NTTが「自動運転」に照準!モビリティ分野の取り組みに多方面で参画

情報通信システムの変革に挑む



トヨタとも業務資本提携を結ぶNTT。写真はトヨタとの共同会見に臨むNTTの澤田純社長=出典:トヨタプレスリリース

モビリティ分野に100年に1度の変革が訪れているように、情報通信分野にも変革が求められる時代が早くも訪れたようだ。

通信事業を手掛ける国内最大グループのNTTグループは近年、情報通信の在り方を一変する一大構想「IOWN構想」を公表し、次世代に向けたネットワーク・情報処理基盤の構築を進めている。


こうした情報通信・処理基盤は自動運転分野においても必要不可欠な技術で、早期実現が求められるものだ。この記事では、IOWN構想の概要とともに自動運転分野におけるNTTグループの取り組みを紹介していく。

■IOWN構想とは?

NTTは2019年5月、ICTを超える革新的なテクノロジーによってスマートな世界を実現する「IOWN(アイオン/Innovative Optical and Wireless Network)構想」を打ち出した。

光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超える高速大容量通信や膨大な計算リソースなどの提供を可能にする、端末を含むネットワーク・情報処理基盤構築に向けた構想だ。分かりやすく言えば、既存の情報通信システムを大変革する一大構想となる。

近い将来、IoTやAI(人工知能)技術が生活のさまざまなシーンに取り入れられ、膨大な情報が生成・伝達されることが想定されるが、同時に既存の情報通信システムに伝送能力や処理能力に限界が訪れる。通信量のさらなる増加やネットワークの複雑化、通信要求過多による遅延の増加などが顕著となるのだ。


モビリティ分野は、こうした未来の代表格と言える。自動運転車をはじめ多くのクルマがコネクテッドカーとなり、常時通信しながら走行する。特に自動運転車は膨大なデータを生成し、クラウドなどとリアルタイムで通信しながら走行するため、既存の情報通信インフラでは近い将来限界が訪れる可能性が指摘されている。

【参考】自動運転車にまつわる情報通信システムについては「自動車ビッグデータの活用に取り組む「AECC」とは?(深掘り!自動運転×データ 第29回)」も参照。

■自動運転分野におけるNTTグループの取り組み

続いてスマートシティを含む自動運転分野におけるNTTグループの具体的な取り組みを紹介していこう。

Woven Cityをはじめスマートシティ構築に向けトヨタと提携

NTTは2020年3月、トヨタとスマートシティの実現を目指し業務資本提携に関する合意に至ったことを発表した。両社は以前からコネクテッドカー分野で協業を進めてきたが、スマートシティ実現に向け関係を強化した格好だ。

NTTグループはこれまで、最先端のAIやIoT、ICTリソースの総合マネージメント技術を活用して米ラスベガスでスマートシティ化に向けた取り組みなどを進めてきたほか、2019年にはICT技術を活用したスマートなまちづくりを推進するNTTアーバンソリューションズや、スマートエネルギー領域を事業領域とするNTTアノードエナジーを設立し、グループとしてスマートシティ分野における取り組みを推進している。

一方、トヨタも2020年に発表した「Woven City(ウーブン・シティ)」において、自動運転をはじめとした各種実証を促進し、さまざまなパートナー企業とともに新しいまちづくりに向けた活動を推進している。

今回の提携により、両社はあらゆる領域に価値提供を行う「スマートシティプラットフォーム」を共同で構築する。先行ケースとしてWoven CityとNTT街区の一部(東京都港区品川エリア)で実装し、その後連鎖的に他都市へ展開を図っていく方針だ。

トヨタ「LQ」にAI技術を提供

トヨタとの取り組みでは、トヨタが2019年10月に発表したコンセプトカー「LQ」にNTTグループのAI技術が搭載され、話題となった。

LQは自動運転レベル4相当の走行能力や無人自動バレーパーキングシステムなどを実装するほか、モビリティエキスパートとして乗客に特別な移動体験を提供するAIエージェント「YUI」が搭載されている。

LQは2020年夏ごろに試乗会「トヨタ YUI プロジェクト TOURS 2020」を開催予定(新型コロナウイルスの影響で延期)だったが、この試乗会に向けNTTグループはインテリジェントマイクや音声認識、音声合成、行動先読みといった技術を提供している。

自動運転においては、乗客とクルマが的確かつ効果的に情報をやり取りするHMI(ヒューマンマシンインタフェース)技術などが必須となるが、こうした分野でもNTTの技術が生かされているようだ。

【参考】LQにおけるNTTの技術については「NTTのAI技術、トヨタの自動運転車「LQ」の車載エージェントに」も参照。

■NTTデータの取り組み
NTTデータとトヨタコネクティッドが業務提携

NTTデータは2020年4月、トヨタが展開するモビリティサービス・プラットフォーム(MSPF)の機能・サービスの拡張やコネクテッドカーの展開拡大に向け、業務提携を開始した。

トヨタコネクティッドが培ったコネクテッドカー向けサービス事業のノウハウなどと、NTTデータのITリソースやクラウド・ビッグデータなどのテクノロジー活用ノウハウを掛け合わせると同時にMSPFを始めとするモビリティサービス事業領域での協同開発と人財交流を通じて、グローバルでの開発・運用力の強化と高度化を図っていくこととしている。

