自動車の所有、「個人」から「法人」の時代へ 車中マネタイズの流れも

カーシェア普及で法人名義のクルマ急増



さまざまな移動サービスの登場やMaaS(Mobility as a Service)による利便性の向上などを背景に、徐々に自動車が「所有」するものから「利用」するものへと変化の兆しを見せている。







その象徴がカーシェアリングサービスだ。1台のクルマを複数の利用者が共有して利用するサービス形態で、ユーザーはクルマを所有することなく気軽に利用できるようになった。

その裏側でひっそり進行するのが、クルマの所有者の法人化だ。シェアカーは基本的にサービスを展開する事業者名義であり、カーシェアの普及とともに法人名義のクルマが増加しているのだ。

こうしたクルマの法人化は、名義以外にもさまざまな変化をもたらす。今回は、シェアサービスの主力であるカーシェアを題材に、法人化による変化・効果について解説していこう。

■シェアリングサービスの台頭

CASEにおいて最も早く実現・普及するのは、S=シェアリング・サービスの分野だ。海外ではライドシェア、国内ではカーシェアを中心にすでに普及段階に入っており、拠点となるステーションが全国各地に広がっている。

従来、クルマを借りる代表格はレンタカーサービスで、出張先や観光先など比較的長時間に渡りレンタルするケースが一般的で、日常的に借りる移動サービスではなかった。

しかし、公共交通網が発達し、駐車場代など維持費がかさむ大都市圏を中心に自家用車離れが進行したことなどを背景に、15分単位といった短時間から借りることができるカーシェアに注目が集まるようになった。短時間利用のほか、利用手続きの手間も簡素化されているため気軽に借りることができ、利用者は右肩上がりで増加を続けている。

タイムズカープラスやオリックスカーシェアなどレンタカー業者が全国各地の拠点を武器にカーシェアに力を入れるほか、近年ではトヨタ自動車(TOYOTA SHARE)や日産自動車(NISSAN e-シェアモビ)といった自動車メーカー系も本格参入し、全国展開を鋭意進めている状況だ。

特にタイムズカープラスは、自ら手掛ける駐車場事業との連携によってステーション設置個所を大幅増加し、カーシェアをより身近な存在へと進化させた。こうしたカーシェアの普及によって、毎日のちょっとした買い物や週末のお出かけなど、マイカーを持たずにカーシェアで補うことが可能となり、高いコストで自家用車を所有するよりも効率が良いカーシェアを選ぶ層が増えているのだ。

ステーションの設置は各社が力を入れており、最多のタイムズカープラスは全都道府県で1万2000カ所超(2019年8月末時点)を設置している。自宅などから徒歩圏内にステーションがあることが利便性を大きく高めるため、各社が現在進行形でステーションの増設を進めている。

また、借受場所と異なる場所に返却可能な「ワンウェイ方式」の実証も進んでいる。ワンウェイ方式が実現・普及すれば、通勤などでも気軽に利用することができるため、ますますカーシェア需要は高まることが予想される。

【参考】ワンウェイ方式については「カーシェアで「乗り捨て」は可能? トヨタ自動車や日産も実証実験」も参照。

■シェアサービスとMaaSが自動車の「所有者」を変える

カーシェアをはじめ、注目が高まるMaaS(Mobility as a Service)の実現によって各移動サービスの利用がより手軽になり、自家用車離れを促進する結果につながっていく。都市圏はもちろん、自家用車がないと生活が不便だった地方においても一定程度自家用車から移動サービスへのシフトしていく可能性が高い。

近い将来、人の移動における自家用車の割合は低下し、代わってシェアリング事業者やMaaS事業者が移動を担う比率が高まっていくことになるのだ。

こうした移動の変革は、クルマの「所有者」にも変化をきたす。所有者は大きく「個人」と「法人」に分けられるが、相対的に法人の比率が増していくのだ。カーシェアやMaaS用途の車両は、基本的に各サービスを担う事業者、つまり法人名義のクルマとなる。この法人名義のクルマを個人がシェアする形で利用するのだ。

