
中国の自動運転開発企業WeRide(ウェイライド)が、世界最大級のテニスの祭典ローラン・ギャロス(全仏オープン)で、大会公式の自動運転シャトルを運行している。中国発の自動運転企業が世界屈指のスポーツイベントの公式輸送を担うという事実が、業界の注目を集めている。
運行は仏自動車大手Renault(ルノー)グループとの提携によるもので、今年で3年連続となる。会場周辺の2.8kmを12分で結ぶ自動運転レベル4のミニバスを走らせ、夜間運行も延長した。地上の運営はフランスの事業者betiが担う。運行期間は5月24日から6月7日までだ。
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■全仏オープンに「中国の自動運転車」が走る
テニスの四大大会の一つ、全仏オープン(ローラン・ギャロス)で唯一の公式自動運転シャトルを走らせているのは、中国の自動運転開発企業WeRide(ウェイライド)である。運用が始まったのは2024年。今年で3年連続となり、いまや大会の風景の一部になりつつある。
数十万人の観客が集まる大会の周辺は、人と車と自転車が入り乱れる高密度の交通環境だ。WeRideは、この複雑な現場を自動運転技術の成熟度を示す格好の舞台とみている。世界屈指のスポーツイベントで中国企業が公式の役割を担う。中国の自動運転をめぐる報道では事故やトラブルの切り口が目立つが、この事実はその逆を示している。
WeRideは中国・広州に本社を置き、米NASDAQと香港証券取引所に上場する。中国、米国、UAE、シンガポール、フランス、スイス、サウジアラビア、ベルギーの8市場で自動運転の許可を得た唯一の企業でもある。世界各地で信頼を積み上げてきた実績が、欧州の象徴的な舞台での公式採用につながっている。
中国企業が世界四大大会の公式シャトルを3年連続で担う意味は大きい。事故報道の印象とは裏腹に、欧州の表舞台で中国の自動運転が信頼を勝ち取りつつある。勢力図の変化を象徴する一例と言える。
【参考】関連記事としては「自動運転、中国人だけ「異常な関心度」 運転に興味なし?」も参照。
■2.8kmを12分、3拠点を結ぶシャトル
シャトルが走るのは、ローラン・ギャロスのスタジアム群を貫くAvenue de la Porte d’Auteuil沿いの2.8kmのルートだ。会場周辺の3つの主要拠点を結び、所要時間は12分。車両は自動運転レベル4のミニバスで、WeRideが自社開発した自動運転システムを搭載する。
運行は5月24日から6月7日まで。毎日、午前から深夜までの時間帯に分けて走る。注目すべきは夜間運行だ。22時から深夜0時まで走らせる夜間運行は今年で2年連続となる。低照度の市街地で、予測しにくい車や歩行者、自転車の動きに対応する。技術的なハードルが高い時間帯での運行は、システムの信頼性を示す材料になる。
地上の日々の運営は、フランスの事業者betiが車両オペレーターとして担う。フランス最大手の保険グループMacifがbetiの株主であり、betiは2024年10月からWeRideと欧州で協業している。保険大手が出が出資する運営会社が現場を支える体制は、欧州での社会的な信頼を後押しする。
■WeRideとRenaultの欧州連合とは
ローラン・ギャロスでの運行は、単発のイベント企画ではない。WeRideとRenault(ルノー)グループが欧州全体で進める提携の一部だ。両社は2025年3月、フランス・ドローム地方で欧州初の完全無人商業シャトルの運行を開始した。同じ月にはスペイン・バルセロナ中心部で、自動運転レベル4の車両による公道試験を実施している。これはスペインで初めての公道試験だった。
フランスの大会会場からスペインの市街地まで、両社は自動運転を実証の段階から日常の移動手段へと押し上げてきた。全仏オープンでの公式運行は、その積み重ねの上に立つショーケースと位置づけられる。中国企業の技術と欧州の自動車大手の信用が組み合わさり、欧州市場での足場を固めている。
【参考】関連記事としては「中国政府、自動運転の国家安全基準を2027年7月施行へ 日本と世界標準争いが激化か」も参照。
■フランス・スペイン・ベルギー・スイス・スロバキアへ広がる布石
欧州はWeRideの世界展開戦略の要だ。フランスとスペインにとどまらず、ベルギー、スイス、スロバキアへと自動運転サービスを広げている。ベルギーではシャトルの商業運行がすでに日常的に行われている。
技術の成熟を示す動きも続く。WeRideはチューリッヒ空港のシャトルから前席の安全員を撤去し、完全無人運行に向けた重要な一歩を踏み出した。スイスのフルッタールでは無人の自動運転タクシーサービスの開始が予定されている。スロバキアへの進出は、欧州初となる大規模かつ複数製品の商業展開の一環だ。2026年6月10日にはスロバキアの首相がWeRideと会談し、自動運転車の展開に支持を示したと伝えられている。
こうした各国での展開を一望できる舞台が、ローラン・ギャロスだ。世界が注目するスポーツの祭典は、中国企業による欧州攻勢のショーウインドーになっている。自動運転タクシー市場の勢力図が、米国勢と中国勢のせめぎ合いのなかで動き続けていることを示す光景と言える。
【参考】関連記事としては「中国 自動運転レベル4ロボタクシー「テスラを超える」全部自前で量産へ」も参照。
■中国の自動運転技術の信頼性が証明される
全仏オープンで3年連続、夜間運行を含めて走り続ける中国の自動運転シャトル。複雑な環境での運用を重ねてきた事実は、技術の信頼性を静かに証明している。穴に落ちる、暴走するといった失敗の物語で語られがちな中国の自動運転だが、欧州の象徴的な舞台ではむしろ信頼の対象になっている。
世界四大大会の一つで唯一の公式シャトルを担うという立場は、一企業の話にとどまらない。米国勢が先行してきた自動運転タクシー市場で、中国勢がどこまで世界の信頼を勝ち取れるか。ローラン・ギャロスの12分の乗車は、その問いに対する現在地を映す小さな窓だ。中国の自動運転が全仏オープンに登場したという事実そのものが、勢力図の転換を告げている。













