自動運転後押し、ライドシェア解禁は絶望的 菅政権、交通計画を決定

新モビリティ導入を見据えた内容に大幅アップデート



出典:首相官邸公式サイト

政府はこのほど、交通政策の基本的な方向性を示す第2次交通政策基本計画を閣議決定した。初期計画が策定された2015年度から6年。この間、自動運転やMaaS実装に向けた取り組みが大きく加速し、第2次の計画期間は社会実装期として交通を取り巻く環境が激変していくことになる。

計画はどのようにアップデートされたのか。この記事では、道路交通に焦点を当て、第2次交通政策基本計画の概要を解説していく。


▼第2次交通政策基本計画 – 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210528006/20210528006-1.pdf

■交通政策基本計画の概要

交通政策基本計画は、交通に関する施策を総合的・計画的に定めた計画で、交通政策基本法に基づき2015年に初めて策定された。当初計画は計画期間が2014~2020年度となっており、期間満了に伴い今回の2次計画(2021~2025年度)が発表された。

基本的方針は「豊かな国民生活に資する使いやすい交通の実現」「成長と繁栄の基盤となる国際・地域間の旅客交通・物流ネットワークの構築」「持続可能で安心・安全な交通に向けた基盤づくり」の3つを柱に据え、それぞれ施策目標を設定・提示している。

■第2次交通政策基本計画の要点

第2次交通政策基本計画では、交通が直面する危機として、公共交通をはじめとした地域におけるモビリティ危機やサービスの質の低迷、デジタル化・モビリティ革命等の遅れ、物流における深刻な労働力不足などを挙げている。


また、交通に係る安全・安心の課題として、自然災害への対応や交通インフラ・システムの老朽化対策、重大事故等の防止などを挙げている。

こうした課題解決に向け、新たに取り組む基本的方針として「誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保」「我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化」「災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現」を掲げ、具体的な対策や指針を設定した。

以下、各基本方針において新たに取り組む政策を解説していく。

■誰もが、より快適で容易に移動できる、生活に必要不可欠な交通の維持・確保
地域公共交通の持続可能性の確保

持続可能な地域公共交通の実現に向け、「地域が自らデザインする地域交通」「行政と民間が一体となり地域が支える公共交通」、「事業者による競争だけでなく、事業者間の連携の促進」を柱に、公的支援などのもとコミュニティバスやデマンド交通など地域ニーズに適した運送サービスを提供し、持続的な地域公共交通の確保を図るとしている。


また、過疎地では補完手段として自家用有償旅客運送(ライドシェア)が重要となるが、バス・タクシー事業者がそのノウハウを活用して運行管理に協力する事業者協力型自家用有償旅客運送の創設や、地域住民のみならず観光客など来訪者が輸送対象として明確化された点も踏まえつつ、引き続き制度の円滑な実施による必要な交通サービス確保を図る。許可・登録を要しない互助による輸送も、有償サービスの利用が難しい場合は有効としている。

乗合バスなどに関しては、地域公共交通利便増進事業の枠組みを活用することで複数の事業者による連携を促進する。公共交通ネットワークの再編や利用者目線に立ったダイヤ・運賃の設定などにより、利便性の高い運送サービスの提供の実現を図るほか、道路運送法の例外的運用を含め運送サービスの更なる充実に向けた制度拡充について検討を進めていく。

目標数値としては、地域公共交通計画の策定件数を2020年度の618件から2024年度に1,200件に、地域公共交通特定事業の実施計画の認定総数を2021年1月末の53件から2024年度に200件にそれぞれ増加させる。

モビリティサービスの「質」の向上

さまざまな移動ニーズに対応できるMaaSの普及に言及しており、幅広い世代の多様な移動目的に対し、モビリティの選択肢を幅広く提供することで利便性の向上などを図っていく。小型電動モビリティや電動キックボードなどの普及を促進するとともに、走行空間の確保やまちづくりと一体となった安全性確保の基本的な考え方について、社会システムとともに検討する。

目標数値としては、タクシーの相乗りやサブスクリプション(一括定額運賃)、事前確定運賃、変動迎車料金をはじめ、超小型モビリティの導入など新たなモビリティサービスに係る取り組みが行われている地方公共団体の数を、2020年度の197件から2025年度に700件へと増加させる。

このほか、スマートシティの創出と全国展開に向け、官民の連携プラットフォームの構築を通じて、データの官民利活用やモデル都市の創出、横展開を目指し全府省で連携して取り組むこととしている。

目標数値としては、スマートシティに関する技術を実装した地方公共団体・地域団体数を2020年度の23から2025年度に100へ、スマートシティに取り組む地方公共団体や民間企業・地域団体の数を2019年度の477団体から2025年度に1,000団体に増加させる。

観光やビジネスの交流拡大に向けた環境整備としては、新型輸送サービス(グリーンスローモビリティ)を含む多様な輸送資源の活用に取り組むとともに全国共通ICカード・二次元コード決済などの導入を図るほか、観光型MaaSを推進し、周回・周遊を促す。

目標数値としては、観光に関連する新たなモビリティサービスに係る取り組みが行われている地方公共団体数を2020年度の136 件から2025年度に500件へ増加させる。

