次なる1兆ドル企業候補のNVIDIA、自動運転分野で全方位戦略

2022年1月期の売上高も過去最高更新へ



出典:エヌビディア社プレスリリース

EV大手テスラが時価総額1兆ドルを突破したニュースが記憶に新しいところだが、ある自動運転関連企業がこれに次ぐ大台に向け企業価値を高めている。米半導体大手のNVIDIAだ。

世界的な半導体不足が注目を集め、さまざまな産業で重用されている実態を再認識させられたが、自動運転分野も例外ではなく、最先端の半導体なくして開発の進歩は望めないといっても過言ではないほどだ。


この記事では、企業価値を高め続けるNVIDIAの業績を振り返りながら、自動運転分野における同社の取り組みに迫っていく。

■GPU開発で存在感を発揮

NVIDIAは1993年、グラフィックスチップの開発などを目的に現社長兼CEO(最高経営責任者)のJENSEN HUANG氏らが設立した。世界初の128ビット3Dプロセッサを開発するなど早くから高い開発力を発揮している。1998年にはTSMC(台湾セミコンダクター・マニュファクチャリング)と業務提携を交わし、ファブレス製造も本格化させている。

1999年に米ナスダック市場へ上場を果たした。また、この年に発表した「GeForce 256」で、同社は初めてGPU(グラフィックスプロセッシングユニット)という呼称を使用した。当時、GPUについて「1秒で最低1,000万回のポリゴンを処理することができる集積型座標変換、光源処理、トライアングルセットアップ、クリッピング及びレンダリングを有するシングルチッププロセッサ」と定義している。

その後もパソコンやゲーム機の高度化などを背景に業績を伸ばし、3dfx InteractiveやMediaQ、ULi Electronicsなど買収を重ねながら業界における地位を確固たるものへと変えていく。


エヌビディアのジェンスン・フアンCEO=出典:エヌビディア社プレスリリース
■NVIDIA DRIVEシリーズは2015年に発表

自動運転分野向けの開発も早くから進めており、2014年に自動車市場向けの高度GPUとして「Tegra K1」を発表した。従来のモバイル・プロセッサの10倍の処理能力を提供可能で、歩行者検知やブラインドスポット監視、レーン逸脱警告、交通信号認識などカメラを使用するADASのエンジンとして活用でき、「自動運転に必要なセンサーとカメラから供給され続ける膨大なデータ処理を実現する」としている。

翌2015年には、自動運転車の未来へ一歩近づける自動車用コンピュータとして「NVIDIA DRIVE」を発表した。自動運転の開発プラットフォームとなる「NVIDIA DRIVE PX」は、コンピュータビジョン機能をはじめ、開発が熱を帯び始めたディープラーニング機能を備えるなど、最新の開発成果を存分に活用できるモデルとなっている。

ここから自動運転分野への進出が本格化する。自動運転実験プロジェクト「Drive Me」を進めていたボルボ・カーズが2016年発表の「NVIDIA DRIVE PX2」を採用するなど、自動運転開発・実証に向けたソリューションとして注目度が一気に高まっていった。

▼NVIDIA DRIVE – Autonomous Vehicle Development Platforms|NVIDIA Developer
https://developer.nvidia.com/drive


出典:NVIDIAプレスリリース
■業績は右肩上がり、2022年1月期も過去最高を更新する可能性大

2010年代前半は年間売上高30億~50億ドル台で推移していたが、2016年1月期に初めて50億ドルを突破し、2017年1月期69億ドル、2018年1月期97億ドル、2019年1月期117億ドルと順調に数字を伸ばしていく。ディープラーニングによるAI需要の高まりなどが背景にありそうだ。

2020年1月期は109億ドルと前年から数字を落としたが、2021年1月期は167億ドルと大きく売上高を伸ばした。

2021年1月期(2020年1月27日~2021年1月31日)のセグメント別の業績は、データセンター事業が前年比124%増の67億ドル、ゲーミング事業が同41%増の77億ドルとなっている。一方、オートモーティブ事業は同23%減の5億ドルに留まった。

コロナ禍の影響による巣ごもり需要でゲーミング事業などが伸びる一方、外出規制などの影響でオートモーティブ事業は伸びを欠いた可能性がありそうだ。

2022年1月期の第1四半期は、データセンター事業が前年同期比79%増、ゲーミング事業が同106%増、オートモーティブ事業が同1%減、第2四半期は、データセンター事業が同35%増、ゲーミング事業が同85%増、オートモーティブ事業が同37%増となっており、オートモーティブ事業も回復傾向がうかがえる。通期では、過去最高売上高を更新する勢いだ。

エンドユーザーを顧客とするゲーミング事業などに比べるとまだまだオートモーティブ事業の規模は小さいが、その分伸びしろが大きいと言える。自動運転市場の大半はまだ実証段階であり、本格実用化のフェーズを迎えるのは数年後だ。また、自家用車におけるADASの高度化やレベル3の搭載も今後進展するものと思われ、NVIDIAソリューションの需要が今後右肩上がりを続けていく可能性は非常に高いのだ。

■株価は上昇トレンド、1兆ドルも目前に?

