自動運転車、中国DeepSeek登場が「格安開発の可能性」を示唆

型落ちチップでOpenAIに匹敵するAIモデル



Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

米OpenAIが引き金を引いた生成AI開発競争において、無名だった新興企業が突如として名を馳せた。中国のスタートアップ企業DeepSeekだ。

性能面が重視され、その開発に伴うコストが度外視される傾向が強い中、同社はコストパフォーマンスに優れたAIモデルを発表した。そのコスパの良さは、半導体最大手NVIDIAの株価を17%下げるほどのインパクトを市場にもたらした。


賛否両論あるものの、こうしたモデルの登場は、AI開発・利用の低コスト化を示唆するものであることは間違いない。近い将来、自動運転開発もその恩恵を受け、自動運転車の低コスト化が大きく加速していくのかもしれない。

DeepSeekの概要とともに、AI開発コストの現在地に迫る。

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■DeepSeekの概要

汎用AIの開発目指し2023年に設立

出典:DeepSeek公式サイト(https://www.deepseek.com/)

DeepSeekは、梁文鋒(Liang wen feng)氏が2023年に設立したAI開発スタートアップだ。梁氏はもともとヘッジファンドを運用し、金融系AIの開発などを行っていたが、汎用AI開発に向け同社を立ち上げたという。

2024年5月に高性能ながら低価格を実現したAIモデル「DeepSeek-V2」を発表すると、まずは中国内で話題となった。APIを100万トークンの入力1人民元、出力2人民元と他社に比べ安価に価格設定した。そのコスパの良さが支持を集め、後にテンセントやバイドゥ、アリババといったテック大手も追随し、価格を引き下げることとなった。


同年11月には、AIME および MATH ベンチマークでOpenAI o1-previewレベルのパフォーマンスを発揮するという「DeepSeek-R1-Lite-Preview」を発表した。さらに、12月にはV2より3倍高速化し、APIの互換性はそのままに機能を強化した「DeepSeek-V3」を発表し、2025年1月にDeepSeekアプリとして正式にApp StoreやGoogle Playといった主要マーケットで利用可能になったことを報告している。

同年1月には、OpenAI-o1と同等のパフォーマンスを誇るという「DeepSeek-R1」もリリースした。完全オープンソースのモデルと技術レポート、MITライセンスで自由に抽出し商品化できるとしている。

DeepSeekのレポートによると、第一世代の推論モデルとなる DeepSeek-R1-Zeroと DeepSeek-R1は、予備段階として教師あり微調整を行わずに大規模な強化学習でトレーニングしたモデルという。

純粋な強化学習プロセスによる自己進化に焦点を当て、教師ありデータなしで LLM が推論機能を開発する可能性を探ったという。


コールドスタートとして教師あり微調整を使用しなくても、大規模な強化学習によって推論機能を大幅に向上可能なことを実証し、さらに少量のコールドスタートデータを含めることで、パフォーマンスをさらに向上させることができるとしている。

高コスパ実現に世界が注目

出典:OpenAI公式サイト

OpenAIを引き合いに挙げたことで世界の目に留まり、その性能やAI学習のアプローチに注目が集まった。特に目を引いたのが、開発にかかった費用だ。V3の構築費用は560万ドル(約8億6,000万円)としており、これはOpenAIなど競合他社の10分の1以下に相当するという。

DeepSeekが使用したチップは、NVIDIAの「H800」2,000枚あまりとされている。H800は、米国政府による対中輸出規制をかいくぐるため従来品から性能を落としたモデルだ。このH800も、さらなる規制強化で2023年後半に中国への輸出が禁止された。いわゆる型落ちモデルだ。

この型落ちモデルを使用し、OpenAIに匹敵するAIモデルを構築したことが業界に大きなインパクトを与えた。OpenAIをはじめとするトップランナーは、最先端チップを導入し、1億ドル以上かけて環境を整備しているためだ。

この一件を受け、NVIDIAの株価は1月24日終値の142.62ドルから、週をまたいだ27日には終値118.42まで一気に17%下がった。時価総額90兆円相当が吹っ飛んだのだ。

こうした話題も相まって、DeepSeekに大きな注目が集まる事態となった。


疑義含みだが過大な投資競争に一石を投じることに

DeepSeekのAIモデルをめぐっては、実際に試用したうえで高評価する感想が相次ぎ、業界のゲームチェンジャーとして高い期待が寄せられる一方、LLMとして「誤答が多い」「中国関連の質問には答えず政府の検閲が入っている」「第三者によるベンチマークスコアでは異なる結果が出た」――といった声も出ている。

また、NVIDIA製チップに関しても、「他国を介して5万枚を入手し使用している」とするメディアもあり、米当局が調査に乗り出したという。このほか、OpenAIのモデルを不正利用した疑いや機密情報漏洩などセキュリティに関する甘さを指摘する声もある。

注目度がにわかに高まり、賛否両論真っ只中にあるのが現在地だ。各情報の真偽については続報を待つほかないが、いずれにしろ業界に与えたインパクトは大きく、実際DeepSeekの取り組みを評価する高名なエンジニアも少なくない。高性能GPUに依存する過大な投資競争に一石を投じる結果となったことは紛れもない事実だろう。

OpenAIのサム・アルトマンCEOは「R1は価格に見合った機能を提供している点で印象的」と評価しつつ、「OpenAIはより高性能なAIを発表予定」と対抗心を隠さない。

一方、NVIDIAのジェンスン・フアンCEOは「テストタイム・スケーリングの好例」と賛辞を贈ったようだ。大量のデータと高性能GPUでAIを訓練するフェーズから、推論に注力するフェーズへの移行を示唆しているようだ。

コスパの観点への注目度が増す?

