NVIDIA株、一段高へ期待感!車載半導体、自動運転向けで採用加速

AI特需の次は「自動運転特需」到来か

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出典:NVIDIAプレスリリース

米半導体大手NVIDIAは2024年1月、自動運転向けの次世代SoC(システムオンチップ)「NVIDIA DRIVE Thor」が中国EV(電気自動車)メーカーLi Autoの次世代EVに採用されたと発表した。自動車の高機能化に伴い、NVIDIAソリューションの採用は右肩上がりの増加を続けているようだ。

生成AIブームで波に乗った2023年、同社の株価は3倍強まで数字を伸ばしたが、自動運転分野のポテンシャルはまだまだ埋もれており、今後のさらなる成長の起爆剤となることに期待が寄せられる。

NVIDIAのオートモーティブ事業の現況とともに、同社のポテンシャルに迫る。

■NVIDIA DRIVE Thorの概要
次世代モデルにDRIVE Thorを搭載

PHEVを主力とするLi Auto(理想汽車)は、次世代モデルの集中型車載コンピュータとしてNVIDIA DRIVE Thorを採用する。

現行モデルのLシリーズではADAS「AD Max」用に2つのDRIVE Orinプロセッサを使用しているが、アップグレードバージョンとなる「AD Max 3.0」は、大規模AIモデルによるエンドツーエンドのアルゴリズムアーキテクチャに移行するという。これに伴いプロセッサもより高性能なモデルを使用するようだ。

出典:NVIDIAプレスリリース
最大2,000TOPSを誇るDRIVE Thor

現在主力となっているDRIVE Orin(オーリン)は、254 TOPS(1秒当たり254兆回演算)を誇るハイパフォーマンスなSoCだ。このOrinの後継モデルとして、1,000TOPS級のDRIVE Atlan(アトラン)の開発が進められていたが、NVIDIAは2022年9月、Atlan実用化を前にさらなる新製品DRIVE Thor(トワー)を発表した。

事実上Atlanに置き換わる存在のThorは、最大2,000TOPSの処理能力を有するという。Geely(吉利汽車)のEVブランドZEEKRが最初の顧客となり、Thorを搭載した量産車を2025年に販売する予定としている。

ムーアの法則ではないが、半導体の性能は今なお着実に高まり続けているのだ。インテル傘下モービルアイや自社開発を進めるテスラなど、競合他社との開発競争も激化の一途をたどっており、高性能化はまだまだ続く見込みだ。

出典:NVIDIAプレスリリース
■NVIDIAの業績とオートモーティブ事業
高性能半導体需要を背景に業績は右肩上がり

パソコンやゲーム機向けのGPUなどで市場を席捲するNVIDIAの業績はほぼ右肩上がりが続いている。2019年1月期に売上高100億ドルを突破し、2021年1月期に167億ドル、2023年1月期に270億ドルを記録した。

2024年1月期(2023年2月~2024年1月)は第3四半期までに300億ドルを超えており、過去最高値をさらに更新することになる。

高性能半導体の需要は近年手堅く、NVIDIAの株価は2021年に年初から2.5倍ほどまで値を上げ、企業価値は時価総額1兆ドル規模まで膨れ上がった。2022年は株式市場全体の停滞も相まって2021年年初の水準まで下げたが、2023年に入って急伸が続き、2021年の山を大きく上回る1株500ドルの水準に達した。

【参考】NVIDIAの過去の業績については「次なる1兆ドル企業候補のNVIDIA、自動運転分野で全方位戦略」も参照。

時価総額は世界ランク6位の水準

2024年に入ってもさらに伸びており、現時点では時価総額1兆3,400億ドルとなっている。参考までに、世界の時価総額ランキングはトップのアップルが2兆8,700億ドル、マイクロソフト2兆8,400億ドルと続き、NVIDIAは6位となっている。テスラは現在7,400億ドルで8位だ。

セグメント別ではデータセンター向けが主力

こうしたNVIDIAの業績を支えているのは、膨大な数のエンドユーザーが顧客となるパソコンやゲーム機やデータセンター向けソリューションだ。

エンドユーザー向けでは、AI搭載パソコンの中核を担う最新の「GeForce RTX 40 SUPER」シリーズを技術見本市「CES 2024」で発表した。強化された画像処理能力により、ゲームや創作活動など新しいエンターテインメントの世界と体験を開発する力を提供する。ユーザーは生成AIアプリの波に備えることができるとしている。

データセンター関連では、Google Cloudが最新のNVIDIA L4 GPUとVertex AIを統合し、急速に拡大する生成AIアプリの開発環境を構築した。NVIDIA L4 Tensor コア GPUを提供する初のクラウドプロバイダーという。

このほか、Amazon Web ServicesやMicrosoft Azure、Oracle Cloud Infrastructureなどが、NVIDIA H100 Tensor コア GPUに基づく新製品・サービスを提供するパートナー企業となっている。

オートモーティブ向けは全体の2~3%

NVIDIAの売り上げは、データセンターが6~8割を占め、残りの大半はゲーミング向けだ。自動運転をはじめとしたオートモーティブ向けは、2024年1月期の第3四半期までの9カ月間で計約8億ドルとなっており、全体の2~3%ほどに過ぎない。NVIDIAにとって、まだまだ小さな市場なのだ。

