【インタビュー】LiDARに代替するスマートカメラを発表 Revatron浅田麻衣子社長 自動運転車における距離計測と立体認識を可能に

原発事故が変えた私の人生とゴール



インタビューに応じるRevatron株式会社の浅田麻衣子社長=撮影:自動運転ラボ

従来型のLiDAR(ライダー)の代替を可能とする低価格帯AIスマートカメラを、画像・映像認識技術を手掛けるRevatron株式会社(本社:東京都中央区/代表取締役:浅田麻衣子)が2018年6月に発表した。

光技術を活用して車両周辺の人や物体などの距離を計測するLiDARは「自動運転の目」とも呼ばれ、無人の自動運転車を実現する上でのコアセンサーの一つとされてきた。しかしそのLiDARは製造コストが非常に高いことや構造上の問題なども指摘され、解消すべき課題は多いという認識が一定程度広がっているという側面もある。


そんな中でのRevatron社のスマートカメラの発表は、自動車業界でも大きな注目を集めた。Revatron社が開発するスマートカメラとは一体どんな製品なのか。そしてRevatron社を率いる社長の浅田麻衣子氏とはどんな人物なのか。自動運転ラボはRevatron社を訪問して浅田社長にインタビューし、同社が手掛ける最新技術や浅田社長の思いなどについて聞いた。

【浅田麻衣子社長プロフィル】あさだ・まいこ 1978年2月24日生まれ、大阪府出身。早稲田大学政治経済学部に在学中に「株アイドル」としても活動。外資系金融機関に就職後、個人投資家や投資セミナー講師、経済評論家としても活躍。現在、Revatron株式会社代表取締役。

■異才の経歴…美大卒、フリーター、早稲田入学、株アイドル、金融評論家

浅田社長は異色の経歴の持ち主だ。美大を卒業しているが現在は先端技術を手掛ける企業の社長として活躍している。かつては「株アイドル」としても活躍し、経済評論家やジャーナリストとしてテレビやウェブを通じて情報を発信していたという経歴も持つ。

Q 本日は宜しくお願い致します。まず始めに浅田社長のご経歴について教えて頂けますでしょうか。

もともと関西出身です。美大を卒業したあと、東大阪の印刷工場に働きに出ました。その会社は、パソコンが20人に1台しかなく、部長しかパソコンに触れられないという会社でした。10歳の時から私はパソコンに触れていたこともあり、そんな状況だったことからその会社を退社しました。


その後はパソコンの勉強しながら、ロスジェネ世代だったこともあり、非正規雇用の職を転々としました。そんな中で、非正規雇用の問題をなぜ国は手掛けないんだろうと思い、24歳のころに本を出したいと思って出版業界に売り込みにいったんです。そしたら出版社の方に言われました。「ジャーナリストはね、早稲田大学とか卒業しないとできないんですよ」と。

それでジャーナリストになりたいがために26歳で早稲田大学に入学して、入学証書持って再度出版社に売り込みにいきました。「ジャーナリストにしてください」と。すると「どんな記事書きたいの?」と聞かれ、「金融経済です」と答えましたら、知り合いを紹介してくれるという話が出まして、その出版社に行ったら「株アイドル」として活動することになったんですよね(笑)。

それから、2008年に金融機関に勤めましたが、リーマンショックで離職。その後は、企業再生のプランニングを手がけました。FA(ファイナンシャルアドバイザー)ですね。債務整理の交渉のプランを作る、スポンサーをつける、という仕事です。

■東日本大震災の原発事故で一念発起…「ゴールは遠隔ロボットで廃炉作業」

浅田社長がこうした活動から現在経営するRevatron株式会社の社長になるまでには、ある人との出会いや東日本大震災における原発事故が背景にあった。遠隔ロボットによる廃炉作業を行うことを人生の最終目的に据えつつ、その技術も活かして自動運転業界でも注目されるプロダクトを作り出している。


福島第一原子力発電所の内部画像=出典:IAEA Imagebank/Flickr (CC BY-SA 2.0)
Q 現在経営する会社に携わるようになったきっかけを教えて下さい。

私が金融機関でコンサルなどをしていたころ、インテルの元社長さんがある人を紹介して下さいました。その人が現在の弊社のCTO(最高技術責任者)で、商社さんと合弁で立ち上げて運営されていたレバトロン(現在のRevatron株式会社の前身)のメンバーでした。

