【インタビュー】変動料金やAI需給予測…革新×伝統で変革期勝ち抜く 大和自動車交通・タクシー事業統括部の小山部長

みんなのタクシーにも参画



自動運転ラボのインタビューに応じる大和自動車交通タクシー事業統括部の小山部長=撮影:自動運転ラボ

自動運転技術を搭載した無人タクシーの開発が進み、ライドシェアなども世界的に普及する中、タクシー業界が永続的な存続・発展に向けた新たな取り組みに挑んでいる。

そんな中、東京唯一の上場企業である大和自動車交通株式会社(本社:東京都江東区/代表取締役社長:前島忻治)の取り組みに一際注目が集まっている。ダイナミックプライシング(変動料金)の実証実験なども進め、台湾の大手タクシー会社との二国間アプリ連携も実現しているからだ。


ソニーなどと共同で設立した「みんなのタクシー株式会社」での取り組みも興味深い。同社が積み重ねた膨大な過去の乗降データなどを活かし、AI(人工知能)を活用した高い精度の需給予測が実現しようとしている。

タクシー業界が変革期を迎える中、自動運転ラボは大和自動車交通のタクシー事業統括部の小山哲男部長(みんなのタクシー非常勤取締役)にインタビューし、最新の取り組みなどについて聞いた。

記事の目次

【小山哲男氏プロフィール】こやま・てつお 1959年生まれ、東京都出身。

■「リース業」では成し得ない日本のタクシーの利便性や安全性
Q 世界的にタクシー業界は変革期の真っ直中にあると言われています。そんな中、御社はどのようなスタンスで変革に取り組んでいるのですか? また、小山部長からみた日本のタクシー業界の強みは何ですか?

日本のタクシーは世界中から高い評価を得ています。海外のタクシーはリース業と似ていますが、日本のタクシーはしっかりとした雇用を確立した上で教育プログラムなども行い、厳しい規定に沿った取り組みも遂行し、安心や安全、快適性を実現しています。全ては利用者の利便性や安全性も確保するために必要不可欠なものです。


日本ではライドシェア・配車大手の中国DiDiや米ウーバーなどが既にタクシー配車アプリ事業に参入しており、日本のタクシー会社がこうした海外事業者にその存在を脅かされているという意見が多いかもしれませんが、我々の会社も創業70年を超える老舗タクシー会社として、良き伝統を残しつつも今後の時代を見据え、色々な対策を立てております。後述しますが、その一つがダイナミックプライシングであり、事前確定料金でもあり、AI需給予測システムでもあります。

■国土交通省も改革推進、変動料金の実証実験を既に実施済み
Q 宿泊業界などでも導入が進むダイナミックプライシングの導入に向けた取り組みも進めているのですね。既に実証実験なども行っているのですか?

国土交通省が発表している「タクシー改革プラン」に基づいた11項目の事業活性化案をご存じですか? この11項目のうちの1つである「ダイナミックプライシング」について、弊社は国交省などとともに実証実験を2018年10月1日から2カ月間実施しました。

【参考】「タクシー改革プラン」では、「初乗り距離短縮運賃」「相乗り運賃」「事前確定運賃」「ダイナミックプライシング」「定期運賃(乗り放題)タクシー」「相互レイティング」「ユニバーサルデザインタクシー(UDタクシー)の導入」「タクシー全面広告」「第2種免許緩和」「訪日外国人などの富裕層の需要に対応するためのサービス」「乗合タクシー」が掲げられている。詳しくは「日本のタクシー業界、改革へ11案策定 ダイナミックプライシングや相乗りサービス」も参照。

具体的には、タクシー車両の空車数に応じて「迎車料金」を変えるというものです。実証実験の結果は今後の制度設計の参考にされ、実際に導入させる日が近づいていると言えるでしょう。「事前確定料金」に関しても、来年中には方向性が決まると見据えております。

■膨大なデータを活かす…ソニーと仕掛けるAI需給予測
Q 御社は独自でアプリも展開しています。そんな中、みんなのタクシー社に株主として参画された経緯を教えてください。また、みんなのタクシー社の目玉の一つであるAI需給予測システムについても教えて下さい。

タクシー事業者は体制を維持しつつ、将来の業界繁栄のために、さまざまな模索をしています。弊社も例外ではありません。そんな中、日本を誇る技術を持つソニーさんからお話を頂きまして、お互いのこれまでの経験や事業内容を上手くマッチングさせ、Win-Winの関係性ができるよう、長きに渡り議論を交わしてきました。そしてやっと機が熟し、みんなのタクシー会社の設立に至ったわけです。

我々が現在までに積み上げてきた膨大な乗降データをソニーが作る高度なAI(人工知能)システムにのせることで、需給予測システムを賢くすることができます。巷で出回っている需給予測に関するデータは我々プロの目の意見があまり取り入れておらず、不完全な部分が多いと思っています。例えば、需要が多いとされるホットポイントの多くがタクシー乗り場であるなどし、基本的な部分から改善が必要だと思っています。

需給予測システムについては、みんなのタクシー社に参画しているほかのタクシー会社さんとも今後協議を重ねてもっと精度を高め、利用者にとっても、ドライバーにとっても使い勝手の良いものに仕上げます。具体的な内容はまだ言えませんが、来年のリリースに向けて仕込んでいる最中です。

■台湾のタクシーアプリと二国間連携、世界へ広げる提携網
Q 御社は今年(2018年)8月、台湾最大手のタクシー事業者「台湾大車隊」との業務提携を発表しています。両社のアプリを両社のユーザーがシームレスに使える仕組みの導入に向けた実証実験を進めているということですが、どのような経緯で提携をすることになったのですか?

台湾大車隊社は市場シェア20%に達する台湾最大手のタクシー会社であり、台湾のタクシー業界としては初の上場企業でもあります。アプリ配車サービスの積極的な推進で、現在のアプリのユーザーは700万人に達しています。

元々弊社と台湾大車隊社は同じタクシー事業者として交流があり、友好的な関係を築いておりました。その上で、我々が展開している「東京観光タクシー」や(東京都内と空港・東京ディズニーランド間を送迎する)「定額制タクシー」などと似たようなサービスを展開していたため、提携の話が持ち上がりました。

【参考】東京観光タクシーについては「案内ページ」、定額制タクシーについては「案内ページ」もそれぞれ参照。渋滞などでも料金が変わらないことが特徴の一つだ。

大和のスマホアプリはそのまま台湾でお使いいただけ、台湾大車隊のアプリ「55688」も同様に日本で使用することができます。アプリユーザーが自国、相手国とどちらでも即時配車並びに空港送迎予約をできるサービスは、タクシー業界でも前例を見ない画期的なサービスと言えます。

サービスの正式導入はこれからになりますが、実証実験の結果を踏まえて大切にサービスを展開していきたいと思っています。他の国への展開も検討しています。

【参考】関連記事としては「大和自動車交通、台湾のタクシー業者と提携」も参照。

■新たに挑戦続け続々と形に

ダイナミックプライシング、事前料金確定、AI需給予測…。タクシー業界の急先鋒として先進的な取り組みに挑む大和自動車交通の取り組みは、実証実験を経て今後続々と形になっていく。

その上で日本のタクシーの強みとも言える安全や安心、そしておもてなしの質の高さを引き続き武器にし、二国間アプリ連携なども進め、増え続ける訪日観光客の需要も取り込んでいく。

新たな挑戦を続ける大和自動車交通の今後が楽しみだ。


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