ラストワンマイルとヤマト運輸、向かう方向性は? 新たな物流の仕組み導入?

自動運転技術の実証などの取り組み進む



出典:DeNAプレスリリース

ラストワンマイル問題に直面する物流業界。改革待ったなしの状況下、国内宅配大手のヤマト運輸(本社:東京都中央区/社長:長尾裕)はこの問題にどのように立ち向かっているのか。

ヤマト運輸の取り組みを例に、ラストワンマイル問題の解決策を導いてみよう。


■ラストワンマイルとは?

「ラストワンマイル」というワードは、モビリティ業界では主に「物流」と「ヒトの移動」における課題に対して用いられている。物流におけるラストワンマイルは、各地方にある物流センターなどの最終的な配送拠点から、各家庭や専用ロッカー・宅配ボックスなど消費者に商品を受け渡すまでの区間を指す。また、ヒトの移動においては、駅などの交通拠点から自宅までの区間における移動手段を指す。

物流においては、EC通販の取扱量増加による輸送の小口多頻度化と労働力不足を背景に、ラストワンマイルをどのように埋めるかが課題となっている。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル系の物流ソリューション・サービスまとめ」も参照。

■ヤマトの取り組み①中期経営計画:ラストワンマイル対策盛り込む

同社は、2017年9月に発表した中期経営計画(2017~2019)において、ラストワンマイルの対策を大きく盛り込んでいる。

計画によると、消費行動の多様化によりECが生活及び企業間取引に拡大する中、持続可能な配送モデルの確立と、従来の宅急便を超えた「生活における付加価値、事業のサプライチェーンにおける付加価値」の創出を課題に挙げている。対策としては、中期的に宅急便の収益性や体質改善を図るとともに、伸張するECに対応する輸送力の拡大とサプライチェーン全体への付加価値の提供に取り組むこととするほか、長期的には、地域の生活者・中小企業を支援する新たな事業の創出や、国内外の法人向け事業の拡大に取り組むこととしている。


また、2025年のあるべき姿として、輸送を起点に、地域社会や国内外の企業との接点とそこで得られる情報を強みとし、オープンなプラットフォームを構築することで、新たな価値を創出することを掲げている。

これに向けた取り組みの一つが「デリバリー事業の構造改革」で、持続的な成長を可能にする事業構造の再構築に向け、伸張を続けるECに対応した「複合型ラストワンマイルネットワーク」の整備、オープン型宅配便ロッカー「PUDO(プドー)」などのタッチポイント拡充 、幹線ネットワークを含むネットワーク全体の効率化を施策として挙げている。

■ヤマトの取り組み②複合型ラストワンマイルネットワーク:輸送力を強化

従来のセールスドライバーやフィールドキャストといった「多機能型ドライバーネットワーク」に加え、投函商品や特にニーズが高い夜間の配達を専門に行う「配達特化型ドライバーネットワーク」、また大口顧客の商材や大型の荷物を専門に扱う「域内ネットワーク」など、パートナーを含めた分業型・複合型ネットワークの整備を進め、伸張が続くECをはじめとした荷物の増量に対応していくこととしている。

■ヤマトの取り組み③タッチポイントの拡充:再配達の減少含めラストワンマイルを効率化
出典:ヤマト運輸プレスリリース

オープン型宅配便ロッカー「PUDO」、コンビニエンスストアなど、受け取りのタッチポイントを拡充し、同時にクロネコメンバーズの機能拡充を進め、顧客との双方向コミュニケーションを強化することで、自宅外での受け取り比率10%を目指すこととしている。

荷物を受け渡しができる宅配ロッカー「PUDOステーション」は、仏ネオポストシッピング社とヤマト運輸が2016年に共同出資して設立した「Packcity Japan(パックシティジャパン)」が運営しており、全国3000カ所以上に設置されている。

ヤマト運輸のほか、佐川急便、DHLジャパン、順豊エクスプレスの荷物を受け取ることが可能で、日本郵便も参加を検討しているという。

利用方法は、各宅配会社のロッカー受取サービスを利用し、受信したパスワードをロッカーに設置された端末に入力して受け取りのサインを指で記入するだけ。ヤマト運輸と提携している会社の荷物の発送にも対応している。

こうした拠点の設置・利用により、再配達を含めたラストワンマイルにかかる労力を大幅に削減することができるほか、利用者も都合の良い場所・時間で荷物を受け取ることができる。

■ヤマトの取り組み④ロボネコヤマト:無人配送サービス実現に向け自動運転実証

自動運転を活用した次世代物流サービスの開発を目指すプロジェクト「ロボネコヤマト」を株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)と2016年に着手。2017年4月から1年間に渡り、神奈川県藤沢市で実証実験を行った。

車内に保管ボックスを設置した専用EV(電気自動車)を使用し、利用者が荷物を望む時間帯に望む場所で受取ることができるオンデマンド配送サービス「ロボネコデリバリー」と、地元商店の商品をインターネット上で一括購入し、運んでもらうことができる買物代行サービス「ロボネコストア」の2つのサービスを実施した。

原則としてドライバーによる有人運転としたが、ドライバーは荷物の発送・受取りに関与せず利用者自身が荷物を車両から取り出す方式で、疑似的に無人サービスの実証を行い、受容性などを検証した。2018年4月には、アイサンテクノロジー株式会社の協力のもとドライバー不在の公道走行実験も行った。

■ヤマトの取り組み⑤空の輸送:新たな配送システム構築、ベルヘリコプターと提携

将来の新たな空の輸送モードの構築に向け、2018年10月に米テキストロン傘下のベルヘリコプターと協力していくことを発表した。人が乗るスペースを有さない無人の自動運転型輸送機を活用する計画とみられ、交通渋滞や人手不足に悩まされない新たな配送システムの構築を目指す。

輸送機には荷物を載せることができる「ポッド」をつけ、そこに荷物を入れることができるようにする。小型機と大型機を開発し、それぞれ7キロ、453キロの積載量を備えるという。2019年8月までに機体の試験デモを実施し、2020年代半ばまでに実用化を目指すようだ。

■ヤマトの取り組み⑥小型商用EVトラック導入へ、EVベンチャーと共同開発

ドイツポストDHLグループ傘下のストリートスクーターと、日本初となる宅配に特化した小型商用EVトラックを共同開発することを2019年3月に発表した。2019年度中に500台を導入し、秋から東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県で順次稼働を開始する予定。

小型で扱いやすいEVトラックを導入することで、中型免許を持たない人や車両を使った業務に慣れていない人でも安心して働ける環境をつくり、働き方改革の推進と集配キャパシティの向上に向けた体制構築をさらに加速する構え。宅急便のラストワンマイルネットワークを持続可能なものに再構築していく方針だ。

■【まとめ】変わる物流業界、ラストワンマイル問題解決に向け異業種連携進む

ヤマトは、ラストワンマイルを担うドライバーの働き方や役割、仕組みの改善をはじめ、自動運転をはじめとした次世代技術の導入、宅配便ロッカーなどをソリューションとして、物流における環境変化に対応していく方針だ。

このほか、宅急便ネットワークと17万人の社員、4万5000台に及ぶトラック、全国4000カ所の営業拠点、IT、FTシステムなど、こういった有形無形の資産を今後プラットフォーム化し、物流版クラウドサービスとして利用できる体制を整えることとしている。

ICT社会全盛の今、自動車業界と同様物流業界も大きく変わろうとしている。ロボネコヤマトの取り組みや空の輸送などのように、今後自動車業界やIT業界などとの協業も増えていきそうだ。

【参考】関連記事としては「ラストワンマイル向けの物流・配送ロボット10選」も参照。


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