トヨタが空も制す!?空飛ぶクルマの官民協議会に新たに参画

米Joby Aviationや独Volocopterも



空飛ぶクルマの実現を目指す「空の移動革命に向けた官民協議会」の第7回協議会がこのほど開催された。会合では、各ワーキンググループ(WG)の検討状況などが報告されたほか、新たにトヨタ自動車など10企業が協議会に加わることが確認された。

自動車メーカーのトヨタはどういった戦略のもと協議会に参画したのか。この記事では、トヨタをはじめとする新参10企業の概要を解説していく。


■空の移動革命に向けた官民協議会の構成員

空の移動革命に向けた官民協議会構成員に名を連ねる民間企業は、2021年5月時点で次の通りだ。新たに加入した10企業については「(新)」と付記した。

  • Uber Japan
  • AirX
  • エアバス・ジャパン
  • エアモビリティ
  • ANAホールディングス
  • オリックス
  • 川崎重工業
  • 自律制御システム研究所
  • SkyDrive
  • SUBARU
  • テトラ・アビエーション
  • Drone Fund
  • 日本航空
  • 日本電気
  • プロドローン
  • ベルテキストロン
  • Boeing Japan
  • ヤマト運輸
  • 楽天グループ
  • あいおいニッセイ同和損害保険(新)
  • エアロファシリティー(新)
  • 東京海上日動火災保険(新)
  • 兼松(新)
  • トヨタ自動車(新)
  • GMOインターネットグループ(新)
  • Joby Aviation(新)
  • スカイワード・オブ・モビリティーズ(新)
  • 三井住友海上火災保険(新)
  • Volocopter(新)
■エアモビリティ領域におけるトヨタ

トヨタは「空飛ぶクルマ」の領域にどのように関わっているのか。自動車メーカーとして一足早く参画しているSUBARUは、もともと航空機開発に端を発する企業で現在も航空宇宙事業を継続しているが、トヨタには航空事業に関する独自のバックボーンがない。

しかし、他社との協業の中にその背景を見出すことができる。2018年の出資から関係を密にするJoby Aviationの存在だ。

Joby Aviationと協業

トヨタと空飛ぶクルマの関係には、米スタートアップでまもなくニューヨーク証券取引所に上場予定のJoby Aviationが大きく関わっている。


Jobyには、米Toyota Research Institute(TRI)のベンチャーキャピタルファンド「Toyota AI Ventures」が2018年の資金調達Bラウンドに参加しているほか、2020年のCラウンドではリードインベスターを務め、3億9,400万ドル(約420億円)の出資を行うとともに、電動垂直離着陸機(eVTOL)の開発・生産で協業していくことを発表した。

eVTOLの開発・製造技術は、電動化、新素材、コネクテッドといった各分野において次世代環境車の技術との共通点が多く、またeVTOLは自動車事業との相乗効果を活かした新たなモビリティ事業に発展する可能性があるとしている。出資に関連してトヨタ副社長の友山茂樹氏がJobyの取締役に就任するなど、本格的な協業と言えそうだ。

Woven Cityも実用化を後押し?

トヨタが静岡県裾野市で建設を進める実証都市「Woven City」(ウーブン・シティ)も、空飛ぶクルマの開発や社会実装に貢献するかもしれない。

自動運転やMaaSといったモビリティ関連をはじめ、さまざまな最先端技術の実証に門戸を開くWoven Cityは、エアモビリティの領域においても機体の開発や環境整備、他のモビリティとの連携などで活用される可能性は十分考えられる。

CARTIVATORを支援

空飛ぶクルマの開発を進めてきた有志団体CARTIVATOR(現Dream On)も、2017年にトヨタグループ15社から3年間で計4,250万円の支援を受けることを発表している。

共同代表の中村翼氏や福澤知浩氏(SkyDrive代表取締役)など、同団体にはトヨタで開発に携わっていたメンバーが少なからず名を連ねていることから、トヨタ自身に開発の風土が備わっているとも感じられる。

米国法人が特許を出願

北米のTEMA(トヨタ・モーター・エンジニアリング&マニュファクチャリング・ノース・アメリカ)は2014年、米国特許商標庁に空飛ぶクルマ関連の特許を出願している。

