愛媛県松山市に本拠を置く伊予鉄バスが、全国初の自動運転レベル4による路線バスの本格運行を開始したと発表した。EVモーターズ・ジャパン製のバスにBOLDLYの自動運転システムを搭載しているという。
NHKや日経新聞など各社が「全国初のレベル4路線バス運行開始」と報じているが、ちょっと待ってほしい。本当に「レベル4」だろうか。同車両には保安員が配置され、必要に応じて手動介入するという。
社会実装期を迎え各地で自動運転サービスが誕生しつつあるが、過渡期ゆえ実質的な自動運転レベルがレベル3寄りのものも多い。厳密に言えば海外も同様だ。
一括りに「無人化=レベル4」と言われることも多いが、厳密にはそうでない場合も少なくない。実質的な自動運転レベルと、本質的な意味での真のレベル4の違いについて解説していく。
基本的に「真のレベル4」は、「人間のサポートは不要」という状況での走行が大前提だ。ただし海外でも、車内での人間によるサポートは原則ゼロでも、実際には緊急時には遠隔管制センターに待機している人間がサポートする体制で運用されていることを前提知識として知った上で、記事を読み進めてほしい。
記事の目次
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■伊予鉄グループの取り組みの概要
松山観光港と伊予鉄道高浜駅を結ぶルートに自動運転バスを導入
伊予鉄グループは2024年12月25日、松山観光港と伊予鉄道高浜駅を結ぶ往復約1.6キロの路線に自動運転バスを導入した。
EVモーターズ・ジャパン製のバスにBOLDLYの自動運転システムを搭載したマイクロバスタイプで、乗客12人が乗車できる。制限速度時速40キロの一般車道を時速35キロで毎日運行する。運行は伊予鉄バスが行い、一部業務は運行管理に高い実績を誇るBOLDLYが担うようだ。
基本的には遠隔監視で運行を見守るが、バスには大型2種免許を持つ保安員(特定自動運行主任者)を配置し、必要に応じて手動運転に切り替えるとしている。遠隔監視システムも導入されている。
BOLDLYが運行管理のみならず自動運転システムも担当していることに驚きだが、同車両・システムは12月3日、四国運輸局から道路運送車両法に基づく保安基準への適合性が確認され、運転者を必要としない自動運転車(レベル4)として認可されている。
保安員が手動介入するのにレベル4?
「一般車道を走行する路線バスとして国内初のレベル4」として多くの注目を集めるところだが、疑問点もある。「大型2種免許を持つ保安員」の配置だ。
保安員が運転席に座り、必要に応じて手動介入するのは、その内容によってレベル2からレベル4まで考えられる。
例えば、保安員が車両周囲の状況を「常時監視」し、必要に応じて手動運転する場合は実質レベル2となる。自動運転実用化前の実証中のイメージだ。
また、「適宜監視」し、システムからの要請を受け即座に介入する場合は実質レベル3となる。監視義務はないものの、円滑な運行のため状況に応じて自ら手動介入するケースもあるだろう。
一般的な自動運転レベルとODDの考え方
一方、保安員は車内の乗客対応をメインタスクとし、ODD(運行設計領域)を外れた際にすぐに手動介入し、円滑な運行を続けるために座席に座っている場合はレベル4と言えなくもない。一見するとレベル3と同等のように感じられるが、明確な違いがある。
この場合のODDは、悪天候など計算しきれない条件への対応だ。走行速度や交差点対応など、一般車道における一般的な条件に対応しきれないものは論外だが、あらかじめODDから悪天候時が外されていたとすれば、突発的な豪雨などに対し保安員が迅速に対応して運行を継続できるようにする――というものであれば、レベル4に分類することができる。
今回の自動運転バスのODDは明らかにされていないが、通常は走行速度や道路環境などが細かく設計され、その範囲内においては手動介入なしで自律走行を可能とすることがレベル4の前提となる。この設計範囲内で手動介入が必要となることが稀にある場合は実質レベル3だ。
このODDに「雨天・荒天をのぞく」旨が付与されていれば、荒天時に手動介入してもレベル4と言える。
もちろん、レベル4はODDを外れた際、自律走行により安全な場所まで走行し停車する機能も備えられている。急な豪雨に見舞われたとしても、自動運転システムが安全確保できる路肩まで走行して停車する。
ただ、乗客を乗せて定時運行しているサービス車であるため、可能な限り運行を継続することが求められる。事故対応なども考慮してセーフティドライバーが同乗する──ということはあるだろう。
今回の伊予鉄バスのケースをまとめると、自動運転システムのODDがどのように設計されているか、また、保安員はどこまで監視義務を負い、どういった状況で手動介入するよう指示されているか──によって、実質的な自動運転レベルが変わってくる。
そして、レベル4の本質は「無人化」にある。従来のドライバーのみならず、車両の運転・制御に係る保安員やセーフティドライバー、オペレーターの類を可能な限り排除して初めて真のレベル4となるのだ。
【参考】関連記事としては「自動運転のODD(運行設計領域)とは?」も参照。
遠隔監視・制御も同様
こうした実質的な分類は、遠隔監視システムにおいても同様だ。例えば、車内無人を達成していても、遠隔監視センターからオペレーターが1人1台を常時監視し、必要に応じて遠隔から手動介入するよう設計されているものは、実質レベル2に相当する。
「車内無人+遠隔監視・制御」と聞くと「=自動運転」を想定するが、必ずしもそうではない。同技術は自動運転と密接なかかわりがあるものの、技術そのものはあくまで自動運転ではなく、遠隔地から監視や操作をするための技術に過ぎないためだ。
言わばラジコンのイメージだ。セーフティドライバー・オペレーターが運転席にいるか遠隔地にいるかの違いに過ぎないのだ。
運転席に座るセーフティドライバーと同様、遠隔地のオペレーターが常時監視していれば実質レベル2、都度監視でシステムからの要請に応じて介入するものは実質レベル3、想定外のトラブル時に対応するものは実質レベル4と言える。
先にも触れたが、こうしたバックヤードのオペレーターの無人化・省人化を図ってこそのレベル4だ。現実問題として、万が一の場合を想定しオペレーターを配置するのはサービス事業者として当然ではあるが、この配置を「一人一台」としてしまえば、従来のドライバーが手動運転するサービスと比べても人員削減効果は見られなくなる。
一人が数十台規模のフリートを一括管理するレベルに達すれば、それは立派なレベル4と呼べるのではないだろうか。
■先行事例の実質レベルは?
