米当局、自動運転の「開放路線」を修正か 初の許可停止

中国のスタートアップPony.aiを巡り



自動運転開発を手掛けるスタートアップの中国Pony.aiが、カリフォルニア州の道路管理局(DMV)から公道走行ライセンスの停止措置を受けた。


同社は2021年、公道実証中の事故に起因してドライバーレスの走行ライセンスを停止されているが、今回はセーフティドライバー(テストドライバー)付きの走行ライセンスを停止された。この措置により、同州では一切の公道実証を行うことができなくなった。

一体何があったのだろうか。この記事では、Pony.aiとDMVを取り巻く状況を解説していく。

■Pony.aiの動向

Pony.aiは2017年にカリフォルニア州の走行ライセンスを取得し、公道実証に着手した。2019年には自動運転タクシーのパイロットプログラムの許可、そして2021年5月には、カリフォルニア州で8社目となるドライバーレスによる走行も許可された。フリーモント、ミルピタス、アーバインの公道で一定のODD(運行設計領域)のもと、無人走行実証を開始している。

出典:Pony.aiプレスリリース

2020年12月から2021年11月の期間、同社はWaymoCruiseに次ぐ3番手となる約50万キロの走行実証を行うなど、精力的に開発を続けていた。


しかし、2021年10月28日、フリーモントで走行中の自動運転車が左車線変更操作を行った際、中央分離帯と交通標識に衝突する事故を起こした。車体前部と足回りに中程度の損傷を受けた。負傷者のいない単独事故だ。

事故を受けて同社は直ちに実証を停止し、DMVに報告した。その後、DMVは12月までに同社の無人走行ライセンスを停止する措置を講じた。また、米運輸省道路交通安全局(NHTSA)は同社の自動運転ソフトウェアをリコールする意向を固め、2022年3月までに同社がこれに同意したことを発表している。自動運転ソフトウェアのリコールは全米初という。

2022年5月には、DMVがPony.aiのセーフティドライバー付きの自動運転走行ライセンスを停止したことが各種メディアで報じられた。報道によると、ライセンス更新に向けPony.aiの報告者を精査した際、運転記録に多数の違反が見つかり、許可を停止したという。

Pony.aiは自動運転車41台とセーフティドライバー71人をDMVに登録しているが、このうち3人の運転記録が問題視された。具体的な内容は明らかにされていないが、DMVの規則に引っかかったようだ。


【参考】自動運転ソフトウェアのリコールについては「トヨタ出資のPony.ai、自動運転ソフトで「全米初のリコール」」も参照。

■DMVが厳格化?

この件に関して、DMV、Pony.aiとも公式発表を行っておらず詳細が明かされていないため何とも言えない状況だが、セーフティドライバー3人の運転記録に問題があったからライセンスを停止する――というのは、いささか厳しすぎる措置に感じられる。余程重大な違反があったのだろうかと勘繰りたくなるが、運転記録における重大違反とは……。

見方によっては、DMVが自動運転の「開放路線」を転換し、厳格化したようにも感じられる。これまでは、世界一多くの開発企業が集まる自動運転実証の聖地として公道走行要件を明確化し、ウェルカム状態で国籍問わず開発企業を受け入れてきた印象が強かった。

しかし、ドライバーレスによる実証やサービスが大きく加速し始め、セーフティドライバーが同乗する従来の環境とは様相が異なる場面が増えてきた。特に有事の際、事故が発生した際の対応など課題が顕在化しているはずだ。

あくまで憶測だが、セーフティドライバー付きの実証段階から規定の順守を徹底し、違反があれば厳格に対処する方針に変えた可能性も否定できないだろう。

■各社の公道実証状況を比較

DMVから公道走行ライセンスを取得している企業は、2022年5月時点でセーフティドライバー付きが47社、ドライバーレスが7社となっている。Pony.aiの名はすでに両方から削除されている。

▼AUTONOMOUS VEHICLE TESTING PERMIT HOLDERS
https://www.dmv.ca.gov/portal/vehicle-industry-services/autonomous-vehicles/autonomous-vehicle-testing-permit-holders/

ドライバーレスは、Apollo Autonomous Driving USA(百度)、AutoX Technologies、Cruise、Nuro、Waymo、WeRide、Zooxとなっている。CruiseとWaymoはすでにカリフォルニア州内で自動運転タクシーのパイロットプログラムに着手している。

2020年12月から2021年11月までの各社の走行実績は、Waymoが約374万キロで1位、Cruiseが約141万キロで2位、そして3位がPony.aiの約49万キロとなっている。Zooxは4位で約25万キロ、Nuroは5位で約10万キロ、WeRideは7位で約9万キロ、百度は22位で約1,000キロの状況で、百度以外のドライバーレスライセンス保持者は積極的に実証を行っていると言える。

出典:米カリフォルニア州車両管理局(DMV)を基に自動運転ラボが算出 ※クリックorタップすると拡大できます(元データ:https://www.dmv.ca.gov/portal/file/2021-autonomous-mileage-reports-csv/

また、同期間における衝突事故報告回数は、Waymoが60回、Cruiseが29回、Pony.aiが3回、Zooxが8回、Nuroが0回、WeRideが3回、百度が0回となっている。

1回の事故あたりの走行距離は、単純計算でWaymoが6.2万キロ、Cruiseが4.9万キロ、Pony.aiが16.3万キロ、Zooxが3.1万キロ、WeRideが3万キロとなっている。この数字からはPony.aiが突出して安全な実証を行っていると言えるが、ひねくれた見方をすればそこに何らかの裏事情がある……と言えなくもない。

憶測が憶測を呼ぶのは万国共通だ。できれば、ライセンス停止に至った経緯と対応についてPony.ai自ら公開することが望まれるところだ。

【参考】カリフォルニア州における公道実証については「カリフォルニアでの自動運転走行、企業別距離ランキング」も参照。

■【まとめ】DMVとPony.aiの動向に注目

米国における事業展開は休止を余儀なくされたPony.aiだが、2022年3月には資金調達Dラウンドを終え、企業価値が85億ドル(約1兆円)に達したことを発表しているほか、中国では広州の南沙や北京で自動運転サービスを提供する許可を得るなど、順調に成長を続けている。

今後、米国での取り組みはどのような経過をたどるのか。推移を見守りたい。

▼Pony.ai公式サイト
https://pony.ai/

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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