
SBG(ソフトバンクグループ)が出資している英国発の自動運転AI開発企業Wayve(ウェイブ)が、世界の自動車業界で存在感を一気に高めている。5月21日、ジープやラムを擁する自動車大手Stellantis(ステランティス)と戦略的技術提携を結び、2028年に北米でハンズフリー走行を実現すると発表した。
Wayveはすでに日産・Uberとの東京ロボタクシー計画、英国政府との連携を進めており、今回のステランティスで三正面が出そろった形だ。評価額は約1兆3,000億円。自らは車を造らず、各社の車にAIを載せる縁の下の力持ちとして、自動運転の世界標準を狙う。
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■Wayveが狙う「世界制覇」、ステランティス提携が示すもの
Wayveが世界制覇に向けて大きな一歩を踏み出した。5月21日、ステランティスとの戦略的技術提携を発表したのだ。Wayveの自動運転AI「AI Driver」を、ステランティスの自動運転プラットフォーム「STLA AutoDrive」に統合する。実現するのはハンズフリーの監視付き運転だ。高速道路と市街地の両方に対応する。
運転自動化の水準でいえばレベル2++に当たる。ドライバーの監視を前提としつつ、ドアからドアまで手放しで走れる。最初の車両への統合は北米で、2028年を予定する。ステランティスはジープやラムを抱え、世界販売台数でトップ3クラスに位置する自動車大手だ。低価格と量販を武器とする巨人がWayve方式を選んだ意味は小さくない。
注目すべきは、これがWayveにとってステランティスを2社目の自動車メーカー顧客とする提携だという点である。1社目は日産だった。2026年2月にステランティスがWayveへ出資しており、今回はその出資から商用化へと進む次の段階に当たる。Alex Kendall CEOによれば、ステランティス車での試作統合はわずか2カ月未満で実現したという。Wayve方式の素早さを物語る。
ただし、世界制覇はあくまで狙いであって、達成済みではない。Wayveが押さえたのは有力な採用メーカーであり、市場そのものを制したわけではない。それでも、量産を前提とする世界トップ3クラスのメーカーが採用に動いた事実は、Wayveのエンドツーエンド方式が量産レベルで通用しはじめた証左だと言える。自動運転タクシー市場と量販車市場の両にらみで、世界標準を取りにいく構図が見えてきた。
Wayveは自らハンドルを握らず、各社の車にAIを供給する黒子に徹する。日産に続きステランティスを射止めた意味は重い。量販メーカーの採用は、AI運転が一部の高級車から大衆車へ降りてくる転換点を示している。
【参考】関連記事としては「孫正義がトヨタを抜いた日 AIの次の主戦場は自動運転」も参照。
■日産・Uberとの東京ロボタクシー、日本でも進むWayve採用
Wayveの動きは日本にも及んでいる。3月12日、日産とUber、そしてWayveの3社が、ロボタクシーの開発で覚書を交わした。役割分担は明快だ。Wayveが自動運転AIを担い、日産が車両を、Uberが配車網を受け持つ。3社の力を持ち寄って自動運転タクシー市場へ踏み込む。
舞台は東京である。日産リーフにWayveのAI Driverを搭載し、Uber経由で利用できるようにする。パイロットは2026年後半を予定する。実施は当局との協議が前提となり、初期段階では訓練を受けた安全要員が同乗する。Uberにとっては日本で初めての自動運転提携であり、世界10都市超への展開計画の一環でもある。
さらに、Wayveと日産の縁はロボタクシーだけにとどまらない。日産は次世代の運転支援システム「ProPILOT」にもWayveのAI Driverを採用する方針で、2027年度の投入を見込む。ロボタクシーと市販車の運転支援、その両面で日本企業がWayveを選んでいる。国内読者にとっても、海の向こうの話では済まされない段階に入ったと言える。
【参考】関連記事としては 「SBG孫正義が出資のNuro ついにサンフランシスコでロボタクシー商用化へ」も参照。
■ソフトバンクら出資、評価額1兆3,000億円という規模
Wayveの快進撃を支えるのが、潤沢な資金と異例の出資陣だ。2026年2月、WayveはシリーズDで12億ドルを調達した。ポストマネーの評価額は約86億ドル、円換算で約1兆3,000億円規模に達する。英国発のスタートアップとしては突出した水準だ。
このラウンドを共同で主導したのが、Eclipse、Balderton、そしてソフトバンク・ビジョン・ファンド2である。孫正義会長率いるソフトバンクが中核に座る。加えてMicrosoftやNvidia、Uber、Mercedes-Benz、日産、ステランティスが顔をそろえた。クラウド、半導体、配車、自動車という異なる業界の主役が一社に集まる構図は珍しい。
その後、シリーズDにはAMDとArm、Qualcommの半導体勢が6,000万ドルを追加で出資した。自動車向け計算基盤の主要プレーヤーがほぼ出そろった形だ。さらにUberは、最大3億ドルのマイルストーン連動の資本提供を約束している。資金面でも、Wayveは世界展開を狙う体制を着々と整えつつある。
【参考】関連記事としては 「ついに自動運転に「巨額の孫マネー」流入か!英Wayveに大興奮」も参照。
■HDマップに頼らないAI、テスラに似た思想で世界へ
Wayveの強みは資金だけではない。技術的な発想そのものが、従来の自動運転開発と一線を画す。多くの企業が精緻なHDマップと高価な専用機材に頼ってきたのに対し、Wayveは実世界の走行データから学ぶエンドツーエンドのAIに賭けた。地図に縛られず、車載カメラなどの入力から運転操作を直接導き出す。米Tesla(テスラ)の考え方に近い。
この方式の利点は、新しい土地への適応の速さにある。Wayveは都市ごとの細かな調整なしに環境へ対応できるとし、70カ国を超える多様なデータでモデルを学習させてきた。レガシー勢がHDマップと規則ベースで自動運転を組んできた中、エンドツーエンド方式が量産で認められはじめている。
その後ろ盾となるのが母国の英国だ。Wayveは英政府のビジネス通商省と覚書を結んだ。実走データを政府や規制当局と共有し、安全保証や大規模シミュレーションで連携する。ただし、この覚書に法的拘束力はなく、公的資金の確約も伴わない。あくまで国を挙げてWayveを後押しする姿勢を示すものだ。
■三正面で進むWayve、「世界制覇」は現実になるか
こうして見ると、Wayveは三正面で同時に駒を進めている。日産・Uberと組む東京のロボタクシー、ステランティスと進める北米2028年の量販車、精度英政府との連携だ。加えて、Uberとは世界10都市超への展開とロンドンでの2026年商用化も計画する。点ではなく面で広がりつつある。
Wayveが取る戦略は、自らブランドを掲げて車を売るのではなく、各社の車にAIを載せるサプライヤー型だ。だからこそ、複数のメーカーや配車事業者にまたがって一気に広がる余地がある。出資者と採用メーカーの顔ぶれの広さは、米テスラや中国のPony.ai(ポニーエーアイ)といった競合にはない強みと言える。
もっとも、Wayveが世界を制したわけではない。多くはパイロットや計画の段階にとどまり、量産車への搭載は2028年が起点だ。それでも、縁の下の力持ちとして世界の自動車に入り込もうとする動きは、自動運転やロボタクシーの勢力図を塗り替える可能性を秘める。Wayveの世界制覇が現実になるかどうか、その答えはこれからの数年で見えてくる。












