
ホワイトハウス高官がイーロン・マスク氏の要職退任を発表したその日、テスラが6月12日にも自動運転タクシー(ロボタクシー)サービスを開始することが報じられた。
待ってましたと言わんばかりのタイミングだ。政府内でロボタクシー稼働に必要な根回しを終え、満を持して……と詮索したくもなる。
いずれにしろ、本来の仕事に本格復帰し、事業展開を大きく加速させていくことは間違いない。テスラの最新動向に迫る。
記事の目次
編集部おすすめサービス<PR> | |
車業界への転職はパソナで!(転職エージェント) 転職後の平均年収837〜1,015万円!今すぐ無料登録を | ![]() |
タクシーアプリなら「GO」(配車アプリ) クーポン超充実!「実質無料」のチャンスも! | ![]() |
新車に定額で乗ろう!MOTA(車のカーリース) お好きな車が月1万円台!頭金・初期費用なし! | ![]() |
自動車保険 スクエアbang!(一括見積もり) 「最も安い」自動車保険を選べる!見直すなら今! | ![]() |
編集部おすすめサービス<PR> | |
パソナキャリア | ![]() |
転職後の平均年収837〜1,015万円 | |
タクシーアプリ GO | ![]() |
クーポンが充実!「乗車無料」のチャンス | |
MOTAカーリース | ![]() |
お好きな車が月々1万円台から! | |
スクエアbang! | ![]() |
「最も安い」自動車保険を提案! |
■マスク氏の動向
トランプ政権で「特別政府職員」に
マスク氏は、第2期トランプ政権が設置した政府効率化省(DOGE)を率いてきた。その役職はあいまいで、トランプ氏はマスク氏が責任者として組織を率いていく旨発言しているが、マスク氏はあくまで自身はホワイトハウスの上級顧問であり、DOGEの職員や管理者ではない旨説明している。一般には、「特別政府職員」という立ち位置のようだ。
DOGEは米組織の人員整理をはじめとした予算カットばかりが目立つが、設立意義は連邦政府をDX化することで効率性や生産性を高める――といったものだ。その業務の過程で利益相反が指摘されたため、マスク氏は自身の権限を否定するため管理者ではないとしている――とする説が有力だ。
いずれにしろ、選挙戦を強力に支援した関係からマスク氏とトランプ氏は急接近しており、新政権が自動運転関連の規制緩和に動くなど、マスク氏への配慮・恩返しが行われているとする見方が強い。
水面下でマスク氏がどのような要望を行ったのか、あるいは政府サイドが単独で気を利かせたのか不明だが、事実として米道路交通安全局(NHTSA)によるレベル2車両への事故報告撤廃が発表されるなど、テスラが喜ぶ施策が実施されている。さらには、NHTSAの職員約30人が解雇されたことも報じられている。
政府におけるマスク氏の役職が何であれ、その影響力は絶大であったことがうかがい知れる。
【参考】マスク氏の動向については「イーロン、米政府の「テスラ監視団」の人員削減 「やりすぎ」と波紋」も参照。
特別政府職員退任報道とともに開始予定日が…
ホワイトハウス高官は5月28日、マスク氏が特別政府職員としての役割を終え、退任することになったと発表した。マスク氏はXでトランプ氏への感謝とともに「DOGEの考え方は政府全体の在り方となり、時間とともに強化されるだろう」と投稿した。
一方、ブルームバーグ通信は5月29日付けで、関係者筋の話としてテスラが6月12日からテキサス州オースティンでロボタクシーサービスを開始する予定であることを報じた。日程は変更される可能性があるという。
また、マスク氏自身も5月29日、Xに「テスラはここ数日間、オースティンの公道でモデルY(無人運転)の自動運転テストを行っており、事故は発生していない。予定より1カ月早い。来月には工場から顧客への最初の自動納車が行われる予定だ」と投稿した。
テスラはこれまで、自動運転化したモデルYを使用し、セーフティドライバー同乗のもと従業員を対象に公道走行実証を行っていたが、ついに無人実証に踏み込んだようだ。
ただ、一般論として約半月の無人実証でロボタクシーサービスを開始できるのか?――という疑問は拭えない。一般人を交えたサービス実証も行っていないものと思われる。
Waymoですら最低でも数カ月の期間を要する工程を、テスラはいかにクリアするのか。中途半端な力技でサービスを強行しても、ひとたびトラブルが生じれば大きな逆風にさらされることになりかねない。
最悪、人身事故を起こしたあげく初期対応を見誤り、最終的に事業停止に陥ったGM傘下Cruiseの二の舞になるのではないか……と心配になる。窮地に陥ることがないよう、すでに根回しが……といった考えはゲスの勘繰りか。
■テキサス州における自動運転
テキサス州やオースティンの対応は?
