【資料解説】「日本航空×空飛ぶクルマ」、想定シナリオが判明

「モノから人へ」「地方から都市へ」





空の移動革命に向けた官民協議会が2020年3月に開かれ、協議会を構成する民間各社がビジネスモデルに関するプレゼンテーションを行った。

この中で、日本航空(JAL)は空港を拠点とした事業構想を発表し、事業化のシナリオやビジネスモデルの構築を前提とした課題などを提示した。







JALが描く空飛ぶクルマの戦略はどのようなものか。プレゼン資料の中身を紐解いていこう。

▼資料URL
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/005_01_07.pdf

■事業化のシナリオ
モノから人へ、地方から都市部へ

JALは空飛ぶクルマの事業化に向け、モノを配送するドローン物流から人を運ぶ空飛ぶクルマへ、また地方都市から大都市圏へとサービスの実装が展開されるシナリオを描いている。

第1段階では、貨物用の小型ドローンを活用し、無人地帯でポート間の既定路線における輸送から着手する。技術の高まりとともに有人地帯にエリアを拡大するとともに、ポートから目的地へのラストワンマイル輸送も視野に入れている。

第2段階では、貨物用の中型・大型ドローンを導入し、第一段階と同様無人地帯から活用を開始する。安全性が確保されれば、有人地帯に拡大するとともに、輸送対象を貨物から人へ変えていく検討を進める。

第3段階では、乗車用の大型ドローンを導入し、パイロット同乗のもとポート間の既定路線における人の輸送に着手する。オンデマンド型も導入し、ユーザーエクスペリエンス(UX)の進化も図っていく。

第4段階では、遠隔操縦の大型ドローンを導入し、一気に有人地帯へのサービス拡大を図っていく。

無人地帯における小型のモノの輸送から開始し、安全性を確保しながら技術の向上と経験を積み重ね、次第に大型化するとともに有人地帯での飛行を可能にしていくシナリオだ。

出典:経済産業省公開資料
■ユースケース
事業拡大ステップを2フェーズに分類

空飛ぶクルマ事業の拡大ステップは、大きく分けて①導入期「地方都市交通インフラ(社会課題解決)」②拡大成長期「大都市空港離発着の2次交通インフラ(収益最大化)」――の2つのフェーズに分類されると想定している。

サービス提供相手や内容について、導入期は過疎地における移動手段や災害救援をはじめ、地方都市から地方空港への移動、地方都市内における移動など、社会課題を解決する交通インフラとして役立て、社会受容性を高めていく。

その後、拡大成長期において、遊覧飛行や観光地の移動、首都圏における都市間移動、近郊都市から首都圏への移動、首都圏空港アクセスなど、収益性を見越しながら事業化を進めていく。

出典:経済産業省公開資料
■サービス提供場所イメージ
空港拠点に航路ネットワークを整備

まずは地方都市をターゲットにサービスインし、段階的な航行距離の拡大によって社会受容性の向上を図っていき、大都市圏でのサービスインへとつなげていくこととしている。

イメージとしては、20キロ圏内を近距離、50~150キロ圏内を中距離、300キロ圏内を長距離とし、まずは地方都市の近距離において定期便やオンデマンド便を実施し、大都市圏における近距離や地方都市圏における中距離移動などに段階的にサービスを拡大していく。

出典:経済産業省公開資料

航路設計としては、空港を中心とした「羽田ネットワーク」と「成田ネットワーク」を考えているようだ。

羽田ネットワークでは、同空港を起点に10セグメント程度の拠点ケースを設定し、航路ごとにインバウンドや出張、観光といったターゲットを想定している。

同空港から20キロ圏内のセグメントには、都内ホテルやJR山手線内の駅、オフィスビル、アミューズメント施設、千葉県各都市などを想定。また、50キロ圏内では首都近郊駅、埼玉各都市、100キロ圏内では成田空港や関東近郊の観光地、150キロ圏内では北関東の各都市や観光地をそれぞれ航路とし、近距離高頻度ゾーンは基本的に定期便を想定し、中長距離低頻度ゾーンはオペレーションの進化を踏まえオンデマンドを想定している。

一方、成田ネットワークも羽田同様10セグメント程度の拠点ケースを設定するが、首都圏からの距離が100キロ弱となり、北関東各都市からの距離が120キロ前後となるため、機体航続距離の性能向上がネットワーク形成の必須要件としている。