ベースはクルマ型で、背面にプロペラを備えるほか、翼を格納できる機能などを搭載し、陸路モード、飛行モードで陸空両用を可能にする技術のようだ。

こうした空飛ぶクルマの開発を水面下で継続している可能性も十分考えられそうだ。

【参考】トヨタの特許については「「空飛ぶクルマ」参入のトヨタ、実は2014年に特許出願していた」も参照。

■新規メンバーの取り組み

空の移動革命に向けた官民協議会では、新規メンバー各社がプレゼンテーションを行ったようだ。公表されているプレゼン資料をもとに、各社の取り組みを解説していく。

あいおいニッセイ同和損害保険

自動車の走行データを地球60万周分蓄積しテレマティクス事業を展開する同社は、空飛ぶクルマをCASE・MaaS領域におけるニューピースとして捉え、空と陸をつなぐMaaS保険の開発を進めている。

エアロファシリティー

航空機の輸出入やヘリポートに関するコンサルタント事業などを展開する同社は、ヘリコプターとeVTOLの離着陸時の飛行条件や着陸帯の相違点などをもとに空飛ぶクルマの有用性に触れ、eVTOL用の屋上Vポート(バーティポート)の早期整備の必要性を指摘している。

東京海上日動火災保険

航空領域やドローンの利活用を通じて業界として培ってきた知見をもとに空飛ぶクルマ特有のリスクを検討し、標準的なリスクマネジメントの手法や専用のリスクコンサルティングサービスの確立、社会実装に向けた動きにマッチした保険商品の開発・提供などを進めていくとしている。

すでに2019年3月に空飛ぶクルマの試験飛行・実証実験向けの保険の提供を開始しているほか、三重県などと実用化に向けた包括協定を結んでいる。

兼松

車両や航空、電磁デバイスなどを取り扱う総合商社として、オーガナイザー機能や海外ネットワークなどを生かし、ビジネス参入やエコシステムへの価値提供を目指すとしている。

2020年5月には、英Skyportsと空飛ぶクルマの地上インフラ構築に向け業務提携を交わしている。

GMOインターネットグループ

IT関連事業を幅広く展開する同社は、空×IT領域への事業拡大を視野に入れ、セキュリティ・認証技術で空飛ぶクルマの実用化に貢献していく構えだ。

電子認証サービスを手掛けるグループのグローバルサイン社は2020年11月、DRONE FUNDが出資するプロドローンとSkyDriveと通信・制御に関するセキュリティ強化における技術供与に関して合意したと発表している。

Joby Aviation

トヨタと協業を進めるほか、Uberの空飛ぶクルマ開発部門を買収した同社。2021年にテストフライト、2023年に型式証明を取得し、2024年に米国内で商用サービスをスタートさせるロードマップを披露した。

1回の充電で150マイル(241キロメートル)以上を移動することができ、パイロットと4人の乗客が最大200mph(時速約320キロメートル)で飛行可能という。

スカイワード・オブ・モビリティーズ

エアモビリティの機体設計やコンサルティング事業などを手掛ける同社は、墜落時安全性に関わる取り組みを紹介した。

これまでのエアモビリティにおけるオートローテーションや滑空以外の墜落モードもあり得るほか、都市部における利用が想定されることから地上の第三者の安全性についても議論する必要があるとし、検討を進めているようだ。

三井住友海上火災保険

三井住友海上が空飛ぶクルマの実証実験・事業化に際して提供する保険商品開発などを推進するほか、MS&ADインターリスク総研がリスクマネジメント・リスクアドバイザリーサービスの具体化を推進している。

2020年10月には、瀬戸内町や日本エアコミューター、日本航空とドローンを活用した地域課題解決に向け連携協定を結んでいる。

Volocopter

空飛ぶクルマ開発を進める独スタートアップの同社は、これまでに1000回以上のテストフライトを実施しており、実績は世界トップクラスだ。日本航空やNTTドコモ、MS&AD、東京センチュリーなどから出資を受けている。

空飛ぶクルマのお披露目が予定されている2025年開催の大阪・関西万博にちなみ、関西国際空港から夢洲まで21.5分、神戸空港から夢洲まで11.6分など、自社製品を使用した所用時間のシミュレーション結果を発表している。

■【まとめ】新たなモビリティ事業模索 Woven Cityでの取り組みにも注目

Joby Aviationとともに官民協議会に参画したトヨタは、今後どのような形でエアモビリティと関わっていくのか。新たなモビリティ事業に発展する可能性についても言及しており、機体の開発・生産のみならず社会実装に向けた活用面でも存在感を発揮するはずだ。

その格好の舞台がWoven Cityだ。走行・飛行するあらゆる交通手段を結び、新たなモビリティ社会を構築していくにはもってこいの実証都市ではないだろうか。今後の取り組みに期待大だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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