通信システムを備え、つながるクルマとなるコネクテッドカー。周囲のクルマやインフラ、クラウドとつながることで自動運転の一端を担い、安全走行や道路交通全体の円滑化に大きく寄与する。
また、車両に搭載されたカメラ画像などを収集・解析することで、維持管理が必要な道路情報や地域の見守りといった防犯などにも役立てることができる。
個々の車両においては、ガソリン残量やバッテリー、タイヤの空気圧などの基本情報から、警告灯が点灯する故障に至るまで車両の状態を網羅し、必要に応じてサポート通知や手続きを行う機能や、さまざまなエンターテインメント機能を楽しむことなどもできるようになるだろう。
これらの機能・サービスは「セーフティ分野」「カーライフサポート分野」「インフォテインメント分野」「エージェント分野」に大別できる。以下、この4分野についてそれぞれ具体的な機能を説明していこう。
■セーフティ分野
セーフティ分野では、ADAS(先進運転支援システム)をはじめとした自動運転の支援や、交通を最適化する管制機能などが挙げられる。
路車間通信(V2I)では、クルマと道路インフラが通信を行い、交差点や事故多発地点などにおいて、周辺の車両の走行状況や歩行者、自転車の動向などの情報を検知し、コネクテッドカーにリアルタイムで配信することで事故抑制を図る。赤や青などの信号機の情報を流すことで、交差点の通行をスムーズにすることなども可能だ。
将来的には、歩行者が持つスマートフォンや自転車に搭載した通信機などとも通信し、その存在をより的確に把握することなども考えられる。
車車間通信(V2V)では、先行車両のブレーキなどの制御情報をリアルタイムで後方車両に送ることで追突などの事故を抑制するほか、適正車間距離の維持やスムーズな加減速などで渋滞を回避するなど円滑な交通形成にも役立てることができる。高速道路で実証が進められているトラックの隊列走行などと同系統の技術だ。
また、各車両に搭載されたカメラなどの画像データなどをクラウドで収集してプローブ情報を生成・解析し、各車両に配信することで、道路上の障害物や事故など各種情報が共有され、運転支援を行うこともできる。
自動運転においては、ダイナミックマップにリアルタイムで情報を受発信することで、より安全性と効率性を備えたドライビングが可能になる。
限定領域において無人運転を可能にする自動運転レベル4においては、自動運転車は基本的にクラウド・交通管制と常時つながり、走行状態を逐一確認できる状態にするほか、万が一の際には遠隔制御できるシステムなどを通信技術によって確立する。
【参考】トラックの隊列走行については「無人トラックと隊列走行、取り組み状況まとめ 自動運転技術やAI技術を搭載」も参照。ダイナミックマップについては「【最新版】ダイナミックマップとは? 自動運転とどう関係? 意味や機能は?」も参照。自動運転レベル4については「【最新版】自動運転レベル4の定義や導入状況を解説&まとめ 実現はいつから?」も参照。
"真の自動運転"と呼べる「レベル4」を完全解説&現状まとめ トヨタ自動車や日産の実現目標は?|自動運転ラボ https://t.co/3m2yM2foR9 @jidountenlab #自動運転レベル4 #真の自動運転 #まとめ
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■カーライフサポート分野
カーライフサポート分野では、クルマの状態を随時チェックする機能が実用化されている。ガソリン残量やバッテリー、ウォッシャー液、タイヤの空気圧といったものから、排気系統や吸気系統などエンジンの異常に至るまで、さまざまな情報がサポートセンターなどに自動で送信され、必要な処置をアドバイスしてくれる。
いわば、自動車の健康状態が電子カルテ化されるイメージだ。看護師(サポートセンター)による適切なアドバイスのもと、必要に応じて医師(ディーラー)の診察を受けることで、クルマを健康に保つことができる。自動車保険は、運転状況を含めこうした情報に基づいたテレマティクス保険が今後主流になる可能性もあるだろう。
【参考】テレマティクス保険については「「トヨタ×あいおい」の米TIMS社、テレマティクス保険大手Progressiveと協業」も参照。
トヨタ自動車のコネクテッドサービス「T-Connect」では、警告灯点灯時にオペレーターが適切なアドバイスを行う「eケア」が用意されているほか、同様に日産自動車のコネクテッドサービス「NissanConnect」における「警告灯通知案内」など、コネクテッドカーにおいて標準化されつつある機能だ。
