【NEXTトヨタ】テスラやGoogleと「真逆」な自動運転戦略

先行することに大義なし?

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自動車業界の命運を左右すると言っても過言ではない自動運転技術。グーグル系Waymoを頂点に専門開発を進めるテクノロジー企業や新興企業が続々と台頭し、この10年で開発競争は激化した。

自動車メーカーはこの分野において新興勢力の後塵を拝しており、それは王者・トヨタも例外ではない。唯一、EV大手テスラが果敢に挑戦しているぐらいだ。開発先行勢と自動車メーカーの差は開く一方のように感じる。

しかし、トヨタは急がない。ライバル企業がどれだけ投資を重ね目に見える形で実証や実用化を推し進めても、自社のペースを乱すことなくじっくりと開発を進めている印象だ。ある意味、Waymoやテスラと真逆の道を歩んでいると言っても良い。

トヨタはどのような立ち位置で自動運転時代に立ち向かうのか。特集「NEXTトヨタ」では、トヨタのモビリティ戦略の最前線に連載で迫っていく。

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■自動運転分野における各メーカーの現在地

開発競争に火をつけたグーグルが大きく先行

Google系Waymoが展開している自動運転タクシー=出典:Waymo公式ブログ

自動車メーカー各社は20世紀から自動運転開発を行っていたが、21世紀に入ってグーグルが開発プロジェクトを立ち上げたことで状況が一変した。テクノロジー企業ならではのアプローチでゲームチェンジに挑んだのだ。

プロジェクトの結果、公道での自動運転走行に成功し注目が高まると、グーグルに続けとばかりに世界各地でスタートアップが産声を上げた。

先行するグーグルは開発プロジェクトをWaymoとして分社化し、本格実用化に乗り出した。2018年末にアリゾナ州フェニックスで自動運転タクシーを実用化し、翌年末にはドライバーレスサービスも開始した。

現在、フェニックスとカリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルス、テキサス州オースティンとジョージア州アトランタの5都市でドライバーレスサービスを提供している。

また、カリフォルニア州サンディエゴ、ネバダ州ラスベガス、コロラド州デンバー、テキサス州ヒューストン、ダラス、サンアントニオ、テネシー州ナッシュビル、ミシガン州デトロイト、フロリダ州マイアミ、オーランド、ワシントンD.C.、英ロンドンの12都市で早期サービス化に向けた取り組みを加速している。

さらに、ニューヨーク州ニューヨーク、バッファロー、マサチューセッツ州ボストン、ミネソタ州ミネアポリス、ルイジアナ州ニューオーリンズ、ペンシルベニア州フィラデルフィア、ワシントン州シアトル、タンパ、東京で実証を重ねている。エリア拡大速度は明らかに増しており、海外展開にも着手しているのだ。

技術水準としては、たまに小さなミス・トラブルがあるものの、初心者ドライバーの域を軽く超え、一般ドライバーの領域に達している。負傷事故の発生は、人間のドライバーが25万マイルに1回のところ、Waymoは125万マイルに1回となっている。これが世界のトップ水準だ。

自動車メーカー単独ではレベル4未達成

一方、自動車メーカーでは、米GMが2023年まで自動運転タクシーを実用化していたが、これは買収したCruiseの技術によるものであり、事故をきっかけに事業停止する結末となっている。この事例以外に、2025年時点でレベル4サービスを実現した大手自動車メーカーは存在しない。

計画では、フォルクスワーゲンの米国法人が2026年中に自動運転配車サービスを開始すると発表しているが、当面はドライバーが同乗する。メルセデス・ベンツは中国・北京でレベル4の公道実証ライセンスを取得したが、サービス化はまだまだ先の話のようだ。

日本勢では、ホンダがGM・Cruiseとのパートナーシップのもと2026年に日本国内で自動運転タクシーサービスを開始する計画だったが、立ち消えとなった。日産は2027年度に地方を含む3~4市町村において車両数十台規模のサービス提供を目指す計画を発表している。

予定通り進めば、Waymoの8年遅れほどでレベル4サービスに着手できるかもしれない――これが自動車メーカーの水準だ。

なお、レベル3に関してはホンダ、メルセデス・ベンツ、BMWが高速道路に限定する形で実現済みで、一部最高速度95キロを達成している。

テスラはテクノロジー企業?

