八王子で事故の自動運転バス、「中国製」って本当?

車両はアルファバス製、SNSで情報混乱



東京都八王子市内でサービス実証中の自動運転バスが2025年8月29日、街路樹に衝突する事故を起こし、乗客2~3人がけがを負ったという。国内で発生した自動運転実証の事故としては、過去最大の被害と思われる。


この事故をめぐり、SNS上では「中国製自動運転バス」とする投稿や、開発企業をめぐる誤情報などが出回っているようだ。

事故を起こした車両は、本当に中国製自動運転バスなのだろうか。事故の概要と真実に迫る。

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■八王子における自動運転実証と事故の概要

東京都とBOLDLY、西東京バスらが参画

八王子市内での自動運転バス実証は、東京都の事業「令和7年度自動運転サービスの導入推進に向けた走行環境整備に関するプロジェクト」によるもの。公共交通において深刻化する運転手不足による減便などの課題を解決する手段として自動運転サービスの導入が期待されており、バスへの先行導入を推進するため、高尾駅周辺において東京都と地元自治体、交通事業者が連携し、レベル2自動運転バスの実証運行を実施した。

▼令和7年度自動運転サービスの導入推進に向けた走行環境整備に関するプロジェクト
https://toshiseibi.jidouunntenn1.metro.tokyo.lg.jp/


実証は、2025年8月23日から8月31日までの期間、客を乗せて高尾駅北口から高尾台住宅までを周回する約6キロの区間をレベル2運行する内容だ。停留所は始点と終点含め往路・復路とも5カ所設置されている。

毎年都が実施しているプロジェクトとは異なり、公募情報が見当たらないため、どのような経緯で実施されたのかは不明だが、車両はBOLDLYが提供し、運行は西東京バスが担うとしている。

出典:東京都公式サイト

使用車両はアルファバス製、自動運転システムの開発者は不明

使用した車両は、アルファバスジャパンの小型EVバス「E-City L6」で、乗客定員12人という。自動運転システムの開発者に関する記載はなく、BOLDLYが自ら開発したものなのか、他社に委託したものなのかは不明だ。BOLDLYはあくまで車両の提供にとどまり、提供された後に第三者によって自動運転システムが統合された可能性も否定できない。

情報が不足しているため、憶測が飛び交ってもおかしくない状況と言える。


出典:東京都公式サイト

アルファバスジャパンは、EVバスや関連部品の輸出入、販売などを目的に2019年に設立された企業で、江蘇常隆客車有限公司、半導体素子や電子機器を取り扱うエクセル、車体整備や製造などを手掛けるヴィ・クルーを株主としている。

この江蘇常隆客車がアルファバスだ。1999年にEVバスの設計・製造を目的に中国で設立され、中国内をはじめ日本や欧州向けの車両製造も行っている。2016年に日本の電池メーカーと高性能リチウム電池の供給パートナーとして業務提携するなど、日本市場との関わりも深いようだ。

現在年間1,000台の生産能力を有している。建設中の新工場が稼働すれば、年産5,000台でスタートし、最終的には20,000台の製造ラインが構築されるという。

発車まもなく歩道の街路樹に衝突

事故は2025年8月29日正午前、始点の高尾駅北口を出発してまもなく発生した。片側2車線の甲州街道を走行中、突然バスが左に寄り、歩道に乗り上げて街路樹に衝突した。後ほど紹介する動画を見てほしいが、咄嗟の出来事だ。

バスには乗客など計12人が乗っており、このうち2~3人がけがを負ったという。一人は搬送されたという報道もある。

東京都や協力自治体の八王子市は事故の影響により運行を中止する旨発表しているが、事故の詳細については9月1日現在発表されていない。BOLDLYや西東京バス、アルファバスジャパンも事故に関するリリースを出していない。けが人が出た事故で、その発生状況などの公式的な第一報が発出されていないのも珍しい。

なお、小池百合子都知事は定例会見で「けがをされた方もいるということでお見舞い申し上げる。原因究明をしっかり行っていくことが重要」との認識を示している。

原因は今のところ不明

詳細が不明なため憶測となるが、最も可能性が高いのは、自動運転システムが何らかのエラーにより突如左に進路を変え、ドライバーの手動介入が間に合わず衝突した――というものだ。それ以外だと、手動介入したドライバーによる人為的ミスや機械的不備あたりが候補となる。

仮に、何らかの障害物を検知して咄嗟に回避行動に出た結果、街路樹に衝突した……といった場合、トロッコ問題の一例として大きく取りざたされることになる。ただし、こうしたケースでは急ブレーキの作動も必須となるため、今回のケースには当てはまらないものと推測される。

いずれにしろ、公式リリースを待つほかない。

たまたま車両に乗り合わせた人の動画や画像なども

事故の様子を収めた車内映像も公開されている。ダイヤモンド不動産研究所の記者がたまたま乗車していたという。後方の席からの映像のため車両前方の状況はわからないが、車両が突然左に進路をきり、すぐに車内に衝撃が広がった様子がまざまざと映し出されている。

同社の記事には、「事故が起こりようもないはずの場所で、今回の事故は突然、発生した」「乗っていた筆者の感覚では、この間、減速や急停止が行われたようには感じなかった」とある。

▼不動産研究所の記事
https://diamond-fudosan.jp/articles/-/1112848

また、別の乗客(ネット通販事業などを手掛けるムラウチドットコム代表取締役社長の村内伸弘氏)も当時の状況をブログで公開している。

村内氏によると、「走り出して 300メートルぐらいしたら、バスの前面ガラスに突然いちょうの木が現れて、ドスンという感じで激突した」そうで、「運転手さんは運転席に座って、ハンドルをいつでも握れるようにした体勢で実証実験していたのですが、事故の瞬間はハンドルやブレーキが効かなかったみたいです。運転手さんが警察の方の取り調べの時にそう話していました」という。

手動介入の切り替え方式にもよりそうだが、この切り替えが正しく行われたのか、その上で制御不能だったのか……など気になるところだ。

また、ブログには「BOLDLY(ボードリー)社の自動運転システムが実装された小型EVバス」とある。車内掲示などでBOLDLYの自動運転システムが搭載されている旨公表されているのかもしれない。

▼村内氏のブログ(八王子市の自動運転バスが衝突事故。僕乗ってました ※実証実験中)
https://murauchi.muragon.com/entry/3428.html

■SNSの反応

テスト走行時も危ない場面があった?