もう一つ注目すべきは、車内決済サービスだ。必ずしも常時接続を必要とするものではないが、カーナビで決済したり、クルマを降りた後に連携したスマートフォンで決済するなどさまざまな利用方法が考えられる。
将来的には、車内で楽しめるエンターテインメントコンテンツが充実した際の各種決済や、電気自動車(EV)をワイヤレス充電し、乗車したままカーナビなどで決済する機能、カーシェアなどのシェアリングカー利用中の個別決済など、アイデア次第でさまざまな展開が考えられる。
【参考】車内決済については「「トヨタペイ」の衝撃 ”夢の車”と決済、手数料長者に誰がなる?」も参照。
「トヨタペイ」の衝撃 "夢の車"と決済、手数料長者に誰がなる? コネクテッド自動運転社会、自動車会社はどう動くのか https://t.co/68sMb9YKZN @jidountenlab #トヨタペイ #コネクテッドカー #誕生なるか
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MaaS(移動のサービス化)の観点からは、コネクテッド技術により各シェアリングサービスやマッチングサービスなどの情報が共有されることで、移動目的に合わせてより最適な移動手段を得ることが可能になる。
フィンランドの「Whim」に代表される現在のMaaSアプリは、リアルタイムで常時接続され情報が更新されている部分と必要に応じて情報にアクセスする部分から成り立っているが、各車両から随時リアルタイムな情報が集まることで、その精度や効率性は飛躍的に高まる。MaaSに自動運転車が加われば、その必然性をイメージしやすくなるだろう。
【参考】Whimについては「MaaSアプリ「Whim」とは? 仕組みやサービス内容を紹介」も参照。
MaaS発祥の北欧国が生んだ「Whim」アプリ徹底解剖&まとめ トヨタ系から資金調達、日本進出の可能性も https://t.co/BDwSl2txrb @jidountenlab #MaaS #フィンランド #Whim #アプリ
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このほか、無人の自動運転車に防犯カメラを搭載した「走る防犯カメラ」によって地域の高齢者や子どもを見守るサービスなど犯罪の抑止や、円滑な捜査などにも役立てることができそうだ。
■インフォテインメント分野
インフォテインメント分野では、現在スマートフォンなどと連携した飲食店や観光情報の提供、音楽の配信などが実用化されているが、今後は同乗者向けに映画などの動画やオンラインゲームといったコンテンツも次々と実用化され、人気を集めそうだ。自動運転技術が確立されれば、その流れは確実なものになるだろう。
次世代技術として注目なのが、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)を活用したバーチャル体験だ。日産が開発を進める「Invisible-to-Visible」は、車両のセンサーが収集した情報とクラウド上のデータを統合し、前方の建物の裏側やカーブの先など肉眼では見えない部分をドライバーの視界に映し出すほか、遠隔同乗体験機能として、VRによって自分好みのアバターに変身して仮想世界にアクセスし、遠隔地にいる知人や家族をARによって3Dアバターとして車内に登場させる技術だ。
自動運転ベンチャー・ティアフォーのグループ会社である株式会社シナスタジアも、CES2019でVRゴーグルを装着してバーチャル映像のキャラクターから観光ガイドを受けるサービスなどを紹介したようだ。
こうしたコンテンツは高速通信が必要なため、5Gの実用化が必然となるが、VRやAR技術と移動を掛け合わせることで実用化できる斬新なサービスなど、今後の展開に要注目の分野だ。
【参考】日産の「Invisible-to-Visible」については「遠方の知人とも「ドライブ」が可能な技術、日産とNTTドコモが実験 VRやARも駆使」も参照。シナスタジアの取り組みについては「ティアフォーグループのシナスタジア、自動運転想定空間でVRガイド技術を紹介 CES 2019に参加」も参照。
遠方の知人とも「ドライブ」が可能な技術、日産とNTTドコモが実験 VRやARも駆使 https://t.co/Wu9s24x111 @jidountenlab #日産 #NTTドコモ #VR #AR
