自動運転タクシーはアメリカや中国ですでに商用化され、日本でも運行プロジェクトが発表され始めた。自動運転バスの実用化も日本国内で進み、自動配送ロボットを使った実証実験も目立ち始めている。
こうした中、自動運転システムのさらなる高精度化や大量生産に向けた効率的かつ効果的なシステムの開発、モビリティサービスの商用展開に向けた動きなどが活発化しており、各社が求人案件を積極的に展開するようになっている。
AI(人工知能)開発に関わるエンジニアだけではなく、自動運転のテスト技術者やプロジェクトマネージャのポジションの求人も増えている。
今回は業界の有望性とともに、どのような人が業界に求められているのかを3つのパターンに分けて解説していこう。
記事の目次
■いま自動運転業界が熱い理由
世界各地で開発が進められている自動運転システムは、公道実証が進み、一定の技術水準に達している。現在は、走行可能なエリアや環境条件などODD(運行設計領域)を広げるため、走行経験を重ねながらシステムの精度を上げていく段階に入っている。
グーグル系ウェイモのように一部の自動運転システムはすでに実用化域に達しており、ODDの拡大とともに量産体制の構築を進める動きも出ている。高額になる自動運転システムの量産化においては、いかに性能を保ったまま低価格で生産できるかがカギとなるため、LiDAR(ライダー)などのセンサー類をはじめ高品質・低価格の新たな製品開発も進められている。
また、既存のシステムとは全く異なるアプローチによる自動運転システムの開発や、他分野への技術の転用なども今後進んでいくことになるだろう。開発の熱はまだまだ高まっていくのだ。
自動運転関連の求人数は1万5,000件規模
自動運転ラボの独自調査によれば、「自動運転」の関連求人案件数(主要転職6サイト)は2024年8月末時点で、前月比28.7%増、前年同月比34.9%減の1万5,180件となっている。
【参考】関連記事としては「コーディネーター求人も!「自動運転」求人が前月比28.7%増 2024年8月調査」も参照。
大手企業はもちろん、ベンチャー企業による求人も
最近の自動運転関連の求人では、エンジニア求人に加え、リサーチャーや事業開発担当、事業立ち上げコンサルタントなどの非エンジニア系まで、幅広い分野の案件が増えてきている。募集企業もさまざまで、大手企業はもちろん、ベンチャー企業やスタートアップ企業による求人案件も目立つ。
大手自動車メーカーの案件としては、例えばトヨタ自動車は、自動運転社会の実現に大きく関わる車載電子システムの品質管理業務や自動運転関連の研究開発評価に携わる職種を募集するなどしている。ホンダは「次世代のクルマ開発」のための機械・ソフトウェアの研究開発に携わる技術系総合職などを募集している。
オープンソースの自動運転ソフトウェア「Autoware」の開発を手がける自動運転スタートアップのティアフォーは、自動運転運行管理ツールの開発エンジニアを募集するなどしている。
待遇面も魅力的な自動運転領域
待遇面も魅力だ。エンジニアの争奪合戦が著しい米シリコンバレーはその傾向が顕著に表れており、Forbesが報じた記事によると、シリコンバレーを含むカリフォルニア州西海岸のベイエリアにおける自動運転技術者の報酬の幅は23万2000ドル(約2500万円)〜40万5000ドル(約4000万円)で、平均29万5000ドル(約3300万円)に上るという。
日本国内では、さすがにシリコンバレーほどの待遇はなかなかお目にかかれないが、それでも年収1000万円超がごろごろしている。
また、業界の将来性が何よりも魅力的だ。現在は先行投資の段階だが、近い将来研究が実を結び、事業の収益化が始まれば待遇は一段も二段も上がる可能性が高い。今のうちに自動運転業界に腰を据え、研究開発に貢献しておけば将来大きなリターンを望めそうだ。
【参考】自動運転エンジニアの年収については「自動運転エンジニアの年収・給与はいくら? 技術者の転職事例も紹介」も参照。
■パターン1:別な業界からの転職
自動運転業界に求められる技術は幅広く、他業種で培った技術を生かせる場面も多い。例えば、センサーで用いられる画像認識技術は、医療分野をはじめ製造業や警備業など多岐にわたる分野と共通している。コネクテッドカーで用いられる通信技術は、携帯電話や通信機器メーカーの技術が大いに役立つ。
近年注目が高まる音声認識技術も、オーディオ機器メーカーらの躍進が際立っている。EV化の波も著しく、バッテリー関連の研究を進めている人も花形になれそうだ。
従来の自動車メーカーが保有していない技術が自動運転には多く必要とされており、そのため各自動車メーカーは異業種や有力スタートアップとの提携・買収などを通じて積極的に新たな技術を取り入れているのだ。異業種からの自動運転業界参入が多発しているのもこれが理由だ。
ただ、他社に依存していては最新の技術を自社のものにできず、ライバル社への技術流出や将来の開発競争への不安が常に付きまとう。他社と提携しつつも自社開発を推し進め、独自の最新技術を構築するのが一つの理想となるため、自動運転そのものの知識が薄くとも要素技術を持つエンジニアは重宝される。
【参考】自動運転業界における異業種エンジニアについては「自動運転業界に求められる異業種エンジニア、転職・求人サイトで需要急増」も参照。
■パターン2:自動車業界内での転職