レバトロンは耐放射線技術や大容量データ高速演算処理技術の開発やチップの製造などを手掛けていたのですが、なかなかうまく立ち上がらないということで相談を受けました。ビジネスプランや技術も教えて頂いて、検討はしたのですが、当時はコンピュータのことも詳しくなく、専門外ということで、力不足だなと思いまして一度はお断りしたんです。

しかし東日本大震災での原発事故が発生したあとに考えたことが、放射線で電子部品が壊れるのでカメラすら動かない、ロボットもチップが壊れるだろうということでした。原発事故は、人が危険地帯に現場へ行って作業するのではなくて、ロボットが行けば済むわけなんですよね。それができないというのは、チップ設計技術、映像技術と通信技術が成熟していないためです。

ずっと株式投資家として勤めてましたし、いろんな企業の技術をリサーチしていた記憶からすると、耐放射線チップ設計技術分野の研究開発のお金もついていないですし、日本の原子炉の事故後でも活躍するカメラやロボットを投入することが頓挫するかもしれないと思って、私が引き継ぎました。

私にとってはこの遠隔ロボットで廃炉作業を行うというのが自分にとっての人生のゴールです。現在はロボットの遠隔操作や放射線に強い設計に関するプロジェクトに参画して、少しだけようやくお手伝いができる兆しが見えてきているので、嬉しいところです。その人生のゴールに辿りついた後は、また、違うことがやりたいなと思っています。(笑)

ただ、その前に会社を回していかないといけないので、超低遅延映像伝送システムを医療機器展で出したら、お声が掛かったのが自動運転分野なんですね。自動運転技術において、遠隔でコマンドを送るとか、決まったルートを自動で走らせるなどは既に技術的に課題は無いのですが、映像を遅延なく伝送する、自動車が人間のように距離感を認知して衝突を回避する、それらの処理を高速で行う、というのはまだまだ遠い段階ですね。

■3DカメラとAI技術で、自動車から物体までの距離計測や物体認識が可能に

Revatron株式会社が2018年6月に発表したスマートカメラは3DカメラにAIの技術を活用したもので、「View LiDAR」と名付けられている。シンプルな視差計算で3次元を認識させ、カメラのみで自動車から物体までの距離を計測できるほか、その物体がどういったものか識別することも可能だ。ポイントはあくまで「リアルタイム処理」。3次元の構造認識、対象認識にかかる処理時間は1~2ミリ秒、浅田社長はAIの誤認識率を下げるための「立体認識」の重要性を指摘する。

カメラは周囲の三次元構造を即時に検出し、学習するため、容易に縁石の識別や2次元では識別の難しいオブジェクトの識別も可能にする(左は輪郭分析、右はデプスマップ)=出典:The original material was developed by Daniel Scharstein and Richard Szeliski of Middlebury University Vision Laboratory
Q スマートカメラによる物体の識別に必要な「立体認識」とはどのようなものですか。

「ロボットが何を見ているのか?」という認識技術を確立するためには、まず人間の目のように立体を認識できることが必要です。例えば、遠くにある普通の大きさの自動車と目の前にあるミニチュアの自動車をロボットがみたとき、2次元の認識しかできない場合にはそれがどうしても同じ車に見えてしまいます。

人間の目で見ると、目の前にあるのはミニカー、遠くにあるのは普通の自動車だと見分けることができます。それには人間には「恒常性」が働くという理由があるからです。人間は子供のころ人形や車のおもちゃで遊ぶという過程があるんですが、それによって色や形状、「大きさの恒常性」というものを脳内で一般化し、構築しています。特に、乳児期はまばたきをせずに物を見ていることが多いんですが、あれによって形状の恒常性が構築されています。

コンピュータに人間のような「形状」、「大きさ」の恒常性を脳内で構築しようとすると、どうしても3次元の認識が必要になってきます。3次元の認識がなければ、自分の脳内の中でその物体を回転させることもできません。

現在、コンピュータ・ビジョンという分野で最先端のソリューションを作ろうとすると、必ず3次元技術が必要になってきます。そこで自動車メーカーさんが考えられたのが、ミリ波レーダーやLiDARを利用して形状を認識しようという手法です。

