自動運転、読んでおきたい論文15選

MaaS関連からSDGsとの関係性、画像認識など



自動車業界のみならず多方面から参入が相次ぐ自動運転分野。学術界からも高い関心を集めているようで、論文公開サイトなどには多数の論考がアップされている。


そこで今回は、国立研究開発法人科学技術振興機構 (JST)が運営する電子ジャーナルの無料公開システム「J-STAGE」に2019年以降に発表または公開されたもののうち、自由に閲覧が可能な論文の中からおすすめをピックアップし紹介する。

専門的要素の高い論文のみならず、非常に読みやすいコラムも多いため、ぜひ目を通していただきたい。

記事の目次

■高度専門系(5選)
渋滞低減に向けた路車間・車車間協調を実現する自動運転方策の学習法/石川翔太・荒井幸代氏

密度の偏りに起因する渋滞を低減する制御則を導入するアプローチを提案している。具体的には、自動運転車と手動運転車の両方が走行する環境において、車両密度や自動運転車の普及率などをパラメータとして路車間通信で自動運転車の速度を制御する自動運転方策についてシミュレーションしている。

渋滞の車列に自動運転車が加わって停止するとペナルティを与えるなどの措置によって自動運転車を学習させることで、自動運転車が車列の形成を解消する役割を担い、渋滞を低減効果を発揮するといった内容だ。


本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tjsai/34/1/34_D-I55/_pdf/-char/ja

End-to-End自動運転モデル改善のための画像認識サブタスクの設計と評価/石晶・李志豪・本吉俊之・大西直・森裕紀・尾形哲也氏

ビジョンベースの自動運転システムにおいて、入力と出力に前処理せずに制御器を学習させる「End-to-End Learning」が抱える課題解決に向けた提案で、専門性が高い内容となっている。

Semantic segmentation画像、Depth画像、RGB画像から最適な組み合わせを探索するシミュレーション実験を行った結果、サブタスクをSemantic segmentationのみとした場合がテスト走行の完走率が最も高いほか、追加実験の内容などについても記載している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_1L2J1101/_pdf/-char/ja


深層逆強化学習による自動運転の安心走行実現/岸川大航・荒井幸代氏

搭乗者に不快感を与えない走行を「安心走行」と定義し、その実現に向けたアプローチを紹介する専門性の高い内容だ。

安心走行の定量的な表現は困難なため、深層強化学習では報酬の定義が難しことに着目し、深層逆強化学習で推定した報酬を用いる手法を提案している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_3K4J204/_pdf/-char/ja

交通サービスのための耐戦略性を有する動的課金メカニズム/早川敬一郎・羽藤英二氏

MaaS(Mobility as a Service)において、それぞれの利用者に対する交通資源割り当てと価格決定のアルゴリズムを基に、オンデマンド交通サービスの動的価格設定メカニズムの概念的枠組みを提示している。

関数を用いた専門的アプローチにより、二つの課金メカニズムによって実現する収益の違いに着目した実験を行っている。

MaaSは公共交通的要素を含むケースも多く、収益性を二の次に据えた取り組みも多そうだ。ただ、継続性の観点から一定の収益を上げる必要があることは言うまでもなく、この分野の研究は今後増加しそうだ。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_3Rin223/_pdf/-char/ja

自動運転のためのエレベーションマップに基づく自己位置推定/柳瀬龍・アルディバジャモハンマド・倉元昭季・金兌炫・米陀佳祐・菅沼直樹氏

自動運転における自己位置特定技術において、LiDARとオルソ画像地図による2次元空間での自己位置推定技術から研究を拡張し、エレベーションマップに基づいた3次元空間における自己位置推定手法を提案する専門性の高い内容だ。

走行する道路のエイヤー特定のための推定手法を提案し、その有効性を確認する実証実験を行った結果、デッドレコニングのみでは最大2.5mの誤差が生じたのに対し、同手法では誤差0.15m以内に収まることを確認している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/50/2/50_20194244/_pdf/-char/ja

■実験系(4選)
自動運転車のMinimum Risk Maneuverの違いが後続車へ与える影響/本間亮平・若杉貴志・小高賢二氏

自動運転レベル3において、システムからドライバーに運転の権限を委譲する際、ドライバーが対応しなかった場合などを想定してリスク低減を図るミニマム・リスク・マヌーバー(MRM)について検討した研究論文で、MRMの具体的な制御方法や周辺車両に与える影響についてドライビングシミュレータを活用して実験している。

MRM制御によるハザードの提示や減速する速度、路肩への停車などが後続ドライバーに与える影響などがまとめられている。レベル3の実用化がまもなく本格化することから、この手の研究の深化に期待したい。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/51/1/51_20197033/_pdf/-char/ja

遠隔型自動運転システムにおける遠隔操作時の映像遅延が操舵の操作に与える影響の評価/水島知央・神蔵貴久・大前学氏

カメラを用いた遠隔型自動運転システムにおいて、どの程度の遅延時間まで車両の操作を行うことができるのかを検証した結果が報告されている。

遠隔操作のシミュレータを構築し、遅延時間を変化させながら低速走行でコースを周回して運転評価を実施した。遅延時間が大きくなるにつれて車両中心の横偏差、つまりふらつきの幅が大きくなることなどを確認し、個人差はあるものの映像遅延時間の許容値は時速10キロの場合で800msと算出している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsaeronbun/50/3/50_20194372/_pdf/-char/ja

自動運転車におけるTORへの対応時間にサブタスクが与える影響について/阪田万悠子・小松原明哲氏

自動運転レベル3におけるシステム側からドライバーへの運転要求(Take Over Request/TOR)に関し、サブタスクの種類によるドライバーの対応の遅れについて検討した内容だ。

