無人自動運転などに74億円計上!経産省の概算要求を分析

MaaS連携、EV化なども推進



次年度予算の獲得に向け、経済産業省が2023年度予算の概算要求を公表した。自動運転をはじめとする次世代モビリティ分野においては、国土交通省とともに主翼を担う省庁として各種事業を手掛けている。


経済産業省は来年度、どのような事業を進めていくのか。次世代モビリティ関連事業に焦点を当て、同省の取り組みに迫っていく。

【参考】関連記事としては「関係者必読!「自動運転」関連、2023年度概算要求まとめ」も参照。

■無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業=74億円
レベル4サービスの社会実装を加速

製造産業局は、エネルギー需給構造高度化対策の中で「無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業」として74億円(前年度予算58.5億円、以下カッコ内は同様)を見積もった。

CASE技術の早期社会実装を促し運輸分野におけるCO2削減に貢献することを目的に、以下を進めていく。


  • ①無人自動運転サービス実装推進事業
  • ②シミュレーションによる安全性評価手法開発事業
  • MaaSの社会実装加速に向けた実証事業
  • ④健全な製品エコシステム構築・ルール形成促進事業

①では、自動運転レベル4の早期社会実装に向け、中型バスを想定した自動運転サービス実証を行う。②では、体系化された交通流シナリオ・シミュレーションなどを活用し、自動運転車両の安全性評価手法を開発して技術標準などに関する国際的議論を主導する。

③では、高度なMaaS実証を地域単位で実施するとともに、人手不足などの課題が深刻化している物流分野において標準的なデータ利活用のための環境整備を進めていく。

④では、蓄電池などの持続可能な製品エコシステムの構築や、サプライチェーン管理・認証などのシステム構築、運用に係る制度形成のための実証を行う方針だ。

無人自動運転サービスは、2021年度からの5カ年事業で40カ所以上で実装する目標が掲げられている。福井県永平寺町や沖縄県北谷町では遠隔監視・操作による車道外のレベル3移動サービスが実現しているほか、各地で中型自動運転バスの公道実証なども進められている。


改正道路交通法の施行により2023年度はレベル4実現に向けた取り組みが大きく前進することが予想されている。各地の取り組みをしっかりとリード・後押しする役割に引き続き期待したい。

出典:経済産業省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼無人自動運転等のCASE対応に向けた実証・支援事業
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pr/en/seizou_taka_01.pdf

【参考】自動運転ロードマップについては「自動運転レベル4のサービス、2025年度に40カ所以上で 国がロードマップ最新版発表」も参照。

■クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金=430.3億円
EVやFCVの普及促進へ購入補助やインフラ整備を促進

EV関連では、「クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金」として430.3億円(245億円)を要求している。

2050年のカーボンニュートラル実現に向け、環境性能に優れたEV(電気自動車)やFCV(燃料電池自動車)などの需要創出や車両価格の低減を促すとともに、充電・水素充てんインフラの整備を進めていく。

EVやFCVなどに対しては、購入費用の一部補助を通じて初期需要の創出・量産を促進し、価格低減を図っていく。充電設備などの購入費や工事費、水素ステーションの整備費や運営費についても補助を行う。

成果目標としては、グリーン成長戦略で2035年までに乗用車の新車販売における電動車比率(ハイブリッド含む)を100%とする目標が掲げられている。インフラ関連では、2030年までに充電インフラを15万基、水素充てんインフラを1,000基程度整備する計画だ。

国内の充電スタンドは約3万基あると言われており、従来のガソリンスタンド(約2万9,000カ所)と肩を並べている。ただし、給油に比べ充電に要する時間が長いため、充電待ちが発生するケースも少なくないようだ。

PHEV(プラグインハイブリッドカー)やBEV(純電気自動車)の販売を伸ばすには、航続距離の延伸や急速充電などの技術的な部分とは別にこうしたインフラの充実が欠かせない。各種施策による相乗効果に期待したいところだ。

出典:経済産業省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼クリーンエネルギー自動車・インフラ導入促進補助金
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pr/en/seizou_taka_02.pdf

【参考】EV充電については「自動運転時代、「充電マネジメント」に商機」も参照。

■電気自動車用革新型蓄電池技術開発=27億円
LIBを凌駕する次世代自動車用蓄電池を開発

次世代自動車用蓄電池の早期実用化に向け、「電気自動車用革新型蓄電池技術開発」として27億円(25億円)を要求している。サプライチェーンにおける付加価値獲得とともに、EV普及による大幅な省エネ化を目指す方針だ。

