自動運転レベル4解禁、路線バスの「赤字地獄」に転機到来

自動運転バスの導入で、何が変わるのか



ドライバーレス走行を可能にする自動運転レベル4の解禁を盛り込んだ改正道路交通法が、2023年4月にも施行される見通しとなった。


レベル4技術は、人の移動やモノの輸送などさまざまな用途に応用され、拡大していくことになるが、第1段階として最有力なのが小型の自動運転バス(シャトル)だ。地方のバス路線などへの導入が広がっていくことが予想される。

レベル4解禁の第1段階となる自動運転バスの導入で、何が変わっていくのか。国の方針なども参照しつつ、その変化に触れていく。

■レベル4解禁に向けた動き
許可制の「特定自動運行」を整備

レベル4解禁には、道路交通法をはじめとした関係法などの改正が必要になる。日本では、2020年4月施行の道路交通法と道路運送車両法によって「自動運行装置」が位置付けられ、この自動運行装置を使用した走行も「運転」とみなすこととなった。レベル3の解禁だ。

2022年4月には、運転手の存在を前提としないレベル4走行を盛り込んだ改正道路交通法が国会で可決された。公布から1年以内の施行となっており、警察庁は2023年4月の施行を予定している。


運転手不在で走行し、万が一の際などにも手動介入することなく自動で安全に停止することが可能な運行を「特定自動運行」と位置付け、都道府県公安委員会による許可制で公道走行を可能にする内容だ。

許可を受けるには、特定自動運行計画の策定や特定自動運行主任者の選定などが必要となる。同法上はサービス用途などに限定されていないため、自家用車におけるレベル4の許可を求めることもできる。

ただし、現時点でレベル4自家用車は一般に存在しておらず、開発車両の実証にも時間がかかることが想定されるため、今回の改正法では自動運転バスなどの移動サービスやモノの輸送サービスなどが先行する形となる見込みだ。

特に実証が盛んに行われている小型の自動運転バスが最有力だ。あらかじめ決められた路線を制限速度内、あるいは低速で走行する小型の自動運転バスは、複雑なルーティングが求められる自動運転タクシーなどと比べると実用化しやすい。


【参考】改正道路交通法については「【資料解説】自動運転レベル4を解禁する「道路交通法改正案」」も参照。

■国が掲げる目標
2025年度までに40カ所以上で自動運転サービスを実現

自動運転バスが最有力であることは、国の方針とも合致する。国土交通省と経済産業省は2021年、レベル4などの先進モビリティサービスの実現・普及に向け新たなプロジェクト「RoAD to the L4(自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト)」を立ち上げた。

この中で、無人自動運転サービスに関する目標として、以下を掲げている。

  • ①地方部を想定し、2022年度を目途に限定エリア・車両での遠隔監視のみ(レベル4)での自動運転サービスを実現
  • ②地方部だけでなく地方都市なども想定し、2025年度までに多様なエリア、多様な車両に拡大して40カ所以上に展開
  • ③都市間輸送を想定し、運行管理システムや必要なインフラ、情報などの事業環境を整備し、2025年度以降に都市間高速道路でレベル4自動運転トラックを実現
  • ④大都市などの市街地を想定し、2025年ごろまでに協調型システムにより混在交通下におけるレベル4サービスを展開
出典:経済産業省公開資料(※クリックorタップすると拡大できます)
当面は地方部における自動運転サービス実現に注力

当面は、地方部における自動運転サービスが有力となる。計画では、地方部の駅などの交通拠点から公共施設などへの2次交通手段として、遠隔監視システムを活用し3台以上の無人低速モビリティの実現を目指す。無人のサービスカーでは、乗客だけではなくモノの輸送や移動販売・オンライン診療といったサービスも提供する。

また、地方都市などにおいても、住宅地や中心部など拠点間をつなぐ交通手段としてレベル4のBRTやオンデマンドバスを活用し、交通需要に合わせたサービスを提供する。

【参考】RoAD to the L4については「自動運転、「RoAD to the L4」とは?」も参照。

■レベル4で地方公共交通が変わる

ここでは、最有力と見込まれる地方の路線バスなどが自動運転化された場合の効果について触れていく。

自動運転が地方公共交通の収支を改善

ドライバーを必要としない自動運転車は、移動サービスや輸送サービスの事業収益性を大きく改善する可能性がある。赤字経営が続く地方の公共交通にとって、起死回生のイノベーションとなるかもしれない。

