自動運転技術を駆使したスマート農業が着実に前進している。ロボットやAI、IoTといった先端技術を活用し、作業の自動化や情報共有、データ活用による営農管理など、さまざまな面で目に見える進化を遂げている。
この記事では、農業機械の主役であるトラクターにスポットを当て、2022年11月時点の情報をもとに、自動運転トラクター(ロボットトラクター)の開発動向に迫る。
記事の目次
■国内企業の動向
クボタ
クボタは2016年にオートステアリング(自動操舵)機能を備えたトラクターを発売したのを皮切りに、2017年には使用者の監視下において無人自動運転を実現するロボトラクター「SL60A」を市場投入した。
SL60AはLiDARや超音波ソナー、4台のカメラなどを搭載し、障害物検知やトラクター周辺のモニタリングを可能にしている。リモコンから遠隔で作業開始や停止を指示できるほか、前方の無人機を後方の有人機に乗車した作業者が監視しながら自動運転作業を行う協調作業も可能だ。
2019年には、アグリロボトラクタ「MR1000A」の有人・無人仕様も発売した。単独自動運転や作業ルートの自動生成、作業開始点への自動誘導機能など各種機能を備えている。RTKに対応し、誤差数センチの高精度測位を可能にしている。耕うんや代かき、肥料散布、粗耕起、播種などの各種インプルメントにも対応している。
トラクター以外では、搭乗状態での自動運転を可能にしたコンバイン「WRH1200A」や、植付開始点誘導や内側往復植付、内周植付、外周植付の自動運転モードを備えた田植え機「NW8SA」なども製品化している。
今後は、搭乗や近接監視を必要としない遠隔監視のみの自動運転農機実現に向け技術開発を続けていく方針だ。NVIDIAのAIプラットフォームの活用や、農機向けの自動運転技術開発を手掛けるカナダのAgJunction買収など技術の高度化に向けた取り組みをはじめ、米国やイタリア、スペイン、インドの農機メーカーや機器メーカーなどに相次いで出資・買収するなど、グローバル展開も加速させている。
【参考】クボタの取り組みについては「クボタ、北米向け自動運転トラクター事業強化へカナダ企業買収」も参照。
ヤンマー
ヤンマーは2013年にロボットトラクターの開発に着手し、有人状態で一部機能を自動化したオートトラクターや、近距離監視のもとタブレットで作業をコントロールできるロボットトラクターなどを製品化している。
ロボットトラクターは、事前に設定した経路においてステアリング操作や作業機の昇降、前進・後進切替え、停止、PTO入・切、車速調整などを自動で行うことができる。有人車車両との協調作業も可能だ。
ヤンマーは自動運転技術を搭載した農業機械シリーズを「SMARTPILOT」と銘打ち、トラクターのほか直進や旋回を自動化したオート田植え機なども市場化している。無人状態ですべての操作を自動化し、遠隔監視するだけの完全無人トラクターの研究開発も現在進行形で進めている。
【参考】ヤンマーの取り組みについては「高い?安い? 1072万円で畑の革命…自動運転トラクターをヤンマー発表」も参照。
井関農機
井関農機は、有人監視下によるロボットモードやトラクターに搭乗して操作は自動で行うオートモード、直進作業をアシストする自動操舵モードを選択可能なロボットトラクター「TJVシリーズ」を市場化している。
隣接、一本飛ばし、協調作業などの走行パターンや、一点旋回・切り返し旋回といった旋回パターンを行うことができる。
ロボットモードでは耕起・深耕・砕土が可能で、これに加えオートモードは播種や除草、自動操舵モードは施肥関係にも対応している。
【参考】井関農機の取り組みについては「井関農機、自動運転のロボットトラクタ「TJV655R」を販売」も参照。
■海外企業
Deere & Company(ディア・アンド・カンパニー)
農機世界最大手のディア・アンド・カンパニーは早くから自動運転トラクターの開発を進めている。これまでに農業ロボット開発を手掛けるBlue River TechnologyやBear Flag Roboticsといった有力スタートアップを買収するなど、先端技術の習得にも積極的だ。
技術見本市「CES 2022」では、最先端テクノロジーの紹介とともに自動運転トラクターの生産準備が整ったことを明かしている。8Rトラクターに6対のステレオカメラやGPS誘導システムをはじめとした高度なテクノロジーを組み合わせた量産モデルで、位置測定は1インチ未満の精度を誇るという。
