コネクテッドカー買い換えで起きる「データ引き継ぎ」問題を考える

カギは互換性、将来は統合の流れ?



多くの利便性を提供するコネクテッドカー。本格的なサービスがスタートし、自動車メーカー各社の足並みもそろいつつある。


今後、車両状態を手軽に確認・通知するカーライフサポート分野や緊急通報などのエージェント分野、安全性を強化するセーフティ分野、ドライブをより楽しいものにするインフォテインメント分野など各分野におけるサービスが充実・多様化していくものと思われる。

このサービスの多様化の裏側で懸念されるのが、各種データの引継ぎだ。マイカーを乗り換える際に要する作業が煩雑になる可能性がある。

そこで今回は、コネクテッドカーが有する情報の種別や、乗り換え作業が難易度を増す理由について推測を交えながら掘り下げ、コネクテッドカーの動向に迫ってみる。

■コネクテッドカーは膨大な情報を蓄積する

コネクテッドカーはさまざまな情報を蓄積する。分野別にみていくと、カーライフサポート分野においては、クルマの状態が逐一データ化され、収集・解析される。現在のコネクテッドサービスでは基本的に現在のクルマの状況を判断し、異常を通知するサービスが大半と思われるが、将来的にはメンテナンス情報を含め新車時からの情報がすべて蓄積される可能性も考えられる。


いわばクルマの情報が電子カルテとなり、メンテナンス情報が新車から廃車に至るまで引き継がれていくのだ。こういった情報は車検の際に有効活用されそうだが、オーナーが引き継ぐべき情報ではなく、クルマが引き継ぐべき情報のため特に気に留める必要はなさそうだ。

ただ、メンテナンス情報とともに蓄積可能なものに、オーナーの走行記録や運転時の制御情報などが挙げられる。オーナーの行動範囲をはじめ、走行速度やブレーキのかけ方、ハンドリングなど、さまざまな情報が蓄積される可能性はある。テレマティクス保険への活用などが考えられ、オーナー自身が引き継ぐ情報と言えるだろう。

セーフティ分野やエージェント分野のデータは?

セーフティ分野では、車車間通信(V2V)や路車間通信(V2I)をはじめとした各種通信のほか、カメラなどの車載センサーの情報をクラウドが収集・解析し、ビッグデータ化してダイナミックマップに活用する技術開発が進められている。この手の情報はオーナーが引き継ぐ必要はなさそうだ。

エージェント分野では、事故や故障の際のロードサービス的な情報が蓄積されることになる。任意保険と連動する可能性もあり、オーナーが引き継ぐべき情報が一部含まれる可能性がありそうだ。


そしてインフォテインメント分野は、最も個人情報が含まれる分野だ。カーナビと連動し、個人の趣向を反映したナビ情報や、各種アプリを活用したエンターテインメント情報などをはじめ、将来的にはVR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術を用いたさまざまなサービス展開なども予想される。有料コンテンツも大幅に増加し、課金に伴う決済情報などもデータとして残る可能性があるだろう。

【参考】関連記事としては「自動運転とデータ通信…V2IやV2V、5Gなどの基礎解説」も参照。

■パソコンやスマホのデータ移行より高難易度の可能性

乗り換えの際、各種登録情報をはじめ走行情報やストレージ情報、アプリ情報など、クルマに残すべき情報と移行すべき情報、消去すべき情報がいろいろと存在することになる。では、このデータ処理を誰が行うのか。

乗り換えの際に利用したディーラーや販売店が大部分を担うものと思われるが、インフォテインメント分野においては、車両そのものと独立した契約のもと、各種サービスを受けることも可能であるため、この部分についてはオーナー自身がデータ引継ぎなどの作業を行う必要が出てくる。

このとき、現行車両と新たに乗り換える車両に互換性がなかった場合、どうなるか。引き継ぐことが可能な情報と引き継げない情報を精査し、引き継げない情報をなんとか引き継げる形にできないか……と苦心する場面も想像できる。

これは、パソコンやスマートフォンを買い替える場合と類似している。通常は店員やデータ移行ソフト、外付けハードディスク、クラウドなどを活用し、各種ファイルやブックマーク、アプリ、ブラウザに記憶したパスワードなどスムーズに移行する。

ただ、OSのバージョンや種類が変わると、急激に難易度を増す場合もある。一部のアプリだけデータの引継ぎがうまくいかず、データ移行方法を検索したことはないだろうか?普段、パソコンやスマートフォンの操作に特に支障をきたさないユーザー層でも、こうした経験のある方は意外と多いのではないだろうか。

コネクテッドカーでも想定される移行の気苦労

こうした気苦労がコネクテッドカーでも想定されるのである。さらに言えば、コネクテッドカーは根幹をなすプラットフォーム・クラウドと、そこに乗っかる各種サービスが現状複雑に絡み合っており、WindowsとmacOS、AndroidとiOSが大半を占めるパソコンやスマートフォンに比べ難易度は高いものになっているのである。

現在、アプリ面ではGoogleの「Android Auto」とAppleの「Apple CarPlay」が勢力を拡大しており、スマートフォンアプリ同様の様相となっているが、プラットフォーム・クラウドにおいては、自動車メーカーの独自開発をはじめMicrosoftの「Azure」やAmazonの「AWS」を活用したものなどが乱立しており、互換性が限りなく低いものとなっている印象である。

■【まとめ】将来的には少数の車載OSに収束か

現在はサービスが本格化し始めた段階であり、質と量を高める過程である程度環境が統合されていくのが一般的だ。将来的には車載OSのようなものが確立し、データを一元的に扱うことができるようになると思われ、その主導権争いが今まさに水面下で繰り広げられているものと推察される。

国土交通省は現在、自動車保有関係手続きのワンストップ化に向け「車検証の電子化」の議論を進めている。デジタル化により利便性を高めていく狙いだ。

このようにさまざまな情報や手続きのデジタル化が進み続けている時代。利便性の高まりとともに新たなサービスも生まれ、新産業を生み出す力になるなどその恩恵は大きい。ただ、その裏側には過渡期特有の諸問題が発生するということも忘れてはならない。

今後右肩上がりで導入が進むことが予想されるコネクテッドカー。つながるクルマは、取り巻く環境を含めクルマ社会を急速にデジタル化していくものである。大きな変化に柔軟に対応できる人ばかりではない世の中において、コネクテッドカーの開発に携わる自動車メーカーやIT系、通信系の企業などには、ぜひとも扱いやすいシステムの早期構築をお願いしたい。


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