また、中期的には、両社の顧客基盤などを相互活用することで、スマートシティ構想も視野に入れたMSPFのサービス力強化や、グローバル規模でのプラットフォーム事業の拡大を推進し、両社連携によるシナジー効果の最大化を目指す方針だ。

【参考】NTTデータの取り組みについては「トヨタコネクティッドとNTTデータ、モビリティサービス領域で提携」も参照。

群馬大学と産学連携、自動運転実証も

NTTデータと群馬大学は2017年、次世代モビリティ社会実装研究に関する協定を結び、AI技術やビッグデータ処理技術といった自動運転社会に求められる技術要素について共同研究を進めることを発表した。

すでに群馬県や福岡県、東京都、北海道などで自動運転実証やデモンストレーションを重ねており、NTTデータは自動運転車両の走行や運用に必要となるIT基盤やサービス機能の開発などを担っている。

高精度3次元地図の開発にも参画

2019年4月には、国立研究開発法人「新エネルギー・産業技術総合開発機構」(NEDO)が実施する「車両プローブ情報等による高精度3次元地図更新に関する研究開発」への参画も発表している。

車両プローブ情報やドライブレコーダーから抽出する道路変化情報を用いることで、高精度3次元地図のデータ更新サイクルの短縮化技術を開発するもので、NTTデータは道路変化情報の抽出や高精度3次元地図との紐付け処理技術の開発、高速道路での走行実験などの役割を担っている。

また同月には、トヨタ子会社のTRI-AD(トヨタ・リサーチ・インスティテュート・アドバンスト・デベロップメント)、マクサー・テクノロジーズと提携し、自動運転車用の衛星画像を用いた高精度地図生成に向けた実証実験を行うことも発表している。

NTTデータNJKが自動運転シミュレーターを開発

NTTデータNJKは2018年9月、10分の1サイズのスケールモデルによる自動運転シミュレーターを開発したと発表した。効率的な開発・検証を目指す自動運転システム開発事業者らに広く提供を進め、モビリティIoTの開発促進に貢献するとしている。

シミュレーターは18×40×62センチで、LiDARやカメラなどを搭載している。走行経路の設定が可能で、経路や白線などに基づいた自動運転をシミュレートできる。各センサーからの情報はパソコンと接続することで可視化され、走行状況を検証することができる。

実車や試験走行設備などを用意することなく実証を進めることができ、効率化やコスト削減を実現する。

自動運転AIチャレンジでARC所属チームが最優秀賞獲得

自動車技術会主催の第2回自動運転AIチャレンジで、NTTデータオートモビリジェンス研究所(ARC)に所属するチームが最優秀賞を獲得した。

同研究所はNTTデータグループの中で次世代モビリティに必要なソフトウェア技術の研究開発などを担っており、自動運転ソフトウェアをシナリオベースで検証する「GARDEN」や組込向け軽量ルールベースエンジン&AIシステム開発プラットフォーム「RB(RuleBase)」の開発などを手掛けている。

同研究所の技術開発力の高さが自動運転AIチャレンジで存分に発揮されたようだ。

【参考】第2回自動運転AIチャレンジについては「第2回自動運転AIチャレンジ、優勝はNTTデータチーム!コロナ禍のためオンライン上で実施」も参照。

■NTTドコモの取り組み
フォーミュラカーで誤差約10センチを実現

NTTドコモは2020年12月、「docomo IoT高精度GNSS位置情報サービス」を活用し、最高時速290キロで走行中のフォーミュラカーで誤差約10センチの測位に成功したと発表した。

誤差数センチメートルの位置補正情報を提供する高精度GNSS(測位衛星システム)にLTE回線で接続したGNSS受信機をフォーミュラカーに搭載し、レース走行中にリアルタイムで高精度測位する実証実験を行ったところ、10センチの誤差で高精度測位が可能なことを確認した。走行時間の96%で高精度測位が可能だったという。

自動運転車はGNSSなどで自車位置を特定し、高精度3次元地図などと常時照合しながら走行することで安全性を高める。この安全性を高めるには誤差を限りなく小さくすることが求められているが、高速で移動する際などは一般的に誤差が大きくなりがちだ。

その意味で、高速域における高精度測位を確認した今回の実証は非常に価値のあるものといえる。引き続き技術の進展に期待したい。

【参考】NTTドコモの取り組みについては「NTTドコモ「時速290kmでも測位誤差10cm」の実力 自動運転で活用へ」も参照。

5G活用したコネクテッドサービスにも注目

自動運転に必須の移動通信システムは、コネクテッドサービス分野でも主軸を担う技術となる。ドコモと凸版印刷は2017年、5Gのモバイルネットワークを利用し、高精細4KVRコンテンツを自動運転バスにリアルタイムで配信する公開実験を行った。

VRを用いた体験型観光サービスは開発が進んでおり、自動運転との相性も良い。2020年に5Gの商用化が始まり、サービス分野における開発もいっそう進展しそうだ。

■【まとめ】情報通信なくして自動運転の実現はあり得ない

情報通信の変革に挑むNTTグループだが、自動運転分野でもさまざまな面で研究開発や実証に取り組んでいることが分かった。

IWONに関しては、業界フォーラム「Innovative Optical and Wireless Network Global Forum」をインテル、ソニーとともに立ち上げているほか、コネクテッドデータ処理に関する業界横断団体「AECC(Automotive Edge Computing Consortium)」に加盟するなど、国際的な活躍にも期待が持たれる。

情報通信基盤なくして高度な自動運転は実現しない。NTTグループの今後の取り組みに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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