タクシー相乗り解禁、MaaSの推進…成長戦略実行計画案の内容とは?

地域の交通課題、インバウンド需要などに対応



第28回未来投資会議で発言する安倍首相=出典:首相官邸

2019年6月5日に安倍晋三首相は総理大臣官邸で第28回未来投資会議を開催し、成長戦略をまとめた成長戦略実行計画案について議論を行った。

地球温暖化に対応するパリ協定に基づくエネルギー政策や人口減少問題など様々な課題が議論される中、「モビリティ」についての戦略も計画案に明記されている。モビリティ分野の3つの計画について一つずつ見ていこう。


■自家用有償旅客運送、タクシー事業者などが参画可能に

モビリティ分野での取り組みの一つとして、「自家用有償旅客運送制度」の改革が取り上げられている。これは、タクシーやバスといった既存の交通サービスで地域の移動手段が維持できない場合、自家用車で運送サービスを行うことができる制度だ。

現在の制度では運送サービスを行えるのは市町村やNPO法人に限られていて、ウーバーなどのいわゆる有償ライドシェアサービスなどは運用できない。新しい制度はライドシェア解禁につながるものではないようだが、市町村とタクシー事業者などの交通事業者が連携し、運行管理などを委託できるようにするという。交通事業者の運用ノウハウを活用することで市町村の負担を軽減し、運送サービス自体の安全性を向上させるのが目的だ。

2019年現在、自家用有償旅客運送がおこなえる対象地域の明確な基準はなく、地域ごとの対応となっているのが現状だ。そこで、既存の導入事例を分析して、導入基準となるガイドラインも策定する。

これらの体制をつくれるような法整備を進めるため、2020年の通常国会に法案を提出する。交通事業者がスムーズに参画できるように、手続きの容易化なども法案に盛り込まれるようだ。


また、計画案にはインバウンド需要への対応も明記されている。地域住民だけでなく外国人を含む観光客も利用対象者に含めることで観光需要にも対応する。バスやタクシーなどの既存交通でカバーしきれないところを補って観光地の回遊性を高め、地域の活性化を促進する狙いだ。

■全国でタクシーの相乗りを解禁へ

モビリティ分野二つ目の計画はタクシー相乗りの解禁だ。タクシー事業者の連合会がまとめたタクシー業界を活性化させるための11項目の中にも盛り込まれるなど、相乗り解禁については業界内でも既に大きな議論となっている。

過疎化が進む地方都市では路線バスのドライバー不足などで路線廃止となる事例が増加している。走らせたとしても利用客が少なく、無駄の多い路線バスに代わり、タクシーの相乗りで利用料金を下げて様々な人が利用できるようにするという取り組みだ。

無駄のない移動サービスを提供するために、マッチングアプリを使った乗車率の向上や、AI(人工知能)を活用したリアルタイム配車とルート最適化なども進めていくという。キャッシュレス化を推進することについても明言されている。

こうした取り組みでタクシーサービスの最適化が進めば、タクシー事業者は乗車率が向上して生産性が上がり、ユーザーは安い料金でサービスを利用できるようになる。これらのメリットを考慮し、タクシーの相乗り解禁は地域や対象者などの制限をかけずに一律導入されるようだ。道路運送法などの整備を2019年度中に行うという。

■地域のMaaS推進を支援、交通課題解決と観光活性化目指す

計画案では、タクシー・バス・電車・レンタカーなど、複数の交通手段を統合する移動サービスMaaS(Mobility as a Service)の推進にも触れられている。2019年4月には国土交通省が主体となって地方都市の交通課題解決を目的とした「地域版MaaS」の実証実験の支援を発表するなど、既に様々な動きが出てきている。

自家用有償旅客運送やタクシー相乗りといった移動サービスへの取り組みも、それぞれ単体での効果を見込むというより、MaaSへの対応を見越しての事だろう。サービスのキャッシュレス化やアプリ対応は、スマートフォンでの一括手配時に必須となってくる。観光需要に対応するためには、観光地や宿泊地までのラストワンマイルを解決するための手段として、すぐに利用できて安価な移動サービスが必要となってくる。

地方自治体と参画事業者を支援しつつ、成功事例を創り出してMaaS構築を推進していく方針だという。

【参考】関連記事としては「国交省が「地域版MaaS」の実証実験支援 最大5000万円補助」も参照。

■【まとめ】MaaSサービスにおける連携加速に期待感

自家用有償旅客運送制度の変革はいわゆるライドシェア解禁につながるものではないようだが、タクシー相乗りなどの面では法改正にも積極的に取り組んでいく方針のようだ。今回の計画案では、国がMaaSを推進していくという明確な方向性が示されており、さまざまな交通サービスの連携が日本国内でも加速していくことが期待される。


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