自動運転と建機(2022年最新版)

国内外15社をピックアップ、国も協議会を設置



出典:JIG-SAW社プレスリリース

高度化が進む自動運転技術がさまざまな分野に波及している。その1つが、建設現場における建設機械の自動運転化だ。担い手不足の解消や安全性の向上、コスト低減などに向け、自動運転技術の応用が進んでいる。

この記事では、自動運転建機の開発に携わる国内外各社の動向に迫る。


■国内企業の動向
大成建設
出典:大成建設プレスリリース

大成建設は2013年から無人で作業を行う建設機械「T-iROBO」の開発に取り組んでおり、2019年には諸岡社製クローラダンプMST-2200VDRをベースとした自動運転クローラダンプ「T-iROBO Crawler Carrier」の開発を発表している。

2021年には、複数の自動運転建機の協調運転を制御するシステム「T-iCraft」を開発した。有人建機との連携や他社製のさまざまな機種・制御方式の自動建機との協調運転の実用性についても確認したという。同年6月には、GPSなどの位置情報が届かないトンネル坑内における無人建機の自動運転を国内で初めて実現したことも発表している。

2022年2月には、コマツ製リジッドダンプをベースに、積込機械や敷均し機械と連携しながら土砂の運搬や排土作業に至るすべての運搬作業を自動で行うリジッドダンプ「T-iROBO Rigid Dump」を発表している。

鹿島建設
出典:鹿島建設プレスリリース

鹿島建設は2015年、建機の自動化技術を核とした次世代建設生産システム「A4CSEL(クワッドアクセル)」の開発を発表した。汎用建設機械の自動化技術、施工状況に応じた運転を行う制御プログラム、自律運転を可能とするための計測・認識技術で構成されており、タブレット端末から作業内容を指示することで各機械が自動運転を行う仕組みだ。


2021年には、A4CSELを導入する全ての現場を東京の本社から一括でコントロール可能な遠隔集中管制システムの開発を発表している。

技術実証として、秋田県の成瀬ダム堤体打設工事と奈良県の赤谷3号砂防堰堤工事、神奈川県の西湘実験フィールドの3カ所で稼働している建設機械を本社ビルに設けた集中管制室から一括管制し、自動運転と遠隔操作による同時作業に成功している。

大林組

大林組は2016年、バックホウなどの建設機械を無人運転可能にする汎用遠隔操縦装置「サロゲート」を開発したと発表した。建機の操作レバーなどに装置を装着することで遠隔操縦を実現する仕組みだ。

2019年には、自動運転建機の第一弾となる土砂の積み込み作業を自動化するバックホウ自律運転システムを日本電気と共同開発したと発表した。


2020年には、KDDI、日本電気とともに、5Gを活用して3台の建機の遠隔操作と自動運転システムを搭載した振動ローラの同時連携や、施工管理データのリアルタイム伝送・解析による一般的な道路造成工事の施工実証に成功している。

また、同年には日野自動車とともに大型ダンプトラックによるレベル4相当の自動運転実証も行っている。

モビリティではないが、2021年には遠隔操作も可能なクレーンの自律運転システムの開発も発表するなど、現場の自動化技術の研究開発に力を入れている様子だ。

コマツ
出典:コマツプレスリリース

コマツは、鉱山向け無人ダンプトラック運行システム(AHS)を2008年にチリのコデルコ社の銅鉱山に商用導入したのを皮切りに、豪州のリオティント社鉄鉱山、カナダのサンコー社オイルサンド鉱山など、2018年までに3カ国の6鉱山・3鉱石運搬で稼働させている。

リオティント社の鉱山では、有人稼働中の電気駆動式大型ダンプトラック830Eを無人化するAHS改造後付キットの試験導入にも成功している。

2019年には、AHSを専門に扱う組織「AHS Center of Excellence」を米アリゾナ州に設立したほか、2021年には、AHS上で自動運転と自動散水が可能な大型オフロードダンプトラックをベースとした無人散水車や、顧客が自社開発した自動化施工システムに対応するインターフェース機能を付加したホイールローダーの開発などを発表している。

2022年3月には、英資源大手Anglo Americanと、鉱山向けの大型ブルドーザー「D375Ai-8 遠隔操作仕様車」のトライアルを同年中に実施する覚書を締結したことも発表している。