気になるのは、テキサス州やオースティンの受け入れ体制だ。カリフォルニア州はよく話題に上るが、テキサス州は名前こそ出てくるものの実態はあまりつかめていない。そこで、テキサス州における自動運転の取り組みについて調べてみた。
テキサス州では、州議会が2017年にテキサス州運輸法を改正し、自動運転車の運行に関する新たな規制を盛り込んだ上院法案2205を可決した。州全体で自動運転に関する規則を統一し、規制・監督を州政府に委ねる内容だ。また、2021年にも自動運転車の運用と規制に関する別の法律として、下院法案3026が可決されている。
自動運転車に対する規制は非常に緩い?
自動運転車は、運転者が乗車する自動車と同じ規制を順守する必要があり、自動運転車はすべての交通法規を順守することが義務付けられているが、調べた限り特段のライセンス制度もなく、連邦規則に準拠している限り、運転免許を持つ人間のオペレーターが車両内にいるかどうかに関係なく操作可能という。データ記録システムを装備する必要はあるものの、カリフォルニア州などと比べ非常に緩い制度となっている。
州としては自動運転の実用化に積極的で、テキサス州運輸局(TxDOT)は2019年、CAV(コネクテッド・アンド・オートノマス・ビークル)タスクフォースを設立し、州全体におけるCAV技術の調整と推進を図っている。
州内の各都市は自動運転車を独自規制できないが、州都オースティンは市場に参入する企業と協力し、地元の交通ネットワークに関する知識を提供し、自動運転がより安全に運行できるようにしている。
オースティン交通局は、独自収集した自動運転車インシデントダッシュボードを公開している。事故報告は義務付けられていないが、独自に収集し、マップ化した情報を毎週更新している。
2023年から2025年までの間に収集したインシデントは108件で、衝突事故は8件記録されている。そのほかは、安全上の懸念や迷惑行為、ニアミスなど軽度なもののようだ。なお、衝突案件はCruiseが5件、Waymoが2件、AVRideが1件となっている。
オースティンでは、ADMT(フォルクスワーゲングループ)、AVRide、Cruise、Motional、Waymo、Zooxが走行しているという。Cruiseは撤退しているが、名前だけ残っているようだ。
テキサス州全体ではこのほか、Argo AI創業者による新会社Stack AVをはじめ、Bot Auto、Aurora Innovation、Plus、Kodiak、Waabi、Gatikといった自動運転トラック開発企業がそろい踏みとなっている。May Mobilityの名前もある。
テキサス州は幹線における自動運転トラック実装の場として先行しているイメージが強かったが、Waymoがオースティンで自動運転タクシーのサービスを開始するなど、移動サービスのメッカとしても今後注目を集めそうだ。
時間がある人は、下記テキサス州・オースティンのサイトを参照してほしい。
▼Connected and Autonomous Vehicle Task Force(自動運転関連)|Texas
https://www.txdot.gov/about/programs/innovative-transportation/connected-automated-vehicles-task-force.html
▼Autonomous Vehicles(自動運転関連)|Austin
https://www.austintexas.gov/page/autonomous-vehicles
■テスラのロボタクシーに関する動向
自動運転水準の「FSD Unsupervised」でロボタクシーをローンチ

このように、テキサス州はウェルカム状態で自動運転企業を受け入れている。オースティンに本社を移転したテスラは、まさにウェルカムな存在だろう。多少の問題が生じても、ただちに州政府などが規制に動くことはなさそうだ。
これまでの発表によると、テスラは自動運転水準の「FSD Unsupervised」を搭載した「モデルY」10~20台でロボタクシーサービスを開始する予定としている。現在、何台のモデルYで実証を行っているかは不明だが、今後はその技術水準に大きな注目が集まることになる。