ただLiDARは、非可視光線を利用して距離を測るというシステムなんですが、発射した非可視光線が物体で跳ね返ってくる時間を計測して距離を測るTOF(タイム・オブ・フライト)という概念です。距離の精度を上げるという観点ではアクティブに電磁波(光も含む)を発射するTOFは優れたソリューションですが、対向車のヘッドライトによる「干渉」の課題もあります。

ミリ波も優れたソリューションですが、アクティブ型レーダーを搭載した車両が増えるにつれて車両間で電波干渉を起こすという「未来の課題」があります。自動運転の為に搭載した「レーダー間での干渉問題」はアクティブ型特有の問題です。

これらの課題を解決するには、物体に反射した太陽光を受け取るだけの受け身(パッシブ)型のソリューションが最適です。カメラで3次元構造と距離をリアルタイムに認識できる「View LiDAR」というプロダクトを2018年6月に発表させて頂いた流れになります。

またLiDARの欠点として、モーターで回転するメカニカルな機構が壊れやすいウイークポイント(弱点)になるというのと、回転している間に盲点ができるんです。そのときどきによって、見えない部分が出てくる。つまり、自動運転中のLiDARが「よそ見」をしている間に、自転車が通って事故につながってしまうということが懸念されるということです。

■目標価格は1台100〜300ドル…LiDARが高コストになるワケとその解決策は

Revatron株式会社が開発するView LiDARの将来的な目標価格(量産時)は1台100〜300ドル(約1万1000円〜3万3000円)だ。こうした低価格で現在のLiDARの代替品が市場で販売されるようになれば、距離計測や物体認識のためのセンサーとしてスマートカメラの搭載が主流になっていく可能性もある。

Q LiDARは本当に必要無くなるのですか?

LiDARが必要無くなるという可能性はかなり高いと思っています。LiDARはコストダウンが難しいという特徴があり、電波を発する分、どうしても電力を多く消費します。一方、三角測量の方式でカメラを使ってリアルタイムに3次元を認識していく際、カメラは物体に反射した太陽光を受け取っているだけで光を発しないので、完全にパッシブ方式で3次元を構築でき、また電力消費量も小さくなります。

今まで他社さんがそういったカメラ型のソリューションを作れなかったことには理由があります。カメラの視差だけで3次元の空間を認識するソリューションは色々な会社さんが既に持っているんですが、演算に非常に時間がかかることから、GPU(画像処理半導体)やCPU(中央演算処理装置)をたくさん使う必要があります。これらを多用すると消費電力も上がり、コストにまで跳ね返ってきます。弊社のチップは大容量データを高速で演算するという点が特徴で、特別なアプローチで設計されています。

ところで「ムーアの法則」はご存知ですか?実はこのムーアの法則は終焉を免れられないと言われています(※編注:ムーアの法則とは、半導体の集積率・性能が18カ月で2倍になる、という半導体業界の進化の経験則のことを指す)。半導体の微細化が進み、チップの回路の大きさがどんどん小さくなると、色んな課題に直面します。専門的に言いますと、「リーケージ」と呼ばれる電子漏れや熱によるエラーが起こってしまいます。このリーケージの問題で、これ以上の微細化を諦める企業も出てきています。

ムーアの法則が限界に達したというのが、いまの世界の半導体技術の認識なんです。それに変わるものとして「技術を積層化する」「3次元化する」という手法があるのですが、これだと熱という次の課題が待っています。プロセッサは熱に弱いので、単純な微細化、3D化では、ムーアの法則の終焉を免れられません。

そこで我々は微細化に依存したソリューションではない、全く違うコンピュータチップの設計でアプローチしています。

DARPA(米国防高等研究計画局)と呼ばれているアメリカ最高峰の軍事研究機関があるのですが、2018年7月にムーアの終焉をどのように乗り越えるのかと、いうテーマのカンファレンスが開催されまして、うちも招かれて参加しました。DARPAも「新しいアプローチが必要だ」と発表していました。内容を聞くと、ほぼ弊社のアプローチと一緒でした。

おかげで「直観で始めたことが正しかった!」ということが分かって、嬉し過ぎて帰りのフライトで眠れませんでしたね。(笑)

