自動運転化で「飲酒運転ゼロ」のXデー

レベル5登場で実現は早くとも2030年代か



厳罰化されてもなお根絶されることのない飲酒運転。未だに悲惨な事故が毎日のようにメディアを駆け巡っている。


ドライバーのモラルに任せるだけでは根絶は難しく、アルコール・インターロックのような技術を積極導入するなど、テクノロジーの力を駆使するのも重要だ。

飲酒運転対策となり得るテクノロジーとしては、自動運転技術も貢献するかもしれない。完全自動運転が普及すれば手動運転の必要性がなくなるためだ。

では、自動運転技術で飲酒運転がなくなる日は来るのか。来るとすれば、それはいつ頃になるのか。この記事では、飲酒運転対策の観点から自動運転の動向に迫っていく。

■飲酒運転の状況
道交法改正で飲酒運転は厳罰化

飲酒運転は2007年及び2009年に施行された改正道路交通法(施行令改正)により厳罰化され、正常な運転ができないと判断される酒酔い運転は5年以下の懲役又は100万円以下の罰金、酒気帯び運転は3年以下の懲役又は50万円以下の罰金の刑事罰が科される。


これとは別に、行政処分として酒酔い運転は点数35点で免許取り消しかつ欠格期間3年、酒気帯びは呼気1リットル中のアルコール濃度0.25ミリグラム以上は点数25点で免許取り消しかつ欠格期間2年、0.15ミリグラム~0.25ミリグラム未満は点数13点で免停90日となっている。

このほか、酒類の提供者や同乗者なども罪に問われる場合がある。

減少傾向にある飲酒運転だが、取り締まり件数はなお2万件弱に及ぶ

大きく報道されることが多くなったため飲酒運転の事故や取り締まり情報を目耳にする機会が多くなったが、飲酒運転による交通事故件数は、社会問題視され始めた2000年ごろをピークに減少傾向にある。ピーク時には年間2万件を超えていたが、厳罰化された2009年には5,726件となり、それ以後も減少が続き2021年には2,198件となっている。ピーク時の約10分の1だ。

なお、上記はあくまで事故件数であり、2021年に道交法違反として取り締まりを受けた件数は、酒酔い運転490件、0.25以上の酒気帯び1万4,546件、025未満の酒気帯び4,765件で、飲酒運転全体では1万9,801件に上る。


減少傾向にあるとはいえ、一日平均50件以上が取り締まりを受けている計算だ。実態としては、恐らくその数十倍、あるいは数百倍もの飲酒者が日夜運転している恐れがある。

■飲酒運転対策の技術
アルコール・インターロックの注目度が高まる

現在、バスやトラックなどの運送事業者をはじめ、白ナンバーを使用する一定規模の安全運転管理者選任事業所にもドライバーのアルコールチェックを行うことが義務付けられている。

呼気によるアルコールチェックを通過しないとエンジンをかけることができない車載装置「アルコール・インターロック」なども製品化されており、一定の成果を上げている。

ただ、こうしたチェック体制を通過後、管理下外で飲酒する職業ドライバーもわずかだが存在する。自家用車を運転する一般ドライバーであればチェック体制そのものがなく、監視の目が行き届かないのが現状だ。

米国各州など、アルコール・インターロックの装着を義務化する法整備などを進める動きもある。飲酒運転違反者は、アルコール・インターロック装着車両しか運転できないようにする規制だ。日本の場合、酒酔い運転でも3年経過すれば免許の再取得が可能になる。こうした制度は有効かもしれない。

強制的にハンドルを握らせない仕組みが必要

アルコール・インターロックは間違いなく有効な手段だが、協力者がいればチェックをかいくぐることができるなど、抜け道もある。このため、顔認証システムと合わせチェックするシステムの開発なども進められているようだ。

飲酒運転対策には、とにかく飲酒者に強制的にハンドルを握らせない仕組みが必要なのかもしれない。

■飲酒運転対策としての自動運転技術
自動運転システムがお抱え運転手に?

