自動運転化でなくなる交通違反は?「泥はね運転」は?

「整備不良」はゼロにはならない



「飲酒運転」や「あおり運転」が取り沙汰されることが多くなった昨今の道路交通。注意喚起や厳罰化などでその数自体は減少傾向にあるものの、依然としてなくなる気配はない。


こうした状況に終止符を打つことはできるのか。極論だが、その1つの解が自動運転だ。道路上の全ての車両がドライバーレスの自動運転車になれば、こうした事案はなくなるはずだ。

では、自動運転車は交通違反を全く行わないのだろうか。この記事では、一部道路運送車両法を含め自動運転車と交通違反について考察する。

■交通違反の検挙状況

警察庁交通局がまとめた資料「令和2年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について」 によると、2021年中に検挙した交通関係法令違反は575万1,800件(告知・送致件数)に上る。

▼令和2年中における交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について|e-Stat
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/file-download?statInfId=000032051740&fileKind=2


内訳は、多い順に一時不停止160万4,972件、最高速度違反116万2,420件、通行禁止75万950件、信号無視63万5,485件、その他31万2,308件、携帯電話使用等30万9,058件、歩行者妨害29万532件、追越し・通行区分21万240件となっている。

このほか、飲酒運転は2万2,458件、無免許運転1万9,225件、駐車禁止場所等違反16万4,888件といった状況だ。

出典:警察庁交通局(※クリックorタップすると拡大できます)

単純計算で1日あたり1万5,000件以上が告知・送致されている。膨大な数だが、それでも1980年代の年間1,300万件をピークに取り締まり件数は減少傾向が続いている。

■自動運転車で「原則なくなる」違反
「飲酒運転」「無免許運転」「携帯電話使用」など

ドライバーレスを実現する自動運転車は、運転操作以外のドライバーに起因する違反を事実上なくす。例えば、飲酒運転や無免許運転、免許証不携帯、携帯電話使用等などがこれにあたる。


自動運転システムは酒を飲まない。と言うか飲めないため、飲酒運転は不可能だ。常時通信を行っているものの、ドライバーによる携帯電話の使用のように注意力を妨げることもない。

運転免許関連については、従来のドライバーに掛かる運転免許は必要なくなる見込みだ。その代わり、各自動運転システムが安全基準を満たしているかどうかが道路運送車両法などで明確に規定され、別途認定証や走行許可証などが交付される可能性がありそうだ。

■自動運転車で「基本的になくなる」違反

自動運転で原則なくなる違反に対し、ここでは基本的になくなるであろう違反について解説していく。「基本的」としたのは、自動運転システムの能力・精度や設定によって左右される可能性があるためだ。

制限速度や一時停止は基本的には守るが……

自動運転車は安全運転を大前提としており、制限速度や一時停止といった道交法の定めは原則守るよう設計されている。車間距離もしっかりと保持し、あおり運転も行わない。

例えば、郊外の見通しの良い道路があったとする。制限速度は時速50キロだ。見通しが良く安全確保しやすいため、一般ドライバーの多くは制限速度を超え、平均速度が時速60~70キロとなっている区間も珍しくない。事故も起こらないため、警察による厳しい取り締まりもない。

是非は別として、こうした区間は周囲の車両の流れに乗ることが安全とも言えるが、自動運転車は杓子定規に制限速度を守り通す。

ドライバーが状況に応じて柔軟に判断を下す場面においても、自動運転システムは基本的に道路標識などに基づいて走行するよう設計されているからだ。

故に、自動運転車は制限速度を超えることはなく、一時停止を無視することもない。横断歩道前では、徐行や停止をしっかり行う。

センサーが標識を誤検知する可能性がある

ただ、こうした交通法規の順守は、自動運転システムの能力や設定などで破られる可能性がある。例えば、高精度3次元マップなどの情報インフラを使用しない自動運転システムの場合、速度制限や一時停止などは道路上の標識などで逐一センサーが判断することとなるが、これを誤検知する可能性はゼロではない。悪天候下であればなおさらだ。

制限速度を超えて追従走行する自動運転車も?

また、前述した見通しの良い道路など一定条件を満たす場合、アダプティブクルーズコントロールの要領で制限速度を少し超えて前走車に追従走行する能力を有する自動運転車も多いものと思われる。こうした機能をオンオフ設定可能な仕様が将来実装される可能性も否定できないだろう。

こうした点も踏まえると、自動運転車は交通ルール順守を前提としているものの、大半の交通違反に対して絶対に犯さないとは言い切れない……という結論にたどり着くのだ。

もちろん、ほぼ全ての自動運転車は交通ルール順守の姿勢を堅持し、かつ安全に走行可能なシステムを構築した上で実用化されるため、これらの違反は稀有なものであることに違いはない。

■自動運転車でも「犯す可能性がある」違反

では、自動運転車は基本的に全ての交通違反を回避できるのか――と問われれば、答えは否(いな)となる。自動運転車と言えど、走行に関わる面以外は人為的な影響を受けるためだ。

「整備不良」「定員外乗車違反」など

代表例としては、整備不良を挙げることができる。テールランプの不灯やブレーキの不具合、タイヤの空気圧、LiDARなど車載センサーの傾きなど、管理者がしっかりと確認・整備しなければ道路運送車両法違反となる可能性がある。

同様に、使用者・利用者による違反の可能性もありそうだ。例えば、定員外乗車違反だ。定められた定員以上の人数が乗車するケースが想定される。車内カメラで乗員をモニターし、注意喚起することも可能だが、子どもと大人を明確に区別することができるか、また、二人羽織状態でこっそり乗り込む 乗員をしっかりと見抜くことができるか…といった問題がある。

自家用の自動運転車であれば、幼児用補助装置、いわゆるチャイルドシートの使用についても違反が出てくるかもしれない。同様に、シートベルトを正しい形で装着しているかなども問題となる可能性がありそうだ。

無人タクシーでは「安全不確認ドア開放等違反」など

自動運転タクシーなどでは、安全不確認ドア開放等違反なども考えられる。乗降時、周囲の安全を確認せずにドアを開ける行為だ。ドアの開閉は自動制御されているものと思われるが、手動操作可能な場合は要注意となりそうだ。

輸送用の自動運転車では「過積載」など

また、輸送用途の自動運転車であれば、過積載なども注意が必要になる。積載物の重量や大きさ、積載方法など、各種センサーで検知し、注意を促すシステムが必須となりそうだ。

このほか、泥はね運転違反なども考えられる。自動運転システムが水たまりを検知し、周囲の歩行者などに気を配って水たまり回避や徐行などを行う機能が備わっているか。意外と盲点となる可能性もある。

救護義務違反については、ドライバーの存在が前提とされない自動運転車においては、従来の規定と別の枠組みが必要となりそうだ。

■【まとめ】自動運転特有の交通ルールが必須に?

基本的に、走行面において自動運転車が交通違反を犯すのはまれなケースと言えそうだ。むしろ、杓子定規な安全運転があおり運転の標的にならないか気をもむが、それはまた別の話となるので割愛する。

一方、乗員や管理者などによる違反の可能性は拭いきれない。センサーなどである程度検知可能ではあるものの、100%防ぐことは難しそうだ。

今後、無人走行を可能とする自動運転車の社会実装が本格化することが予想されるが、自動運転特有の交通ルールがどのように形成されていくか――といった観点にも注目だ。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報
【著書】
自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)




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