
約200億円を集めたnewmo(ニューモ)が、看板だったライドシェアから自動運転タクシーへ軸足を移す。日本のライドシェアが行き詰まったことを、この市場に最も多くの資金を投じた当事者が認めた形だ。
タクシー・ライドシェア新興のnewmoは2025年7月、自動運転ソフト開発企業のティアフォーとの協業を発表し、自動運転タクシー事業への本格参入を打ち出した。そして大阪・関西万博が閉幕した後、青柳直樹代表はライドシェア事業への投資を縮小し、タクシーと自動運転を事業の柱にすると語った。向かう先は2028年、大阪での自動運転レベル4の商用化である。自動運転レベル4とは、特定の条件下で人の操作なしに走行できる段階を指す。
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■約200億を集めたnewmoがなぜライドシェアを撤退するのか
創業からわずか1年半ほどで、newmoが集めた資金は199億円にのぼる。約200億円。日本のライドシェア関連スタートアップとしては突出した規模だ。その期待の星が、看板だったライドシェアへの投資を縮小し、自動運転タクシーを事業の柱に据える。
起点は2025年7月2日だった。この日newmoは、自動運転用のオープンソースソフトウェアAutoware(オートウェア)の開発を主導する自動運転ソフト企業ティアフォーとの協業を発表し、自動運転タクシーの事業化に乗り出すと表明した。あわせてシリーズAラウンドの追加調達12億円を公表。シリーズAは累計179億円でクローズし、創業以来の累計調達額は199億円に達した。
軸足の移し替えが言葉になったのは、その後である。ライドシェア普及の起爆剤と見込まれた大阪・関西万博は、稼働台数も稼働率も低調なまま幕を閉じた。閉幕後、青柳代表は日本経済新聞のインタビューで、ライドシェア事業への投資を縮小し、今後はタクシーや自動運転を事業の柱にしていくと述べている。1万人を超えるドライバーの応募を集め、重大な事故もなく運営できた。それでも、ライドシェア単体での事業化はまだ見込めないと判断した。
ただし、完全な撤退ではない。newmoは現在も公式サイトの事業一覧に日本版ライドシェアの運営を掲げている。それでも、約200億円を集めた当事者が看板事業から手を引くという事実の重さは変わらない。集めた資金はライドシェアのためだけのものではなかったにせよ、日本のライドシェアに最も賭けた企業が、そこでは勝てないと判断したのだ。
約200億円という金額より重いのは、最も本気で賭けた企業が降りたという事実である。制度が市場を縛る限り、資金では突破できない。newmoの転換は、日本のライドシェアの限界を映す最も正直な指標だと言える。
【参考】関連記事としては「ライドシェアの定義や仕組みは?Uber(ウーバー)解禁はいつ?」も参照。
■撤退の背景はライドシェア市場の縮小
newmoの判断は、特異なものではない。日本版ライドシェアという市場そのものが、静かに縮んでいる。
象徴的なのが求人だ。当メディア自動運転ラボの調査では、主要4転職サイトにおけるライドシェア関連の求人案件数は、2026年6月末時点で前月比29.5%減の62件だった。2026年2月のピークから、ほぼ半減している。4月末時点では前月比42.4%減の57件まで落ち込み、マイナビ転職では求人がゼロになった。かつて全面解禁を見据えたベンチャー企業やスタートアップの募集が活発だった領域が、いまや採用の場としてほとんど機能していない。
背景にあるのは制度である。日本版ライドシェアは、タクシー事業者が一定の条件下でのみサービスを展開できる仕組みだ。運行できる地域も時間帯も限られ、料金はタクシーと同水準に据え置かれる。市場の大幅な拡大は、構造的に見込みにくい。
期待された規制緩和も進まなかった。2026年6月29日、政府の規制改革推進会議がまとめた答申は、ライドシェアの全面解禁について踏み込んだ記述を避けた。諸外国の事例や各地域のニーズを踏まえて必要な取り組みを進める、という一文にとどまっている。事実上の先送りである。
ここで見落としてはならないのは、そもそも本格的に参入できた企業がほとんどいなかったという点だ。世界最大手のUber(ウーバー)も、中国最大手のDiDi(ディディ)も、制度上サービスの運営主体になれない。両社は日本ではタクシー会社を支援する裏方役に徹してきた。つまり日本のライドシェアは、撤退企業が続出する市場ですらない。腰を据えて挑んだプレーヤーが、そもそも数えるほどしかいなかったのである。
その数少ない挑戦者の筆頭が、newmoだった。自らタクシー会社を買収し、制度の内側から市場をつくろうとした唯一と言っていい存在だ。その当事者が降りた。他社が次々と撤退したのではない。撤退できるほどの参入すら、日本では起きていなかった。
【参考】関連記事としては「ライドシェア求人、ピークから半減」も参照。
■「自動運転一本化」へ
では、自動運転一本化とは具体的に何をすることなのか。掛け声ではなく、すでに大阪の路上で動き出している。
布石は着々と打たれてきた。2025年9月、newmoはグループのタクシー会社である未来都、堺相互とともに堺市と連携協定を締結。2026年2月には半導体関連商社のマクニカと自動運転実験車両の開発で協業を開始し、同月、大阪市および夢洲交通とも連携協定を結んだ。技術はティアフォー、車両とセンサーはマクニカ、走る場所は自治体との連携で確保する。役割分担は明快だ。
