自動運航船の実用化に向けた取り組みが加速しているようだ。国土交通省はこのほど、自動運航船の安全確保に関する設計やシステム搭載、運航の各段階における留意事項などをとりまとめた安全ガイドラインを策定した。
2020年に発表した「自動運航船の安全設計ガイドライン」をアップデートし運航段階に至るまでの留意事項をまとめた内容で、2025年までの実現を目指し開発や実証をいっそう加速させていく構えだ。
この記事では、安全ガイドラインの概要とともに、自動運航船をめぐるこれまでの取り組みを解説していく。
記事の目次
■安全ガイドラインの概要
安全ガイドラインの対象となる船舶は、後述するロードマップで規定された自動運航船「フェーズ2:陸上からの操船やAIなどによる行動提案で最終的な意思決定者である船員をサポートする船舶」とし、その設計や自動化システムの搭載、運航の各段階において、システム供給者・統合者・所有者らが留意すべき事項を大きく「設計編」「搭載編」「運行編」に分けてとりまとめている。
具体的には、操舵や針路変更・保持、姿勢制御、推力制御、見張り、航海計画の策定など、操船において船員が実行するタスクを支援するための自動化システムのみを対象としており、係船作業や荷役作業、機関監視・整備といったそれ以外のタスクについては対象外としている。
自動運航船の設計時における留意事項
設計においては、システム供給者やシステム統合者が特に留意すべき事項として、以下を挙げている。
- ①運航設計領域の設定
- ②HMIの設定
- ③自動化システム故障時等の船員の操船への円滑な移行措置
- ④記録装置の搭載
- ⑤サイバーセキュリティの確保
- ⑥避航・離着桟機能を実行するための作動環境の確保
- ⑦遠隔制御機能を実行するための作動環境の確保
- ⑧自動化システムの重要パラメータの特定
- ⑨リスク評価の実施
- ⑩自動化システムの手引き書等の作成
- ⑪自動化システムの不具合発見時の迅速な通知と対応
①では、航行海域の航路幅や沿岸からの距離といった地理条件をはじめ、時間帯や気象、海象、輻輳度、通信状況などの環境条件、航行制限や港湾施設を含む外部からの支援度といったその他の条件など、個々の自動運航船や自動化システムが有する性能・使用の態様に応じた運航設計領域を定めることとしている。
⑧では、自動化システムの各種パラメータのうち、座礁や衝突の危険判定に関するパラメータなど船舶の安全に影響を及ぼす可能性のあるパラメータをシステム供給者は事前に特定し、またこれらの重要パラメータに対し、システム統合者やシステム所有者が確認できるよう手引書にも明記することとしている。
自動化システムの搭載時における留意事項
自動化システム搭載時における留意事項としては、以下を挙げている。
- ①自動化システムと他の機器・設備との連携確保
- ②船上におけるシステム統合試験の実施
- ③離着桟機能を安全に実行するための作動環境の確保
- ④遠隔制御機能を実行するための作動環境の確保
- ⑤実海域における試験を実施する場合の手続きと緊急時対応手順の文書化
- ⑥自動運航船へ備え付ける図書
②では、自動化システムが設計通りに機能することを確認するのをはじめ、運航設計領域が搭載船舶にとって妥当であることの確認や、自動化システムに故障が発生した際に船員に適切に操船を引き継ぐことができるかなども確認する必要があるとしている。
⑥では、システム統合者はシステム供給者やシステム所有者と適宜協力し、自動化システムの手引書を自動化システムを使用する船員が確認しやすい場所に備え付け、特に緊急時の対応などについては、自動化システムを使用する船員が迅速に確認できるよう手順などを掲示しておくことが望ましいとしている。
自動運航船の運航時における留意事項
自動運航船の運航時における留意事項では、以下を挙げている。
- ①自動化システムを用いた適切な操船の実施
- ②自動化システムの操作習熟と知識獲得に必要な教育及び訓練
- ③運航時における自動化システムの誤使用の防止
- ④自動運航船へ備え付ける図書
- ⑤自動化システムの保守管理
- ⑥遠隔操船を安全に実行するための準備と定期的な保守管理
