トヨタが自動運転EV(電気自動車)のコンセプトモデルとして開発している「e-Palette(イーパレット)」に、少なくとも「アピール用モデル」と「量産用廉価モデル」とも呼べそうな2つのモデルが存在していることが、自動運転ラボの取材で明らかになった。
発表当初は大まかなコンセプトのみで細かい情報などは公開されていなかったが、来年の東京オリンピックでの投入を前にその全容が徐々に明らかになり始めているe-Palette。今回は自動運転ラボが独自に入手した情報を基に、e-Paletteの開発方針に迫る。
記事の目次
■「モビリティサービス企業への変革」を体現するモデル
e-Paletteの存在が世間に知られるようになったのは2018年1月からだ。トヨタは「『自動車をつくる会社』から『モビリティカンパニー』へのモデルチェンジ」を体現するためのコンセプトモデルとしてe-Paletteを発表した。「電動化」「コネクテッド」「自動運転」という次世代技術をふんだんに搭載し、MaaS時代のモビリティサービスに対応することを目的としたモデルだ。
e-Paletteは乗り降りしやすい低床構造や運転席が無い広い車内空間など、従来のクルマとはかけ離れたデザインで知られ、運転に人の関与が全く必要無くなる「自動運転レベル4(高度運転自動化)」の技術も搭載している。人を運ぶ自動運転バスとしての用途はもちろん、「無人移動ホテル」や「無人移動スーパー」などさまざまなサービスに対応可能な拡張性を持っている。
自動運転システムが他社製のプログラムにも対応していることも大きな特徴だ。車載制御のインターフェースに関する情報をオープンにすることで、さまざまな企業の自動運転システムをe-Paletteに搭載することができる。言わばオープンソースのハードだ。
東京五輪の選手村では、このe-Paletteが20台近く導入され、選手の移動手段として自動運転で走行する。この規模の自動運転バスが特定のエリアに配備され、24時間体制で定期運行されるのは世界にも類をみない。自動車業界における「世界のトヨタ」が、自動運転業界においても「世界のトヨタ」であり続けるために、その技術力の高さを国内外に強烈にアピールする機会となる。
【参考】関連記事としては「【最新版】トヨタのe-Palette(イーパレット)とは? MaaS向けの多目的EV自動運転車」も参照。
トヨタの命運握る「e-Palette」完全解説 MaaS向け自動運転車であり多目的電気自動車(EV)でもある https://t.co/42PVDQKslu @jidountenlab #トヨタ #ePalette #解説
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) February 7, 2019
■2つのe-Palette、「アピール用モデル」と「量産用廉価モデル」
自動運転ラボが独自取材で得た情報によると、e-Paletteには少なくとも2種類の派生モデルが既に用意されている。
そのモデルに仮に名称をつけるのであれば、「アピール用モデル」と「量産用廉価モデル」といったところだ。2019年10月に発表された東京五輪仕様のe-Paletteは、内外装に力を入れた「アピール用モデル」だ。その一方で、量産を見据えて製造コストを抑えるのが「量産用廉価モデル」だ。
自動運転ラボの取材によれば、e-Paletteは発表直後から既に世界各国から問い合わせが殺到している。トヨタはまず東京五輪で「アピール用モデル」を投入して世界からの注目をさらに高めたい考えだとみられる。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4のトヨタ「e-Palette」、五輪仕様車の詳細は?」も参照。
■世界一の導入実績がある「Autoware」を採用
ちなみにe-Paletteの自動運転システムについては、大方の予想としてはトヨタが自社開発するものだと思われていた。トヨタが国内外に開発拠点を立ち上げているその動きから、システムを内製化しようとしていると考えられていたわけだ。
しかしe-Paletteの自動運転システムにはそういった予想に反し、名古屋大学発のスタートアップであるティアフォー社が開発をリードする自動運転OS(基本ソフト)「Autoware(オートウェア)」が採用された。自動運転ラボはこのことにも注目している。
Autowareは世界で最も使用されているオープンソースの自動運転OSだ。ティアフォーは事業開発段階に相当する「シリーズA」で120億円以上を資金調達しており、Autowareのさらなる機能強化に向けた人材採用にも余念がない。
既に実証実験も国内外10カ国で60カ所以上、Autoware導入企業数は200社以上にのぼる。走行距離については公開を控えているが、関係者によれば実車両テストとシミュレーションを合わせれば世界屈指といえそうだ。こうした実績がAutowareの採用に結びついたとみられる。
【参考】関連記事としては「ティアフォーの自動運転戦略まとめ Autowareとは?」も参照。
日の丸自動運転OSを世界の標準に!ティアフォーを徹底解剖 名古屋大学発のスタートアップ https://t.co/MQvUeHfUck @jidountenlab #自動運転 #ティアフォー #スタートアップ
— 自動運転ラボ (@jidountenlab) January 22, 2019
■Autoware採用は「水平分業型」への変化の象徴
東京大学准教授でティアフォーの創業者でもある加藤真平CTO(最高技術責任者)は以前の自動運転ラボの取材で、「自動運転時代の到来はある変化を業界にもたらす」と語っていた。それは、下請けを含む関連企業のみですべてを開発する従来型の「垂直統合型ピラミッド構造」から「水平分業型アライアンス構造」へと業界の構造が変化していくというものだ。
トヨタがe-Paletteに自社開発の自動運転システムを搭載せず、しかもグループ会社ではないティアフォーのオープンソースOSを採用したのは、まさにこの「水平分業型アライアンス構造」への変化を象徴するものと言える。
ティアフォーはOS開発だけではなく、自動運転技術を活用したサービス自体を運営するノウハウも積み重ねている。今後、水平分業型への変化がさらに加速すれば、大手メーカーがティアフォーのこうしたノウハウに目をつけることは十分に考えられ、同社の業界内での存在感がさらに高まる可能性がある。
【参考】関連記事としては「オープンソース「歴史上必ず勝る」…自動運転OSの第一人者・ティアフォー加藤真平氏」も参照。
■【まとめ】オープンソースのハードとソフトが揃い、敷居は一気に低くなる
e-Paletteは言わばオープンソースの「ハード」、Autowareはオープンソースの「ソフト」として開発されている。この両方が広く提供されることで、自動運転システムも車両も持たない企業でも自動運転技術を活用したビジネスに参入しやすくなる。このことでモビリティ業界への敷居は一気に低くなるはずだ。
そしていよいよ来年に迫った東京五輪。e-PaletteとAutowareの組み合わせはどれだけ世界に新鮮な驚きを与えられるかに要注目だ。その如何によってe-PaletteとAutowareの存在感は飛躍的に高まりそうだ。
【参考】関連記事としては「トヨタ×自動運転、ゼロから分かる4万字解説」も参照。