離職率90%超!?米トラック業界の課題を「自動運転」で解消

EC需要急増の対応でも、鍵は無人化



出典:NVIDIAプレスリリース

新型コロナウイルスの影響によりEC需要が高まり、2020年以降宅配需要が大きな伸びを見せているようだ。小売り各社において新たな商機となる一方、ドライバー不足にあえぐ物流業界にとっては変革が絶対命題となっている。

ドライバー不足は日本でもひっ迫しているが、米国ではもはや予断を許さない状況となっているようだ。この記事では、米国のEC需要やドライバー不足の現状とともに、こうした問題解決に貢献する自動運転技術について解説していく。


■米国や日本におけるECやドライバーの現状
米大規模トラック事業者の離職率は90%?

米トラック協会が発表した四半期雇用報告書によると、2020年10~12月の3カ月間における離職率は、大規模トラック事業者(年間収益3,000万ドル超)が92%、小規模トラック事業者(同3,000万ドル未満)が72%だったという。

年間平均では、大規模トラック事業者が前年比1ポイント減の90%、小規模トラック事業者が同3ポイント減の69%となっている。

90%という離職率はにわかには信じがたい値だ。参考までに、厚生労働省が発表した「令和2年雇用動向調査結果の概況」によると、日本国内における2020年の運輸業・郵便業の離職率は13.3%となっている。

なお、厚労省は離職率を「常用労働者数に対する離職者数の割合」と定義し、1月1日付けの常用労働者数に対する割合で計算している。


2020年1月1日付の国内運輸業・郵便業の常用労働者数は約317万人で、入職者数約46万人、離職者数約42万人となっている。

米国の調査における離職率が同様の定義に基づいているかは不明だが、日本の定義を当てはめると常用労働者の90%が離職しているという異常事態となる。憶測だが、日本に比べ個人事業主のドライバーが多く、委託契約の解除なども離職として換算しているのかもしれない。いずれにしろ、90%はとんでもない数字だ。

米EC市場は前年比60%弱増加

一方、新型コロナウイルスの影響で世界的にEC需要は高まっている。ラストマイルテクノロジーベンダーのConveyのレポートによると、米国における2020年のEC需要は前年比で60%近い伸びを見せるなど、著しい成長を見せたようだ。

また、米調査会社のBizrate Insightsによる調査によると、オンライン注文で当日配達を希望した人は、2020年8月に24%、2021年2月に36%とこちらも増加傾向にあるようだ。


なお、日本における2020年のBtoC型ECは、物販分野が前年比21.71%増の12兆2,333億円、オンラインゲームなどを含むデジタル系分野が同14.9%増の2兆4,614億円、旅行業などを含むサービス系分野が36.05%減の4兆5,832億円となった(経済産業省調査)。

コロナ禍による旅行やイベントチケット需要などの減少が大きく影響し、総計では0.43%減とほぼ横ばいとなっているものの、物販系は確実に需要を伸ばしている。

また、国土交通省の調査によると、2020年度の宅配便取扱個数は前年比11.9%増の48億3,600万個、メール便は同9.9%減の42億3,900万冊となっている。紙ベースの宅配需要が落ちる一方、物ベースの宅配需要は大きく数字を伸ばしているようだ。

日本でも宅配需要の増加とドライバー不足が社会問題化しているが、米国はそれ以上の水準で深刻化しているようだ。米トラック協会は「財政刺激策の影響や米国内でのワクチン接種のペースが速くなっていることから、今後も経済の改善が続く。ドライバーに対する需要がさらに高まり、市場が引き締まる可能性が高いため、自動車運送会社はドライバー確保に引き続き注力する必要がある」としている。

■ドライバー不足を補う自動運転技術

こうした宅配需要の増加とドライバー不足の問題を解決するのが「自動運転」だ。無人走行によるドライバー不足の緩和をはじめ、コスト削減や出荷時間の短縮、安全性の向上、環境負荷の低減などに期待が寄せられている。

物流分野では、ラストマイルを担う自動走行ロボットをはじめ、国土面積が広い米国では特に長距離輸送トラックの自動運転化に対するニーズが大きいようだ。

Kodiak Roboticsが実用化に向けて前進

ミドルマイルを担う自動運転トラックの開発を手掛ける米スタートアップのKodiak Roboticsは、黎明期の自動運転開発について「ODD(運行設計領域)が制限された自動運転車の最大の市場は長距離トラック」とし、高速道路のみを自律走行可能なフルスタックソリューションの開発に力を注いでいる。

同社の自動運転システム「KodiakDriver」は長距離トラック専用に設計され、独自のセンサーフュージョンシステムと軽量マッピングソリューションを活用している。高速道路における車線変更や合流はもちろん、道路作業車への対応や夜間、悪天候における走行にも対応している。

KodiakDriverはすべてのセンサーをプライマリとして扱い、各センサーの特性を利用してパフォーマンスを最大化するなどマップなしでも安全に運転できるよう設計されているのが特徴で、マップは補完的なものとして使用している。

軽量マッピングは、一般的に使用されている高精度3次元地図に代わる独自技術で、高速道路に関する必要十分な情報を抑えつつ、作成と保守が簡単なためフリート全体に柔軟に無線更新することができるという。

NVIDIAのチップがパフォーマンス向上に貢献

同社最新の第4世代となる車両は、新たにNVIDIA DRIVE Orinを搭載している。250 TOPS超の演算能力を誇るシステムオンチップを採用することで認識能力など自動運転システムそのもののパフォーマンスを向上させ、よりマップへの依存度を低めている。

第4世代ではこのほか、将来的な展開を見据えセンサースイートなどのモジュール化を図っている。設置しやすさを向上させることで、自社フリートに統合したい顧客への対応を拡大していく方針だ。

2025年以降には、1マイルあたりのサブスクリプションサービスを導入し、Kodiak Driverによる低料金の自動運転フリート構築を目指す計画もあるようだ。

なお、同社には2021年6月、ブリヂストンの米国法人やBMW iベンチャーズが出資を行っている。開発パートナーには、NVIDIAのほかLiDAR開発企業のLuminar TechnologiesやHesai Technology、韓国のSKグループ、自動車部品大手のZFなどが名を連ねている。

▼Kodiak Robotics公式サイト
https://kodiak.ai/

【参考】Kodiak Roboticsについては「ブリヂストンが出資した米Kodiak Robotics、トラック自動運転化の実力」も参照。

■【まとめ】マーケットニーズが強い自動運転トラック

米国の物流業界では、自動運転に対するマーケットニーズが非常に大きいことが分かった。日本と異なり、レベル4の自動運転トラック開発が盛んであることもこうした実情に基づいているのだ。

開発企業はKodiakのほか、Embark TrucksやAurora Innovation中国系のTuSimpleやPlusなど有力企業がひしめき合っている。大手物流企業への本格納入が決まればビジネス面での魅力も非常に大きく、実用化に向けた開発競争はまだまだ激化していく見込みだ。

【参考】米物流界については「FedExに「自動運転トラック」を供給できれば億万長者」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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