【参考】コマツの取り組みについては「コマツ、米アリゾナ州で自動運転ダンプシステムの専門組織新設」も参照。

日立建機

日立建機は、鉱山現場の自律型オペレーション実現に向け、ダンプトラック自律走行システム(AHS)の開発試験や超大型油圧ショベルの自動運転技術の開発などを進めている。

2020年8月には、自律型建設機械の開発と機能拡張を容易にするシステムプラットフォーム「ZCORE(ズィーコア)」の開発を発表している。

施工現場でオペレーターが作業時に行う「認識・判断・実行」を機械システムが行えるようにしたもので、車体に取り付けた各種センサーや通信ネットワークから情報を収集して判断する情報処理プラットフォームと、その判断に従い建設機械の油圧機器や動力機器を適切に動かす車体制御プラットフォームで構成された機能拡張性の高いシステムプラットフォームという。

アラヤ

AI(人工知能)開発を手掛けるアラヤは、クレーンや油圧ショベルなどの建機や産業用クレーン、フォークリフトなどの操縦を自動化するAI開発を事業化している。

建機実機に周囲の環境を把握するカメラやセンサー、レバー操作するためのモジュールを取り付け、AIが自動操縦を行う仕組みだ。AIの学習は、時間は多くかかるものの人間以上の操作を獲得する可能性がある強化学習や、比較的短時間で人間と同程度の動きを実現可能になる模倣学習の2通りのアプローチを用意しているようだ。

安藤ハザマ
出典:安藤ハザマプレスリリース

土木コンサル事業などを手掛ける安藤ハザマは、振動ローラやブルドーザ、油圧ショベルを自動化するソリューションを提供している。

2019年に発表された自動運転振動ローラは、実証実験時における前後進走行時の直進精度の平均誤差は68ミリと熟練オペレーター同等の高精度を誇るという。

2020年11月には、コベルコ建機と油圧ショベルの自動運転技術の確立に向けた実証実験を実施したほか、2022年1月には工事現場における実作業環境における実証実験に着手したことを発表している。

【参考】安藤ハザマの取り組みについては「振動ローラの自動運転システムを開発 中堅ゼネコンの安藤ハザマ」も参照。

JIG-SAW
出典:JIG-SAW社プレスリリース

IoTをはじめA&A(Auto Sensing×Auto Control)サービスや自動運転ソフトウェアの開発などを手掛けるJIG-SAWは、酒井重工業と共同で2015年からロードローラ向けの自動走行・操縦システムの業界標準機を実現するプロジェクト「Auto-Drive Synchronized Control System(略称:ASCS) for Compaction Equipment」を進めている。

2019年に実際の走行・稼働を現場で実証することが可能な技術レベルに達し、同一現場で使用される他の締固め機械や他の建機類との協調制御機能の開発にも着手している。

プロジェクトにはその後大林組や安藤ハザマなどが参画している。2021年12月には、熊谷組の施工現場で自律走行式振動ローラを活用した実証実験を行ったことを発表している。

ARAV

建機のスマート化に向けた各種ソリューション開発を手掛ける2020年設立のARABは、後付けで遠隔操作や自動運転を実現する技術開発を進めている。

エッジコンピュータや2つのジョイスティック用アタッチメント、遠隔操作組込プログラム、遠隔操作用ユーザーインターフェースなどで構成される「Model V」は、10~20年以上前に製造されたレガシーな建機にも後付けで装着し、遠隔操作することができる。インターネット環境が整っていれば、1,000キロ離れた場所からも操作できるという。

■海外企業の動向
Caterpillar

建設機械世界最大手の米Caterpillarは、すでに500台以上の自動運転トラックを世界中の鉱山などで稼働させているという。

同社の自動運転フリートはCat 789D、793D、793F、797Fトラック、コマツ930Eなどで構成されており、運搬だけでなく自律型ブルドーザーやドリル、地下ローダーの自動運転化に向けた研究開発も進めている。2021年11月には、水をまくウォータートラックの自動運転モデルを発表している。

▼Caterpillar公式サイト
https://www.caterpillar.com/

ボルボ・グループ

バスやトラック、建機などの開発を手掛けるボルボ・グループは2018年、ノルウェーの鉱業現場に自動運転トラック6台を提供し、自動運転による輸送サービスを提供した。

2020年には、グループ全体の自動運転ソリューション開発を手掛けるVolvo Autonomous Solutionsを設立し、鉱山・採掘現場などにおける自動運転化も促進させていく方針だ。2021年には、スウェーデンのエスキルストゥーナにEV(電気自動車)自動運転輸送ソリューションのテスト・デモンストレーションエリアを設営している。

