自動運転業界でNVIDIA製品の採用が相次いでいる。NVIDIAは2021年4月に開催した自社カンファレンス「GTC 2021」で、スウェーデンのボルボ・カーズや米Zoox、中国SAIC(上海汽車集団)が新たにNVIDIA DRIVEソリューションを採用したと発表した。
自動運転レベル4車両をはじめ、自家用車においてもレベル2+やレベル3といった高度なシステムの搭載が始まっており、NVIDIAソリューションの実装が加速しているようだ。
この記事では、NVIDIAソリューション採用に向けた最新動向に触れていく。
【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?定義や呼称の違いは?徹底まとめ」も参照。
記事の目次
■ボルボ・カーズらの取り組み
ボルボ・カーズは過去数年間に渡る両社のコラボレーションを拡大し、NVIDIA DRIVEOrinを搭載したVolvo XC90を来年発売する予定としている。
同社は2016年からNVIDIA DRIVEを使用しており、ソフトウェア開発などにおいてこれまでNVIDIA DRIVEXavierなどを活用してきた。XavierとOrinは互換性があるため、従来の研究開発をそのまま引き継ぐことができるという。
一方、Amazon傘下で自動運転開発を進めるZooxは2017年にNVIDIAとパートナーシップを交わしており、2020年12月に発表したロボタクシーにNVIDIAのソリューションを活用している。
【参考】Zooxの取り組みについては「最高時速120km!Amazon傘下Zoox、攻めの自動運転タクシー用車両をお披露目」も参照。
SAICは2020年11月にアリババとインテリジェントEV(電気自動車)を開発する合弁「ZhijiAuto」を立ち上げた。「IM(intelligence in motion)」というブランドでプレミアムEVを展開していくこととし、第1弾となるフラッグシップセダンの受注を2021年中に開始するが、このモデルにNVIDIA DRIVEOrinが搭載されている。
【参考】SAICの取り組みについては「中国SAICの新EVに秘める実力 自動運転、車内パーソナライズ、OTAが実現!」も参照。
中国SAICの新EVに秘める実力 自動運転、車内パーソナライズ、OTAが実現! https://t.co/Zzr4riLh4o @jidountenlab #SAIC #EV #自動運転 #OTA
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 28, 2021
■NVIDIAの開発パートナー
開発パートナーは370超に
自動車関連におけるNVIDIAの開発パートナーは、2021年4月時点で370社を超えている。OEM(完成車メーカー)ではトヨタをはじめ独フォルクスワーゲンやアウディ、ダイムラー、スウェーデンのボルボ・カーズ、中国のChery(奇瑞汽車)など、ティア1サプライヤーでは独ボッシュやコンチネンタル、ZFなど、そうそうたるメンバーが名を連ねている。
自動運転開発では、ティアフォーやZoox、GM Cruise、Navya、WeRide、Pony.ai、AutoX、Aurora Innovation、Nuro、Tusimple、Yandex、Momenta、Optimus Ride、Deutsche Post、FiveAI、Oxbotica、Horizon Robotics、Plus.ai、AImotive、Torc Roboticsなど、有力スタートアップがひしめき合っている印象だ。
このほかにも、EVスタートアップのFaraday FutureやNIO、Canoo、Li Auto、XpengNIO、センサーやハードウェア関連では、ソニーやパナソニック、オムロン、Velodyne LiDAR、Cepton Technologies、Ouster、インフィニオン、オンセミコンダクター、マップ関連では、ゼンリンやHERE Technologies、TomTom、NavInfo、DeepMap、シミュレーション関連のCognataなど、幅広い業種が揃っている。
市場の変化とともに拡大する需要
NVIDIAの発表によると、次世代の自動車やトラック、ロボットカー、新エネルギー車両(NEV)の市場拡大を反映し、NVIDIA DRIVEソリューションの受注高は今後6年間で合計80億ドル(約8,600億円)を超える見込みという。
従来の自動車業界は、自動車関連の部品やソリューションを開発する企業の納品先は、おおむねOEMやティア1サプライヤーに限定されていた。自動車製造・販売における市場は確立・固定化されており、新規参入が容易ではなかったためだ。
しかし近年、自動運転やEV開発を手掛けるスタートアップの設立が相次ぎ、市場全体が大きく変わり始めている。開発の主導権はスタートアップに移りつつあり、OEMは自動運転車のプラットフォームとなる車両を提供する役割に移行しつつある。
生産分野ではOEMが圧倒的に強い立場にあるが、EV領域では米テスラに代表されるように自社生産能力を持つ企業が現れ始めている。また、台湾Foxconnの「MIH」のように、生産過程そのものにイノベーションを起こそうとする動きも出てきており、近い将来生産分野においても主導権争いが勃発する可能性がある。
いずれにしろ、こうした市場の変化はOEM以外の需要を大量に生み出すため、NVIDIAをはじめとした自動車業界新規参入組にプラスに働いているようだ。NVIDIAのソリューションは業界を席巻しつつある印象で、取引相手は今しばらく増加の一途をたどりそうだ。
主役は「Orin」、次世代「Atlan」も発表
現在自動車業界で採用が広がっているのが「NVIDIA DRIVE AGX Orin」だ。Orinと呼ばれる新しいシステムオンチップ(SoC)を搭載しており、1秒あたり254兆回の演算を可能にしている。これは、前世代のNVIDIA DRIVE AGX Xavier SoCの8倍近い性能にあたるという。
GTC2021では、自動運転車向けの次世代AIコンピューティング「NVIDIA DRIVEAtlan」も発表されている。1秒あたり1,000兆回の演算能力を持ち、信頼できるセキュリティ、高度なネットワーキング、ストレージサービス向けのNVIDIA BlueFieldデータ処理ユニット(DPU)を搭載した最初のSoCという。
ソフトウェア開発は順調に進んでおり、2023年にサンプリングし、2025年に提供予定としている。
【参考】NVIDIA DRIVE AGX Orinについては「世界で自動運転トラックの開発・実証加速!「黒子」はNVIDIA」も参照。
世界で自動運転トラックの開発・実証加速!「黒子」はNVIDIA https://t.co/CZXqauJaH1 @jidountenlab
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) April 7, 2021
■【まとめ】NVIDIAファミリーの躍進続く
半導体分野では2020年9月、ソフトバンクが傘下の英ArmをNVIDIAに400億ドル(約4兆3,000億円)で売却することに合意したと発表している。規制当局の承認が必要なため買収完了には時間を要するが、これはNVIDIAの開発力がさらに高まっていくことを意味する。
自動運転車の実用化も世界各地で加速の一途をたどっているが、多くの場合、その裏にはNVIDIAが存在している。「NVIDIAファミリー」の躍進はまだまだ続きそうだ。
【参考】関連記事としては「米半導体大手NVIDIA、中国NIOに自動運転向けプロセッサを提供」も参照。