そして2026年4月、newmoは堺市とともに国の自動運転社会実装先先行事業化地域に選定され、4月下旬から堺市の臨海エリアである堺浜で実証を開始した。堺浜は幅の広い直線道路が多く、車や人の通行も少ない。自動運転の難易度が比較的低い場所から入るという、堅実な立ち上がりである。5月からは大阪市此花区の舞洲エリアでも走行を始めた。いずれも現段階は自動運転レベル2、つまりセーフティドライバーが同乗し、状況に応じて操作を引き継ぐ段階だ。
ライドシェアのドライバーが、自動運転のデータを取る
この転換の中身を最もよく表しているのが、2026年6月15日に正式オープンした大阪市城東区の拠点、JOTO Base(城東ベース)である。
ここで始まったのは、国内初となるライドシェアドライバーによる自動運転向けの走行データ収集だ。屋根にカメラやLiDAR(ライダー)と呼ばれるレーザー計測機器を載せた車両が、JOTO Baseから大阪市の舞洲、堺市の堺浜を経て戻るコースを走る。道路の幅やカーブの状況を記録し、自動運転システムを鍛えるための学習データとして蓄えていく。1階のガレージは約15台を収容でき、現在はデータ収集車両3台を配備、当面は2台で走行する。今秋には新型の自動運転車両を配備する予定だ。
注目すべきは、その担い手である。データ収集ドライバーの募集には80名を超える応募が集まり、必要数は即座に満枠となった。newmoは大阪・関西万博に合わせたライドシェアドライバーの募集で1万人を超える応募を集め、期間中は数百名が実際に勤務した実績を持つ。そこで培った人集めと運行管理のノウハウが、そのまま自動運転のデータ収集体制に流れ込んでいる。
つまり、畳んだ事業が次の事業を支えている。ライドシェアで集めたドライバーが、自動運転タクシーを実現するためのデータを取る側に回る。撤退と一本化は断絶ではなく、地続きだった。ここに、この転換の本質がある。
【参考】関連記事としては「自動運転開発から「撤退・断念」した企業一覧」も参照。
■2028年レベル4へ 1400台のタクシー基盤という賭け金
newmoが掲げる目標は、2028年の自動運転レベル4商用化である。ロードマップは3段階だ。2026年に走行データを集め、2027年に自動運転の性能を高め、2028年に一定条件下のレベル4で配車から送迎、輸送までを担う体制を整える。堺市では2027年度中のレベル4認可取得を目指している。
この計画を支える体制づくりも進む。2026年5月、newmoは東京都大田区の東京流通センターに、都内初の自動運転タクシー開発拠点Autonomy Garage Tokyoを開設した。現在 20名規模の自動運転開発チームを、年内に2倍の40名体制へ拡大する方針だ。ここで開発した車両を、自治体との連携が進む大阪の実証に投入する。
newmoの武器は、技術そのものではない。運行基盤である。グループは大阪、東京、神奈川、沖縄の4都府県で5社のタクシー会社を傘下に収め、車両約1400台、従業員2400人超の体制を築いた。営業所があり、車両を整備する場所があり、ドライバーを管理する仕組みがある。米Google系のWaymo(ウェイモ)がすでに商用サービスを走らせる世界で、後発の日本企業が持ちうる数少ない優位性が、この地に足のついた基盤だ。タクシー会社を買い集めた意味は、ここで回収される。
ただし、その先はまだ描き切れていない。JOTO Baseで積み上げたデータを、全国5549社・16.9万台にのぼるタクシー業界にどう届けるのか。自動運転開発室長の円谷雄人氏は、データ構築と営業運転などのパッケージをそのまま販売するのか、アプリだけを立ち上げて全国のタクシーが対応できるようにするのかは、まだ分からないと語っている。何を売るのかは、走りながら決めることになる。約200億円を賭けた先にあるビジネスモデルは、現時点では白紙に近い。
曾川景介CTOは、自動運転は遠い未来の理想ではなく、AIと共に実現できるサービスの一つとして開発していると述べている。理想ではなく事業として成立させられるか。問われているのは、そこだ。
【参考】関連記事としては「自動運転レベル4の世界共通ルールが日本主導でついに決定」も参照。
■まとめ:約200億円の行方 newmoのライドシェア撤退が残すもの
約200億円を集めたnewmoが、ライドシェアから自動運転タクシーへ舵を切った。この転換が示すのは、二つの市場の落差である。
ライドシェアは、制度に阻まれた市場だった。タクシー事業者に運営主体を限定する枠組みが敷かれ、全面解禁の議論は先送りされ続けた。資金をいくら積んでも、制度の壁は動かない。求人はピークから半減し、UberもDiDiも裏方に甘んじたまま。newmoは自らタクシー会社になることで内側から突破しようとしたが、万博という最大の追い風でも需要は届かなかった。
一方、自動運転タクシーは、制度がこれから作られる市場である。国は自動運転レベル4の車両を2030年度までに1万台普及させる目標を掲げ、newmoと堺市の取り組みは国の先行的事業化地域に選ばれた。同じ約200億円が、規制に殴られ続ける場所から、規制と一緒に育つ場所へ移された。この再配置こそが、newmoの下した判断の核心だ。
もっとも、道は平坦ではない。2028年のレベル4商用化は2年先であり、何を売るかもまだ定まっていない。それでも、日本のロボタクシー市場にとってこの転換は無視できない意味を持つ。タクシー1400台という現場を握る事業者が、本気で無人運転に賭けた。ライドシェア撤退が残したのは、敗北の記録ではない。日本の自動運転タクシーが、実証から実装へ進む足がかりである。












