関係者必読!SIP第2期自動運転、全300ページの最終報告書

取り組みや成果、課題を網羅



出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

自動運転の社会実装を推し進める国家プロジェクト「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」が2022年度末で終了する。第1期、第2期合わせ9年間に及ぶ長期事業だ。

この一大プロジェクトの第2期における成果をまとめた「最終成果報告書」がこのほど発行された。これまでに実施してきた事業の概要や成果が収められており、総ページ数は300ページ弱に及ぶ。それだけ膨大な数の事業や研究などを進めてきたということだ。


この記事では、同報告書の中身をかいつまんで紹介していく。

▼SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書
https://www.sip-adus.go.jp/rd/rd_page04.php

■そもそもSIPとは?

SIPは、科学技術イノベーション実現に向け府省の枠や旧来の分野を超え官民一体となって取り組む国家プロジェクトだ。

2014年度から第1期として次世代パワーエレクトロニクスや自動走行システムなどの11課題を設定し、さまざまな研究開発や実証などを行ってきた。2018年度からは第2期がスタートし、自動運転(システムとサービスの拡張)やIoT社会に対応したサイバー・フィジカル・セキュリティなど12課題について5カ年の事業期間を設け取り組んできた。


■SIP第2期の概要

第2期では4つの柱を設定

第2期では、以下の4つを柱に研究開発を進めてきた。

  • ①自動運転システムの開発・検証(実証実験)
  • ②自動運転実用化に向けた基盤技術開発
  • ③自動運転に対する社会的受容性の醸成
  • ④国際連携の強化

①では、東京臨海部実証実験や地方部などにおける移動・物流サービスの社会実装、②では交通環境情報の利活用技術や安全性評価技術、サイバーセキュリティ、地理系データに係るアーキテクチャの構築、③では市民などに向けた情報発信と理解増進と、社会的課題解決に向けた調査研究、④では国際ワークショップの開催などを通じた国際的な情報発信と海外研究機関との共同研究――を主な研究開発に据えている。

また、この中で、交通環境情報の構築と配信、仮想空間における安全性評価環境の構築、サイバーセキュリティの評価手法の確立、地理系データの流通ポータルの構築――の4つを重点テーマに位置付け、実用化・事業化に向けた取り組みを進めてきた。


各省庁の取り組みから総括・次期SIPの課題候補まで網羅

報告書は全8章構成で、全300ページ弱に及ぶ。第1章では、警察庁、デジタル庁、総務省、経済産業省、国土交通省道路局、国土交通省自動車局の取り組みについてそれぞれまとめられている。

第2章は「交通環境情報の構築と活用」について、第3章は「自動運転の安全性の確保「について、第4章は「自動運転のある社会」として、地域社会における自動運転移動サービスや自動運転の社会的受容性について、第5章は「Society5.0実現に向けたデータ連携・活用」について、第6章は「国際連携の推進」について、第7章は「その他の成果と取組など」について、第8章は「SIP自動運転の総括と成果継承」についてそれぞれまとめられている。

以下、要点を抜粋しながら各章ごとに報告書の中身を紹介していく。

出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書
■第1章 各省庁の取り組み

SIP第2期において、警察庁は「自動運転の実現に向けた信号情報提供技術等の高度化に係る研究開発」「クラウド等を活用した信号情報提供に係る研究開発」「GNSS(位置情報)等を活用した信号制御等に係る研究開発」「交通規制情報のデータ精度向上等に関する調査研究」などに取り組んだ。

総務省は、V2Xシステム向けに5.9GHz帯の技術試験事務を実施した。5.9GHz帯は国際的にも検討や実用化が進められている周波数帯という。

経済産業省は、自動運転技術に必要な認識技術の研究などをはじめ、無人自動運転移動サービスの実現・普及に向け、他省庁とともに新たなプロジェクト「RoAD to the L4」を開始し、社会実装を加速させている。

国土交通省道路局は、道の駅などを拠点とした自動運転サービスにおいて4カ所で本格導入を開始したほか、オーナーカーに関連した取り組みとして、高速道路における合流支援や先読み情報の提供などの研究を進めている。自動車局は、自動運転車の安全技術ガイドラインや安全基準の策定、道路運送車両法の改正など制度整備を進めてきた。

