【インタビュー】東京で1万台を巻き込むタクシーAI革命が始動する みんなのタクシー・西浦賢治社長(ソニー)

需要予測や配車サービス、決済代行、広告事業


自動運転ラボのインタビューに応じるみんなのタクシー社の西浦賢治社長=撮影:自動運転ラボ

「移動」をめぐるサービスが世界的に多様化する中、日本の首都・東京でタクシー1万台を巻き込む巨大プロジェクトが、いよいよ始動のときを迎えている。

2018年5月に設立したみんなのタクシー株式会社がこのプロジェクトの担い手だ。AI(人工知能)を活用した需要予測や配車・決済代行サービスを展開するほか、後部座席の広告事業にも乗り出す。







実はこのみんなのタクシー社には、日本で既にタクシー配車事業を展開する米ライドシェア大手ウーバー・テクノロジーズやソフトバンクと協業する中国大手のDiDiとは決定的な違いがある。それはこうした新興企業ではなく、複数の老舗タクシー会社などが主体となって作るプラットフォームということだ。

ただ、タクシー会社だけでは外資系大手と太刀打ちできるサービスに昇華させるのに時間が掛かる。そこで登場したのが「ソニー」だ。同社が有するイメージングやセンシング、AI(人工知能)、IT、データ解析技術を導入し、タッグを組んでサービスの開発を進める。

自動運転ラボはみんなのタクシー社の西浦賢治社長(ソニー)に今後の展望を聞いた。

記事の目次

【代表取締役社長・西浦賢治氏プロフィール】にしうら・けんじ 1970年10月24日生まれ、和歌山県出身。慶應義塾大学総合政策学部卒。2002年2月にソニー株式会社入社。コーポレート戦略部ゼネラルマネジャー、経営企画管理部コーポレート戦略グループゼネラルマネジャーなどを歴任し、2018年5月から現職。(2018年9月からソニー株式会社AIロボティクスビジネスグループMT事業室統括部長を兼務)

■「東京で1万台」という強み…使いやすいUI設定も肝

みんなのタクシー社には、グリーンキャブ・国際自動車・寿交通・大和自動車交通・チェッカーキャブの5社が出資している。5社合計のタクシー所有台数は1万台を超える。需要予測事業ではこのスケールメリットを活かして精度も高めていく。

Q AI技術を活用した需要予測サービスの開発について教えて下さい。

タクシーの運転手さんのところにシステムとつながっている専用ダブレット端末があり、配車を受け付けたり、需要予測を確認したりできるようにする、という形を考えています。需要予測では、例えばお客様が多い場所を明確に運転手さんに表示する仕組みを考えています。

需要予測はタクシーの動態データや走行データをAIで読み込ませ、分析することで行います。そこで我々が東京で1万台以上のタクシーを抱えていることが強みになります。データが多ければ多いほど需要予測の精度は上がるからです。「面密度」という考え方です。

Q その需要予測システムをドライバーの方に活用して頂き、売上を伸ばしていくというスキームですか?

そういった形になります。

現在タクシー業界はなり手が足りておらず、若手の運転手さんを増やしていかなければなりません。ベテランの運転手さんの中には、長年培った独特の勘を頼りにお客様をうまく捕まえて売上を作っている方もおりますが、若手の運転手さん達はそのようなノウハウも無いですし、需要予測を活用して一定の成果を出せるようになってもらえればと思います。例えば「午後5時に品川周辺」という条件の場合にはこの辺にお客様がいそうですよ、と高い予測精度で伝えることができれば売り上げ向上に貢献できます。

ただ需要予測というシステムがあっても、若手の方やベテランの方を含めて、そのシステムを使う運転手さんと使わない運転手さんが出てきます。ベテランの運転手さんが使うことも想定しつつ、運転手さんにとってより使い勝手がいいUI(ユーザーインターフェース)を作ることが肝だと考えています。

現在、実証実験をタクシー事業者様と一緒に進めております。運転手さんからのフィードバックを1回1回頂きつつ、UIを日々ブラッシュアップ(磨き上げ)しています。2019年度の早い段階で需要予測サービスを開始して、タクシー事業者様と運転手さんに貢献していきたいと考えております。

Q 現在はどのようなデータを基にして需要予測を行っているのですか? 既に車載機器を積んでデータを集めているのですか?