サブタスクは、手の使用の有無や認知特性の観点から①景色(映像)を見る②ラジオを聞く③映画を見る④スマートフォンの閲覧⑤本を読む⑥勉強する⑦ゲームをする――に分け、模擬実験を実施。その結果、用具を持って操作を行うような手の位置が固定されるタスクや眠気をもよおすタスク、深く思考し集中し過ぎるタスクは避けるべきとし、レベル3で許容されるスマートフォンの使用についても、アプリによっては一概に許可すべきではない旨警鐘を鳴らしている。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jje/55/Supplement/55_2C3-7/_pdf/-char/ja

自動運転の対話的操作を実現するための自然言語の実環境へのグラウンディング/大田原菜々・塚原裕史・小林一郎氏

自動運転において、自然言語で表現される運転指示と、車に備え付けられたセンサーによって認識される実世界との対応付け(グラウンディング)を行うことで、空間意味記述に変換された運転指示から駐車の際の車の操作の推定を行う手法を提案する専門性の高い内容だ。

物体の推定では8割程度の正解率を出せたものの、駐車場所の推定では4~5割程度という結果となり、実世界の空間的特徴を表す素性の検討が必要としている。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/pjsai/JSAI2019/0/JSAI2019_4J3J1303/_article/-char/ja

■考察・コラム系(6選)
自動車産業に破壊的イノベーションは起きるのか?/糸久正人氏

自動車業界における変革が破壊的イノベーションとなるかについて経営学の視点から論考したもので、業界の動向とリンクする読み物・コラムとして興味深い内容となっている。

CASE」を見据え新規参入が相次ぐ業界において、「自動車メーカー VS IT系」による破壊的イノベーションの構図ではなく、「自動車メーカー + IT系」というコラボティブ・イノベーションとして捉えることが適切であるほか、行動ゲーム理論による「鹿狩りゲーム」を持ち出し、巨大IT企業と有力完成車メーカーとの協力が成立しにくいことなども示している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/amr/advpub/0/advpub_0200121a/_pdf/-char/ja

自動走行車両の安全性標準化・基準化の取り組みについて/毛利宏氏

自動運転システムの安全性を担保する基準や標準の必要性などが非常にわかりやすくまとめられている。

標準化プロセスの要件として「どこまでの安全性能を想定(要求)するか」「要求性能の達成をいかに証明するか」などを挙げるほか、開発プロセスの標準化においても「新機能追加やソフト変更に対応できるか」「想定するシナリオは必要かつ十分か」など、解決すべき課題を例示している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/24/9/24_9_54/_pdf/-char/ja

ディジタル革命とSDGsと自動運転/有本建男氏

国連が掲げる開発目標「SDGs」の観点から自動運転の課題を掘り下げた、ある意味旬の内容だ。

SDGsにおいて、自動運転は交通事故死の半減や地域の交通アクセス改善などが記載されているが、健康やエネルギー、都市、気候変動のゴールにも関係しているとし、産業の国際競争の強化とともにSDGsに関しても重要な柱を持つとしている。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/24/9/24_9_74/_pdf/-char/ja

自動運転の実現に向けた法的課題/藤原靜雄氏

自動運転の実現において重要な役割をなす「法」について、その枠組みや課題などを解説している。

自動運転に関する法的議論の特徴として、従来の法制度が前提としない種々の問題を含む点や国際ルールとの関係、そして法制は過渡期のものにならざるを得ない点などを挙げている。

また、2019年に成立した改正道路交通法や道路運送車両法のポイントなどを整理しているほか、運転者の存在を前提とした道交法の体系をレベル4以上でどう修正すべきかといった問題も投げかけている。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/tits/24/9/24_9_62/_pdf/-char/ja

高速バスの自動運転・隊列走行の社会実装に向けた考察/林世彬・須田義大・横溝英明・小宮浩資・平山幸司氏

運転手不足などが顕在化している高速バス事業へ、自動運転や隊列走行技術を導入・実装するためのコンセプトを検討している。

現行法規のもとで実現を目指す方式、レベル3(レベル4相当の後続車無人技術)を用いる方式、レベル4による方式など、各段階の特徴やメリットなどを考察し、将来レベル4の隊列走行が実現すると、物流車両との隊列形成など従来にない新たなサービスの提供も可能となることなどを指摘している。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/seisankenkyu/71/2/71_111/_pdf/-char/ja

センサの計測過程におけるセキュリティ/藤本大介氏

自動運転をはじめ、外界の情報を取得するために用いられる各種センサーのセキュリティについて概観した内容だ。

LiDARやToF距離センサー、GPS、ジャイロなど、さまざまなセンサーの測定原理によって分類し、攻撃を受けた際の影響や脅威、対策手法などをまとめているほか、今後の展望として、センサーの普及により互いの測定信号が観賞した場合など自然になりすまし攻撃が成立する可能性があるため、対策技術を含めセキュリティを考慮した標準化が必要としている。

本論文のPDFはこちら
https://www.jstage.jst.go.jp/article/essfr/13/2/13_142/_pdf/-char/ja

■【まとめ】知識の宝庫「論文サイト」の有効活用を

J-STAGEに掲載される論文などは、専門的な論文から専門紙・業界紙などに掲載したコラムなど幅が広く、1~3ページ程度にまとめられた読みやすいものも多い。最新の論文も次々と掲載されているため、新たな発見も多い。

掘り下げたい分野や要素技術を検索し、いろいろな論文・資料に目を通していると「研究」というものが身近なものに感じられる。論文サイトを有効活用し、見識を高めてみては。

【参考】関連記事としては「自動運転、ゼロから分かる4万字まとめ」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事