日本の警察は「自動運転」にどう向き合っている?

実証ガイドライン作成や道交法改正、国際議論への参画…





改正道路交通法の施行が間近に迫り、いよいよ自動運転レベル3が市民権を得ようとしている。自動運転時代の幕開けだ。







道交法を所管する警察庁(国家公安委員会)も、自動運転という新たな技術への対応が求められることになるが、同庁はこれまでどのようなスタンスで自動運転と向き合ってきたのか。また、今後どのように取り組んでいくのか。

今回は、道路交通の安全を裏表で支える警察庁の取り組みに迫ってみよう。

■警察庁のこれまでの取り組み(~2018年度)

自動運転技術に関して警察庁は、交通事故の削減や渋滞の緩和などに不可欠な技術と考え、道路環境に応じた自動運転が早期に実用化されるよう、その進展を支援する観点から各種取り組みを実施している。具体的には、内閣府が主導する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」に基づく形で自動運転システムの実用化に向けた研究開発を計画的に進めている。

主な成果としては、まず2016年5月に策定・公表した「自動走行システムに関する公道実証実験のためのガイドライン」が挙げられる。日本国内の公道において自動運転の実証を行ううえで留意すべき事項をまとめた内容となっており、特段の許可などを要せず実施することが可能な自動運転公道実証の対象を明確化した。

公道実証実験を行うための条件は、主に①車両が道路運送車両の保安基準を満たすこと②運転者となる者が実験車両の運転者席に乗車していること③道路交通法をはじめとする関係法令を遵守して走行すること――としており、安全に配慮しつつもハードルの低い指針を設定することで公道実証を行いやすい環境を整備したと言えるだろう。

2017年6月には、遠隔型自動運転システムも対象に含め、安全性を担保しながら円滑に実証できるよう「遠隔型自動運転システムの公道実証実験に係る道路使用許可の申請に対する取扱いの基準」を策定した。

許可に係る審査基準として、実験の趣旨や実施場所・日時、安全確保措置、遠隔型自動運転システムなどの構造、緊急時の措置、走行審査などが設けられている。走行審査では、警察官などが実験車両に乗車するなどした状態で、実施場所の区間の全部を交通事故を生じさせることなく走行可能であることを確認するなど、セーフティドライバーが同乗しないリスクを踏まえた基準としている。

また、2017年度には技術開発の方向性に即した自動運転の段階的実現に向けた調査研究を進めており、①運転者にどのようなセカンダリアクティビティ(運転以外の行為)が許容されるか②自動運転システムが規範を遵守するものであることをどのように担保するか③自動運転システムが規範を逸脱した際のペナルティの在り方④自動運転システムの走行中データの保存とその利用をどのように考えるか⑤他の交通主体との関係――といった論点をまとめた。これらは2018年4月に発表された「自動運転に係る制度整備大綱」に反映されている。

2018年度には、官民ITS構想・ロードマップや自動運転に係る制度整備大綱において2020年をめどに自動運転レベル3の市場化を目指す方針が掲げられていることから、道路交通法の在り方に関する検討ワーキンググループなどを立ち上げ、改正に向けた取りまとめを本格化させた。

【参考】関連記事としては「自動運転の公道実証実験における重要7条件まとめ」も参照。

■道路交通法の改正

平成から令和へと時代が移り変わった2019年5月、自動運転を盛り込んだ改正道路交通法案が衆院本会議で可決・成立した。自動運転レベル3の実用化を見越した改正で、国土交通省が所管する道路運送車両法の改正とともに自動運行装置=自動運転システムの存在を位置付ける内容となった。

道路運送車両法において保安基準対象装置に自動運行装置が追加・定義され、道路交通法もこれを準用する形でその利用に関する運転者の義務を盛り込んだほか、EDR(イベントデータレコーダー)などの作動状態記録装置に関する規定も明文化された。

具体的には、使用者は作動状態記録装置の記録を内閣府令で定めるところにより保存しなければならないことや、車両が整備不良に該当すると認められる場合、警察官は当該車両の運転者に対し作動状態記録装置により記録された記録の提示を求めることができることなどが定められたほか、自動運転による走行時は、システムからの要請に即座に対応できる状況であれば、携帯電話などの使用を禁じた第七十一条第五号の五の規定を適用しないことなども盛り込まれている。

なお、改正道路交通法は、改正道路運送車両法とともに2020年4月1日に施行される。

【参考】改正道路交通法については「ついに幕開け!自動運転、解禁日は「4月1日」」も参照。

■自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準の改訂

警察庁は2019年9月、「自動運転の公道実証実験に係る道路使用許可基準」の改訂版を発表した。遠隔型自動運転システムに加え、手動による運転時に通常のハンドル・ブレーキと異なる構造の特別な装置で操作する「特別装置自動車」についても道路使用許可の申請に対する取扱い基準を定めた。