現在、ご協力頂いているタクシー事業者様から走行データを頂いて、それをAIエンジンに読み込ませています。そうしたデータを基にした需要予測システムを実際に使った場合に昨年の今日と比べてどのくらい売上が上がったか、と比較しております。

ただタクシーの場合難しいのは、天候やイベントなどによっても(需要が)左右されますので、実際に数%くらい上がっているケースが多いです。需要予測を使っていないケースと使っているケースの差は明確に出ています。

撮影:自動運転ラボ
■当初は「2台持ち」パターンも視野…いずれ1本化へ

タクシー会社はそれぞれ独自の配車システムや通信規格を有している。そのシステムを新たなものに変えるということは一気呵成にやり遂げられるものではない。そんな中、どのようなみんなのタクシー社は導入スキームに柔軟性を持たせつつ、最終形をイメージして事業を進めていく。

Q 配車については各社がそれぞれのシステムを有しているという現状もありますが、みんなのタクシーで開発した配車サービスはどのように導入されていくのですか?

タクシー会社様各社の状況や方針、判断によって導入時期は異なることがあると思っております。無線機を含めIP通信化しているタクシー会社様と、デジタル通信のタクシー会社様もあります。従いまして我々の提供するシステムに1本化せず、既存の仕組みと併存出来る「2台持ち」というパターンも出てくると思います。

ただ2台持ちにすると、運転手さんに負担がかかります。両方から配車指示があった場合にどちらの配車指示を取るのか、というケースも出てきます。やはり最終的にはどこかで一本化するということを考えなくてはいけません。マイグレーション(移行)のロードマップを現在我々で作成しており、タクシー事業者様にご確認して頂いています。

Q みんなのタクシー社に決済事業を展開するソニーペイメントサービス株式会社も参加しています。今後展開する決済代行サービスの特徴について教えて下さい。

現在、タクシーの事業者様はそれぞれ個別にカード会社さんと契約されています。100台、1000台というような割と少ない台数規模の場合、加盟店手数料は一般的に高めの設定になります。

一方でみんなのタクシー社は1万台以上を保有しており、様々なタクシー事業者様の参画によってより台数が増えていくことも考えますと、みんなのタクシー社を介して決済の契約をして頂いた方が、合計台数の優位性によって結果的に加盟店手数料が削減できます。みんなのタクシー社にソニーペイメントサービスが株主として入っているのは、そういう意味合いですね。

■ダイナミックプライシングや事前料金確定にも将来対応

新たなシステムがタクシーに導入されると、さまざまな付加機能がそのプラットフォームに「後付け」可能になる。みんなのタクシー社は世界の登場・流行するさまざまな潮流を踏まえ、先進的な仕組みも将来的にシステムに搭載していく予定だ。

Q 配車や決済、需要予測などのほかにも、将来的にみんなのタクシーが開発するシステムに導入する機能はありますか?

我々のシステムでも、迎車料金に「ダイナミックプライシング」(事前需給状況に応じて価格変動させること)などの仕組みも将来的には搭載していかなければいけないと考えています。タクシーの運賃にもダイナミックプライシングの仕組みを導入するというのはすぐには難しいと感じており、まずは迎車料金からですね。我々の株主でいらっしゃる大和自動車交通株式会社と国際自動車株式会社が実証実験を10月から開始しました。

事前確定運賃などの仕組みも当然搭載していかなければいけないと思っています。今までは渋滞などの状況により、降りるときにならないと料金が確定しませんが、事前に料金が確定すると、エンドユーザーにとっては安心感があります。

ダイナミックプライシングについては「全国ハイヤー・タクシー連合会」がまとめたライドシェア対策11項目の中にも含まれています。事前料金確定も同様に含まれています。

Q みんなのタクシーが提供するプラットフォームは、対象範囲は東京だけではなく全国になるのですか?

