新たな取り組みを後押ししている。

同プロジェクトの成果は、年度ごとに発行されている知見集にまとめられている。この記事では、最新版となる2021年度(令和3年度)版の知見集をもとに、これまでの成果に迫っていく。

▼知見集|SmartMobility Challenge
https://www.mobilitychallenge.go.jp/findings/
▼新しいモビリティサービスの社会実装に向けた知見集 (令和3年度版 取組の進め方編)
https://www.mobilitychallenge.go.jp/wp-content/uploads/2022/07/smc-20220405_02_01.pdf.pdf
▼社会実装に向けた知見集 (令和3年度版 取組テーマ編)
https://www.mobilitychallenge.go.jp/wp-content/uploads/2022/07/20220405_02_02-1.pdf

■スマートモビリティチャレンジとは?
2019年度から4年間で延べ121地域が採択

スマートモビリティチャレンジは、将来の自動運転社会の到来を見据え、新たなモビリティサービスによる移動課題の解決や地域活性化を目的に、地域と企業協働による意欲的な挑戦を促すプロジェクトだ。


2019年にスタートし、2019年度に28地域、2020年度に50地域、2021年度に26地域、2022年度に17地域がそれぞれ対象地域に選定され、MaaS実証などさまざまな取り組みを進めてきた。

自治体などが情報共有を図るスマートモビリティチャレンジ推進協議会には、2022年12月時点で116自治体、209事業者、その他32団体の計357団体が登録している。

令和3年度版の知見集は「取組の進め方編」と「取組テーマ編」で構成

事業成果のとりまとめとして、知見集も毎年度発行している。令和元年度版(2019年度版)では、新モビリティサービスに係る構想策定からサービス高度化までの検討プロセス別の主要な論点にまつわる知見を整理し、具体例を交えながら紹介している。

令和2年度版(2020年度版)では、地域新MaaS創出推進事業におけるテーマ・政策課題に対応した実証実内容や結果をもとに、取り組みのアイデアや座組、進め方、成功のポイントなどを整理している。


そして令和3年度版(2021年度版)では、施策立案、実証実験実施、社会実装の各ステップにおける取り組みの進み方について、「取組の進め方編」と「取組テーマ編」の2編構成で知見をまとめている。

以下、最新の令和3年度版の内容を解説していく。

■令和3年度版 取組の進め方編
実装に向けたステップごとのポイントを整理

アンケート調査の結果、スマートモビリティの取り組みに関する情報収集が課題となっていることが明らかになったため、本年度は情報提供を目的に施策立案、実証実験実施、社会実装の各ステップにおける検討のポイントや参考となりうる事例などを簡潔に整理している。

利用者の実態に即したサービスを柔軟に設定

施策立案段階では、成功のポイントとして以下を挙げている。

  • ①住民の具体的な不満や意見を起点にソリューションを選ぶこと
  • ②交通分野の財政支出を定量的に把握すること

施策立案段階では、人口規模や密度、担っている役割など対象となるエリアの特徴と課題解決の方向性を踏まえ、適切な施策を選択することが重要となる。

例えば、課題解決の方向性に他の移動との重ね掛けによる効率化を据えるならば、人口密集地や交流活性化地区では福祉輸送との連携、郊外や外周部では貨客混載・客貨混載を考慮する。

需要側の変容を促す仕掛けを起こすならば、人口密集地などではダイナミックプライシングの導入、郊外などでは定額(乗合)タクシーの導入などを検討する――といった具合だ。

また、施策立案時には、サービスの利用者像をあらかじめ細かく想定することが重要となる。これらの想定は、実証や社会実装時に少なからずズレが生じるため、このズレを踏まえてサービス水準などを柔軟に変更していくことも重要となる。

サービスの利用者となる住民の意見や行動はそのまま需要となるため、利用者目線に立ったサービス形態を考慮することが大前提となる。ただ、当初に実施した意向調査結果と実証後の意向が異なることは珍しいものではない。

その原因を突き止め、柔軟にサービス形態を変化させて需要をしっかりと満たすことで事業に継続性が生まれる。また、財政支出を定量的に把握することで関係者間における課題の理解が進み、目標設定も容易となる。費用対効果もしっかりと把握し、課題を抽出していくことも肝要なようだ。

出典:SmartMobility Challenge公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)
国の支援スキームを有効活用

実証フェーズでは、成功のポイントとして以下を挙げている。

  • ①迅速な実証企画・実行に向け、国の支援スキームなどを上手く活用し、課題と照らし合わせながら実績のある先行事例を参照する
  • ②デジタル技術を踏まえた地域交通の新しい姿を模索する際は、各分野の有識者を巻き込む
  • ③投資を抑えつつ、当初の狙いが適正かを判断できる規模の実証ができると社会実装に近づく

実証や社会実装には予算が必要不可欠だが、特に実証フェーズにおいては国の支援スキームを有効活用することで関係者の負担を軽減できる。

例えば、国土交通省関連では日本版MaaS推進・支援事業やスマートシティ実装化支援事業、経済産業省関連では地域新MaaS創出推進事業、内閣府関連ではデジタル田園都市国家構想推進交付金などがある。