テスラのFSD(Full Self Driving)は、ADASながら高速道路や市街地など広範囲においてレベル2+相当の技術を発揮する水準に至っている。自動車メーカーの中では頭一つ抜きんでた存在と言っても過言ではない開発力だ。
ただ、特定領域内で無人運転を実現することを前提にWaymoと比較すると、やはり不安がぬぐえない。テスラが発表しているレポートによると、2023年におけるFSDの事故率は100万マイル当たり0.21件という。これは、エアバッグが展開されるような事故に基づく数値だ。
この数字だけ見れば、約500万マイル(約800万キロ)の走行で平均1件の事故が発生していることになり、非常に安全な印象を受けるが、基本的にドライバーが常に監視を行っているため、危険の多くは直前にドライバーが介入し、未然に事故を防いでいるはずだ。
この介入がどれほどの頻度で行われているかによって、FSDの安全性は大きく変わってくる。また、軽微な衝突事故やちょっとしたアクシデントなども含めると、その数はおそらく桁が変わってくるものと思われる。
懐疑的な見方も
レベル2+とレベル4の間にある溝を、どれだけ埋めることができるのか。大きな期待が寄せられる一方、懐疑的な見方をする向きも根強く残っている。
LiDARを使わずカメラとAIによる自動運転システムこだわるテスラに対し、Zoox創業者兼CTOのジェシー・レビンソン氏は、FSDが有能であることを認めつつ、「人間と同じくらい安全なロボタクシーではなく、人間よりも特に安全なロボタクシーを構築するには、実際にはテスラが車両に搭載しているよりもはるかに多くのハードウェアが必要」としている。
また、公道実証の不足から、当面は「高度な遠隔操作」システムが使用されると予測するアナリストもいる。常時遠隔操作するようなことはないだろうが、オペレーターが一人一台を常時監視するような「なんちゃってレベル4」で運用開始する可能性も否定できないかもしれない。
【参考】レビンソン氏の発言については「テスラの自動運転「カメラだけじゃ無理」!Amazon系幹部、マスク氏を挑発」も参照。
オオカミ少年脱却なるか?
マスク氏は2016年ごろから、自社の投資家やオーナーなどに対し完全自動運転車を1年以内に実現すると公言し続けている。実現に至っていないのは周知の事実で、もはや毎年恒例のマスク節(ぶし)を楽しんでいるような空気さえ感じる。
言わば「オオカミ少年」なわけだが、このロボタクシー実用化によってついにオオカミ少年から脱却するか――といった観点にも注目が集まるところだ。
もちろん、マスク氏は「オーナーに対し自動運転車を提供する」主旨の発言を繰り返しており、ロボタクシーとは異なる。自家用車の自動運転化が重要なのだ。
そのカギを握るのがFSDの進化だ。基本的に走行エリアを限定しないFSDが自動運転水準に達すれば、一気にオーナーに自動運転車を提供可能になる。一部ハードウェアの更新も必要となりそうだが、基本的にソフトウェアアップデートで対応できるのが大きな強みだ。
ロボタクシーは、その第一歩目となる。特定の走行エリアに限定されるにしろ、FSDで無人走行を実現する意義は非常に大きい。ここで安全性に対する実績を積むことができれば、拡大路線への道が大きく拓けることになる。
この6月、マスク氏がついにオオカミの皮を脱ぎ始めることになるのか、はたまた再延期されるのか、要注目だ。
なお、マスク氏は2025年4月、米メディアに対し「来年後半には、数百万台のテスラ車が完全自動運転で走行しているでしょう」と発言している。彼の大風呂敷は今なお広がり続けているようだ。
【参考】マスク氏の発言については「テスラのロボタクシー計画、米メディア「ファンタジー」と皮肉る」も参照。
■【まとめ】自動運転業界に新たな風を吹き込むか
果たして、テスラは6月中に計画通りロボタクシーサービスを開始することができるのか。サービス関連の許可は必要と思われるが、テキサス州側が待ったをかける心配はなさそうで、その可否はFSDに掛かっていると言える。
大きな節目を迎えつつあるテスラ。自動運転業界に新たなイノベーションをもたらすことになるのか、その動向に要注目だ。
【参考】関連記事としては「テスラの自動運転(Autopilot, FSD)とロボタクシー計画を徹底解説」も参照。