【参考】道の駅に関する取り組みについては「自動運転と道の駅」も参照。

■第2章 交通環境情報の構築と活用
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

第2章では、交通環境情報の生成や配信に係る技術開発についてまとめている。

生成関連では、東京臨海部実証における実証実験をはじめ、以下の各項目について成果をまとめている。

  • ①インフラ協調型自動運転のための信号提供技術(V2N)の開発
  • ②車両プローブによる車線別道路交通情報に係る技術開発
  • ③合流支援のためのシミュレーション環境の構築及び技術開発
  • ④交通規制情報のデータ精度向上
  • ⑤GNSS(位置情報)等を活用した信号制御等及び緊急車両情報に係る技術開発

一方、配信関連では、以下など、協調型自動運転に向けた通信方式などについて取りまとめている。

  • ⑥協調型自動運転のユースケースを実現する通信方式の検討
  • ⑦V2X技術等を含む新たな通信技術開発⑧中域情報の収集・配信に係る研究開発

東京臨海部実証では、インフラから無線通信などによってさまざまな情報を走行車両に提供するV2I(路車間通信)やV2V(車車間通信)の仕組み構築に向けた実証を行った。2021年度にはV2N(広域公共ネットワーク通信)による交通環境情報の配信にも取り組んでいる。

実用化に向けた社会実装時、事業主体が考慮すべき課題として「必要情報の効率的な選択利用の仕組みの実現」「ネットワーク経由による情報処理/伝送遅延の最小化と影響確認」「対象サービス規模実装に見合ったサーバ能力予測」「通信データ量の削減」を挙げている。

①では、2020年度までにV2Iを用いた信号情報提供インフラ技術仕様を決定し、モバイル回線を利用するV2N方式の検討や、社会実装モデルの中核を構成する信号情報センターの社会的機能要件などについて検討を進めてきた。

これらの成果を踏まえ、2022年度には17カ所の交通信号機から模擬車載機までの一連の構成要素を統合した実証を行い、3つの信号情報提供方式とシステム全体構成の有効性を検証した。

今後の課題としては、フェールセーフの実現やオフセット追従などへの対応、異常情報の通知が通信時間分遅延することへの対応などを挙げており、技術的検討を継続する必要があるとしている。

⑥以降の通信方式に関しては、2019年度に「協調型自動運転通信方式検討タスクフォース」を立ち上げ、25のユースケースを想定して適用すべき通信方式の検討を進めてきた。

2030年以前の早期に開始するユースケースについては700MHz帯ITSを活用できる一方、2040年ごろに30%の協調型自動運転車の普及を見込むケースでは、新たな通信方式を2030年ごろから導入する必要があると結論づけている。

■第3章 自動運転の安全性の確保
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

安全性確保に向けた技術開発の領域では、以下などに取り組んだ。

  • ①仮想空間における自動走行評価環境整備手法の開発
  • ②自動運転(レベル3~4)に必要な認識技術等に関する研究
  • ③新たなサイバー攻撃手法と対策技術に関する調査研究
  • ④自動運転の高度化に則した安全教育方法に関する調査研究
  • ⑤低速走行の自動運転移動・物流サービス車両と周辺交通参加者とのコミュニケーションに関する研究
  • ⑥自動運転の高度化に則したHMIに関する調査研究

③では、出荷後における新たなサイバー攻撃への対策技術として「侵入検知システム(IDS)」に着目し、IDS導入時における評価・テストのベースラインとなるIDS評価ガイドラインを策定した。2022年度は、インシデントが発生した際の初動対応を支援する仕組み構築に向け、コネクテッドカーの脅威情報の収集・蓄積方法の検討、ハニーポットなどによる収集実験を実施している。

■第4章 自動運転のある社会
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

この章では、中山間地域における自動運転移動サービスに関する取り組みである以下について触れている。

  • ①自動運転による移動サービスの実用化に向けた環境整備のほか、自動運転の社会的受容性醸成に向けた取り組みとして
  • ②社会的受容性の醸成に向けた調査と評価
  • ③交通事故低減等への社会経済インパクト評価手法の開発
  • ④社会的受容性の醸成に向けた活動
  • ⑤交通制約者に優しいバスに係る検討

①では、道の駅「かみこあに(秋田県)」など4カ所で自動運転移動サービスが本格導入されたとする一方、事業終了後もサービスを提供するためには、事業継続性に関する検討や不具合・事故発生時の対応、地域に引き渡す必要がある施設の整理などを行い、地域の運行主体などに確実に引き継ぐ必要があるとしている。