会見では、市場投入予定時期を2022年後半としている。
▼Deere & Company公式サイト
https://www.deere.com/
【参考】Deere & Companyについては「農機の世界最大手ディア、「完全自動運転型」の量産スタートへ」も参照。
Mahindra & Mahindra
自動車から農機までさまざまなモビリティを製造するインドのマヒンドラ&マヒンドラは、2017年にリモコン操作型の半自動運転トラクターの試作機を発表している。2018年から段階的に発売する方針を打ち出しているほか、完全自動運転のトラクターの開発も進めているようだ。
▼Mahindra & Mahindra公式サイト
https://www.mahindra.com/
Autonomous Tractor Corporation
2012年設立の米Autonomous Tractor Corporationは、ディーゼル電気システムを導入済みの既存農機に追加可能な自動制御システム「AutoDrive」を開発している。
RTK GPS2基とレーザージャイロシステム、無線信号システムなどを活用し、ローコストで耐久性の高い自動運転システムの販売に向け開発を進めているようだ。
▼Autonomous Tractor Corporation公式サイト
https://www.autonomoustractor.com/
ASI
ユタ州立大学から2000年にスピンオフしたAutonomous Solutions(ASI)は、鉱業や農業、輸送、テスト向けなどさまざまな自動運転技術の開発を進めている。
トラクター関連では、手動制御とロボット制御を切り替え可能な一連のハードウェアとソフトウェアコンポーネントを装備したトラクターや小型のコンパクトトラクター、超小型で100を超えるアタッチメントを活用可能なプラットフォームなどを製品化しているようだ。
有人機との連携や、複数の無人機を現場で操作する協調作業なども可能で、単一のフィールドに限らず、別々のフィールドで同時操作することもできるという。
▼ASI公式サイト
https://asirobots.com/
One3 Design
オフロード車や重機、トラクターの開発・設計などを手掛ける米One3 Designは、自動運転可能なゼロエミッショントラクターをわずか9カ月で開発したという。
Autonomous=自動運転、Modular=モジュラー、Omni-Scalable=オムニスケーラブルをコンセプトに、それぞれの頭文字をとった「Amos」プロジェクトとして開発を継続しており、新バージョンを2021年春にリリースする予定としている。
▼One3 Design公式サイト
https://www.one3designinc.com/
Fendt
米農機大手AGCO傘下の独農機メーカーFendtは、2011年に追従型の自動運転トラクターを発表した。2017年ごろからロボット技術開発を本格化させ、これまでに小型の種まきロボット「Xaver」などを開発している。
最新世代のフィールドロボットは、センチメートル精度でロボットを制御する「VarioGuideレーンガイダンスシステム」や、播種後のフィールド内のすべての作物をマッピングし管理に役立てる技術を搭載するなど、自動化と精密化に力を注いでいるようだ。将来的なトラクター類の自動運転化にも期待したい。
▼Fendt公式サイト
https://www.fendt.com/int/
Case IH
CNHインダストリアル傘下の農機メーカーCase IHは、2016年に自動運転トラクターのコンセプトモデル「Autonomous Concept Vehicle」を発表している。
実用化に向けては、2018年には農場運営企業のolthouseFarmsと提携しパイロットプログラムに着手するなど、実際のシナリオで自動運転技術の研究や試験運用を進めているようだ。
▼Case IH公式サイト
https://www.caseih.com/northamerica/en-us/home
FJDynamics
ロボット開発を手掛ける中国のFJDynamicsは、既存の農機に後付け可能な自動運転ソリューションの開発・製品化を進めている。
FJD自動操舵システムは、電動ステアリングと車載コントローラー、姿勢センサー、GNSSアンテナなどで構成され、メーカー問わず各種農機に搭載可能という。