また、建機製造を手掛けるVolvo Construction Equipmentは、5Gネットワークを介して数百キロ離れた位置からハイリフトホイールローダーを遠隔操作する技術を2021年に発表している。この技術を応用すれば、1人のオペレーターが世界中の複数の現場で作業することが可能になるという。

▼ボルボ・グループ公式サイト
https://www.volvogroup.com/en/

Liebherr

独建機大手のLiebherr(リープヘル)は2021年9月、米ラスベガスで開催された鉱山機械見本市「MINExpo 2021」で最新のマイニング(採掘)テクノロジーを発表した。Machine Automation、Digital Services、Assistance Systems & On-board Analyticsにより、鉱山におけるトラックや掘削機、ブルドーザーの自動化を推進していくという。

また、ソフトウェア開発を手掛けるHexagonとパートナーシップを結び、次世代の鉱山自動化実現に向けたフレームワークを構築していくことも発表している。

▼Liebherr公式サイト
https://www.liebherr.com/en/deu/start/start-page.html

Wind River
出典:ウインドリバー社プレスリリース

自律ソフトウェア開発を手掛ける米Wind Riverも建機の自動運転化に取り組んでいるようだ。同社は2020年4月、採掘車両の無人化などマシンビジョン技術開発を進めるBeijing TAGE Idriver Technologyとの協業を発表した。

TAGEはインテリジェントクラウドプラットフォームやV2Xテレマティクスなどエッジからクラウドに至るさまざまなテクノロジーを活用し、自動運転採掘車の開発を進めている。これにWind Riverのリアルタイム・オペレーティング・システムを組み合わせ、次世代の自動運転採掘車の実現に向け必要となるソフトウェアプラットフォームの開発を協力して進めていく計画だ。

▼Wind River公式サイト
https://www.windriver.com/

【参考】Wind Riverの取り組みについては「目指すは採掘車の自動運転化!米ウインドリバー、中国企業と協業」も参照。

Built Robotics

2016年設立の米スタートアップBuilt Roboticsは、自動運転車の仕組みを応用する形で建機の自動化にアプローチしているようだ。建設・土木作業仕様として、大きな振動や衝撃に耐えるLiDARの採用や、作業領域のマッピング・座標化などで自律走行を実現している。

掘削機に後付け可能なシステム「Exosystem」は、全天候型エンクロージャーや近接レーダー、360度カメラ、GPS、液冷式コンピューターなどで構成されており、主要メーカーの中型掘削機と互換性があるよう設計されている。

▼Built Robotics公式サイト
https://www.builtrobotics.com/

SafeAI

2017年に設立された米スタートアップのSafeAIは、既存の建機に後付けする自動運転ソリューションの製品化を進めている。日本やインド、オーストラリアにも拠点を設けている。

大林組から出資を受け、鉱山開発や建設業の現場などで実証を進めているほか、マクニカともパートナーシップを結び、建機自動化に向けたトータルソリューションを提供している。

▼SafeAI公式サイト
https://www.safeai.ai/

■自動運転建機に関する国の動向

国土交通省などは2022年3月、建機施工の自動化・自律化・遠隔化技術などを活用することで建設産業が抱える課題を解決すべく、建設業の将来像を見据えた議論・検討を行う「建設機械施工の自動化・自律化協議会」を設置した。

建機の自動・自律・遠隔施工を実施する際の安全ルールの標準化や設定に関する検討、自動化目標の設定に関する検討、協調領域の設定に関する検討、自動化・自律化機械の性能に関する検討、安全ガイドラインの検討などを進めていく方針だ。

■【まとめ】協議会の議論に要注目

閉鎖空間である建設現場への自動運転技術の導入は一見容易に思われるが、道路の白線のような明確な目印はなく、また自動運転における走行とともに各建機特有のタスク・作業が求められるため、高度な技術が必要となる。

今後、「建設機械施工の自動化・自律化協議会」における議論により、協調領域や安全ガイドラインなどが明確なものとなれば、各社の開発や技術の普及に弾みがつく。官民それぞれの取り組みに引き続き期待したい。

【参考】関連記事としては「自動運転とトラクター」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




関連記事