海事産業におけるイノベーション創出を目指すMarindows株式会社(本社:東京都中央区/代表取締役社長CEO:末次康将)が、世界初の全自動EV船エコシステム「DroneSHIP」と海洋版スマートシティ「OceanWISE」の2大プロジェクトを開始したことを2023年3月3日に発表した。
同社はCASEの潮流の真っ只中にある自動車業界同様、海上におけるCASEを推進していく構えだ。この記事では、Marindowsとはどのような企業なのか、その概要とともに「海のCASE革命」に迫っていく。
記事の目次
■Marindowsの概要
海上のDX化に向け海運事業者らが「e5ラボ」設立
Marindowsは、海洋OS「Marindows」の開発など海上のDX化推進を目的に2021年3月に設立された。その仕掛人は、旭タンカーや商船三井などの海運事業者だ。
旭タンカー、エクセノヤマミズ、商船三井、三菱商事の4社は2019年、EV(電気推進)船の開発や普及促進を通じた新しい海運インフラサービスの構築に向け戦略的提携を交わし、ジョイントベンチャー「e5ラボ(イーファイブラボ)」を設立した。船舶のEV化・デジタル化を促進し、海運業が抱える課題解決に取り組むソリューションプロバイダーだ。
船舶の電動化やEV船プラットフォームの開発をはじめ、自動化技術や船内通信環境の改善など、海事産業におけるイノベーションを通じて「electrification=電気化」「environment=環境」「evolution=進化」「efficiency=効率」「economics=経済性」の5つの「e」を社会に提供することを目的としている。
その過程で、通信、DX、AI、ロボティクスをどのような船でも使えるようパッケージ化した総合デジタルプラットフォームとして、海洋OS「Marindows」の開発に着手した。船舶をロボット化するのに必要な要素をパッケージにしたものだ。
海洋OSの開発普及に向けMarindows設立
このMarindowsの開発と普及促進に向け、e5ラボが2021年3月に設立したのが同ソリューションを社名に据えたMarindowsだ。
海事産業は、通信環境整備の難しさなどを背景にDX化が進んでいないが、2022年から次世代衛星による海上ブロードバンド通信サービスが開始されるなど、徐々に環境は変わり始めているという。
このような中、通信技術やAIなどを掛け合わせた情報通信革命の力を取り入れ、進化と拡張が可能なデジタルプラットフォーム「Marindows」を起爆剤とし、海事産業が抱える社会や環境、経済課題の解決を図るとともに、出資会社のe5ラボが培ってきたあらゆる業界を牽引するパートナー企業とともに海事産業に新たな価値・市場を創造するとしている。
シードラウンドには16社が参加
Marindowsは2022年8月、シードラウンドの資金調達を完了したと発表した。総額6億円で、投資家には、旭タンカーや商船三井のほか、IHI原動機や鶴見サンマリン、Wärtsilä Voyage、東京汽船、古野電機、井本商運、三井住友ファイナンス&リース、上野トランステック、三井住友トラスト・パナソニックファイナンス、カシワグループ、三菱造船、ソフトバンクなどが名を連ねている。
この資金調達により、以下を推進していく。
- ①内航船向け喫緊の課題を解決するためのサービス開発・提供
- ②小型旅客船向けの事故ゼロに向けた衛星通信サービスの販売
- ③海洋の環境・生産性・魅力を高めるための海洋OS「Marindows」の設計
②では、パートナー企業と共同で静止衛星を使った海洋向け衛星電話サービス「SHIP365」を開始する。日本の全海域を通信圏内とし、安価な通信料金で小型船の安全性向上を図っていく構えだ。
■DroneSHIPとOceanWISEの概要
標準化・モジュール化・量産化を実現する「DroneSHIP」
自動車業界におけるEV同様、EV船普及に向けた課題の1つに「価格」が挙げられる。Marindowsによると、EV船の価格は既存船に比べ1.5〜2.0倍ほどの差があり、この価格が普及における大きな妨げになっているという。