この事故を受け、SNSではさっそくさまざまな反応が広がっている。

ほかにも同所での自動運転バスサービス実証を体験した人が投稿しているようだ。8月19日はサービス実証前のテスト走行と思われるが、右折した際にそのまま路肩に突っ込みそうになっている様子が収められている。

また、以下のような指摘もあった。

確かに車両は中国製だ。しかし、「中国製自動運転バス」と言うと語弊が生じる。自動運転システムが中国製とは限らないためだ。中国製の可能性もあるが、おそらくBOLDLYが車両を仕入れた後に自社、あるいは近しい他社に依頼して自動運転化した可能性が高い。

また、「中国製=危険」というバイアスを必要以上にかけるのも問題視すべきだ。車両そのものに事故要因があった可能性も現時点では否定できないが、では、アルファバスの車両が他社製に比べどのように劣っているのか説明できるのか?と問えば、返答は返ってこないだろう。

原因については公式発表を待つほかないが、短絡的に「中国製=危険」のような図式を持ち込むことは妥当とは言えないだろう。

前出の村内氏のブログへの反応だ。一応触れておくと、ルールベースの自動運転システムもAIなくして構築できないモデルだ。

【参考】ルールベースについては「自動運転モデル「ルールベース」「E2Eモデル」とは?」も参照。

また、わかりやすいほどの「テスラ厨」も発生しているようだ。

テスラの技術が高度であることは否定できず、米国・中国勢に比べ日本勢の技術が現状劣っているのも事実だ。ただし、テスラのFSDは現状自動運転ではなくADASに過ぎず、今の水準で自動運転化すると、今回の件以上の悲惨な事故が発生する可能性が極めて高い。

無関係の他社に迷惑も……

以下は、「アイサンテクノロジー 【広報・IR】公式に」よる発信だ。八王子市の実証に、同社や子会社は一切関与していないにも関わらず、インターネット上で誤情報が拡散されているという。

2025年1月に行われた熊本県熊本市における実証の事故についても同様で、「パートナーの一社として関わっていた」「技術支援を行っていた」といった誤情報がネット上で拡散されているとし、誤情報を発信したサイト運営者やSNSの投稿者に対し訂正を要請し、削除もしくは修正の対応を依頼しているという。

なお、熊本市で使用されている車両はティアフォー製 Minibus 2.0で、後方から走行してきた路線バスに接触された、いわゆるもらい事故の類だ。自動運転システムに異常は見つかっていない。

むつ市は自動運転実証を延期

事故の影響は、他の自治体にも及んでいる。青森県むつ市は、八王子での事故を受け自動運転バスの試験走行を当面見合わすことを発表した。

むつ市が公募した自動運転実証運行業務委託に係るプロポーザルはBOLDLYが受託しているが、八王子の実証関与者であるため、安全性が確認されるまで実証を延期する方針としている。

BOLDLYは国内における自動運転実証・実用化において随一とも言える実績を誇っている。むつ市同様の動きが各地に広がると、その影響ははかり知れないものとなる。

同社が取り扱う車両や自動運転システムは多種多様で、特にアルファバスの使用は珍しいため、車両と自動運転システムが全く同じ――というものはほぼないものと推測される。ただ、自動運転システムについては同一モデルを使用している取り組みがある可能性が高い。

猜疑心が蔓延する前に、しっかりと対応すべき問題となりそうだ。

関係者は早期情報公開を

SNSでは、さまざまな炎上案件をエサに憶測が飛び交い、無関係の企業や人物が多大な迷惑を被る案件が増えている。自動運転分野も例外ではなくなってきたようだ。

リテラシー能力、読解力が欠如したSNS利用者がどんどん薪をくべ、火を大きくしてしまう。正確な情報で鎮火を図ろうとも、一度燃え出した火の勢いはなかなか収まらない。

今回の件で言うと、東京都や関与が公表されている企業らが第一報を迅速に発していないため、ネットで飛び交うさまざまな情報のファクトチェックをしづらい点を指摘したい。第三者目線では何が事実か把握しづらく、誤情報が野放しにされやすいのだ。

すでに無関係の企業に影響が出ているため、関係者、特に東京都には迅速な情報公表を望みたい。

■【まとめ】関係者は早期第一報を

「中国製」というだけでバイアスをかける人は相当数存在するが、今回の案件との因果関係は今のところ不明だ。車両の機械的な不備によるものなのか、自動運転システムに起因するものなのか。そして、自動運転システムの開発者はどの企業なのか……などが判明しないことには、事実を語ることはできない。

他社や他エリアの取り組みに影響が出ていることから、まずは事故発生に関する公式的な第一報、そして事故要因の早期解明を望みたいところだ。

【参考】自動運転×事故については「【最新版】自動運転車の事故、日本・海外の事例まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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