アマゾン、自動運転用クラウドで「次の一攫千金」へ Googleとの競争過熱

BWMはAWS採用、業界を席捲するのは……?

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独自動車メーカーのBMWグループが、自動運転プラットフォーム実現に向けAWSを推奨クラウドプロバイダーに採用した。AWSは、米アマゾン子会社のAmazon Web Services(AWS)が展開するクラウドサービスだ。

コネクテッドカーや自動運転車は、膨大なデータを生成する。また、オーナーカーのソフトウェアデファインド化が浸透し始めており、クラウドを活用したソフトウェア開発・更新などは今後スタンダードなものとなっていくことが想定される。

クラウドコンピューティングサービスを提供する各社は、自動車・自動運転業界にどのようなアプローチを仕掛けているのか。BMWとAWSの取り組みを皮切りに、各社の動向に迫ってみよう。

■BMW×AWSの取り組み
BMWは2015年にAWSの活用をスタート

BMWグループは、2015年にAWSの活用を開始している。両社は安全な商用標準クラウドソリューションの開発をはじめ、車両データ処理に向けた革新的テクノロジーの開発に向けパートナーシップを結んだ。BMWの音声アシスタントなどもAmazon Alexaテクノロジーに基づいて開発されたものだ。

BMWによると、2023年現在すでに2,000万台を超える車両のデータを収集しており、これらのコネクテッド車両はBMWクラウドに接続され、一日当たり100億件もの情報を送信しているという。この主要なITインフラとして、AWSとのパートナーシップが活用されているとしている。

BMWは自社保有のサーバーからデータレイクをAWSに移行し、スケールメリットを生かして世界中のユーザーを迅速かつ柔軟にサポートするデータ処理能力を手に入れた格好だ。

両社は2022年、次世代モビリティにおけるデータの可能性を最大限に活用することを目的に、革新的クラウドテクノロジーの開発に向け戦略的提携を強化すると発表した。車両データを安全に管理するため、市販の既製クラウドソリューションの開発でも協力していく。

自動運転開発にも本格的にAWSを活用

そして2023年、自動運転プラットフォームの実現に向け、AWSを推奨クラウドプロバイダーに選定し、AWSを活用した次世代先進運転支援システム(ADAS)を開発し、2025年に市場投入する予定の次世代車両「ノイエ・クラッセ」に実装していく計画が明かされた。

クラウドベースの新システムは、AWS上でBMWの既存のクラウドデータハブを用い、AWSのコンピューティングや生成AI、IoT、機械学習、ストレージなどの各種機能を活用し、高度に自動化されたシステムを提供するという。

AWS上で次世代ADASプラットフォームを開発することで、BMWはユーザーの要望に迅速に応えながら、運転体験を向上させる新機能を容易に提供できるようになる。

BMWは米半導体大手Qualcomm(クアルコム)のオープン・モジュールで構成された「Snapdragon Rideプラットフォーム」をベースに次世代自動運転システムを共同開発しており、Ride Visionの統合ソフトウェアスタックによって車両周囲360度の検知を可能にしているが、自動運転プラットフォームをクラウド上に構築することで、グループの車載ソフトウェアチーム内における開発の孤立化を回避できるほか、サプライヤーとのグローバルな連携を促進し、自動運転のイノベーションを加速させることができるようになる。

BMWは、自動運転機能の開発において生成・使用されるデータ量の大幅増加に対処するため、引き続きAWSを活用して機能拡張を進めていく計画としている。

■自動車・自動運転車とクラウドサービス
コネクテッド化で膨大なデータ処理が必須に

1台の自動運転車両が1日に生成するデータは、数テラ~数百テラバイトに及ぶと言われている。こうしたデータ量は年を追うごとに増し、母体となる車両数もどんどん増加していくことが見込まれる。

また、自動運転車ほどではないにしろ、コネクテッド化が進むオーナーカーのデータ量も膨大だ。コネクテッドカーが将来、数千万~数億台規模に達すれば、データ総量は桁違いなものとなる。

こうした自動車や自動運転分野は、クラウドサービスの機能をフル活用する格好の素材と言える。クラウドの活用によって、膨大な量のデータ処理や開発ツールの利用、開発中のプラグラムやソフトウェアの共有などを行うことが容易になる。

データの収集や保存をはじめ、ソフトウェアエンジニアリングを最適化する面でも導入するメリットは大きい。クラウドで改良したソフトウェアをOTA(Over the Air)で各車両に配信し、クルマの機能改善を図っていくソフトウェアデファインドがすでにスタンダード化の兆しを見せ始めており、クラウドやサーバーの活用は今後大きく伸びていくことが予想される。

【参考】自動運転車が生成するデータについては「1日1台767TB!?自動運転車のデータ処理で「驚愕の数字」」も参照。

アマゾンはトヨタをはじめ、ZooXなどの新興勢も採用

クラウドコンピューティングサービスを提供する大手各社はこうした時代を見越し、大口ビジネス獲得に向けすでに動き出している。

世界シェア1位のアマゾン(AWS)は、自動車や自動運転向けにソフトウェアデファインドビークルをはじめ、自動運転開発、製品エンジニアリング、サプライチェーン、コネクテッドモビリティ、デジタルカスタマーエクスペリエンスなど、さまざまなユースケースに対応可能な数々のソリューションを提供している。

