トヨタ社長、今年の入社式で「自動運転」に言及なしか

ライバルはレベル3車両やロボタクシー事業



出典:Flickr / DennisM2 (CC0 1.0 : Public Domain)

新年度を迎え、未来を担う新入社員が各社を賑わせている。自動車業界も一斉に入社式を迎え、トップから熱いエールが送られたようだ。

佐藤新体制となって2年目を迎えたトヨタ自動車では、入社式に新入社員1,892人が参加し、佐藤恒治社長から歓迎の言葉が贈られた。


未来の象徴たる新入社員に向け、佐藤社長は何を語ったのだろうか。当メディアとしては、自動運転に言及する場面があったのか気になるところだ。

トヨタのオウンドメディア「トヨタイムズ」を参照し、佐藤社長のビジョンに迫っていこう。

■トヨタの2024年度入社式

一緒にクルマの未来を変えていこう!

出典:トヨタプレスリリース

「トヨタイムズ」によると、2024年度の入社式では昨年度に続き会場前に豊田章男会長ら幹部の愛車を並べ、新入社員を出迎えた。

佐藤社長は、章男会長が2024年1月に示したビジョン「次の道を発明しよう」という言葉に込められた未来への想いをはじめ、クルマ屋のプロを目指す上で「クルマを好きになる」「クルマづくりの楽しさを見つける」「一生懸命、努力する」ことの大切さを説いた。


続けて、「トヨタはモビリティ・カンパニーへの変革を目指しさまざまな挑戦を進めている。データやエネルギーの可動性を高め、社会と融合しながらクルマの価値を拡張していく。この変革を進めるためには、プロフェッショナリティを生かして夢に向かって行動する仲間の力が必要」とし、「ようこそトヨタへ! 一緒にクルマの未来を変えていきましょう!」と歓迎した。

入社式ではわざわざ自動運転には触れない?

トヨタイムズを拝見する限りではあるが、佐藤社長が自動運転に直接言及しているシーンは紹介されていない。(※もちろん、トヨタイムズで紹介されていないだけで、言及されていた可能性もある)

ちなみに、2023年度の入社式においては、「これから私たちはクルマを通じた移動の価値を世の中にお届けする会社『モビリティ・カンパニー』への変革を目指していく。誰もが自由に、楽しく、快適に移動できる未来のモビリティ社会を実現すること。電動化やコネクテッド、自動運転の技術を使ってクルマが社会システムの重要な一部となり、新しい移動の価値を生み出す挑戦」と話し、一瞬ではあるものの「自動運転」というワードを持ち出していた。

新入社員への激励や訓示で自動運転に触れる必要がないと言われればそれまでだが、トヨタモビリティコンセプトをはじめとした大きなビジョンのもと、自動運転がどのように関わってくるかなど少しでも触れてくれれば……と感じる。


ホンダや日産は?

ホンダ日産などのライバル勢はどうか……と調べたが、両社とも近年は入社式の様子を公式発表していないため、その中身は不明だ。未来を担う新入社員に何を呼びかけ、何を問いかけたのか。気になるところだ。

入社式の様子からは、さすがに各社や各社長の自動運転ビジョンに迫ることは難しいようだ。以下、改めてトヨタやホンダ、日産の自動運転戦略や最新事業計画などを紹介していこう。

■ホンダや日産の自動運転事業

ホンダは東京都内で2026年初頭に自動運転タクシー

出典:Cruise公式サイト

ホンダは2023年10月、米GM、Cruiseとともに自動運転タクシーサービスを2026年初頭にも東京都内で開始することを発表した。

ホンダは2021年発売の新型レジェンドに自動運転レベル3システムを搭載するなど自動運転開発・実用化に意欲的だが、こうした動きが表立ってきたのは2020年代に入ってからだ。それまでは、2018年にGM、Cruiseと自動運転分野における提携を発表したものの、特に進捗などに触れることもなく、自動運転関連の話題が正直乏しかった。

しかし、2020年1月に自動運転専用モビリティ「Cruise Origin(クルーズ・オリジン)」が米国で発表されると、自動運転サービス化に向けた動きが表立って加速し始めた。同年2月には、日本国内におけるモビリティサービス事業を担うホンダモビリティソリューションズを設立した。2021年には国内での自動運転サービス導入計画を具体化し、技術実証に着手した。

そして2023年10月、自動運転タクシーサービスのロードマップを公表した。サービス提供を担う合弁を新たに設立し、2026年初頭に東京都心部で数十台規模のオリジンを導入してサービスを開始する計画だ。

お台場エリアを皮切りに、中央区や港区、千代田区へと順次拡大を図り、500台規模のフリートを構築していくという。その後も順次台数を増加させ、サービス提供エリアの拡大を目指す方針だ。

自家用車関連では、独自のビークルOSを開発し、2025年以降中大型EVへの導入を開始する。常に進化し続ける自動運転・ADAS(先進運転支援システム)を掲げており、進化版レベル3が登場する可能性もゼロではなさそうだ。

ソフトウェア開発領域では、2023年にSCSK、KPIT Technologiesと相次いで提携を発表している。次世代電子プラットフォームのオペレーティングシステムや電動パワートレーン先進安全、自動運転、コネクテッドなどの開発領域において協業を深めていくという。