その通りですが、最初に東京とその近郊をきちんとカバーしていきます。

「面密度」を低くしてしまうと、結局、エンドユーザーの方がアプリをダウンロードして、さあタクシー呼ぼうと思ったとき、「全然タクシーが表示されないじゃないか」ということになってしまいます。そして「このアプリは使えない」との印象を与えてしまうと、二度と使われなくなってしまいます。

やはり「すぐ呼びたいときに呼べる」ということがすごく重要だと思いますので、そういう意味では、まず首都圏をきちんと固めたいという風に考えております。

ただ、アプリを使って頂いている首都圏の人たちが、例えば出張などで大阪や名古屋などに行くことを想定しますと、そのような大都市もきちんと押さえていく必要があると当然思っています。

■タクシー事業者が「自分たちでプラットフォーム」を作る意義

冒頭でも説明したように、ウーバーやDiDiなどの外資系企業が日本でタクシー配車サービスを始めた。元々タクシー事業を純粋に展開していない企業がタクシー事業に乗り出した形だ。しかしみんなのタクシー社は違う。タクシー会社5社が出資比率55%とマジョリティを占め、タクシー会社主体のプロジェクトとなっている。

Q 東京のタクシー会社5社と協業するに至った経緯について教えて下さい。

タクシー事業者様からすると、自分たちでプラットフォームを作りたいわけです、外資系サービスのプラットフォームに一利用者として乗っかっていく形ですと、極端な言い方をするとタクシー事業者様にとっては死を意味しています。最終的に使えば使うほど外資系サービスのプラットフォームにお金が流れていき、プラットフォーム側のポジションニングがどんどん強くなっていきます。

そのような状況下において、我々が1年ぐらい前にタクシー事業者様とお話をさせて頂いている中で、ソニーが保有するAIやIT等の技術を使えば、一緒にプラットフォームを作れるのではないかという話が盛り上がりました。そして今年(2018年)2月にMoU(意向確認書)の締結を発表し、5月に準備会社を設立し、9月に事業会社に移行致しました。

■データという「宝の山」を活用し、事故率低下や社会インフラ化を目指す

事業における大きな柱はタクシー会社の収益化だ。一方で同時に注目したいのは、事業の理念の一つとして据えている中に、膨大なデータをAI分析することによる事故の未然防止などへの貢献があることだ。

Q いよいよ2018年9月に事業会社に移行しました。西浦社長の今後の意気込みについて教えて下さい。

まずは事業会社に移行できたので、2018年度中に配車サービスや決済サービス、後部座席広告事業をローンチさせるということがまず第一歩だと思っています。その上で、2019年度以降はそのサービスをブラッシュアップしたり改善したりするのは当然ですが、需要予測の提供も進めていきます。

それ以外のことも色々と考えているんです。例えば、ソニーはイメージセンサーの金額シェアが世界でナンバーワンです。画像をキャプチャリングして、分析することが非常に得意な企業です。

2019年度中に事業化出来るかは分からないですが、タクシーの運転手さんに対して安全運転支援を提供したいと考えています。

ドライブレコーダーのデータを頂戴して分析を行うと、事故率の高いドライバーの運転には傾向があることが分かります。その傾向をきちんと分析することによって、事故率を下げるようなサポートをすることなどができます。

■収益スキームの構築と利用者の利便性向上の両輪

タクシー会社は移動をめぐるサービスが多様化する中で、今まさに新たな挑戦の時を迎えている。そんな中、ソニーのノウハウを融合してタクシー事業者が主役の収益スキームを構築していくことになるが、これは例えばタクシーが拾いやすくなったり、より安心の料金体系が誕生したりするという意味でも、利用者の利便性が高まることにもつながる。事業会社に移行したみんなのタクシーの今後の事業展開に期待が高まる。







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