EV船の普及加速に向けては、以下のことを命題に掲げる。
- ①EV船の価格をドラスティックに下げる。既存船比15%以内、将来的には同等以下
- ②既存船も含め産業構造を改革することで価値を向上させ、圧倒的な稼ぐ力を持たせる
これらを達成するためのソリューションが「DroneSHIP」だ。
DroneSHIPは完全電動で、EV車などにおける電動化技術を活用することでモーターや蓄電池などは既存技術のみで構成することができるという。既存船と同等以上の航続距離や速力を実現するほか、仕組み・システムがシンプルとなるため、自動化や省人化、遠隔化を図りやすい利点もあるという。
その上で、徹底した標準化・モジュール化・量産化を図ることでコスト低減を実現するとともに、アップデート環境も整えていく。同じシステムを複数束ねることで、700キロワットの小型船から8,000キロワットの大型船まで同一モジュールで対応できるという。
製造に向けては、自動車業界におけるテスラやBYDのようなアプローチにならい、既存船の延長線上ではなく、船のスマホ化・船版CASE実現に向けゼロベースであるべきEV船の設計・開発をパートナーとともに進めていく。
「e-Platform1.0」と「i-Platform1.0」
徹底的な標準化・モジュール化・量産化を可能にするEV船専用として設計・開発された船体は、統合電動プラットフォーム「e-Platform1.0」や統合DXプラットフォーム「i-Platform1.0」により、大量生産とコスト破壊、進化を加速していく。
e-Platform1.0は、蓄電池やモーター、インバーター、制御など、EV化に必要なすべてをモジュール化・標準化する。また、遠隔・自動運転技術によって熟練機関士などの乗船を不要にする。第一世代のEV船と比べ、サイズ・重量を3分の1以下、価格を2分の1以下、効率20%向上を目指すとしている。
i-Platform1.0は、スマホ化EV船に向け船のITアーキテクチャを根本から変える基幹DXシステムで、高速通信や船内通信、セキュリティ、クラウド連携のすべてをモジュール化・標準化する。
海洋データ連携基盤「OceanWISE」
また、EV船をスマートフォン化して「船版CASE」を引き起こし、次世代海洋産業の創出に導いていくことも重視しており、それを可能とするのが海洋データ連携基盤「OceanWISE」だ。
これまで分野ごとに分断されていたデータをOceanWISEに集約することで、業界共通の課題である船舶の安全性向上や船員の労働環境改善をはじめ、カーボンニュートラル促進や自動運転社会実現に向けた新しい価値とサービスの実現を加速させることができるという。
DroneSHIPが創出する「EV船を起点とした次世代海洋産業エコシステム」の価値と市場を、OceanWISEによって他産業や海外、そしてスマートシティのような他のインフラへとスムーズかつスピーディに拡張させていくイメージだ。
商用運航は2026年ごろを予定
DroneSHIPは、量産型全自動EV船の実証モデル・プロトタイプとなる「DroneSHIP-Zero」の設計・開発を2024年半ばまで行い、2025年半ばごろまでに建造し、試験・評価を行う予定だ。
また、推進735キロワットの内航沿海船となる499GTタンカーと貨物船の開発や、推進1,200キロワット前後の2000GT ROROフェリー(内航)などの開発も並行して進め、2026年ごろの商用運航を目指す構えだ。
■【まとめ】CASEの波を海上へ
自動車業界の潮流となっているCASEの波を海上でも起こし、イノベーションを促進していく大掛かりなプロジェクトだ。
蓄電池やモーターなどは自動車業界と技術を共有可能であることから、業界の垣根を超えた連携や協業、新規参入が図られる可能性も考えられる。また、船のデジタル化により自動化も推進しやすくなるほか、通信技術により可能となるサービス・ソリューションも続々生み出されていくだろう。
同社の取り組みが今後どのように海事産業に変革をもたらしていくことになるのか。要注目だ。
【参考】関連記事としては「瀬戸内海と大阪、自動運転船で接続へ!エイトノットが資金調達」も参照。