日本の自動運転大手BOLDLYが、警察庁の委員会で要望したこと

自動運転対応の信号機の普及などに向け



警察庁所管の「自動運転の実現に向けた調査検討委員会」は2021年7月、自動運転開発事業者やサービス事業者らを対象にヒアリングを行い、委員会で配布された資料の一部をこのほど公開した。


委員会では自動運転実用化に向けた課題や要望を聞き取る目的で、BOLDLYやティアフォー、ZENコネクト、みちのりホールディングスら10社が参加した。この中で、BOLDLYは信号インフラの整備や自動運転車優先ルールの確立に向け、要望・提言を行った。

この記事では、公開された資料をもとにBOLDLYの提言内容を解説していく。

▼⾃動運転バスの社会実装の取組 – 令和3年度警察庁調査検討委員会提出資料|BOLDLY
https://www.npa.go.jp/bureau/traffic/council/06.pdf

■BOLDLYの提言

BOLDLYは提出資料の中で「技術(車両・遠隔監視)×インフラ×社会受容性×ルール=無人自動運転移動サービス(レベル4)」とし、国や自治体などに期待することとして、インフラ面で自動運転対応の信号機普及に関するロードマップと予算措置、ルールにおいては自動運転車の優先ルールについて地域のステークホルダーと地元警察を含めた合意形成を図る仕組みの構築をそれぞれ求めた。


自動運転対応の信号機普及

信号インフラに関するこれまでの実績として以下の3点などを挙げ、自動運転実用化におけるV2I(路車間通信)の意義を提示した。

  • ①路側インフラを通じた信号情報の提供
  • ②クラウド等を活用した情報の提供
  • ③GNSS等を活用した信号制御

その上で、公共インフラである信号機への民間からの資金供給には限界がある点や、自治体が自動運転導入時に誰が信号整備を負担すべきか不明確な点などを指摘し、信号機などのインフラの整備に関するロードマップや予算措置について議論を進めることを提案した。

具体案としては、国が2分の1を補助する特定交通安全施設等整備事業の交付対象事業に「自動運転車の運行を補助する信号情報配信装置(仮称)」を加え、自動運転を導入する自治体が必要に応じて支援を受けられる制度整備を示している。

出典:警察庁(クリックorタップすると拡大できます)
出典:警察庁(クリックorタップすると拡大できます)
地域ごとの合意形成による自動運転車の優先ルールの確立

BOLDLYは、路上駐車や無理な追い越しなど自動運転車の運行に悪影響を与える一般車両の行動について、地元警察を交えて議論を行い、地域ごとの優先ルールを確立・運用していくべきとした。


自動運転運行時、駐停車禁止標識があっても短時間停車している車両があり、手動回避の必要性や対向車との衝突リスクなどが顕在化する。また、はみ出し禁止道路であっても無理な追い越しが行われており、急ブレーキによる車内事故や追突リスクにさらされているという。

こうした事案解消に向け、地域公共交通会議などを活用した合意形成を提案している。自治体や運行主体が住民への周知や運行ルートの協議、危険事案の共有などを行い、地元警察は自動運転ゾーン(仮)の指定や運行ルート上での巡回や取り締まり強化などを行うといった内容だ。

出典:警察庁(クリックorタップすると拡大できます)
■自動運転におけるV2Iやルール策定の重要性
交差点はV2I(路車間通信)の主戦場

自動運転車は、車両に搭載した自動運転システムのみならず、通信技術を用いて周囲の車両やインフラ、サーバーなどと情報をやり取りすることで安全走行の精度を向上させている。

とりわけ、進行方向が異なる車両や歩行者らが入り混じる交差点は重要なポイントで、信号との連携はV2Iの中心に位置する。信号との直接通信、あるいはクラウドを介する形で「青」や「赤」といった信号情報を先読みすることで、アクセルワークやブレーキなどに無駄のない安定走行を確立できる。

場合によっては、自動運転車が交差点に近づいた際、信号を操作し優先的に通過させることもできる。応用すれば、渋滞緩和なども可能となる。

また、一般車両を含め多くの車両が信号(交差点)と通信することで、交差点付近の車両の動向を把握することも可能だ。信号などにカメラを取り付け、歩行者や自転車の動向をデータ化することもできそうだ。

このように、渋滞解消や交通安全、自動運転車への配慮などさまざまな観点でV2Iを役立てることができる。次世代交通システムの協調領域として、どのような機能をスタンダード化させ整備を進めていくか、ロードマップを策定し早期本格着手が望まれるところだ。

自動運転実証中の手動介入は路上駐車が最多

次にルール策定の重要性に触れていく。

「道の駅などを拠点とした自動運転サービス」の実証実験をもとに国土技術政策総合研究所がまとめた調査結果によると、実証走行中における手動介入1046回のうち、「路上駐車」に起因するものが最多の17%にあたる183回発生している。「追い越し・道譲り」は23回となっている。

出典:国土技術政策総合研究所(クリックorタップすると拡大できます)

▼一般道路における自動運転サービスの社会実装に向けた研究~手動介入発生要因の特定と対策及び社会受容性の把握~
http://www.nilim.go.jp/lab/bcg/siryou/tnn/tnn1161pdf/ks1161.pdf

全国津々浦々の道路で常態化している路上駐車・停車だが、死角を確認し、安全な距離を保ちながら追い越すためには対向車線にはみ出さなければならないケースも多く、自動運転実証中には非常に気をつかう存在だ。

一方、比較的低速で走行する自動運転車を後方から追い越そうとするドライバーも多いものと見られ、中には交差点で追い越しをかける悪質ドライバーも存在するようだ。

こうした行為は、自動運転の運行に支障を及ぼすだけでなく、道路交通そのものの安全を脅かす。杓子定規に道路交通法を当てはめようとしても、警察だけでは対応しきれないのが現状だろう。

実証エリアによっては、看板や路面標示、道譲り用のスペース、仮設信号を設置するなどさまざまな対策を行い一定の成果を上げているが、100%の対策にはなかなかなり得ない。

自動運転の公道実証はいわば仮免許の講習のようなもので、道路利用者の理解と協力が必要不可欠だ。サービス導入初期においても免許取り立ての初心者状態であるため、温かい目で見守る必要がある。

その意味で、地域住民をはじめとした道路利用者が共通認識を持って自動運転車に理解を示し、明確なルールのもと運用していくことは非常に重要と言えるだろう。

【参考】国土技術政策総合研究所による調査結果については「自動運転、「路上駐車」が最大の障害!手動介入の要因で首位」も参照。

■【まとめ】スピード感を持って前向きに議論を

BOLDLYは全国各地で自動運転実証を積み重ね、羽田イノベーションシティや茨城県境町では定常運行に着手している。実績豊富なBOLDLYならではの実態に即した要望・意見と言えそうだ。

同社の指摘のように、自動運転の本格実用化に向けてはまだまだ課題が山積している。その一つひとつを早期解決していくためにも、実証を進める事業者の声を集約し、スピード感を持って前向きに議論を進めていく必要がありそうだ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転バス、BOLDLYが関係省庁との合意で保安要員を撤廃!」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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