米テスラは自動車メーカーの中では異色な存在で、早くから野心的に自動運転開発に取り組んできた。その成果は、一般道におけるハンズオフ運転(レベル2+相当)を実現する水準で、メーカーの中では突出している。オペレーター付きではあるものの、2025年6月に自動運転タクシーサービスにも着手している。

賛否両論はあるものの、将来の自動運転化を見据え、ドライバーが全責任を持つ現行ADAS(先進運転支援システム)に「Autopilot(自動操縦)」や「FSD(Full Self-Driving/完全自動運転)」と名付けるなど、その実現意欲は相当なものと言える。

レベル4は未達成で、自動運転レベルベースでは他の自動車メーカーと変わりないが、同社はエンドツーエンドモデルの実用化を進めており、走行エリアを区切らない自動運転システムの実現を目指している点が特徴だ。

ルールベースに基づくWaymoなどの自動運転システムは、走行可能なエリアをジオフェンス(仮想上の境界線)で区切り、その範囲に限定してレベル4を実現しているのに対し、テスラはこうした制限を設けない自動運転の実現を目指しているのだ。

その成果がFSDだ。市街地をはじめとした広範囲でレベル2+を実用化する技術は、物差しが異なるもののWaymoに引けを取らない最先端水準の技術と言える。制限を設けないが故レベル4以降への進化に時間を要するが、技術が一定水準に達すれば一気に拡大することができる。

テスラは自動車メーカーとテクノロジー企業のハイブリッド型企業であり、どちらの枠にも収まらない異例の存在と言える。

■トヨタの自動運転開発の概要

他社との開発競争には乗らずマイペース

ここからが本題だ。トヨタは自動運転技術にどのように向き合っているのか。結論から言えば、トヨタは社会実装を急がず、他社との開発競争も大きく意識することなく、マイペースを貫いている。

2010年代、自動運転開発に意欲を示す自動車メーカーの多くが2020年頃を目途にレベル4を実現する目標を立てていた。一方、トヨタは「運転者の監視の下、高速道路で自動運転できるようにする『Highway Teammate(ハイウェイ チームメイト)』」の実用化を掲げていた。

自動運転という言葉を使用しているものの、運転者の監視を必須としているためレベル2+相当と思われる。現実的な目標だ。

当時は、同様の機能を一般道で利用できるようにする「Urban Teammate(アーバン チームメイト)」の実用化目標を2020年代前半としていた。改めて振り返ると、レベル4については実現目標時期の明言を避けていたように感じられる。

いずれにしろ、このチームメイトコンセプトに基づく技術は、レベル2~2+相当の高度ADAS「ToyotaTeammate」「Lexus Teammate」として量産車への実装が始まっている。

ガーディアンとショーファー

ガーディアン:高度安全運転支援システムとして開発=出典:トヨタ公式サイト

トヨタが自動運転開発を行う理由は、「安全性の向上」と「より効率的な交通」の実現だ。研究開発においては、「ガーディアン(高度安全運転支援)」と「ショーファー(自動運転)」と名付けた2種類のモードに焦点を当てている。

ガーディアンは、ドライバーによる車両制御を前提に、その運転能力を拡充・強化することで安全性を向上させるよう設計されているシステムだ。ドライバーの過失や障害物、他者による交通ルールの無視といった外的要因などにより、ドライバーの運転操作が能力の限界に近づいた際や能力を超えた際に、ドライバーをシームレスに支援して安全を確保する。

いわゆるADASそのものの機能と言える。衝突被害軽減ブレーキなどもガーディアンに相当し、こうした回避支援機能が高度化されれば、事故の大半を防ぐことが可能になる。

ショーファーは、ドライバーの一部または全運転タスクを軽減し、主に自動運転車が運転操作をする度合いを示す。

ショーファーの能力が低い段階では、ドライバーが運転環境を常時監視し、フォールバックを実行するレベル2+に相当する水準となるが、能力が向上すると、ドライバーがフォールバックの実行にのみ責任を負うレベル3水準となる。