現行液系LIB(リチウムイオン二次電池)ではエネルギー密度向上の限界や資源制約が課題となっているため、産学連携・企業間連携の研究開発体制を構築し、コスト・性能の両面でLIBを凌駕する革新型蓄電池の実用化を目指す。

具体的には、安価で供給リスクの少ない材料を使用し、高エネルギー密度化と安全性の両立を実現可能なハロゲン化物電池と亜鉛負極電池の開発を推進するとしている。

出典:経済産業省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼電気自動車用革新型蓄電池技術開発
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pr/energy.html

■次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト=35億円
機体の安全基準の証明手法や空域共有方法の研究開発を進める

空飛ぶクルマ関連では、「次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト」として35億円(29.3億円)を見積もった。

ドローンや空飛ぶクルマが第三者上空を飛行するための安全基準を満たすかどうかを証明する手法の開発や、1人の運航者が複数のドローンを飛行させる技術、及びその安全性を評価する手法の開発を目指す。

また、空飛ぶクルマの高密度運航や自律飛行に必要な技術開発を進めるとともに、航空機やドローン、空飛ぶクルマが空域を共有し、同時に飛行する効率的な空域共有方法の開発・実証などを行い、省エネルギー化と自由な空の移動の実現を図っていく。

このほか、研究成果を海外発信し、国際標準化への提案を強化することで日本主導によるルール形成を進めていく。同時に、海外の制度整備や技術開発の動向調査・検討をするとともに、社会実装に向け省庁や民間企業との議論を実施する協議会の運営を行う。

2022年度から2026年度までの事業期間で、技術開発・実証を通じてドローンのさらなる利活用拡大や、大阪・関西万博における空飛ぶクルマの活用と事業化を目指す。

ドローンについては、2035年度に1日あたり4,000件の飛行計画通報が行われ、ドローン活用が恒常化した社会を実現する。空飛ぶクルマは、2035年度に1日あたりの旅客輸送便数2,500便の飛行を実現する。

出典:経済産業省資料(※クリックorタップすると拡大できます)

▼次世代空モビリティの社会実装に向けた実現プロジェクト
https://www.meti.go.jp/main/yosangaisan/fy2023/pr/en/sangi_taka_05.pdf

■その他関連事業

このほか、次世代モビリティに通じる関連技術関連として「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発事業=12.1億円(14億円)」や「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業=7.9億円(6.7億円)」なども挙げられる。

AI(人工知能)関連事業は2018年度からの6カ年事業で、これまでにAI技術の社会実装に向けたアジャイル型研究開発・実証や導入加速化基盤技術開発などが進められている。

製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化事業では、製造現場における生産設備やAGV(無人搬送車)などの制御とクラウド上の生産システムの連携をはじめ、複数拠点間の一括制御、AIや量子技術を活用して構築されたデジタルツインによるサイバー空間上でのシミュレーションとフィードバック――などを通じ、製造現場の自律的かつ効率的な稼働を目指す。

また、デジタル人材の育成事業として、「地域未来DX投資促進事業=34.9億円(15.9億円)」や「産業サイバーセキュリティ強靱化事業=24.9億円(新規)」、「中小企業サイバーセキュリティ対策事業=4.1億円(3.1億円)」なども推進する方針だ。

AI人材やセキュリティ人材などは年々重要性を増し、モビリティ分野をはじめ非常に幅広い分野で必要不可欠な存在となっている。

■【まとめ】レベル4や空飛ぶクルマ関連事業が引き続き進展

自動運転に関しては、引き続きレベル4の実用化を見据えた取り組みを加速させていく構えだ。空飛ぶクルマ関連では、2025年開催予定の大阪・関西万博に向けた取り組みが徐々に具体化し始めた。

また、エネルギー関連の事業にも力を注いでいる印象だ。海外勢に負けじと国内メーカーもBEVのラインアップを拡充しており、この流れは今後も加速していくものと思われる。

新年度、レベル4サービスや空飛ぶクルマ関連事業などがどのように進展していくのか、要注目だ。

※自動運転ラボの資料解説記事は「タグ:資料解説|自動運転ラボ」でまとめて発信しています。

【参考】関連記事としては「日本の自動運転と経済産業省(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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