■我が国の経済成長を支える、高機能で生産性の高い交通ネットワーク・システムへの強化
交通産業の産業力強化

公共交通に関わるあらゆる関係者におけるデジタル化を促進する。交通関連データについては、オープン化や相互連携などを推進するとともに、オープンイノベーションを促進し、交通事業者による公共交通マーケティングへの活用やMaaSにおける新たな価値やサービスの創出を目指す。

交通分野における行政手続のオンライン化や添付書類の撤廃などにも取り組むこととし、手続件数が多いものやデータ活用の有効性や可能性が高いものを優先し、2025年度までに原則オンライン化する。

MaaS普及に向けた基盤づくりとしては、「標準的なバス情報フォーマット」などによる交通関連情報のデータ化・標準化や、「MaaS関連データの連携に関するガイドライン」を活用したデータの連携や利活用の促進に向け、事業者などに積極的に働きかけていく。

また、交通安全の飛躍的向上に資することが期待される自動運転車の早期実用化に向け、小型自動車やBRTなどの技術開発の進展状況に応じ、先行的・段階的な導入に向けた制度整備やインフラ側からの支援などに関する技術検討を進める。

道路管理の効率化・省力化に向けても、IT技術を活用して道路の異常の早期発見・早期処理、維持管理作業などの自動化・無人化を進めるなど、道路システムのデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していく。

自動運転技術の社会実装にあたっては、技術的な検討と併せて、倫理的課題や社会的影響などELSI(Ethical, Legal and Social Issues/倫理的・法的・社会的課題)の視点からの検討も進める。低速・小型の自動配送ロボットについても、社会実装に向け実証実験や制度整備の検討を進める。

都市部での送迎サービスや離島・山間部での新しい移動手段、新たな観光サービス、災害時の救急搬送などに関し、新たな空のモビリティとして「空飛ぶクルマ」の2023年の事業開始を目標に必要な制度整備を進める。

このほか、将来的に自動車が物販や福祉など多様なサービスをマルチタスクにより同時に提供する場合、導入に向けた方策を検討することとしている。

物流機能の確保

物流DXを推進するため、デジタル化によるデータの可視化・共有や、労働力不足への対応や非接触・非対面型の物流転換に資する自動化・機械化を促進するとともに、各種要素の標準化に向けた取り組みを加速する。

道路に関しては、スマートインターチェンジの整備や渋滞ボトルネック箇所への集中的対策、自動運転車の走行に向けた環境整備、交通流を最適化する料金施策の導入を行うなど、既存の道路ネットワークの有効活用を推進する。

新東名・新名神高速道路では、自動運転・隊列走行などの実現を見据えた6車線化により、三大都市圏をつなぐダブルネットワークの安定性・効率性を更に向上させるとともに、本線合流部での安全対策や隊列形成・分離スペースの確保など、インフラ側からの支援策について検討を推進するほか、自動運転に対応した道路空間の基準等の整備を推進する。

このほか、道路交通ビッグデータやAIを活用した渋滞対策を産学官が連携して推進し、重要物流道路などの主要渋滞箇所の渋滞解消を加速化することも盛り込んでいる。

■災害や疫病、事故など異常時にこそ、安全・安心が徹底的に確保された、持続可能でグリーンな交通の実現
自然災害への対応

交通事業者の防災力向上及び事業継続の取組を促進・支援する「運輸防災マネジメント」を実施する。

交通インフラ・システムの老朽化対策

交通インフラの老朽化対策として、「予防保全」への本格的な転換に取り組むとともに、新技術の活用や既存のインフラの集約・再編などに取り組む。

脱炭素化の推進

乗用車においては電動車の普及や公共交通機関の利用促進など、再生可能エネルギーや水素の利活用に向けた取り組みを加速し、運輸部門における抜本的な脱炭素化を推進する。

ハイブリッド自動車や電気自動車、プラグインハイブリッド自動車、燃料電池自動車、クリーンディーゼル車、CNG(天然ガス)自動車などの次世代自動車のいっそうの普及を図り、2035年までに新車販売ベースで電動車100%を実現できるよう包括的な措置を講じる。

■【まとめ】新モビリティサービス積極導入、ライドシェアは…?

自動運転車や超小型モビリティ、空飛ぶクルマ、MaaSやタクシーの相乗り、サブスクリプションといった新たなモビリティサービスの導入に前向きな一方、自家用有償旅客運送、いわゆるライドシェアに関しては現行の過疎地や観光地対応にとどまっており、消極的な印象を受ける。今のところ、ライドシェア全面解禁に向けて動く気はなさそうだ。

いずれにしろ、2015年策定の当初計画と比較すると、次世代交通を強く意識した内容に大幅にアップデートされており、この理念に基づきさまざまな取り組みが実施されていくことになる。計画期間が満了する2025年度までに自動運転や空飛ぶクルマはどれほど技術が進展し、社会実装が進んでいるのか。今から楽しみだ。

▼第2次交通政策基本計画 – 経済産業省
https://www.meti.go.jp/press/2021/05/20210528006/20210528006-1.pdf

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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