自動運転車のシート、最終形は「飛行機のファーストクラス」説

運転不要な車内、多彩なシートアレンジが可能に



出典:テイ・エステックプレスリリース

自動車の内装品開発・製造を手掛けるテイ・エステック株式会社(本社:埼玉県朝霞市/代表取締役社長:保田真成)はこのほど、東京都内で次世代車室内空間発表会を開催した。

自動運転をはじめとした次世代モビリティは、車内における過ごし方が従来と変わる――。こうした観点から、車室空間の在り方について新たな提案を行った格好といえそうだ。


従来の運転席を中心とした車内空間は、自動運転時代にどのように変わっていくのか。未来のモビリティの在り方に迫る。

■自動運転における車内空間
自家用レベル4は運転機能が必須

自家用車を前提とした場合、条件付きで自動運転を可能にするレベル3やレベル4搭載車両には手動制御装置が必須となる。自動運転システムが車道走行における全てのケースに対応できないため、足りない分は手動運転で補わなければならないためだ。

初期実装時は手動運転が主体となり、自動運転は「高速道路走行時」などに限られる形が主流となる。その後、技術の高度化とともに徐々に自動運転可能なODD(運行設計領域)が拡大し、自動運転の割合が増えていくものと思われる。

ただし、手動運転の必要性が少しでも残されていれば、従来通りの運転席が必要となる。自家用車において手動制御装置や運転席が必要なくなるのは、完全自動運転を実現するレベル5を達成してからだ。


【参考】関連記事としては「自動運転とODD(2022年最新版)」も参照。


運転席が不要となるレベル5

レベル5の完全自動運転が実現すれば、車道走行における全てのケースにおいてドライバー不在で車両を走らせることが可能になる。高速道路も住宅街の細い通りも一切道路を選ぶことなく、ある程度の悪天候にも対応してドライバーレスの走行を実現する。

このレベル5が実現すれば、「ドライバー」の存在そのものが必要なくなり、ステアリングやアクセル、ブレーキといった手動制御装置を搭載する必要もなくなる。あえて手動運転を可能にすることもできるが、贅沢なだけの装備となる。レベル5の本旨を考えれば、純粋な自動運転専用車として設えるのが適切だろう。

なお、移動サービスなどの特定用途目的で使用するレベル4車両は、手動制御装置を搭載しないモデルも多い。これはODD内のみを走行するよう事前に設定可能だからだ。

【参考】自動運転レベルについては「自動運転レベルとは?」も参照。

車内設計の自由度増すレベル5

運転席を必要としないレベル5では、車内空間におけるデザインの自由度が飛躍的に増す。トヨタの「e-Palette」やCruiseの「Origin」など、レベル4ではあるものの「自動運転専用」に設計された車両が自由度の高い車内レイアウトを採用しているのと同様、自家用車においても設計の自由度が大幅に増すのだ。

保安基準の問題もありそうだが、その頃には自動運転対応の観点から一定の改正が為されているものと推測される。

こうした車両では、従来の「運転」というタスクを考慮しないシート設計が可能になる。リラクゼーションや仕事など、さまざまなコンセプトに特化した設えを施すことができるようになるのだ。

特に需要が高そうなのは、やはり乗り心地を重視したリラクゼーションタイプではないだろうか。体をしっかりとサポートするシートに、手元にはディスプレイや音響など車内設備を操作するシステムを備える。足元にはゆとりの空間が確保され、他の席とコミュニケーションを図るアレンジや自席を隔離してプライベート空間を創出するシートアレンジなども可能になりそうだ。

現状の車内シートの延長線上で考えると、こうした設えの行き着く先は、飛行機の「ファーストクラス」仕様かもしれない。

国内線のファーストクラスやビジネスクラスのシートは、ゆとりのあるリクライニング角度やフットレストでゆったりとくつろぐことができる。隣席と区切る簡易パーテーションでプライベート空間も確保している。

国際線のファーストクラスであれば、ドア付きの個室型シートでゆったりと横になれるほどの機能性や居住性を確保している。大型液晶ディスプレイなど各機能も豊富だ。

自動運転車におけるシートも、最終的にはこうした形に帰結していく可能性が考えられそうだ。

■各社の取り組み

ここでは、自動車シートメーカー各社がどのような開発を進めているかを見ていこう。なお、各社の取り組みは未知のレベル5ではなく、近未来のレベル3~4を見据えたものが多い。

