天才ラッセル率いるLuminar、ダイムラーと急接近!自動運転向けLiDARを開発

ボルボ・カーズと蜜月関係のはずだが



Luminarのオースティン・ラッセルCEO(左)とメルセデスのマーカス・シェーファーCTO(右)=出典:Luminarプレスリリース

LiDAR開発企業をめぐる自動車メーカーの攻防が激化しそうだ。米Luminar Technologies(ルミナー・テクノロジーズ)は2022年1月、独メルセデス・ベンツ(ダイムラー)との新たなパートナーシップを発表した。公式アナウンスでは具体的な内容に触れていないものの、量産向けLiDAR「Iris」の採用とともに出資が確認されている。

ルミナーをめぐっては、ボルボ・カーズなども積極的に出資しており、関係を深めている。この記事では、ルミナーをめぐる業界の動向に迫る。


■ルミナーとメルセデス・ベンツの提携

公式発表によると、ルミナーが2022年に量産化・納入を開始する低コストパッケージのIrisをメルセデス・ベンツが採用する。具体的なモデルなどには触れていない。

また、メルセデス・ベンツがルミナーの株150万株を取得したことも報じられており、推定2,030万ドル(約23億円)が投じられたようだ。

メルセデス・ベンツは、レベル3システム「DRIVE PILOT」が2021年12月に国連による技術規則「UN-R157」の承認を得ており、2022年前半に同システムを備えたフラッグシップモデルSクラスを市場化するほか、新型EV(電気自動車)「EQS」にも搭載し、こちらも2022年中に量産化に入る予定だ。

Irisの量産化が間に合うのであれば、これらのモデルにルミナー製品が搭載される可能性がありそうだ。


いずれにしろ、LiDAR製品を介した単純なパートナーシップではなく、巨額出資を伴っている点が1 つのポイントだ。

なお、ダイムラー関係では、ダイムラー・トラック(現在は分社化)が2020年にルミナーとパートナーシップを交わしており、額は明かされていないがこの時もコーポレートラウンドで出資が行われている。

■ルミナーの提携関係
拡大を続けるルミナーのパートナーシップ

2012年設立のルミナーは、しばらくの間ステルスモードで研究開発を重ねていた。表舞台に顔を出した2017年、トヨタグループのTRI(トヨタリサーチインスティチュート)がいち早く自動運転の試験車両にルミナー製品を採用した。

その後、2018年にボルボ・カーズと共同で自動運転開発を進めるパートナーシップを締結した。同社との関係は特に密接なため、詳細については後述する。


同年には、フォルクスワーゲングループで自動運転開発を手掛ける「Autonomous Intelligent Driving(2020年にArgo AIに買収)」のパートナーシッププログラムに採択されたほか、2020年にモービルアイの自動運転車、2021年に上海汽車(SAIC)の新型EVにそれぞれLiDARを供給する契約を交わしている。

このほか、Pony.ai、Kodiak Robotics、Airbus UpNext、ダイムラー・トラック傘下のTorc Roboticsなどがルミナーとパートナーシップを結んでいる。

ルミナーとボルボ・カーズは蜜月関係?

ボルボ・カーズは、提携を交わした2018年に自社テックファンドからルミナーに出資を行っており、その後も2019年、2020年のベンチャーラウンドで重ねて資金を拠出している。

個別の出資額は明かされていないが、2019年は総額1億ドル(約110億円)、2020年は総額1億7,000万ドル(約190億円)となっている。

両社は、2020年にルミナー製LiDARを統合した次世代向けのプラットフォームとなるモジュラーアーキテクチャー「SPA2」を発表している。ルーフ一体型のハードウェアで、高速道路における自動運転などを可能にするスペックを持つという。2022年に生産を開始する予定としている。

2021年には開発者向けのLiDARデータセット「Cirrus」を公開するなど、両社は良好な関係を築いており、2022年1月に開催された技術見本市「CES 2022」では、Irisをルーフに統合したプラットフォーム「Concept Recharge」とともに、次世代SUVの開発計画を共同で発表した。

次世代SUVには、高速道路で監視なしの自動運転を実現する「Ride Pilot(ライドパイロット)」が初搭載される。安全に使用できることが確認され次第、2022年内にもサブスクリプション形式でカリフォルニア州から導入を開始する予定という。このプロセスの一環として、カリフォルニア州運輸局に試験許可を申請し、2022年半ばごろに高速道路で実証を行うとしている。

ボルボ・カーズはかつて、レベル3を飛ばしレベル4を実現する方針であることを明言していたが、Ride Pilotはレベル3となりそうだ。

【参考】ライドパイロットについては「ボルボ・カーズ、条件付自動運転機能「ライドパイロット」発表」も参照。

■ルミナー買収はあり得るのか?

現状、ルミナーに一番近い自動車メーカーはボルボ・カーズと言えるだろう。資本関係では、メルセデス・ベンツがこれに次ぐ形となる模様だ。

開発各社とのパートナーシップが順調なルミナーにとって、身売りは経営上マイナスの側面が多く買収が現実的でないのは確かだが、可能性だけは残る。

理由の1つは、創業者の若さだ。Austin Russell(オースティン・ラッセル)氏は1995年3月生まれで、創業当時は高校生だった。2022年3月でやっと27歳を迎える若さだ。研究意欲は非常に高いものと思われ、LiDAR事業が軌道に乗った今、多額の買収資金を元手に新たなアクションを起こす可能性もあるのではないだろうか。

一方、ボルボ・カーズの親会社は、豊富な資金力を誇る中国の浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Group)だ。同グループはメルセデス・ベンツ(ダイムラー)の筆頭株主でもある。同グループが買収に意欲を示せば、無下にするわけにはいかず、一定の対応を迫られることになりそうだ。

■【まとめ】自動運転業界の統廃合の波はまもなくLiDAR企業にも及ぶ

ルミナー買収は現時点でリアリティがないのは確かだが、可能性を全否定できるものではない。旬を迎えつつあるLiDAR業界だが、今後ティア1サプライヤーがLiDAR量産を本格化させれば状況は一変し、生き残りをかけた統廃合が進む可能性が高い。

業界トップクラスの開発力と実績を誇るルミナーも例外ではなくなるはずだ。LiDAR開発企業を巻き込んだ自動運転業界の統廃合が今後どのように進んでいくか、要注目だ。

▼Luminar Technologies公式サイト
https://www.luminartech.com/

【参考】関連記事としては「Luminarの年表!自動運転の目「LiDAR」を開発」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事