NVIDIAの株価は2014年ごろまで概ね10ドル台で推移していたが、ディープラーニングをはじめとしたAI開発需要とともに大きく数字を伸ばす。2015年に30ドル台を突破すると、翌2016年に100ドル台を超え、2017年には200ドル台に達するなど、急激な伸びを見せた。

その後2019年までは伸び悩み、一時130ドルを割ったものの、2020年に再び大きな上昇トレンドにのった。年初2020年1月2日の終値239ドルから12月31日には522ドルと2倍強の伸びを見せ、2021年も7月に800ドル台まで上昇を続けた。

7月20日に1株を4株とする株式分割が行われ株価は186ドルとなったが、11月5日の終値297ドルとまだまだ上昇トレンドは続いているようだ。

出典:NASDAQ公式サイト

同日付の時価総額は7,438億ドルとなっている。単純計算だが、株価が400ドル付近まで上昇すれば1兆ドル規模となる。2020年に続き2021年も2倍超の伸びを見せており、この勢いが続けば2022年前半にも1兆ドル企業の仲間入りを果たすことになりそうだ。

なお、2021年11月現在における1兆ドル企業は、マイクロソフト、アップル、サウジアラムコ、アルファベット、アマゾン、テスラ、メタ(旧Facebook)の7社で、メタは一時的に1兆ドルを割り込んでいる。次点の8位がNVIDIAだ。

■自動運転関連のソリューションは?
2019年12月:「NVIDIA DRIVE AGX Orin」を発表

NVIDIAは2019年12月、自動運転向けの最新プラットフォーム「NVIDIA DRIVE AGX Orin」を発表した。レベル2からレベル5まで拡張可能なアーキテクチャの互換性が高いプラットフォームで、前世代のXavier SoCの7倍近くに相当する1秒当たり200兆回の演算能力を実現するという。

これまでにSAICやNIO、Li Auto、ボルボ・カーズ、Einride、Kodiak、Plusなどが次世代車の開発に向けOrinの採用を決定している。搭載車種は高度なレベル2車両からレベル4までさまざまなモデルが予定されている。

2021年4月:「NVIDIA DRIVE Atlan」を発表

2021年4月には、2025年モデルを対象とした次世代AI対応プロセッサ「NVIDIA DRIVE Atlan」を発表した。演算能力は1,000TOPS(毎秒1000兆回)を実現するなど、Orinからさらなる進化を遂げている。

「DRIVE OS」や「NVIDIA DriveWorks」なども

ソフトウェア関連では、DRIVEソフトウェアスタックの基礎となる「DRIVE OS」や、DRIVE OS上で動作するミドルウェア機能を提供する「NVIDIA DriveWorks」、認知レイヤーやマッピングレイヤー、プランニングレイヤーをはじめ、実世界の運転データでトレーニングされたさまざまなDNNで構成される「DRIVE AV」、車室内をセンシングするオープンソフトウェアプラットフォーム「DRIVE IX」などが用意されている。

センサーによる認識をはじめ、自己位置推定やマッピング、プランニングや制御、ドライバーモニタリング、自然言語処理など、さまざまな最先端アプリケーションを効率よくビルドし、展開していくことができる。

ハードとソフト双方を展開

こうしたハードウェア、ソフトウェア双方に及ぶソリューション展開は、開発段階から実用化段階まですべてのフェーズを通して活用できる。また、自動運転タクシーやバス、トラック、自動走行ロボット、自動バレーパーキングなど、広範な開発目的にも対応可能だ。

これらのソリューションを活用するパートナー企業は370社を超えており、OEMをはじめ自動運転開発スタートアップ、LiDAR開発企業、位置推定技術開発企業などその裾野は非常に広い。NVIDIA製品を利用することで他社製品との互換性が高まることから、裾野の拡大はまだまだ続きそうだ。

■【まとめ】オートモーティブ事業が同社を成長させるエンジンに

今のところデータセンター事業とゲーミング事業がNVIDIAの主力事業となっているが、オートモーティブ事業が新たな柱に成長することで1兆ドル企業としての地盤が固まる。

繰り返しになるが、自動運転市場の本格化はこれからだ。この有望市場に対し、半導体を武器に全方位戦略で立ち向かうNVIDIAの躍進は今後まだまだ続きそうだ。

【参考】関連記事としては「世界で自動運転トラックの開発・実証加速!「黒子」はNVIDIA」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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