リモート制御や自動運転で農機を制御でき、障害物の検出や回避機能などももちろん備えている。AIカメラは、作物と雑草を正確に区別し、対応すべき作業手段をとることが可能という。
半径2キロをカバーする基地局やバックカメラなど、オプションも豊富なようだ。
▼FJDynamics公式サイト
https://www.fjdynamics.com/
【参考】FJDynamicsについては「オンボロ農機も「後付け」で自動運転化!スマート農業、頭角現す中国ベンチャー」も参照。
Monarch Tractor
テスラ出身のエンジニアが立ち上げたスタートアップMonarch Tractorは、自動運転EVトラクターの開発を手掛けている。
同社が開発するトラクター「MK-V」はバッテリー駆動で10時間以上稼働することができ、1台から最大8台のトラクターフリートを遠隔監視・操作することができる。ローカリゼーションとコンピュータービジョンテクノロジー、RTK GPSを活用し、最大2センチの精度で制御可能という。
日本の部品メーカー武蔵精密工業から出資を受けており、協業の行方にも注目だ。
▼Monarch Tractor公式サイト
https://www.monarchtractor.com/
AutoNxt Automation
インドの新興企業AutoNxt Automationも自動運転トラクター「ハルク」の開発を手掛けている。自動運転機能の詳細は不明だが、電動で低騒音、低振動、低ハーシュネスなど快適性も考慮した設計で、耕作、ディスク、殺虫剤の散布などさまざまな用途に対応可能という。
▼AutoNxt Automation公式サイト
https://autonxt.in/
■国の動向
国もスマート農業推進に向け、取り組みを加速している印象だ。2020年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において、スマート農業の加速化と農業のデジタルトランスフォーメーションの推進が明記されている。
環境整備面では、2017年に農業機械の自動走行に関する安全性確保ガイドラインを策定(2021年改訂)し、安全性確保に向け自動走行可能なトラクターや田植機、茶園管理用自走式農業機械、自走式草刈機、自走式小型汎用台車についてリスクアセスメントの実施など安全性確保の原則や関係者の役割などを明文化している。
2021年2月には、農業者によるデータの活用に向け「農業分野におけるオープンAPI整備に関するガイドラインver1.0」を公表した。メーカーやシステムの垣根を越えて連携させるオープンAPIの整備を促進するため、農機メーカーやICTベンダーなどの事業者の対応指針を整理している。
■【まとめ】農業用ロボットは今後大躍進を遂げる
MarketsandMarketsによると、無人トラクターやドローン、自動収穫システムなどの農業用ロボットの市場規模は、2021年の49億ドル(約6,300億円)からCAGR(年平均成長率)19.3%で成長し、2026年には119億ドル(約1兆5,000億円)に達すると予測している。
一方、Emergen Researchは世界の農業用ロボット市場の収益に関し、2021年の69億4000万ドル(約9,000億円)からCAGR34.4%を記録し、2030年には993億ドル(約12兆8,000億円)に増加すると予測している。
自家用車や移動サービス置ける自動運転市場と同様、ロボットトラクターをはじめとした農業用ロボットも今後大きな躍進が見込まれる成長分野のようだ。
【参考】関連記事としては「スマート農業で自動運転技術が活躍!仕組みや各社の動向を解説」も参照。
■関連FAQ
すでに自動運転化されたトラクターは各社から販売されている。
畑というのは「公道」ではないため、道路交通法が適用されない。また、私有地であるため関係者以外がいる環境ではないことも、自動運転という技術を展開しやすい要素となっている。
日本のメーカーとしては、クボタやヤンマー、井関農機などだ。海外のメーカーとしては、Deere & CompanyやMahindra & Mahindraなどが知られている。
日本を含めて世界的にスマート農業に対する機運は高く、自動運転トラクターの販売台数も今後伸びていくと思われる。特に労働コストが高めの先進国はスマート農業の分野をリードするものとみられる。
2021年の49億ドルから2026年には119億ドルに達するという予測がある。CAGR(年平均成長率)は19.3%だ。
(初稿公開日:2022年6月4日/最終更新日:2022年11月24日)