自動運転バスなどの新規導入を検討している方に朗報だ。ティアフォーがこのほど、自動運転の開発から運用までをサポートする商用ソフトウェアプラットフォーム「Pilot.Auto(パイロットドットオート)」と「Web.Auto(ウェブドットオート)」の提供を開始した。
自動運転システムの効率的な開発・実装を可能とするトータルソリューションで、開発コストの削減や実装までの時間短縮などに大きな期待が寄せられる。
Pilot.Auto及びWeb.Autoとはどのようなものか、それぞれ概要を見ていこう。
記事の目次
■Pilot.Auto(パイロットドットオート)の概要
Autowareによる自動運転開発を容易に
Pilot.Autoは、ティアフォーが開発する自動運転オープンソースソフトウェア「Autoware」を利用した自動運転ソフトウェアプラットフォームだ。
自動運転システムとなるAutowareに加え、あらかじめ用意された「シャトルバス」などのリファレンスデザイン(参照設計)をベースに開発を進めることで、目的に沿った効率的な自動運転システムの開発と運用を可能にする。
自動運転サービスの実装を目指す事業者は、まずどういった環境下(運行設計領域/ODD)でどのようなサービスの実現を目指すかを見極める必要がある。例えば、地方都市の市道・混在空間で定路線を走行する低速の自動運転バスを導入する――といった具合だ。その上で、必要とされる条件や技術的な要素を細かく検討していくことになる。
こうした際に有効なのがPilot.Autoだ。あらかじめ用意された5タイプのユースケースの中から目的を満たすもの、あるいは近いものを選択することで、初期段階で詰めなければならない作業を軽減することができるのだ。
リファレンスデザインは、以下の5タイプが用意されている。
- Cargo Transport:工場などの閉鎖・限定空間における低速自動搬送のためのユースケース設計
- Shuttle Bus:公園や生活道路などの限定・混在空間における旅客輸送(バス)のためのユースケース設計
- Robo-Taxi:都市部などの交通環境整備空間における旅客輸送(タクシー)のためのユースケース設計
- Personal Car:高速道路などの自動車専用空間における先進運転支援システムのためのユースケース設計
- Delivery Robot:生活道路などの混在空間におけるラストマイル配送のためのユースケース設計
スタンダードな自動運転サービスはしっかりと網羅されている。Pilot.Autoの利用者は、自動運転を行いたい環境や条件に合ったリファレンスデザインを選択しこれを起点に開発を進めることで、本来必要となる作業の多くを簡略化することができる。
Pilot.Autoでは、こうしたリファレンスデザインをベースに、新規ユースケースの追加や認識性能の向上、不要な機能の削除など仕様に基づいたソフトウェアのカスタマイズや、センサーのキャリブレーション・制御のチューニングといった自動運転システムの構築、ODD内で起こり得るユースケースの選定・評価・検証の支援、リスクアセスメント・高精度三次元地図作成・走行環境に合わせたチューニング、OTAによる自動運転ソフトウェアの更新などが可能という。
▼Pilot.Auto公式サイト
https://pilot.auto/
■Web.Auto(ウェブドットオート)の概要
シミュレーション環境や運行管理ツールなど提供
Web.Autoは、自動運転ソフトウェアの構築やテスト、シミュレーション、デバッグに必要な解析ツールすべてを網羅したクラウドネイティブかつエッジ集約型のDevOpsソフトウェアプラットフォームだ。自動運転シミュレーションやCI/CD*3データパイプラインといった開発基盤をはじめ、第三者が提供するアプリケーションと連携可能な車両運行管理・遠隔監視・OTAなど、自動運転システムを搭載した車両を安全に運用・保守するために必要な運用基盤で構成されている。
地図やシナリオ、走行データ、テスト結果を簡単に共有できるデータベースも備えており、開発における共同作業を効率化できる。
主なツールとして、以下が用意されている。
- SENSOR CALIBRATION:各種センサーが正確にかつ安定して協調動作するために必要な調整を自動的に行う機能
- 3D MAPPING:自動運転サービスに必要な2次元地図を効率的に作成・編集する機能
- DATA SEARCH:実車走行データの管理コストと特定シーンの検索・抽出コストを低減する機能
- SCENARIO EDITOR: OpenSCENARIO 1.1準拠シナリオを簡単に作成・編集する機能。開発した機能が要求されたユースケースを満たしているかどうかを効率的に確認することができる
- LOG-BASED TESTING/SIMULATION-BASED TESTING:あらかじめ収集した車両走行データを使ってセンシングやパーセプション、ローカリゼーションの各機能を仮想環境でテストする機能
- DIGITAL TWIN-BASED TESTING:完全な仮想世界で自動運転機能をシミュレーションする機能ことで。現実世界のテスト工数を大幅に削減することができる。
- FLEET MANAGEMENT:自動運転サービスの運用に必要なすべての機能を統合された一つのサービスとして利用できる機能。自動運転車両をはじめ、時刻表やルート管理、自動運転走行記録の集計・分析、多様なサードパーティ製アプリとの接続を含む
- REMOTE DRIVING:自動運転車両の走行状態を遠隔監視し、必要に応じて遠隔から介入する機能
▼Web.Auto公式サイト
https://web.auto/
■プラットフォームの開発・採用事例
大手との協業で高い実績
ティアフォーによるPilot.AutoとWeb.Autoを活用した自動運転システムは、すでに高い実績を誇っている。
リファレンスデザイン「Cargo Transport」関連では、ヤマハ発動機と2020年に合弁eve autonomyを設立し、共同で自動運搬送車両を構築して市場展開を進めている。
「Shuttle Bus」関連では、2022年に東京臨海副都心・お台場で行われたモビリティサービスの実証実験において、トヨタの「e-Palette」に自動運転ソフトウェアプラットフォームが採用されている。
「Robo-Taxi」関連では、Mobility Technologiesなどとともにトヨタ製「JPN TAXI」を自動運転化し、東京都の西新宿エリアやお台場エリアなどで実証を進めている。
また、スズキとも2018年からレベル4を想定した自動運転システムの共同開発に取り組んでおり、2022年5月に静岡県浜松市の庄内地区で公道実証を行っている。
「Personal Car」関連では、台湾の鴻海テクノロジーグループ(Foxconn)が展開するEVプラットフォーム「MIH」において、Autowareの採用を前提とした企画・開発を進めることで合意している。
「Delivery Robot」関連では、2021年に川崎重工業と自動配送ロボットの共同開発を開始している。
■【まとめ】2023年度以降、レベル4実装に向けた取り組みが活発に
一から自動運転開発に着手するのは相当敷居が高いが、Pilot.AutoやWeb.Autoといったソリューションを活用することで、実用化に向けた取り組みが容易になる。
改正道路交通法が施行される2023年度以降、レベル4実装に向けた取り組みが全国的に活発化していくものと思われるが、自動運転をより身近なものへと変えていくティアフォーのソリューションに大きな注目が集まりそうだ。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4でできることは?(2022年最新版)」も参照。