保有車両数30両以上の事業者を対象にした国土交通省の調査によると、2019年度の乗合バス事業の経常収支率は民営93.4%、公営90.4%で、ともに10年以上100%を下回っている。民営219者のうち154者、公営は16者すべてが赤字経営の状況だ。

地域別にみると、大都市部では77者中30者が赤字となっている一方、その他地域では158者中140者が赤字となっており、地方ほど苦しい状況がうかがえる。日常生活における住民の足の役割を担う公共交通として、赤字前提で運行を続けている路線は非常に多いのだ。

事業継続に向け収支を改善するには、当然だが収入を増やすか支出を減らすかしなければならない。収入面では、MaaSの観点から地域に合った利便性を生み出していくことが求められる。

一方の支出面では、人件費に注目が集まる。バス事業において原価に占める人件費の割合は約55%と過半を占めている。ドライバー不足に注目が集まりがちだが、その人件費もまた経営を圧迫しているのだ。

運賃引き下げや路線拡大の可能性も

このドライバー不足と人件費の両方を解決するのが自動運転だ。無人技術によってコストを大幅圧縮し、事業に継続性をもたらすのだ。

自動運転技術の導入により、事業に課題を抱えていた路線バスなどに継続性が見出されるほか、コスト低減分をサービスに還元し、運賃の引き下げや無料化を実施する事業者も出てきそうだ。また、サービス縮小ではなく拡大に向けた路線の統廃合なども行われる可能性が考えられる。

公共交通空白地域が減少、移住定住促進や産業振興の可能性も

自動運転技術による公共交通の確立は、地域住民の福祉の向上につながる。自家用車がないと移動困難だった地域においても「足」が確保され、運転免許を持たない子どもや高齢者らの移動を可能にする。運転免許を安心して返納できる社会環境に一歩近づくことができるのだ。

初期段階では、安全を確保しやすい特定の公道や、商業施設や工場の敷地内といった私有地での導入が中心となる。比較的導入が容易な環境で経験を重ね、導入可能な条件を少しずつ拡大していくイメージだ。

将来、自動運転技術の高度化・普及が進み、運用やコスト面などの敷居が下がれば、スクールバスへの導入や観光地に向けたシャトルバスの導入、オンデマンドバスの導入、路線の拡張など、さまざまな可能性が広がる。

従来、交通が不便だったエリアと中心部などとの格差が縮まり、移住や定住を促進することもできる。また、人の移動が活発になれば、地域における経済活動も活発になり、産業振興につなげていくことも可能になりそうだ。

道路交通の在り方を見直すきっかけに

初期の自動運転バスなどは、導入のしやすさ・安全確保の観点から比較的小型で低速走行するモデルが中心となる。路上駐車している車両の追い越しやバス停での停発車、交差点の通過など、ぎこちない動作を行うケースなども想定される。気の短いドライバーがいらつきそうな運転だ。

ただ、こうしたドライバーレスで比較的ゆっくり走行するモビリティは、将来の道路交通においてスタンダードな存在となる。車道を走行する自動運転バスに限らず、自動走行ロボットや自動運転可能なパーソナルモビリティなど、さまざまなモビリティが登場する可能性が高い。

こうした未来を見据え、自動運転バスが停発車しやすいバス停の在り方をはじめ、軽車両の道路交通の在り方、自動運転モビリティを前提とした信号機の在り方、ターミナルなどのインフラの在り方、交通ルールそのものの在り方など、道路交通全般の在り方を見直す必要が遅かれ早かれ生じる。

早い段階でさまざまな課題や可能性などを浮き彫りにし、次世代交通を確立していきたいところだが、自動運転バスの導入がきっかけとなり、こうした議論が起こることも考えられる。

■【まとめ】自動運転技術は道路交通に大変革をもたらす

自動運転技術の導入・普及は、将来確実に道路交通に大きな変革をもたらすことになる。その第一段階がまもなく訪れようとしているのだ。

技術の高度化・普及は今後徐々に進むことになるが、未来の道路交通の在り方やサービスなどを想像し、その変化に合わせた生活スタイルやビジネスの早期確立を目指したいところだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、レベル3とレベル4の違いは?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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