■ビジネスモデルを踏まえた課題
制度面では、免許や認証制度、飛行実証地の拡大が重要

空港を起点とした二次交通のビジネスモデルを踏まえた課題として、制度面では下記の5点を挙げている。

①各種免許/認証体系の整備
②飛行に係る気象条件の基準整備
③空域に係る基準整備
④離発着場の基準整備
⑤実証環境

①では、操縦士や機体、運航事業者の免許や認証体系に係るアプローチを、既存の枠組み拡張するのか、新規の枠組みを検討していくのかなど明確化する必要があるとしている。

②では、機体スペックや航路・ポートに応じた気象条件の基準整備、③では、空域(特に空港周辺空域)における基準整備がそれぞれ必要とし、④では、既存のエアモビリティとの棲み分けを含めどのような場所での離発着を許容するかを課題に挙げている。

⑤では、福島ロボットテストフィールドのような飛行実証が可能な場所の拡大と、全国各所における実証を実現するための統合UTM(統合脅威管理)や情報提供機能の展開が必要としている。

社会受容性として、新たな騒音基準の導入にも言及

社会受容性の観点からは、下記の3点を挙げている。

①墜落や落下物などを含む安全性の担保
②地元・地域住民の理解醸成
③騒音基準整備

①では、社会に受け入れられるために必要な安全性基準や体制、仕組みの整備が必要とし、②では、航路設定に係る地元や地域住民からの理解を醸成するための各種取組みの実施、③では、既存の航空機の騒音基準の適用となるか、あるいは新たな基準整備を要すべきか、検討が必要としている。

技術面では、バッテリー性能の向上や運航管理体制の整備が必須に

技術面では、下記の3点を挙げている。

①墜落や落下物などを含む安全性の担保
②地元・地域住民の理解醸成
③騒音基準整備

①では、距離や速度、高度といった飛行性能とエネルギー効率の向上が必要とし、特にバッテリー性能の向上が課題としている。

②では、自機や他機の位置をリアルタイムで把握する仕組みや設備の実装をはじめ、気象情報をリアルタイムで把握する仕組み、衝突回避を機体間で自律的にできる仕組み、遠隔での乗っ取りを回避するサイバーセキュリティ対策、自律飛行を前提とした運航管理体制の整備を課題に挙げている。

③では、空域競合の解消を促すためのプロセスを整備すべきとしている。

ビジネス面では、MaaSを視野に

ビジネス面では、下記の2点を挙げている。

①インフラ
②MaaSの整備

①では、離発着地を増やすためメッシュ型インフラの投資や整備をはじめ、既設空港における「空飛ぶクルマ」への導線整備が必要とし、導線やオペレーションをどのように設計し、それに合わせた空港インフラの拡張をいかに行っていくかが重要としている。

②では、他の交通機関との接続性を向上させるための導線整備や、運賃精算方式の統一など支払いのワンストップ化を実現するためのルールや仕組みの整備が必要としている。

■JALのエアモビリティ関連の取り組み

同協議会におけるJALの発表は、2018年10月に開催された第2回以来だ。この時は「空の移動革命実現に向けて~航空業界における安全への取り組み」と題し、航空業界の安全を守る仕組みや航空会社の取り組みなどを発表しており、同社としてエアモビリティ事業におけるビジョンを公表したのは、今回が初めてとなる。

2020年に入ってから同領域における取り組みを加速している印象が強く、2020年1月には次世代モビリティに関する専門組織として「イノベーション推進本部 事業創造戦略部 モビリティグループ」を新設している。

テラドローンと養父市で物流実証実験に着手

JALは2020年1月、テラドローン社とともにドローンを活用して地域課題解決を目指す連携協定を兵庫県養父市と締結したことを発表した。

テラドローンとは2019年夏からテラドローン開発のドローン運航管理システム「Terra UTM」を活用し、滑走路を必要とせず少ないエネルギーで長距離飛行が可能な小型固定翼ドローンを用いた物流の実証実験の準備を進めてきた。

今回の協定では、養父市の協力のもと、医薬品や緊急物資の輸送などドローンを活用した物流サービスの提供による地域課題解決を目指し、ドローンを活用した中山間地域での新しい物流サービスの実証や検証、及び山間地域でのエアモビリティ活用の共同検討を進めていくこととしている。