②では、自動運航船の船主や運航会社は、適切な操船を実現するため自動化システムを使用する船員に対し操作習熟と知識獲得を目的とした適切な教育・訓練を実施する必要があるとし、自動化システムの運航設計領域や使用におけるリスク、運用時に直面する可能性があるハザードへの対応手順などに留意することとしている。
■自動運航船をめぐるこれまでの取り組み
2025年を目標とするロードマップ策定
自動運航船の実用化をめぐっては、2016年度から国土交通省がIoT技術やビッグデータ解析を活用した船舶や舶用機器の技術開発を支援しており、2018年度には同省交通政策審議会海事分科会海事イノベーション部会において技術開発と基準・制度見直しの大枠を示すロードマップが策定された。
ロードマップでは、IoT技術などを活用した自動運航船の開発を2020年までのフェーズ1、そして「陸上からの操船やAIなどによる行動提案で最終的な意思決定者である船員をサポートする船舶」の開発を2025年までのフェーズ2、2025年以後の「自律性が高く最終意思決定者が船員ではない領域が存在する船舶」をフェーズ3として位置付けられた。
この目標達成に向け、2018年度からは自動運航船のコアとなる「自動操船機能」「遠隔操船機能」「自動離着桟機能」についてそれぞれ本格的な実証がスタートした。
また、自動運航船の安全な設計や製造、運航を実施するための環境整備に向け、実証の成果などをもとに①設計②搭載③運航に係るガイドライン――を順次策定する計画で、2020年に「①設計」の部分を取りまとめた「自動運航船の安全設計ガイドライン」が発表されている。
従来、船員が実行している操船に関するタスクを構成する認知や判断、対応といった意思決定サブタスクのうち、一部または全てを自動化システムで支援することが可能な船舶を対象に、「運航設計領域の設定」「HMIの設定」「サイバーセキュリティの確保」「リスク評価の実施」など、自動運航船の設計における基本的な考え方を取りまとめた内容となっている。
国際ルール策定や連携強化を図る動きも
国際関係では、国際海事機関(IMO)が2018年から2021年にかけ自動運航船に対する現行規制の枠組みに関する検討を実施したほか、2019年に国際航海を行う自動運航船の実証試験を安全に実施するための原則を定めた暫定指針を策定している。
2021年5月の会合では、海事関連条約などの一部について、自動化レベルに応じ条約改正や解釈の整理が必要との結論に達したようだ。早期導入が期待される「船員の意思決定をサポートする自動化システムを搭載する自動運航船」については、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)の第IV「無線通信」、第V「航海の安全」、第XI-2「海上保安」章に自動化システムの定義を置く必要があるとしている。
また、2020年8月には、シンガポール、日本、中国、韓国、ノルウェー、デンマーク、フィンランド、オランダの8カ国の政府関係者が会合を開き、自動運航船の実用化に向けた国際連携枠組み「MASSPorts」の立ち上げが発表されている。
①港内での自動運航船実証ガイドライン策定②複数港湾での相互運用性を高めるための共通の用語、通信方法及び各種様式の構築③港湾間を運航する自動運航船実証試験の促進――の3点で連携していく方針としている。
■【まとめ】2025年に向け取り組みはますます加速していく
海運業界では、内航船を中心に船員不足が顕在化しているほか、海難事故のおよそ8割をヒューマンエラーが占めるなど、自動車業界、トラック業界などと類似した課題を抱えており、自動運転技術にかかる期待も同様に高まっているようだ。
節目となるだろう2025年に向け、ますます実証が加速していくことが予想される。今後の動向に要注目だ。
※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説」でまとめて発信しています。
▼自動運航船に関する安全ガイドライン(概要)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001461736.pdf
▼自動運航船に関する安全ガイドライン(全文)
https://www.mlit.go.jp/maritime/content/001461734.pdf
【参考】関連記事としては「自動運転船、国の実用化目標は「2025年」!要素技術の開発加速」も参照。