すでに自動車業界に身を置く人も、業界内における転職で活路が広がるケースもある。自動車メーカーにおける開発は自動運転のみならず、従来の自動車開発を中心に多岐に渡る部署が用意されている。特定の自動車メーカーなどで長く開発に携わっている人でも、希望する部署やポストに巡り合えないケースは決して少なくない。
自動運転に高い関心があるにもかかわらず内燃機関の研究開発に回されていては、モチベーションを維持できない。自動運転部署への異動もいつ回ってくるのかわからない。このような環境で他部署の研究開発に従事している人は、直接自動運転関連のポストを目指すべく、一念発起して他社の自動運転関連の求人を探すのも一つの手だ。
業界内における転職に後ろめたい気持ちを持つ人も多そうだが、欧米では普通のこと。特に最新技術の開発分野においては、各企業が有力なエンジニアをどのように確保するかが問われるため、手放すことになった企業の待遇に改善すべき点があるという事実が残るのみだ。
引く手あまたの自動運転エンジニア。売り手市場が続く今だからこそ、自身の価値を見つめなおしても良いのかもしれない。
■パターン3:キャリアチェンジでの挑戦
全くの異業種出身で、自動運転に関連する技術を持たない人にもチャンスはある。自動運転の開発とともに、自動運転技術を活用した新たなモビリティサービスの開発も進行しているからだ。
自動運転をはじめ最新の技術全般に共通することだが、開発した技術が最終的にどのように社会に貢献し、活用されるかが最も重要となる。
現在、各地で実証が始まったMaaS(Mobility as a Service)においても、効率的かつ効果的な移動サービスを提供するために自動運転技術をどのように生かすかが問われている。
開発が進む超小型モビリティなども将来自動運転機能が搭載される可能性が高いが、こうした新たな移動手段も、どのようなタイプの乗り物をどのような形で提供するのが社会の需要に適しているのかを考え続けなければならない。
モビリティ業界全般に広げると、タクシー業界を中心に浸透が進むスマートフォンを活用した配車サービスなども関連してくるだろう。MaaS含めこれらのプラットフォームが自動運転による移動サービスにも応用される可能性が高いからだ。
これらの分野で活躍する人は、自動運転開発エンジニアとは異なる能力が求められる。今後どのようなモビリティが社会に求められるのかを的確に見定められる人や需要を掘り起こせる人など、企画力や想像力が求められる場面が増加するだろう。
自動運転に関する基本的な知識・情報を習得することは必然となるが、自動運転と社会を結び付け、ビジネス化できる人材も業界にとって必要不可欠な存在なのだ。
新たな分野ゆえにプロフェッショナルがまだまだ少なく、育成の余地も大いにある。サービスが本格化する前段階の今のうちにこの分野に身を置くことで、自動運転時代の到来時に第一線で活躍できる可能性が大きく高まりそうだ。
【参考】MaaSについては「【最新版】MaaSとは?基礎知識まとめと完成像を解説」も参照。
■【まとめ】自動運転やMaaS関連求人が今後も増加
AIや各種センサーなど、直接自動運転に関連した技術を有するエンジニアはもちろん、幅広い分野で人材が求められていることがわかった。特にMaaS分野の裾野は広がり続けており、今後全く想像もつかない異業種がモビリティと結びつく可能性も高い。関連する求人も今後大きく伸びることだろう。
技術職以外の人材も多く求められる自動運転業界だが、自動運転やMaaSに関する基礎的な理解がなければ何も始まらない。業界に関心のある人は、積極的に自動運転に関するニュースやトピックに触れてもらいたい。
■関連FAQ
増える一方だ。すでに関連技術を開発している企業はさらに力を入れ、新たに誕生しているベンチャーも多い。求人職種も多様化している。
最も多いのはエンジニア系の職種だが、技術の商用化やサービスの展開・拡大に伴い、事業企画職や営業職などの求人も目立ってきた。
アメリカや中国で業界をリードする企業の場合、年収がゆうに1,000万円を超える待遇で人材を募集しているケースも多い。日本ではまだこういった好待遇を出しているケースは少ないが、優秀な人材を集めるためには、年収レンジを上げる必要性がありそうだ。
十分に可能だ。自動運転業界に求められる技術は非常に多様であり、ほかの業種で身に付けた技術を生かせるケースは多い。
モビリティ業界の革新としては、自動運転とともにMaaSにも注目だ。MaaSも盛り上がりを見せており、日本国内での求人案件もふえている。
(初稿公開日:2020年5月28日/最終更新日:2024年9月24日)
>>第5回:非エンジニア職でも自動運転業界に転職できる!求められる職種は?
>>「自動運転×デジタル人材」で採用支援サービスを本格展開【ストロボ・下山哲平】
大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。JV設立やM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立し、設立5年でグループ6社へと拡大。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域メディア「自動運転ラボ」を立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術や企業の最新情報が最も集まる存在に。(登壇情報)
【著書】
・自動運転&MaaSビジネス参入ガイド
・“未来予測”による研究開発テーマ創出の仕方(共著)