遠隔型自動運転システムの公道実証実験においては、通信の応答に要する時間も十分考慮し、原則として当面は時速20キロメートルを超えない速度を最高速度として実施計画に盛り込むことや、1人の遠隔監視・操作者が複数台の実験車両を走行させる場合の審査の基準などが盛り込まれている。

■ITS無線路側機による信号情報の提供の高度化

SIP第2期において、路上に設置されたITS無線路側機による信号情報の提供や高速道路への合流支援などに必要な基盤技術について、東京臨海部の公道で国内外の自動車メーカーらによる実証実験が実施されており、警察庁も自動車メーカーらと自動運転の実現に必要となる信号情報の提供方法などについて検討を行い、要求を満たすITS無線路側機を東京臨海部に整備するなど実証実験に向けた準備を進めている。

■国際議論への参画

国際的な道路交通規則を定めたジュネーブ条約(ジュネーブ道路交通条約)とウィーン条約(ウィーン道路交通条約)も自動運転への対応が求められており、このうちウィーン条約は自動運転システムが国際基準に適合している場合などは許容する旨の改正案を2014年に採択している。

日本が批准するジュネーブ条約は改正が遅れており、現在国連の道路交通安全作業部会(WP1)で審議が進められている。こうした会合に警察庁も参画し、国際ルールの早期構築に向け提言しているようだ。

■自動運転レベル4導入に向けた検討

自動運転の実現に向けた調査検討委員会を2019年7月から開催しており、この中で自動運転レベル4の実用化を念頭に置いた交通関係法規上の課題について検討を進めている。

進捗状況は明らかにされていないが、2020年にはレベル4相当の技術による自動運転移動サービスなどの実用実証が本格化する見込みで、新たな法整備を含めより踏み込んだ取り組みが求められることになる。

■海外における動向は?

自動運転に関しては多くの国で公道実証実験を認める法改正や規制緩和が行われており、ドイツでは2017年にいち早くレベル3に対応した道路交通法改正案が可決されている。アメリカでは基本的に道交法に関しては各州が独自に規定することとなっているが、自動運転における基準のばらつきはリスクが大きいため、連邦政府が一定の指針を示すため法案作りを進めている。

他国も日本同様2020年をめどに段階的に自動運転を解禁していく向きが強く、国際法や国際基準制定の動向とともに注目が集まるところだ。

警察独自の取り組みとしては、ドバイ警察が2017年にシンガポールのOTSAW Digital社が開発した小型の無人自動運転車「O-R3」を自動運転パトカーとして導入することを発表したほか、2018年には現地の技術系イベントで自動運転による「動く無人交番」を発表するなど、導入に積極的だ。動く無人交番の開発には三笠製作所が携わっており、2019年から実用に向けた実証実験を行う予定としている。

また、オランダ警察も自動運転の遠隔操作技術を活用して犯人を確保する検討を進めるなど、導入に前向きに着手しているようだ。

民間では、自動運転パトカーの開発も進んでいる。米フォードは、自動運転車が周囲の道交法違反車両を検知し、該当車両に通信をつなげ身元を確認したり召喚令状を発したりする技術について特許申請を行っている。また、中国の愛上集団は、24時間パトロールが可能で顔認証やナンバー認証機能など警務に必要とされる各種技術を備えた「AIMO自動運転パトカー」を2019年に発表している。

警備ロボットの実用実証も進んでおり、自動運転パトカーや警備ロボットが警察業務の一翼を担う日の到来はそう遠くないのかもしれない。

■【まとめ】今後の焦点は自動運転システムの国際基準策定

自動運転レベル3の本格デビューまで秒読みの段階に達している感が強いが、警察庁をはじめとした各所管機関にとっては、局所的な導入が検討されているレベル4よりもハードルが高いのかもしれない。

当面のレベル4は走行エリアや運行者が限定されるため、一定の枠組みがあれば特別な許可などで都度対応することができるが、レベル3は不特定多数のドライバーと車両が対象となるため、厳格な統一基準・ルールを明示しなければならないのだ。

今後の焦点は、レベル3の自動運行装置の認可基準などだ。国土交通省は2019年6月、国連WP29(自動車基準調和世界フォーラム)において、自動運転車の国際的なガイドラインや基準策定スケジュールなどを盛り込んだ自動運転のフレームワークドキュメントが合意されたことを発表し、2020年3月までに高速道路におけるレベル3の基準案を作成することとしている。

こうした基準がなければ、不完全な自動運転システムを搭載した自称レベル3車両が市場に出回る恐れがあるためだ。この国際基準が策定されてはじめてレベル3が本格解禁される運びとなる。

警察庁としては今後、公道を走行するレベル3車両が、故障や違法改造などの要因によって基準を満たしているかどうかを正確に見抜くスキルや厳密な行政手続き方法などがまず求められることになるだろう。

民間レベルの開発と、実用化に向けた各公的機関の取り組みなくして自動運転の実現はなしえないのだ。道交法の改正で一息つきたいところかもしれないが、引き続き警察庁の積極的な取り組みに期待したい。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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