Waymoの手動介入は限りなく少ない?
このように厳密な意味で自動運転レベルを解釈していくと、米Waymoをはじめとする先行勢も「本当にレベル4か?」──という疑問を持つ人もいるかもしれない。
Waymoはアリゾナ州フェニックス、カリフォルニア州サンフランシスコ、ロサンゼルスの各都市で無人自動運転タクシーを実現している。そのフリート数は数百台に上り、週あたり10万回を超えるライドを提供しているという。
問題は、遠隔地にいるオペレーターの人数と手動介入の頻度だ。カリフォルニア州車両管理局(DMV)の公表データを参照すると、2023年(2022年12月~2023年11月)の一年間にWaymoの車両は366万9,962マイル(約590万キロ)走行している。また、同期間に報告された自動運転解除回数は212回だった。
すべてのシステム解除が報告されているのかは不明だが、この数字をもとに単純計算すると2万7,830キロに1回システムが解除されていることになる。正直「え?そんなに少ないの?」と感じる。
恐らくだが、これは自動運転システムが「走行継続困難」と判断した回数であり、オペレーター自身の判断で手動介入されたものは含まれていないのではないだろうか。もちろん、オペレーターが自主判断で介入することは原則禁止されており、これが正しい数字の可能性もある。
仮に、実際の手動介入頻度が10倍だったとすると、それでも2783キロに1回介入しただけとなる。1台当たり1日300キロ走行すると仮定すれば、1週間に1度介入するかどうか……といった水準だ。
この水準であれば、胸を張ってレベル4と名乗れるかもしれない。おそらくオペレーターも1人で数台、あるいは数十台分の監視を行っているのではないだろうか。
常時監視というより、複数台の走行状況を俯瞰するような形でまんべんなく眺め、トラブルが起こりそうであれば注視し、あるいはシステムから何らかの要請があれば即座に応じるような体制が出来上がっているものと思われる。
【参考】Waymoの動向については「Googleの自動運転タクシー、運行が週10万回規模に!3カ月で倍増」も参照。
百度は疑惑持ち上がるも……
一方、中国の雄・百度が運行する自動運転タクシーに対しては、「遠隔操作で人間が操縦している」といった投稿がSNSに散見され、YouTubeにアップされた「リモート「運転手」がいる!市民「おバカAI」」と題された動画が注目を集めた。
動画では、百度の自動運転タクシーの良い点や悪い点などが紹介されているが、その中で「アポロ・ゴーは本当に自動運転なのか」と問いかける部分がある(3分50秒~)。そこでは、インターネットに別に投稿された、百度の遠隔監視センターを収めた動画が紹介されている。
その動画には、広大なオフィスに多数の運転席のようなものが配置され、人間が大型ディスプレイを見ながらハンドルを握っている様子が収められている。
「アポロ・ゴーには操縦センターがあり、必要に応じて人間が遠隔操作を行うそうです」とされているが、これを見たネットユーザーからは「ドライバーの位置を運転席からオフィスに移し替えただけでは」といった反応が見られるという。
確かに、動画を一見しただけであれば「遠隔から人が操縦している」と感じるのは間違いではない。実際その通りだ。ただ、これがすべてではないのも事実だろう。
百度に否定的な見方をすれば、「かなりの部分で遠隔操縦している」と見ることができる。逆に好意的な見方をすれば「たまたまそうした場面が映っているに過ぎない」「空いた時間と車両を活用し、データ収集と遠隔操縦の訓練を行っているのかもしれない」など見ることもできる。
要は、どのくらいの頻度でオペレーターが介入しているのか――だ。1台当たり、1時間に何回も介入しているようではさすがにレベル4とは言えない。百度の実情は不明だが、フリート総数ではWaymoを上回る台数を誇り、走行エリアも非常に広い。何人体制のオペレーターで何台の車両を監視しているのか、気になるところだ。
■【まとめ】実質レベル3でも積極的に実用化を
Waymoのような世界トップクラスの企業でも遠隔監視は行われており、バックヤード含め完全無人化を果たす──というのは現実的ではない。ポイントは、オペレーターとフリートの割合、そして実際に手動介入する頻度だろう。
自動運転の性能が上がれば上がるほど手動介入は減少し、1人が数百台を担当することも可能になるかもしれない。万が一のもらい事故発生などに備えるレベルだ。
日本勢がこの域に達するにはどのくらいかかるかは何とも言えないが、今しばらくは実質レベル3相当のサービスが増えていくものと思われる。この実質レベル3でしっかりと知見を積み重ね、改善を繰り返していくフェーズで、経験値が何より重要なのだ。その意味では、実質レベル2でもレベル3でも積極的に実用化し、下積みを重ねていくことが求められることになる。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル一覧【1・2・3・4・5の表付き】 定義や日本・海外の現在状況」も参照。