従来、法人名義のクルマは社用車や運送、タクシーなどが主流で、個人が直接利用(運転)するレンタカーなどは数的にマイナーな存在だった。しかし、カーシェアの普及などによって個人が直接利用する法人名義のクルマが増加していくことになる。

個人所有の台数と比較するとしばらくは微々たる変化かもしれないが、特に自動運転が当たり前のように普及するころにはその割合は一定の水準に達し、「自動車」に求められる基本機能にも変化を及ぼしていく可能性が高そうだ。

■法人化による変化~マネタイズ機会の創出~

所有者の個人から法人へのシフトは、クルマをどのように変えていくのか。

クルマに求められる走行機能については大きな変化はみられないが、車内の装備は変わっていくことになるだろう。

個人所有車の場合、カーナビやオーディオ機器、内装の変更など趣味趣向を反映させることができるが、カーシェアなどの法人所有車の場合、個人個人の趣向を直接反映させることはなくなる。

その代わりに、乗り心地の良さや機器類の使い勝手の良さ、他機器への接続性(汎用性)といった誰もが利便性を享受できる仕様に変わっていくほか、デジタルサイネージの設置など独特の装備が標準化していく可能性が高い。

デジタルサイネージは、タクシー業界で普及が進んでいる広告媒体で、後部座席などに設置したタブレットなどに広告を流すものだ。カーシェアなどではあくまで手動運転のため、安全確保の観点から直ちに普及するとは言えないが、同乗者向けや運転に支障のない範囲でアナウンスや広告を流す仕組みなども考えられるだろう。

広告関連では、タクシーにおけるラッピング広告や車内ステッカーのような形式の広告なども可能となるため、車両数や利用者数の増加ととともに広告業界からも新たな媒体として認知されるようになるだろう。

また、エンターテインメント系のコネクテッドサービスの普及も想定される。自家用車内で好きな音楽を流しているドライバーは相当数いると思うが、シェアカーではデジタル化したメディアなどを逐一オーディオに接続して聞かなければならない。こうした需要に対し、手軽に好きな音楽を楽しめる音楽配信サービスなどがコネクテッドサービスとして普及する可能性もあるだろう。

クルマの「所有者」と「利用者」がイコールではなくなり、複数の利用者によってシェアされる利用形態に変わることで、さまざまなサービスが生み出される可能性があるのだ。

また、所有者が法人となることで、自動運転開発向けのデータやシェアリングサービス向けの各種データの収集なども容易になる。さまざまなドライバーによってさまざまなクルマの使用に関するデータが生成されるが、例えば走行データを自動運転開発企業に提供したり、利用方法や車内における行動などをMaaSプラットフォーマーに提供したりするなど、情報のやり取り・契約をB2CではなくB2Bで行うことができるようになるのだ。

もちろん、法人は各利用者に対し告知などの義務を負うことになるが、情報の収集がスムーズになり、有用なデータとしてマネタイズされる可能性もある。車両データや走行データ、移動データ、車内における行動データなど、生み出されるさまざまなデータが新たなモビリティ社会の礎になっていくのだ。

■マネタイズが価格やサービスの差別化を生む

こうしたマネタイズ機会の創出は、シェアサービスの価格競争に発展していく。

従来の移動サービスにおけるコストはイニシャルとなる車両代やランニングとなる燃料代や駐車場代、整備代などが大半で、また売り上げの大部分を占めるのは当然利用価格となっている。

このため、例えば同じコンパクトクラスの車両を用いたサービスであれば、どの事業者によるサービスもほぼ一律の利用料金となるのだ。変動要因に乏しく、規模のメリットなどのほか価格競争しづらい業態なのだ。

参考までに①タイムズカープラス②オリックスカーシェア③TOYOTA SHARE④NISSAN e-シェアモビ――を比較すると、コンパクトクラスの15分利用料金は①220円②210円③150~200円④200円――となっている。月額基本料や装備など変動要因はあるが、大きな価格差は今のところ生まれていないのが現状だ。