ここから話が飛躍するが、高度な自動運転技術が実用化される時代が到来すれば、飲酒運転をなくすことができるかもしれない。自動運転は、人間のドライバーに代わりって自動運転システムが車両周囲の監視やハンドル・アクセルといった車両制御を全て行う。

言わば、お抱え運転手がいるようなイメージだ。自動運転システムの能力によるが、高度なものは走行するエリアや道路の種別、速度、環境などによる制限をあまり受けずに自動運転が可能となるため、飲酒したオーナーを送迎することができる。

こうした乗用車が市場化されれば、飲酒運転は一気に減少するのではないだろうか。

実用化済みのレベル3では飲酒不可

自家用車として現在実用化されているのは、自動運転レベル3技術だ。これは、一定条件下、例えば好天時の高速道路を時速80キロ以下で走行している場合――など、一定条件を満たした場合に自動運転が可能になるシステムだ。この条件を運行設計領域(ODD)と言い、それぞれの自動運転システムごとに設定される。

ただし、ODDの条件を満たしていても、何らかの理由で自動運転システムが走行を継続できなくなった場合、システムからドライバーに手動運転の要請が行われ、ドライバーはこの要請に直ちに従わなければならない。

つまり、ODD外を走行する際を含め、ドライバーの存在が前提となっているため、レベル3では飲酒は不可能ということになる。

【参考】ODDについては「自動運転とODD(2022年最新版)」も参照。

レベル4自家用車も基本的には飲酒できない

では、自動運転レベル4ではどうか。レベル4も、レベル3同様一定条件下に限って自動運転が可能になるが、レベル3との違いは、ODD内において万が一システムが作動継続困難になった場合も、システムが責任をもって車両を安全な場所に停止させるなど、走行を完結する点だ。ODD内を走行する限り、ドライバーは運転操作を一切行わなくても良い。

仮に、居酒屋などの飲酒場所から自宅までの道のり全てがODDに含まれている場合、ドライバーは終始運転操作を行わなくても良いため、飲酒しても自家用車に乗ることができるように思える。しかし、ドライバーが必ずしもODD内のみを走行するとは限らない。途中でODD外のコンビニに手動運転で向かうことも否定できないためだ。

道路交通の安全を確保する上では、ドライバーの善意に任せた制度設計を行うことはできないため、レベル4でも基本的に飲酒運転は禁止される可能性が高い。

なお、自家用車におけるレベル4は、イスラエルのモービルアイが早ければ2024年にも中国で市販化する計画を打ち出している。

【参考】モービルアイの取り組みについては「自動運転で未知の領域!「市販車×レベル4」にMobileyeが乗り出す」も参照。

レベル5では飲酒が可能に

では、自動運転レベル5ではどうか。レベル5は自動運転における最高レベルで、ODDに左右されることなく自動運転を行うことができる。人間のドライバーが運転可能な状況を全て網羅しているため、車両にはハンドルやアクセルなどの手動制御装置は必要なくなり、ドライバーは完全に運転から解放される。

このレベルに達すれば、飲酒状態でも自家用車に乗ってあちこち走行することが可能になるものと解される。

ただし、現状の技術では開発は困難とされており、実用化は早くとも2030年代以降になるものと思われる。

自動運転サービスが飲酒運転撲滅に貢献

こうした現状を踏まえると、自動運転技術によって飲酒状態で自家用車の利用が可能になるのはまだまだ先のこととなるが、話はこれで終わらない。タクシーの自動運転化だ。

サービス用途の自動運転車であれば、走行エリアを限定する形でODDを設計しやすいため、すでに米Waymoなどが実用化を実現している。

無人化技術は、職業ドライバーに関わるコストを大きく減少させることができる。運営コストの多くを占める人件費を抑制できれば、運賃を大幅に低下させることも可能になり、気軽に利用しやすくなる。最終的に運賃を10分の1まで低下させることが可能になるとする調査結果なども発表されている。

運賃が安くなれば、リスクを冒してまで無理に自家用車で移動せず、自動運転サービスを利用しようと思う人は多いはずだ。飲酒運転撲滅とはいかずとも、一定の効果はあるものと思われる。

■【まとめ】Xデーは2030年ごろ……?

自家用車においては、レベル5の登場は早くとも2030年代となる。ただ、非常に高度なレベル4が完成し、利用ルールが設けられれば飲酒状態でのドライブも可能となるかもしれない。

一方、レベル4の自動運転タクシーはすでに海外で実用化されており、日本でも2025年ごろを目途に社会実装を目指す動きがある。しかし、既存のタクシー事業との兼ね合いやイニシャルコストなどを踏まえると、しばらくは低運賃にならない可能性が高い。

ただ、ひとたび社会実装が始まれば、技術やサービスは飛躍的な進化を遂げていくことになる。もしかしたら、2030年ごろには移動サービスの低運賃化が実現しているかもしれない。また、自家用車におけるレベル4技術にもイノベーションが起こっている可能性が考えられる。

いずれにしろ、自動運転技術が交通事故の低減に大きな効果を発揮することは言うまでもない。早期の本格実用化に期待したいところだ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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