実験時期は2020年春で、公立八鹿病院敷地から八木川の上空を通り、国民健康保険出合診療所付近までの約25キロの経路を飛行する予定としている。

【参考】養父市での取り組みについては「見た目は風の谷のメーヴェ!JAL、兵庫県養父市でドローン輸送実証」も参照。

eVTOL開発の米Bellと提携

2020年2月には、住友商事とともにエアモビリティ分野に関する業務提携を米Bell Textronと締結したことを発表した。エアモビリティ分野における新規事業創出のほか、次世代インフラ事業の開発などを目的として、日本およびアジアにおける市場調査や事業参画などの共同研究を推進していく。

具体的には、①eVTOL(電動垂直離着陸機)を用いた移動サービスなどを実現するための日本およびアジアにおける市場調査②eVTOLを用いた移動サービスなどを実現するためのインフラ構築に関する検討③eVTOLの運航に対する社会全体の理解促進や、安全確保および騒音への対策など、「空飛ぶクルマ」 の普及にとって解決すべき課題への取り組み④事業化の推進に向けた賛同企業の参加・協力の依頼――を進めていく方針だ。

【参考】Bellとの提携については「JALと住友商事、「空飛ぶクルマ」サービス提供へ米Bellと提携」も参照。

Volocopterなどスタートアップ3社に出資

JALは2020年2月、スタートアップ企業への投資を行うCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタルファンド)「Japan Airlines Innovation Fund」を通じて、次世代モビリティに関連する企業3社に出資したことを発表した。

出資先は、eVTOL開発を手掛ける独Volocopterと、配車管理を最適化するプラットフォーム開発を手掛けるスイスのBestmile、倉庫や工場など大規模施設内における物資の自動運搬ロボットや管理プラットフォームの開発を手掛ける米Fetch Roboticsの3社。

Volocopterは2019年10月にシンガポールで有人飛行実証実験を成功しており、エアモビリティ領域において今後の飛躍が期待される一社だ。

【参考】スタートアップへの出資については「JALのCVC、自動運転や空飛ぶクルマなど開発の海外3社に出資」も参照。

国内発の無人ヘリコプターによる空港間目視外輸送を実施

2020年2月には、長崎県の自治体などの協力のもと、県内の離島空港間において無人ヘリコプターによる貨物輸送実験を実施したことも発表している。無人ヘリコプターによる空港間目視外飛行の貨物輸送は国内初となる取り組みだ。

飛行実験は2日間行っており、2月18日には保冷容器に医薬品を想定した模擬貨物を入れ、冷温を保ったまま上五島空港と小値賀空港間、往復約46キロを無人ヘリコプターで輸送した。

翌19日には、上五島産の朝獲れ鮮魚を上五島空港から九州本島の西海市崎戸までの約35キロ区間を無人ヘリコプターで運び、長崎空港まで陸送した。

使用した機体はヤマハ発動機製の産業用無人ヘリコプター「FAZER R G2」で、海上飛行はヤマハ発動機の都田事業所(静岡県)から衛星通信経由で遠隔操作し、離着陸は現地で操作を行ったという。

【参考】長崎県での取り組みについては「JAL、無人ヘリの目視外飛行で貨物輸送!将来は自動運転化!?」も参照。

■【まとめ】航空会社×スタートアップで次世代エアモビリティの実用化が加速する

戦後、日本の航空業界を支えてきた同社は、空の移動に係るノウハウを熟知している。ここに、新たなエアモビリティ技術を武器とするスタートアップらが加わることで、空飛ぶクルマをはじめとした次世代エアモビリティの実用化が一気に現実味を帯びてくることになった。

空の移動革命に向けた官民協議会が2018年に公表した「空の移動革命に向けたロードマップ」では、2023年を事業化の目標に据えている。それまでに、各種実証実験を重ねるとともに制度や体制の整備などを進めていく方針だ。

今回の協議会は2018年12月以来5回目の開催で、1年余りの空白が気になるところだが、この間各社の事業構想が具体化し、実証環境を整えていく段階に入った印象を受ける。

次世代エアモビリティの実用化に向け、今後ますます研究開発が加速していくことが予想される。2020年も、各社の取り組みと官庁の動きから目が離せない一年になりそうだ。

▼資料URL
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/air_mobility/pdf/005_01_07.pdf

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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