ただ、NVIDIAは2023年、2028年までの6年間におけるオートモーティブ事業の取引額が110億ドルから140億ドルに増加したと発表している。市場の拡大とともに着実に数字を伸ばしていく見込みだ。

EVメーカーらが続々とNVIDIAソリューションを採用

2023年には、中国EVメーカーBYDが新型モデルにおいてNVIDIA DRIVE Orinの採用を拡大していくことを発表している。次世代のDynastyやOceanシリーズの複数モデルでDRIVE Orinの使用を拡大し、安全かつインテリジェンスな車両の市場投入を加速させる方針としている。

新興EVメーカーのXPengも、モデル「G6 Coupe SUV」のADAS向けにNVIDIA DRIVE Orinを搭載すると発表した。インテリジェント支援運転システム「XPENG Navigation Guided Pilot」を搭載し、ポイントtoポイントのレベル2を実現するという。

2023年には、台湾Foxconnとのパートナーシップも発表された。Foxconnが展開するオープンEVプラットフォーム「MIH」における開発を強化する狙いで、10月にはスマートカーの開発・量産化に向けたデータセンター「AIファクトリー」の構築を進めていくことも発表されている。

【参考】関連記事としては「鴻海系MIH、自動運転レベル2〜4対応のEVコンセプトカーを発表」も参照。

NVIDIA DRIVE Thorを搭載した自動運転フリート向けの次世代プラットフォームNVIDIA DRIVE Hyperion 9上でスマートカーを構築するほか、NVIDIA Isaac自律移動ロボットプラットフォーム上にスマートマニュファクチャリングロボティクスシステムを構築するなど、至るところでNVIDIAソリューションの導入を図っている。

このほか、MediaTekとの提携のもと、AIやグラフィックス用の新しいNVIDIA GPUチップレットIPを統合し、メインストリームの自動車用SoCを開発してOEMに提供していく計画なども発表されている。

ケースによっては、モビリティ企業がクラウド構築に向け導入したNVIDIAソリューションの売り上げがデータセンターセグメントに計上されていることもありそうだ。そうしたケースを踏まえると、オートモーティブ業界を対象とした売上比率は現時点でももう少し高いものと思われる。

【参考】AIファクトリーについては「米NVIDIAと台湾Foxconn、自動運転向け「AI専用データセンター」を建設へ」も参照。

オートモーティブ事業は今後急成長

自動運転分野で確固たる地位を築くNVIDIAだが、近年の傾向として顕著なのがEV勢による採用だ。前出のLi AutoやBYD、XPengをはじめ、NIO、Jidu Auto、WM Motor、ZEEKR、米Lucid、Faraday Future、Canoo、クロアチアのRimac Automobili、ベトナムのVinfastなど、NVIDIAを採用する企業が多くを占める。

電子制御化・コンピュータ化がスタンダードとなるBEVにおいては、NVIDIA製品による高速処理が必然的に求められることに加え、新興勢の多くは自動運転技術にも高い関心を示しており、高度なレベル2や自動運転の初歩となるレベル3開発に意欲的だ。

積極的にNVIDIA製品を取り入れ、高機能EVを市場に送り出すことで既存メーカーなどとの差別化を図っていく戦略が主流となっているようで、この傾向は今後も続きそうだ。

一方、自動車メーカーもメルセデスベンツやボルボカーズ、ポールスター、ヒョンデ、起亜、ジャガーランドローバーなどがNVIDIAとパートナーシップを結んでいる。レベル3の導入やレベル4開発に意欲的なメーカーが名を連ねている印象だ。

自動運転開発勢では、AutoXや百度、Momenta、WeRide、Pony.ai、DeepRoute.ai、TuSimple、Plus、Oxbotica、Wayveなど各社がNVIDIA製品を導入している。

このほか、LiDAR開発企業では米Luminar TechnologiesやCepton、Ouster、オーストラリアのBaraja、イスラエルのInnoviz Technologies、中国HESAI Technology、マップ開発企業ではNavinfoやTomtom、Mapboxなど、自動運転に関連する各領域においてもNVIDIAが浸透している。

すでに採用済みの各社は、自社の次世代モデルにNVIDIAの新モデルを導入するのがスタンダードだ。現行モデルとの親和性が高く、継続的な開発が容易になるためだ。

つまり、オートモーティブ事業におけるNVIDIAの顧客は一過性ではなく、基本的に常連となりNVIDIAの業績を押し上げる。加えて、今後は自動運転車のフリート化や量産車への採用が進んでいくものと思われる。

特に、レベル2+やレベル3といった量産車の市場は今後大きく伸びていくことが予想されており、それに伴いNVIDIAの売り上げが爆増する可能性が高い。

現在わずか2~3%のオートモーティブ事業だが、今後数年間で着々と数字を伸ばし、同社の株価にその業績が反映される日もそう遠くないはずだ。

■【まとめ】自動運転特需でさらなる成長に期待

半導体開発で確固たる地位を築いたNVIDIA。AI開発の進展とともにまだまだ業績を伸ばすことが予想されるが、そこに自動運転をはじめとしたオートモーティブ領域が加わることで、さらなる成長に拍車がかかりそうだ。

モービルアイ(インテル)や韓国サムスンといった競合他社の動向とともに、NVIDIAの2024年の動きに引き続き注目だ。

【参考】関連記事としては「拡大を続けるNVIDIAの顧客網!自動車産業、物流・小売業も」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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