しかし、車内広告やデータ提供などによるマネタイズが始まれば、売り上げに占める利用料金の割合が相対的に低下するため、マネタイズの効果が高ければ高いほど利用料金を変動させる余地も大きくなるのだ。

利用料を安くして利用者数を伸ばすことでマネタイズ効果を高められると踏めば実行する。こうした選択肢が増えることで、価格やサービスにおける差別化の可能性が飛躍的に高まることになる。

■右肩上がりが続くカーシェア

矢野経済研究所が2015年8月に発表した「レンタカー&カーシェアリング市場に関する調査結果 2015」によると、2014年のカーシェアリング市場規模はステーション数、車両数の拡充と法人利用の増加によって前年比45.3%増の154億円となっており、2020年には295億円まで伸びると予測している。

また、公益財団法人交通エコロジー・モビリティ財団が2019年6月に公表した「全国のカーシェアリング実施規模」に関する調査結果によると、2019年3月の調査時における国内のカーシェア車両ステーション数は前年比15.4%増となる1万7245カ所で、車両台数は同19.8%増の3万4984台、会員数は同23.2%増の162万6618人となっている。

10年前の2009年度の調査では、車両台数563台、会員数6396人となっており、飛躍的に増加しているのが見て取れる。

トヨタや日産といった自動車メーカーの本格参入も今後のカーシェア業界に拍車をかけることになる。自社の新車や最新のADAS(先進運転支援システム)の体験の機会としても生かされているが、今後はカーシェア専用車両の開発が進む可能性もある。

車両価格の低減とともにマネタイズしやすい仕組みが導入され、より価格競争に拍車がかかる可能性がありそうだ。

また、プラットフォーム開発も進んでおり、1台からカーシェアビジネスに参入可能なシステムを提供する企業も出てきた。本記事の趣旨と相反するが、個人間カーシェアのように個人が気軽にカーシェア事業に参入することも含め、社用車のカーシェア化や地域限定のカーシェアサービスなど今後さまざまな展開が広がっていくものと思われる。

これらのサービスがMaaSの中に組み込まれることで移動サービス全体の利便性が向上し、クルマの「所有」から「利用」へのシフトもさらに加速していくことになるのである。

【参考】カーシェアプラットフォーマーについては「【最新版】カーシェアのシステム提供&プラットフォーム開発企業まとめ」も参照。

■【まとめ】移動サービスにおいてマネタイズが競争とサービスの進化を生む

以上のように、クルマの法人化は新たなマネタイズにつながっていくことが分かった。自家用車におけるオーナー個々人のパーソナリティが次第に消え、タクシーのようにさまざまな観点からマネタイズ可能になっていくのだ。その結果として、カーシェア業界に新たな競争が生まれ、サービスも進化していくことになるだろう。

こうした流れは、自動運転の実現によってさらに加速していくものと思われる。高額な自動運転車の普及は当面は商用向けが中心となり、移動サービスの進化や利便性向上を促進する。

次世代モビリティにおいて一般化するマネタイズ。その可能性を今からしっかりと見据えておくことが新たな移動サービスの時代を勝ち抜く基礎となるのだ。

【参考】関連記事としては「カーシェアの利用者、約1割が「仮眠」「歌の練習」目的」も参照。

記事監修:下山 哲平
(株式会社ストロボ代表取締役社長/自動運転ラボ発行人)

大手デジタルマーケティングエージェンシーのアイレップにて取締役CSO(Chief Solutions Officer)として、SEO・コンテンツマーケティング等の事業開発に従事。同業上場企業とのJV設立や複数のM&Aによる新規事業開発をリードし、在任時、年商100億から700億規模への急拡大を果たす。2016年、大手企業におけるデジタルトランスフォーメーション支援すべく、株式会社ストロボを設立。設立3年で、グループ4社へと拡大し、デジタル系事業開発に従事している。2018年5月、自動車産業×デジタルトランスフォーメーションの一手として、自動運転領域最大級メディア「自動運転ラボ」立ち上げ、業界最大級のメディアに成長させる。講演実績も多く、早くもあらゆる自動運転系の技術・会社の最新情報が最も集まる存在に。
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