テイ・エステック:乗員認識機能を活用したシート
出典:テイ・エステックプレスリリース

冒頭で触れたテイ・エステックは、アルプスアルパインと共同開発した自動車用シートとVR技術を融合した「XR Cabin」を次世代車室内空間発表会で紹介した。

リラクゼーションシートには、EV(電気自動車)に対応した高効率・速暖空調やゾーン別サウンドシステム、デザインと機能を融合させたステルススイッチ、直感操作を実現するタッチスイッチ、生体センシングなどの各機能が搭載されている。

運転から解き放たれた車室内で、シーンに応じた最適なシートアレンジやさまざまな機能を提案し、「感動」の空間を創出するという。

同社はこのほかにも、「エクサライドシート」や「アンビエントシート」といったオリジナルシートの開発も進めている。

エクサライドシートは、乗員認識機能で得られた情報をもとにシートポジションを最も快適な位置に自動調整する機能や、停車時・安定走行時に座席がツイストやスイング運動を行い体感運動を促すエクササイズ機能を搭載している。

アンビエントシートは、脳波を読み取ることで乗員の感情を理解し、車内のムードを演出して自動運転時に楽しい空間を創り出すという。

タチエス:モードに応じた自動変化を可能に
出典:タチエス・プレスリリース

自動車用シートの開発を手掛けるタチエスは、東京モーターショー2017で自動運転レベル3~4を想定したシート「Concept X-3」、2019年の上海国際モーターショーではX-3を昇華させた「Concept X-4」をそれぞれ発表している。

薄型座面を可能とした構造で、人体の支持に最適化した身体の負担が少ない運転姿勢を可能にするほか、リラックスモード、や乗降モードなど、クルマのモードに応じた自動変化を可能にするという。

米Adient:緊急時には迅速にシートを再配置

米Adientも自動運転時代を見据えたコンセプトシート「A17」や「A18」を過去に発表している。AI17はレベル3~4の自家用自動運転車向けのシートコンセプトで、内側に15度回転することで乗員間のコミュニケーションを容易にする。

A18は移動サービス用途のレベル4自動運転車向けのコンセプトで、乗員の心拍数や呼吸数を測定しストレスレベルを評価する機能やマッサージ機能、シートが乗員の体に合わせてリクライニングする機能などを搭載する。

一体型シートベルトや緊急時の迅速なシート再配置など、快適さを犠牲にすることなく高い安全性を提供する機能も搭載しているという。

トヨタ紡織:MaaSシェアライド空間コンセプトを発表
出典:トヨタ紡織プレスリリース

トヨタ紡織は、自動運転を想定した車室空間ソリューションとして、MaaSシェアライド空間コンセプト「MX221」をCES2022で発表した。

2030年以降のレベル4を想定し、VersatilityとDiversityを合わせた造語「Diversatility」をコンセプトテーマに据えている。多様なユーザーに合わせ可変性をもつ空間で、シートレイアウトや内装アイテムを変更することで多様な移動ニーズや利用シーンに合わせた空間を創り出すという。

デンソーやジェイテクトなどトヨタグループ6社連携による先進先行技術を搭載しており、クリーン維持システム、シームレス乗降システム、空間サービスシステム、ヘルス&セーフティシステム、多様な空間システム、サステナブルシステムなどを備えるという。

■【まとめ】内装もレベル4から徐々に進化

自動運転時代の車内空間は、まずレベル4への対応として、運転とリクライニングを両立させたシートの開発が進んでいくものと思われる。シートアレンジの自由度も高まっていくのだろう。

そして従来の運転という概念がなくなるレベル5時代には、移動時間の快適性に重点を置いた設えがスタンダードとなり、その最たる例は飛行機のファーストクラスではないか――という話だ。

レベル5はまだまだ先の話だが、サービス用途のレベル4車両において同様のコンセプトが実用化・導入されていく可能性が高い。各社が開発を進める運転装置を備えないオリジナルのレベル4車両の内装に注目しておこう。

【参考】関連記事としては「自動運転はどこまで進んでいる?(2022年最新版)」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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