自動運転車が社会に広く浸透すると、駐車場が不要になるといった説がまことしやかに流れている。この説は、果たして真なのか偽なのか。
自動運転ラボでは以前、類似した案件として「自動運転で走らせ続ける方が駐車代より安い」説を机上検証したが、この説とも関わりがありそうだ。
どのような論理で駐車場が不要になるのか。その謎に迫ってみた。
記事の目次
■自動運転がシェアサービスを加速させる
シェアサービスやMaaS(Mobility as a Service)といったモビリティサービスの導入が各地で進んでいるが、こうしたサービスは自動運転と無関係なものではない。将来的には、各モビリティが自動運転車に置き換わっていく可能性が極めて高いからだ。
その理由は、有効活用の観点と自動運転ならではの特性の観点から説明できる。
有効活用の観点
有効活用の観点では、費用対効果を考慮すると自ずと答えが見えてくる。仮に、自家用車に自動運転車を導入するケースを想定した場合、オーナーは運転操作から解放され、気楽な移動を楽しむことが可能になる。ただし、自家用車の稼働率は平均5%ほどと言われており、95%は駐車場で眠っていることになる。
多くの場合、大枚をはたいて購入したであろう自動運転車が宝の持ち腐れとなるのだ。超富裕層は別として、購入を検討する一般家庭は極めて少ないだろう。自動運転車を有効活用するためには、移動サービスなど特定の用に供することが必要なのだ。
余談だが、米EV大手のテスラは、こうした個人利用の自動運転車の空き時間を活用したロボタクシー構想を発表している。オーナーが使用しない時間帯に、自動運転車がライドシェアで小遣いを稼ぐイメージだ。
【参考】テスラのロボタクシー構想については「自動運転、テスラの戦略まとめ スマート・サモン機能導入!ロボタクシー構想も」も参照。
自動運転、テスラの戦略まとめ スマート・サモン機能導入、ロボタクシー構想も https://t.co/Oddbqh0w6l @jidountenlab #自動運転 #テスラ #まとめ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) November 20, 2019
ドライバーレスの効果が大きい
もう一つの特性の観点では、ドライバーレスの効果が大きい。自動運転車は食事もとらず睡眠も必要としないため、メンテナンスなどを除けば24時間稼働することができる。
また、自動で移動が可能なため、乗車の際に自動車のある位置まで利用者が移動する必要がなくなる。スマートフォン一つで自動運転車が駆けつけてくれるのだ。
こうした特性は、移動サービスでその効果を最大限に発揮する。ドライバー不在の自動運転タクシーを想像すれば、この特性と移動サービスの相性の良さをうかがい知ることができるだろう。
■シェアサービスの普及で自家用車の需要は低下していく
前段で自家用車の稼働率に触れたが、この数字が示す通り大半のオーナーは自家用車を持て余している。都市部を中心にカーシェアが右肩上がりの成長を続けているのは、この稼働率に起因するところが大きい。好きな時に気軽に利用できればOKなため、所有コストと利用コストを比較した際にカーシェアに軍配が上がるのだ。
カーシェアに自動運転が導入された場合、「運転」を必要としないため利用者層が子どもから高齢者まで拡大する可能性がある。また、運行管理システムのもと車両単独で移動できるためワンウェイ方式が主流となり、乗り捨てでの利用が可能となる。特定のステーションに車両を戻す必要がなくなるため、カーシェアをタクシーのように利用することが可能になるのだ。
タクシーも自動運転を導入することで乗車料金が格段に低下する可能性が高く、より気軽に利用しやすい移動サービスになるだろう。
このように、シェアサービスをはじめ移動サービスの利便性が高まると、「自家用車<移動サービス」の流れが加速し、「所有」から「利用」への移行が促進されることになるのだ。
■自家用車の減少に伴い、駐車場も減少する
自家用車が減少すると、当然ながら必要とされる駐車場の数も減少する。シェアサービスによって一台の自動運転車を効率よく複数の人が利用できるため、社会全体における車両総数が低減していくのだ。
駐車場の減少は、大型商業施設などにも及ぶ。駐車場法の規定もあるが、自家用車の利用が減り、自動運転タクシーやワンウェイ方式のカーシェアで足を運ぶ客が増えれば、大型駐車場を維持する必要がなくなるからだ。
■駐車場コストが走行コストを上回る
利便性の高い自動運転車だが、どれだけ効率的な利用を図っても空き時間が生じることはある。では、やはり待機場所となる駐車場が必要なのでは?と思われるかもしれないが、ある意味ここが本題だ。
「駐車場コストが高い大都市においては、燃費が良い自動運転車は駐車するよりも走行し続けたほうがコストが安くなる」――といった説がSNSで浮上したのだ。
自動運転ラボで比較を試みた結果…
気になった自動運転ラボ編集スタッフは、過去に「ガソリン車で1時間走行」「EV(電気自動車)で1時間走行」「東京都心で1時間駐車」の3パターンの費用を、その時点でのガソリン代や電気料金などを参考に比較を試みたことがある。
もちろんこうした比較には燃費などを含めてかなり細かな前提条件やパターン別の計算などが必要だが、車検代や税金、オイル交換やタイヤ交換などに掛かる費用をおおまかに考慮して計算すると、ガソリン車は1時間あたり307円、EVは1時間あたり235円となった。(詳しくは「「自動運転で走らせ続ける方が駐車代より安い」説 次世代自動車がもたらす逆転現象」を参照)
当然、こうした数字は前提条件や走行パターンによっては上下するが、たとえば東京都心における駐車料金が仮に1時間300〜1000円程度だと考えれば、人件費を必要としない自動運転車であれば都心の場合は有料駐車場によってはぐるぐると走行し続けたほうが費用を低く抑えられる可能性も出てくるというわけだ。
もちろん単にコストの話だけではなく、環境負荷や車体にかかる負担、車庫法の存在なども考慮しなければならないところだが、自動運転カーシェアやタクシーなどは、複数台で最低限の駐車場をシェアするなどし、休んで充電する車両と走行し続ける車両に分けることで総コストの削減が可能になるかもしれないのだ。
自家用車に自動運転が導入されると…
この理屈は、自家用車に自動運転が導入され、普及したケースにも通用する。呼べば駆けつけてくれる自動運転車は自宅に駐車場を確保する必要がなくなるため、各オーナーが共有する「自動運転車専用駐車場」に停めておけば良くなる。
自動運転車専用駐車場では、各利用者が協調し、運行管理システムを導入することで休むクルマと走行し続けるクルマに分散することができ、車両台数よりも少ない駐車場でコトが済むのだ。
また、ショッピングや食事など、外出先で少しの間クルマから離れたいときは、駐車せずに走行させ続ける選択が有効になる。このため、自動運転時代は時間貸しの駐車場が姿を消すことになるかもしれない。
■【まとめ】駐車場の減少はほぼ確実 新規ビジネスの種に
厳密には最低限の駐車場が必要となるが、車両総数の減少や駐車場シェアなどによって、必要とされる駐車場は大きく減少することになりそうだ。考え方によっては、駐車場が不要になるといっても決して間違いではないだろう。
その頃にはEV化も浸透していることが予想されるため、駐車場を兼ねたEVステーションが普及しているかもしれない。
このインパクトは、ただ単に駐車場が減少するという現象では終わらない。都市部では空いた土地の利活用をめぐり、新たなビジネスを模索する動きが活発になりそうだ。
【参考】関連記事としては「【最新版】自動運転車の実現はいつから?世界・日本の主要メーカーの展望に迫る|自動運転ラボ」も参照。