■第5章 Society5.0実現に向けたデータ連携・活用
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

高精度地図データや道路交通、車両プローブなどの収集データは、交通環境情報として自動車産業以外にも広範囲の活用が期待できるとし、これらの情報をより安全で使いやすい形で流通させる仕組みづくりを進めている。

この章では、地理系アーキテクチャの設計と構築の概要をはじめ、以下について成果をまとめている。

  • ①地理系データのアーキテクチャの設計-交通情報環境ポータルサイトの構築・普及
  • ②観光都市における社会課題解決に向けた取り組み
  • ③車両プローブ情報を活用した物流効率化の調査研究
  • ④車両プローブ情報の道路管理業務への活用

モビリティ分野のデータを集約し、他の分野との連携を図る交通環境情報ポータルサイト「MD communet」の構築や、普及促進に向け取り組みを進めてきた。

2023年度以降は正式にMD communetが社会実装される予定で、実装後も継続して官民連携のハブとなり、SIP期間中に実施してきたさまざまな活動を継続的に実施する方針としている。

■第6章 国際連携の推進
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

国際競争力を維持し続けるため、自動運転の標準化・基準化活動においてイニシアティブを発揮し、国際的な調和を図っていく必要があるとし、SIP第2期では国際連携の強化を活動の4本柱の1つとして掲げている。

この章では、国際連携に向けた以下などの各取り組みや重点テーマにおける状況について取りまとめている。

  • ①SIP-adus Workshop
  • ②日独連携,日EU連携
  • ダイナミックマップ
  • ④ヒューマンファクタ
  • ⑤安全性評価
  • ⑥コネクテッドビークル
  • ⑦サイバーセキュリティ
  • ⑧社会経済インパクト
  • ⑨サービス実装推進

ダイナミックマップ関連では、ISO17572-1,4(位置参照手法)やISO20524-1,2(地理データファイル)の4つの国際標準成立をはじめ、デジタル地図に関する業界標準活動「OADF(Open Auto Drive Forum)へのステアリングメンバーとしての正式な参画、OADF参加団体である「ADASIS(Advanced Driver Assistance Systems Interface Specification Forum)」の仕様を活用した実証などの成果を上げている。

■第7章 その他の成果と取組など
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

SIP第2期に実施したその他の施策として、以下の各取り組みについて紹介している。

  • ①ニュータウン地域における自動運転による移動サービス実用化に向けた環境整備に係る調査
  • ②混在交通下における交通安全の確保等に向けたV2X情報の活用方策に係る調査
  • ③BRTへの自動運転による正着制御技術等の導入に向けた調査
  • ④交通環境情報に係る国際協調に向けた海外動向等の調査
■第8章 SIP自動運転の総括と成果継承
出典:SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書

この章では、SIP第1期、第2期それぞれについて総括的に振り返りを行っているほか、SIP-adus の実践活動を継承する「RoAD to the L4」の概要などを説明している。

次期SIPについては、「スマートモビリティプラットフォームの構築」が課題候補として挙がっているほか、「移動する人・モノの視点から、移動手段(小型モビリティ、自動運転、MaaS、ドローンなど)、交通環境のハード、ソフトをダイナミックに一体化し、シームレスな移動を実現するプラットフォームを構築する」ことがコンセプトとして示されたという。

また、以下が検討すべきサブ課題として挙がっているようだ。

  • ①モビリティサービスの再定義と社会実装戦略
  • ②モビリティサービスを支えるデータ基盤(スマートモビリティデータ基盤2.0)
  • ③モビリティサービスを支えるインフラ戦略
  • ④モビリティサービスの社会実装戦略
■【まとめ】興味のある方はぜひ通覧を

ボリュームがあり過ぎるため、一部抜粋しても内容を紹介しきれないほど中身が詰まっている印象だ。日本におけるこれまでの取り組みや自動運転に対する考え方などが網羅されているので、興味のある方はぜひ直接目を通してほしい。

最終成果報告書は、以下からダウンロードできる。

▼SIP第2期自動運転(システムとサービスの拡張)最終成果報告書
https://www.sip-adus.go.jp/rd/rd_page04.php

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2023年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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