ソフトウェアデファインドビークル関連では、サイバーセキュリティやOTAアップデート、車両データの収集、自動運転開発関連では、ソフトウェア開発やデータ収集、データラベリングと匿名化、データ管理・処理・分析、モデルとアルゴリズム開発、シミュレーションと検証――といった具合だ。

顧客には、BMWのほかトヨタやデンソー、ホンダ、フォルクスワーゲングループ、ボッシュ、アウディ、ボルボグループ、ルノー、ジャガーランドローバーなどが名を連ねる。WeRideやMomenta、Zoox、aiMotive、TuSimpleなどの自動運転新興勢や、Rivianなどの新興EVメーカーもAWSを活用している。

トヨタ関連では、コネクテッド分野でToyota ConnectedがAWSを活用しているほか、TRI(Toyota Research Institute)がクラウド内でハイパフォーマンスコンピューティングを提供する「Amazon EC2 P3 インスタンス」を用い、トレーニング時間を短縮しているという。

近々では、国内スタートアップTuringが2023年9月、AWSジャパンの「AWS LLM 開発支援プログラム」に採択されたと発表している。大規模言語モデルの開発者を支援するプログラムだ。

Azureも採用続々、Cruiseには出資も実施

米マイクロソフトが展開する世界シェア2位の「Microsoft Azure」も、コネクテッドカーイノベーションのアクセラレータとして、また高度なADASや自動運転システム機能の開発・テスト面で存在感を発揮している。

自動車業界向けの「Azure ハイパフォーマンスコンピューティング」をはじめ、自動運転領域のスタートアップ企業を支援するために特別設計した限定プログラム「Microsoft for Startups: 自動運転」、開発者らがインテリジェントな位置情報やマップベースのエクスペリエンスの構築を可能にする一連の地理空間マッピングサービス「Azure Maps」などを提供している。そのほか、マイクロソフトの技術を活用したイスラエル企業Cognata(コグナタ)の自動運転シミュレーターなどもある。

自動運転開発に限らないものの、顧客にはトヨタや日産、メルセデス・ベンツ、BMW、ボルボカーズなどがソリューションを活用している。また、Cruiseはマイクロソフトと戦略的提携を交わし、マイクロソフトから出資を受けるとともにAzureを活用していく計画が明かされている。

【参考】マイクロソフト×Cruiseについては「GM&Cruise、自動運転タクシー実現へ前進!Microsoftと提携、Azure採用」も参照。

グーグルは車載OSとの連携がカギ?

グーグルは、世界シェア3位のクラウドコンピューターサービス「Google Cloud Platform(GCP)」を展開している。

自動車用ソリューションでは、次世代向けのデジタルカスタマーエクスペリエンスとスマートサービスを提供する「カスタマーエクスペリエンス360」や「ストリーミング3Dと拡張現実(AR)」、「ディーラー/OEMの統合とエコシステム支援」、「高度なマーケティング分析」などをソリューション化している。

コネクテッドカー向けには、「データプラットフォーム」や「テレメトリーとOTAソフトウェアの更新」、「業界向けエッジインテリジェンス」、「ソフトウェア定義自動車を可能にする開発ツールチェーン」、「インフォテインメントソリューション」を提供している。

自動運転などのイノベーション向けには、「ADAS開発」や「自動運転」をはじめ、「工場のパフォーマンス分析」「ハイパフォーマンスコンピューティングによるシミュレーション」などを提供している。

「自動運転」には、あらゆるユースケースに対応したフルマネージドの機械学習ツールを使用できるVertex AIや、AIプラットフォームデータラベリングサービスなどが含まれている。

顧客には、トヨタやフォルクスワーゲン、三菱自動車、フォード、ルノーなどの自動車メーカーや、CruiseやNuroといったスタートアップも名を連ねている。

グーグル自身、関連企業のWaymoが自動運転開発を行っており、競合他社との関係が気になるところだが、Androidをベースにした車載OSとのコンビで相乗効果を発揮すれば、大幅にシェアを高める可能性も考えられそうだ。

■【まとめ】今後の戦略次第でシェアが大きく変わる?

すでにクラウドコンピューティングサービスの世界トップ3は、コネクテッド分野をきっかけに自動車業界に広く食い込んでおり、大手自動車メーカーが複数社のサービスを活用するのも珍しいものではないようだ。

コネクテッドカーにおけるクラウドの活用は、そのまま自動運転における活用に応用できるため、メーカー各社のメインパートナーをめぐる攻防が今後激化する可能性がありそうだ。

また、自動運転サービス実装で自動車メーカーの先を行くスタートアップも続々誕生しており、こうした面々をどのようにフォローしていくか、各社の戦略次第で勝敗が大きく揺れていきそうだ。

アマゾンをはじめとするクラウドコンピューティングサービス各社が今後自動運転業界にどのようなアプローチを仕掛けていくのか、要注目だ。

【参考】関連記事としては「自動運転車×クラウドサービス、勝つのはどの企業だ!?」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)



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