着実に前進している様子が見て取れる。まずは2026年の自動運転タクシーに向け、どのような体制で実証を進めていくのかに注目したいところだ。

【参考】ホンダの取り組みについては「ホンダの自動運転タクシー、Googleすら未実現の「運転席なし」」も参照。

日産は2027年度に複数市町村でサービスイン

出典:日産プレスリリース

日産は2024年2月、無人自動運転によるモビリティサービス事業化に向けたロードマップを発表した。2027年度のサービスインを目指す構えだ。

神奈川県横浜市のみなとみらい地区で2017年から自動運転モビリティサービス「Easy Ride」の実証を重ねているほか、欧州では英国政府の支援のもとロンドン市街などで自動運転プロジェクトを実施している。

これらの知見をもとに、自治体や交通事業者など関係各所と協業の上、2027年度から自動運転モビリティサービスの提供を目指す。2024年度から横浜みなとみらい地区で走行実証に着手し、2025年度以降に桜木町や関内などエリアを拡大し、20台規模のフリートで実証を強化していく。

ドライバーレスでのサービス提供を目指し、自動運転レベルを段階的に引き上げながら両社の受容性を確認していく方針で、2027年度に地方を含む3~4市町村で数十台規模でのサービス提供開始を目指す。すでに複数の自治体と協議を進めているという。

■トヨタの自動運転事業

明確な事業計画はまだ示さず……

トヨタに話を戻そう。ホンダは2026年初頭に東京都内、日産は2027年度に複数市町村といった具合で計画を明示したが、トヨタはまだこの手の公式発表を行っていない。

一応、2023年に開催したテクニカル・ワークショップで、自動運転専用モビリティ「e-Palette(イー・パレット)」の運転席搭載モデルを発表している。従来のe-Paletteは運転席を備えないまさに「自動運転専用」モデルだったが、早期社会実装を実現するため、自動運転と手動運転を両立したモデルも開発したという。2020年代前半の実用化を目指す方針のようだ。

「コンビニ仕様のe-Palette」などさまざまな活用案が発表されているが、「いつ頃にどこで実用化を目指す」――といった具体的な計画はまだ示されていない。

お台場の取り組みはモネ×メイモビリティ?

一方、報道によると、2024年夏に東京都内のお台場エリアで自動運転サービス実証に着手するという。同所で建設中の次世代アリーナ周辺をレベル2で運行し、2025年以降に有償化や無人化を図っていくようだ。

具体的な取り組みだが、どうやらトヨタ主体ではなく、ソフトバンクとの合弁MONET Technologies(モネ・テクノロジーズ)による取り組みで、米May Mobility(メイモビリティ)の自動運転システムを搭載したシエナを投入するようだ。

トヨタ主導ではなさそうで少し残念だが、運行ノウハウなどさまざまなデータはしっかり共有されるものと思われる。こうした協業の成果を自社のものとして生かす日がいつごろ訪れるのか、注目したい。

【参考】MONET Technologiesによる取り組みについては「やはりトヨタが大本命!ついに「自動運転レベル4」、お台場で展開か」も参照。

e-Palette運転席搭載モデルは2020年代前半?

出典:トヨタプレスリリース

e-Paletteの運転席搭載モデルは、2020年代前半の実用化を目指す……ということは、今年2024年に動き出すということだ。もしかしたら、お台場周辺でコンビニ事業を開始するかもしれないし、各地の自治体などと水面下で協議を進めているかもしれない。

当面は実質レベル2であれ、こうした積み重ねがあってこそ無人化を実現することができる。そろそろ表立った動きが出てきてもおかしくはなさそうだ。

Woven Cityも2025年に始動

出典:トヨタプレスリリース

モビリティ・カンパニーとしてのリアルなテストコース「Woven City(ウーブン・シティ)」も2024年夏ごろをめどに第一期工事が終わり、2025年に一部実証を開始する予定となっている。

間違いなくe-Paletteをはじめとした自動運転モビリティの実証が本格化し、トヨタの自動運転やモビリティサービスに関する取り組みが一気に加速することになるだろう。

こうした点を踏まえると、トヨタは2024年、あるいは2025年中に自動運転に関する具体的な計画や戦略、事業を提示することになるのではないだろうか。

トヨタが目指すモビリティ社会に自動運転も貢献

佐藤社長は就任1年目の2023年、新体制方針説明会でトヨタが目指すモビリティ社会の在り方を「トヨタモビリティコンセプト」とし、その道筋を示した。

「カーボンニュートラル」と「移動価値の拡張」を柱に、「モビリティ1.0:クルマの価値の拡張」「モビリティ2.0:モビリティの拡張」「モビリティ3.0:社会システム化」の3つの領域でモビリティ・カンパニーへの変革を進めていくとしている。
モビリティ1.0では、クルマの電動化、多様化、知能化に向け取り組みを進めていく方針で、知能化の面で自動運転が関わってくる。また、モビリティ3.0においても、新しい物流の仕組みづくりやまちと一体となった自動運転モビリティの開発などが挙げられている。

トヨタの戦略に自動運転が関わってくることに間違いはなく、あとは具体的な計画や事業化を待つだけだ。

【参考】トヨタモビリティコンセプトについては「トヨタ新社長が掲げた「モビリティコンセプト」ゴールは?」も参照。

■【まとめ】遅くとも2025年度までには自動運転事業を公表?

ホンダや日産が自動運転事業を明確化したが、次はトヨタの番だ。おそらく、その時はすぐそこまで迫ってきている。

早ければ2024年度中、遅くともは2025年度には具体化した事業の一部分が公表されるものと思われる。佐藤新体制の動向に引き続き注目したい。

【参考】関連記事としては「トヨタの自動運転戦略(2024年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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