さらに能力が高度化すると、ドライバーによる関与なしにシステムがすべての運転操作を完全に処理することが可能となる。この段階がレベル4以上に相当する。

このアプローチにより、年齢や心身の状態、その他の理由で運転できないすべての人に移動の自由を提供するのがトヨタの大願だ。

ショーファーは一般的なドライバーの能力よりも安全でなければならない

このショーファー技術に関する進捗は不明だが、トヨタは、ショーファーの考え方に基づく自動化システムは、社会で許容される一般的なドライバーの能力よりも安全である必要があるとしている。この部分が肝要だ。

中途半端な形では実用化せず、人間のドライバーの平均水準を超えて初めて実用化する――ということだ。それまでは、ひたすら水面下で研究開発や実証を続けるのだろう。

この対極にいるのがテスラだ。テスラは、やや未熟なシステムであっても世に送り出し、ユーザーを交える形で経験を積み重ね、フィードバックによって改善し続けて高度化を目指す戦略を採用している。オースティンで提供している自動運転タクシーはオペレーターを乗せているが、イーロン・マスク氏は内心「仕方なく……」といったところだろう。

規制や世論が許すなら、細かい問題は後回しにして矢継ぎ早にドライバーレスサービスをローンチしていくのがマスク流だ。

Waymoは両者の中間あたりのイメージだ。一定の精度に達した段階でユーザーを交えた実証を重ね、安全を確認してからドライバーレスサービスに移行する。

公道実証そのものが控えめ?Woven Cityの半クローズド環境で開発?

出典:トヨタプレスリリース

ただ、レベル4実現に向けたドライバー同乗の実証も、Waymoやテスラに比べトヨタは控えめであることは間違いない。カリフォルニア州での実証走行距離は遠く及ばず、日本国内での実証距離も不明だ。

おそらく、特段の許可を要しないレベル2状態での実証は国内でも日常茶飯事的に行っているものと思われる。しかし、レベル4サービス実用化の明確な目標を持っていないため、目立つ形での実証は控えめとなっているのではないだろうか。

トヨタは2025年9月、自動運転サービスに多目的に活用できる「e-Palette」の販売を開始した。現在はあくまでレベル2相当の多目的モビリティとして提供しているが、2027年度にレベル4に準拠した自動運転システム搭載車の市場導入を目指すとしている。

ついにトヨタも大きく動き出すか?――と言いたいところだが、トヨタの車両制御インターフェースに対応して開発されたさまざまな開発会社による自動運転システムを搭載することで自動運転に対応することが可能になる――としていることから、他社の自動運転システムを2027年度から搭載・実装可能になるものと思われる。ティアフォーやWaymoなどが候補となりそうだ。

当面は、オープンしたばかりのWoven City内で半クローズドな環境下で実証を積み重ねるのかもしれない。

ただ一つ言えることは、それでもトヨタは焦っていないということだ。自動運転分野との関わりを強めていく一方、自社独自技術によるレベル4はまだ先で良い――と考えているのではないだろうか。機運が高まるのはまだ先と判断しているのだ。

数年前、BEV旋風が巻き起こった際も、トヨタは同調圧力に屈せず全方位戦略で業績を伸ばした。これと同様、自動運転の機運もまだ先と見ている可能性が高い。

開発競争が過熱し、その差が顕著となっているのは事実だが、自動車メーカーとして、あるいはモビリティカンパニーとして将来盛り返す算段が付いているのではないだろうか。

Waymoやテスラなどとは真逆に、どっしりと構えながら将来の自動運転時代の戦略を温めているのかもしれない。

■【まとめ】自動運転分野でも全方位戦略?

将来、トヨタはモビリティカンパニーとして自動運転分野においてどのような事業展開を行っていくのか気になるところだが、現状わかっているのは、先行することに意義を見出さず、決して急いでいないということだ。

近い将来機が熟し、自動運転分野における全方位戦略を打ち出すことも考えられる。トヨタの動向に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「自動運転が可能な車種一覧(タイプ別)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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