Q スマートカメラでLiDARがいらない、ということに関して何か言われないですか? またこのスマートカメラに関しての開発状況について教えて下さい。

LiDARを製造している企業さんとはあまり接点はありませんが、LiDARを使っている企業さんは(スマートカメラでLiDARがいらないということに関して)「やっぱりね」という感じできます。LiDARを10年以上使っている中で行き詰まりを感じていて、「LiDARじゃない方がいいよね」と思っている企業さんもいます。

そういった意味では、我々は頑張れば、そういった企業さんのお手伝いができると確信しています。ただ、資金調達ができず、知名度もないという企業には人が集まりませんので、これからそこを打破したいと考えています。

自動車メーカーからライセンス契約をして使いたいというお話も頂き、開発を進めています。ただ、すぐに採用されるわけではありませんので、資金調達の面できつい部分もあります。(国からの)助成金もあれば出してほしいと感じています。金融緩和のみに頼った我が国の経済政策では、この国の産業復興には程遠いと考えています。

■シリコンバレーに開発拠点…日本でもエンジニアの採用活動を活発化へ

Revatron社はシリコンバレーに拠点を持ち、主要メンバーを核にしてプロジェクトごとに優秀なエンジニアを集めて技術開発のスピードアップを実現している。今後は日本国内でもエンジニアの採用を進めていく方針で、営業活動の強化に向けてセールス担当の採用も計画している。

撮影:自動運転ラボ
Q 現在のRevatron社の開発チームや拠点についてや、エンジニアの今後の採用方針について教えて下さい。

現在は設計チームは全員シリコンバレーにおり、日本はそのビジネスチームとマーケティングチームだけでやっています。

シリコンバレーにはシニアのコアメンバーが3人います。シリコンバレーはとてもエンジニアの雇用形態が柔軟ですので、プロジェクトごとに何名かのエンジニアの方に入ってもらっていたりします。日本では優秀なエンジニアほど抱え込まれるのが一般的ですが、シリコンバレーですと優秀なエンジニアほどさまざまな形態で色々な仕事ができるので、こうしたプロジェクト単位でのエンジニアの確保が可能になります。シリコンバレー側とは毎日スカイプでやり取りしています。

これから日本国内でもエンジニアを3人から5人ほど採用しようと考えています。エンジニア採用は奥が深いです。大企業に勤めてきたエンジニアの方は専門分野が限られているケースもあり、それ以上のことに取り組むことに抵抗感がある方もいます。可能であれば「(新たな技術への取り組みが)できればできるほど楽しい」「なにかを作ることが楽しい」という方がいいですね。また、柔軟なコニュニケーション能力を持つセールスの方も採用したいです。

Q 浅田社長の現在のお仕事状況について教えて下さい。

日本における事業環境を改善させたい思いで、執筆活動もしています。どうして日本の経済活動が活性化しないのか、という理由を分かってもらいたいんです。日本は、優良企業がどんどん消えていっているという現状をあまり認識していません。

半導体事業については、研究開発の成果を中国や台湾に盗まれてしまっているケースもあります。そうするとコピー品が先に出回ってしまうことから、研究開発費用が回収できません。うちも中国の産業スパイにハードディスクドライブ(HD)や新製品を持ち逃げされたことがあります。それで一度会社が倒産し、再建させ、いまのRevatron株式会社に至ります。研究開発の世界はこういうことなんです。

今、実際に大企業は研究開発費を掛けられなくなり、中小企業が開発した製品のパッケージ化でしのいできました。ところが、もっと研究開発費が絞られ、その影響が中小企業にも及んでいます。大企業が開発費用を出してくれなくなって、中小企業も開発が進まないのでジリ貧の未来が待っています。そんな中、もっとベンチャー企業への投資をしてくださいね、というメッセージを送り続けたいがために、執筆活動も並行して行なっています。

■技術は進化し、先進的なアイデアが新たな製品を誕生させる

LiDARが不要になる——。自動車業界では衝撃的なニュースだ。しかし、技術とは進化するものであり、先進的なアイデアが新たな製品を世の中に誕生させていくのが世の常だ。Revatron社の浅田社長のスマートカメラにも大きな期待が寄せられている。

【参考】Revatron社のスマートカメラについては「常識覆す…自動運転の目”LiDAR”に不要論 格安AIカメラの仕掛け人|自動運転ラボ」も参照。


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