出典:NVIDIAプレスリリース

膨大な演算処理が求められるAI開発において、高性能なGPUは欠かせない存在とされており、それゆえ開発各社はNVIDIAの高性能チップを買い漁っている。これが今日のNVIDIAの業績に繋がっているのは言うまでもない。

膨大なコンピューティング能力があってこそ高性能化を果たすことができる――というのは間違いないが、コストパフォーマンスの観点が重視されるフェーズに早くも達し始めようとしているのかもしれない。

DeepSeekの登場により、低コスト環境下を含むより効率的な開発手法に注目が集まり始めている。開発勢のスタンスとして、引き続きフルパワーで最大限性能を高めていくものとコスパを求めるものとの2極化が進んでいく可能性が高い。

AIの性能・能力はまだまだ右肩上がりで伸びていくことが予想されるが、コスパの面でゲームチェンジが起これば、普及モデルの性能も飛躍的に向上していく。トップランナー以外のAI開発も大きく進展し、その恩恵が各産業に広がっていくことに期待が寄せられるところだ。

■自動運転におけるAI開発

パーセプション技術開発には膨大な時間と金が必要

自動運転業界も、パーセプション技術を中心としたAI開発が最重要課題であり、最も力が入る領域だ。カメラなどのセンサーが捉えた画像データから、いかに多くの情報を瞬時かつ正確に取得できるかが勝負の分かれ目となっている。

周囲の車両や歩行者、自転車、交通標識、道路インフラ、野生動物、道路上のごみに至るまで、瞬時に見極め、かつその動向を予測してこそ安全な自律走行を実現できる。カメラやLiDARなど、さまざまな種類のセンサーデータを統合するフュージョン技術も重要だ。そして、こうしたデータをもとに車両をどのように制御すべきかを判断する。いずれもAIによるところが大きい。

特に、パーセプション技術の確立には膨大なデータを必要とする。一言で車両と言っても、さまざまなタイプが存在する。歩行者も、子どもや高齢者、服装など一人ひとりが異なる。角度により見え方も異なり、時間帯によって明暗も異なる。

こうしたオブジェクトを、走行中の車両から取得したデータから瞬時に認知しなければならないのだ。道路環境はその都度変化するため、同じ道路でも幾度も走行を重ね、AIを強化し続けなければならない。

ゆえに、AI開発には膨大な時間もコストも必要となる。こうした開発費用は、当然ながら自動運転車の本体価格やサービス価格に転嫁されていく。

【参考】自動運転とAIについては「自動運転AIの「トロッコ問題」とは?」も参照。

自動運転AIの「トロッコ問題」とは?(2024年最新版)

AI開発の低コスト化で自動運転車やサービス価格も低下する?

しかし、このAI開発領域にゲームチェンジが起こり、低コストでの開発が実現すれば、自動運転車・サービスの低価格化に大きく貢献する。

サービスにおいては、無人化技術によるコスト減も加わり、人の移動やモノの輸送に大革命が起こる可能性がある。目に見えにくい開発費用の圧縮が実際にサービス価格にどこまで反映されるか、こうした観点にも注目したい。

自動運転車の本体価格は、少し前までは海外のオリジナル小型バス・シャトルタイプなどで5000万~1億円あたりが相場とされていた。恐らく現在は幾分下がり始めているものと思われるが、まだまだ受注生産に近いため、大幅な値下がりは期待できそうもない。

ただ、純粋な製造費用だけで見れば、値下げの余地があるはずだ。センサー類やコンピュータなど自動運転車特有の装備を特別に搭載しても、せいぜい数百万円、多くとも1,000万円に満たないはずだ。それにもかかわらず車両価格が数千万円と言うことは、開発費用や遠隔監視センター向けの設備投資など、さまざまな要素が積み重なっているものと思われる。

こうした価格のうちAI開発費用がどれほどのウェイトを占めるかは不明だが、その開発に係る人員や期間を考慮すると、やはり相当な額に上るものと思われる。実用化後もさらなる精度向上に向け開発が続くことを踏まえれば、AI開発に係る費用の圧縮効果は軽視できないものとなる。

かつての最先端技術が数年後には普及レベルの技術となるほど進化が著しいテクノロジー領域のため、DeepSeekのようなゲームチェンジャーが今後も頭角を現し、業界に刺激と変革を与え続けるものと思われる。

どの段階に達すれば全体の開発スピードが落ち着くのか、その過程において、どの水準に達すれば自動運転開発が円滑に進むようになるのか。この自動運転実用化域の技術水準がAI開発における普及レベルとなったとき、真の意味で低価格化が進むのかもしれない。予測は難しいところだが、昨今の進化を踏まえればその時は意外と早く訪れるのかもしれない。

■【まとめ】パラダイムシフトがいつ訪れるのか要注目

国内では、自動運転開発スタートアップのTuringがマルチモーダル生成AI「Heron」の開発を進めているほか、SoC開発にも着手している。

自動運転開発に生成AIモデルを活用する動きは活発化しており、今後、DeepSeekのようなAI企業と自動運転開発事業者が手を組む場面が続発する可能性も考えられる。

AI、そして自動運転業界におけるパラダイムシフトがいつ訪れることになるのか。各社の取り組みに要注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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