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■エージェント分野
エージェント機能の代表格は、すでに実用化されている交通事故発生時における緊急通報サービス・ロードアシスタントサービスだ。
株式会社日本緊急通報サービスが運用する「HELPNET」サービスは、エアバッグの展開などと連動する自動通報や専用ボタンによる通報、カーナビからの通報が可能で、現在トヨタやホンダ、日産などが採用している。
また、車両のコネクテッド技術を活用した救急自動通報システムの一つで、交通事故発生時に車両のデータを国内の事故データ約280万件をベースとしたアルゴリズムに基づき自動で分析、死亡重傷確率を推定し、全国約730カ所の全消防本部や協力病院に通報してドクターヘリやドクターカーの早期出動判断につなげる「D-Call Net」は、トヨタやホンダ、日産、スバル、マツダなども参加し、オールジャパンの取り組みを強化している。
自動緊急通報装置に関しては、国連欧州経済委員会自動車基準調和世界フォーラム(WP29)において2017年に国際基準が成立しており、国土交通省も2018年7月に同基準の導入を発表している。
国際基準では、エアバッグを搭載した乗車定員9人以下で車両総重量3.5トン以下の乗用車と車両総重量3.5トン以下の貨物自動車を対象に、自動通報と手動通報の両方の機能を備えることや音声通話ができること、また発報情報として、事故発生の位置情報や車両の情報(車両種別・車台番号・向き)、事故発生時刻などが定められており、新型車は2020年1月から、継続生産車は2021年7月から適用対象となる。
このほか、運転中などのドライバーの心身状態をセンサーで監視し、ドライバーの体調不良などにも備える技術も開発が進んでいる。
また、インフォテインメント分野にも関わるが、コンシェルジュとの相談により目的地を決定し、ナビゲーションの設定を行うコンシェルジュサービスなどもある。将来的には、AIがドライバーの趣味や嗜好などを分析し、サービスを提案する機能なども開発されそうだ。
【参考】AIによるドライバー分析については「CAC、運転手の感情をリアルタイム分析する「Automotive AI」の提供開始 自動運転レベル3で活躍」も参照。
AIが運転手の4つの感情値と8つの表情値を算出 CACが提供開始 自動運転レベル3に活躍も|自動運転ラボ https://t.co/T9r8LGaLWO @jidountenlabさんから #自動運転 #AI
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) August 5, 2018
■【まとめ】5Gや自動運転技術の確立とともにコネクテッドサービスも本格化
各分野において一定のサービスが実用化されているが、現状は「ICTの進化の過程」的なイメージを持っている人も意外と多いのではないか。
現在の通信技術では高速・大容量通信には限界があるため、当然ながら既存技術で実現可能なサービスであることは否定できない。ただ、5Gや自動運転技術などが確立されれば、サービスが飛躍的に質と量を増していくことは間違いなく、その方向性はこの4分野に整理されていくことになる。
セーフティ分野では自動運転とコネクテッド技術が融合し、カーライフサポート分野では、車検の一部を通信技術が担う時代が来るかもしれない。インフォテインメント分野では、自動車が移動可能な個室空間として位置付けられ、エージェント分野では、交通事故を起こした際に消防や警察、保険会社などへの連絡が一切必要なくなるかもしれない。
こういったサービスの進化が5年後、10年後に実現している可能性は十分考えられる。知らず知らずのうちに技術やサービスは高度化し、その恩恵を皆が享受しているのだ。
【参考】関連記事としては「コネクテッドカー・つながるクルマとは? 意味や仕組みや定義は?」も参照。
「つながるクルマ」…基礎から各社開発進捗まで解説&まとめ AI自動運転にも欠かせない通信技術、トヨタ自動車や日産の参入|自動運転ラボ https://t.co/bDjF770hJC @jidountenlab #つながるクルマ #コネクテッドカー #まとめ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) September 29, 2018