海外輸出、「原発」から「交通ソフトインフラ」の時代に

国が協議会、MaaSやAIオンデマンド交通を想定



出典:政府インターネットテレビ

MaaSやAIオンデマンド交通をはじめとした交通ソフトインフラの海外展開に向け、国が大きく動き出したようだ。

日本国内をはじめ世界各国でCASEやMaaSの潮流が加速しており、各国の技術は徐々に国境を越え始めている。日本も国内技術の海外展開をバックアップし、国際競争力の強化を図る構えだ。


この記事では、国の方針や国土交通省の取り組みなどを紹介し、今後の国際的なビジネス展開の行方に迫っていく。

■日本の取り組み
インフラシステム輸出に注力

国は2013年、インフラシステムの海外展開支援に向け経協インフラ戦略会議を設立し、2013年から2020年を対象とした「インフラシステム輸出戦略」、これに続く2025年までの「インフラシステム海外展開戦略2025」を策定した。

戦略では、ユーティリティ、モビリティ・交通、デジタル、建設・都市開発、農業・医療・郵便に区分し、分野別にアクションプランやKPIなどを設定して計画的に取り組んでいる。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)
モビリティ・交通分野における取り組み

モビリティ・交通分野は、鉄道、道路、港湾、航空・宇宙、船舶・海洋開発、自動車技術などで構成される。分野別アクションプランにおいては、これまでに計画ステージの案件6件、受注・成約ステージの案件26件が登録されており、推計総額は8兆円に上るという。


案件としては、ダイナミックマップ基盤(DMP)による北米・欧州の高精度デジタル道路地図整備事業(JOIN/海外交通・都市開発事業支援機構が支援)や、三菱商事によるエジプト・カイロの地下鉄向けの鉄道車両納入(JICA/国際協力機構が支援)、テラドローンによる欧州の無人航空機運航管理システム整備事業(海外交通・都市開発事業支援機構が支援)などがある。

JOINは、従来型の交通・都市開発分野に加え、自動運転などの次世代モビリティをはじめとした今後の発展に期待される分野についても積極的に支援を行っており、スタートアップを含めた日本企業が持つ優れた技術の世界展開を推進している。

今後の展開

2022年6月に改訂されたインフラシステム海外展開戦略2025の追補版では、スマートシティやMaaS、AIオンデマンド交通など交通ソフトインフラに係る情報の提供や、案件形成調査・実証実験への支援、相手国政府への働きかけなどを引き続き推進するとともに、海外での横展開や日本への逆輸入、大量生産への移行、国際標準の戦略的な活用、事業モデルの実証も視野に入れていく方針が掲げられている。

▼インフラシステム海外展開戦略2025(令和4年6月追補版)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keikyou/dai54/infra.pdf


■交通ソフトインフラの海外展開に向けた国土交通省の取り組み
インフラシステム海外展開行動計画2022を策定

インフラシステム海外展開戦略2025補正版を受け、国土交通省は2022年6月に「国土交通省インフラシステム海外展開行動計画2022」を策定した。鉄道や港湾、航空、海事、物流、交通ソフトインフラなど11分野においてインフラシステムの海外展開を推進していく内容だ。

▼国土交通省インフラシステム海外展開行動計画2022
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001486887.pdf

交通ソフトインフラ分野では、2021年度にアセアンをはじめとする海外のMaaSやAIオンデマンド交通などの交通ソフトインフラに係る政府計画や法規制といった基礎情報に加え、競合国企業の動向や海外における成功事例、支援ツールに係る調査を実施し、これらの知見共有を図った。

2022年度は、交通ソフトインフラ海外展開に向けた官民協議会を設置し、交通の枠にとらわれない幅広い企業間、官民の情報共有や意見交換などを通じて案件形成を促進する。

また、トップセールスや要人招請、セミナーなどの機会を活用し、他分野との連携や交通空白地における地域交通の維持・活性化に関する取り組みなどMaaSに係る実証実験を通じて得られたノウハウの紹介や情報発信を進めていく。

このほか、企業の関心を踏まえ、国土交通省案件の発掘調査やJICA協力準備調査などにより、実証実験などの調査を行うとともに相手国政府とのネットワークを構築・強化し、案件形成を図っていく。

交通ソフトインフラ海外展開支援協議会を設置

国交省は、技術と意欲のある企業の海外進出を支援する場として「交通ソフトインフラ海外展開支援協議会(JAST/Japan overseas Association for Smart Transport)」を設置し、2022年9月に第1回目の会合を開催した。

同省や公的支援機関会員、事業者が一堂に会し、情報共有や意見交換、対象国の政策・制度などの調査や情報提供などを進めていく。事業者は、運輸や物流関係企業、情報通信企業、総合商社など63社、公的支援機関会員として、JICAやJOIN、JBIC(国際協力銀行)、JETRO(日本貿易振興機構)、JICT(海外通信・放送・郵便事業支援機構)、NEXI(日本貿易保険)などが参加している。

出典:国土交通省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

会合では、各公的支援機関会員がこれまでの取り組みや事業概要などを紹介した。JETROは、日本企業と海外企業の国際的なオープンイノベーション創出のためのビジネスプラットフォーム「J-Bridge」をはじめ、日・アセアンにおけるアジアDX促進事業の案件などを紹介した。

日・アセアンにおけるアジアDX促進事業では、これまでに豊田通商によるカンボジアのアンコール遺跡群における観光MaaSデジタルプラットフォームの開発・実証事業や、WILLERのベトナム・ハノイ市におけるルート型AIオンデマンドシェアバス実証事業、スマートドライブのマレーシア・セランゴール州におけるEVモビリティデータプラットフォームの開発実証、三菱商事のブルネイでのAI活用型オンデマンド乗合交通サービス実証事業など10件が採択されている。

JICAは、交通ソフトインフラに関わる中小企業・SDGsビジネス支援事業の採択例として、兼松とサイバーウェアによるラオスでの国際貨物車両通行管理情報共有プラットフォーム運営普及・実証・ビジネス化事業や、三菱商事によるマレーシアでのアセアン地域でのオンデマンド型公共交通の普及・実証・ビジネス化事業などを挙げた。

同様に、JOINはDMP EuropeやDMP傘下のUshrによる欧州・北米での高精度デジタル道路地図整備事業や、NTTグループによるカナダ・エドモントン空港におけるスマート交通プロジェクトなどを挙げた。

■【まとめ】自動運転技術の海外展開にも注目

第4次産業革命の波が交通分野にも到来し、IoTやAI、ビッグデータの活用などがスタンダード化し始めている。現在進められている取り組みの多くはMaaS関連だが、今後は自動運転技術の展開などにも注目が集まるところだ。

開発企業の多くは、自国内で走行実証やサービス実証を進めている段階だが、GM系Cruiseやインテル系Mobileyeのように海外展開を推し進める企業も出始めている。

国内ではティアフォーが海外展開に力を入れているが、今後はこうした事業も促進し、プラットフォームなどとともにトータルソリューションとして輸出し、競争力の向上を図る取り組みが重要性を増しそうだ。

【参考】関連記事としては「自動運転、日本政府の実現目標(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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