補助金や助成金などのメニューはその都度変更されるが、多くの場合施策の方向性が変わらない限り何らかの形で継続されるため、国の動向をしっかりチェックするのを忘れてはならない。

また、交通行政を担う自治体と交通事業を担う交通事業者、両者を分析・実行面でサポートする主体が連携して実証を進める体制を構築することが望ましいとしている。

一方、利用者に対しては、将来的な移動課題を想像してもらうことや、移動体験と「楽しい」などの感情面を紐づけるような仕組みを取り入れることが有効としている。

利用者となる地域住民が新モビリティサービスを「自分たちのもの」としてアイデンティティを持つことで、利用のきっかけが増加し、さらなるサービス改善に向けた好循環が生まれる。

そのためには、新たなサービスによって利用者の移動可能性が高まることと、利用者の行動変容が重要になるという。

出典:SmartMobility Challenge公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)
持続可能な事業モデルを構築

社会実装フェーズでは、以下としている。

  • ①実証内容や体制に縛られず、導入技術・サービスの水準や自動化・システム化投資の合理性を改めて評価し、持続可能な事業モデルを再検討・構築することが事業性に大きく影響する
  • ②交通分野に閉じず、商業や物流など地域の他事業実施者にも協業を働きかけることで、データ活用による新しい付加価値の創出や他分野の負担圧縮につながる機会を増やすことができる

公的補助を要するケースでは、自治体担当者が地域に必要なサービスを見極め、企画から実施体制の構築、周知、利用促進に至るまでしっかりと主導し、社会実装までの道筋を描くことが望ましいとしている。

必要なシステムには、既存のパッケージを導入するパターンや独自で作り込むパターン、システムを使わないパターンがあるが、それぞれ費用面や運用面などにメリットとデメリットが存在するため、実証結果などを踏まえ、持続可能な事業モデルを構築することが重要としている。

また、モビリティサービスの提供は地域住民の外出率の向上に寄与し、精神的・身体的健康の増進などの面で医療・福祉領域にも効果を発揮する。公共交通施策にとどまらず福祉施策としても捉えることで、予算上の制約を緩和し、持続可能性を向上できる可能性がある。

出典:SmartMobility Challenge公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)

他事業者との連携面では、例えばカーメーカーやディーラーが保有するモビリティデータやモビリティサービスの利用者データを活用し、利用実態やニーズに応じた地域公共交通やカーシェアリングなどサービスを改善することが可能になる。

また、物流業者に交通関連データを提供し、非効率地域の配送を貨客混載などで地場の交通事業者にアウトソースする仕組みを構築することで、公共交通の稼働率の向上や、自治体負担の軽減を図ることも可能になる。

アプリ利用者の移動データと交通関連データ、商業施設データを結び付ければ、商業施設の収益向上や公共交通の利用促進などを図ることができる。

移動基盤の再構築を地域の経済や福祉と結び付けるなどし、広範な地域活性化を図るとともに公共交通を維持するための負担軽減を図ることができるような仕組みが1つの理想と言えそうだ。

出典:SmartMobility Challenge公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)
■令和3年度版 取組テーマ編
14地域の先行実証事例を紹介

取組テーマ編では、同年度採択地域の取り組みを貨客混載やダイナミックプライシング、移動販売、異業種連携など政策テーマ別に分類し、それぞれの取り組みを具体的に紹介している。

例えば、愛知県春日井市はオンデマンド型自動運転サービス(実質レベル2)を活用した貨客混載サービスの検証を行っている。

高齢者の移動手段となるオンデマンド型移動サービスに、地区内の商業施設からの商品配達機能を追加する試みで、車両の稼働率は送迎サービス単独の提供時に比べ2.33倍に上がった。収益面では、運賃収入以外でも町内会費の充当や商業施設などの負担金、病院などの地域貢献・協賛金の確保の理解が深まる可能性を確認したという。

異業種連携では、福島県会津若松市が地元商店における購買情報(レシート情報)を用いた成功報酬型の広告収入モデルの実装・導入効果の検証を行っている。

成功報酬型の広告費の課金スキームとして、購入額に対する定率広告料(購入額の5%程度)であれば過半数の店舗が肯定的な見解を示したという。

出典:SmartMobility Challenge公式サイト(※クリックorタップすると拡大できます)

【参考】春日井市の取り組みについては「貨客混載が「自動運転サービスの採算が見込めません」を解決する」も参照。

■【まとめ】取り組みは年を追うごとにブラッシュアップ

MaaSの概念はすでに浸透し始め、今後は自動運転技術の導入も徐々に進んでいくことが見込まれる。各地の取り組みはまだまだ実証段階であり、年を追うごとにどんどんブラッシュアップされていくことになる。

新たなアイデアを取り入れつつ、今後どのような成果が生み出されていくのか。各地の動向に2023年もしっかりと注目していきたい。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「MaaSとは?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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